勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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感想欄に連盟の狩人や灰の方がリスポンしすぎてヤバい(語彙力)
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御手柔らかに今後ともよろしくお願いします
\[T]/<太陽万歳!


EP7 奴隷の少女

 夜が明け、日が出始めてきた頃にもかかわらず、太陽の光がまるで届かぬ暗い路地裏を歩くことしばらく、奴隷商の案内の下でハベルがたどり着いた場所は、サーカステントのような奇怪極まりない小屋であった。「こちらですよ」と奴隷商はスキップをするほど上機嫌な様子で盾の勇者を誘っていく。そして、ガチャン!という音と共にサーカステントの奥の方で厳重に区切られた扉が開いた。

 

「さあ、盾の勇者様! こちらに並んでおりますのが、当店自慢の奴隷達でございます!」

 

 ステッキを器用に回し、獣臭の芳うなかで彼は高らかに宣言した。奴隷商が指し示した周りには、幾重にも檻が設置されており、中には獣か区別のつかないモノの影が蠢いている。そして皆がハベルの存在に気が付くと、ギャーギャーと人間性を失った声がテント内に響き渡り、辺り一帯が途端に騒がしくなった。

 

「さて、その中でもこちらが、特に盾の勇者様にお薦めの奴隷です」

 

 奴隷商が勧める檻にハベルは近づいて中を確認する。すると、地の底から聞こえてくる程凄まじいうなり声の後、檻を壊さんとする勢いで醜い獣が突進してきた。狼のような顔立ちと血走った瞳、全身に黒い体毛がびっしりと生えており、酷い悪臭と殺気を放ちながら頑丈な檻の中で暴れていた。

 

 目に余る暴れっぷりではあるが、商人がひとたび指をパチン! と鳴らすと、獣の胸部に刻まれている魔方陣が光り輝くと同時に、獣は耳障りな悲鳴を挙げては自身の胸を押さえ込み、苦しみながらうずくまってしまった。これが奴隷商の言っていた呪いであることは間違いないだろう。どれほど強者であろうと、これがあれば使役し放題というわけだ。しばらく苦しむ様子をハベルと共に眺めていると、また指を同じように鳴らして呪いを解除した奴隷商。その顔は、玩具を見せびらかして自慢する子どものように笑みで溢れていた。

 

「如何ですか、勇者様」

 

「・・・・・・如何も何も無い。獣ではないか」

 

「はい、まあ、正しくは獣人なのですが・・・。実力も勇者様の足を引っ張らない当店一番の品物でございます!」

 

「足を引っ張らない・・・? このザマではそこらの獣と大差ない。理性の無いものを連れ回して何になるというのだ」

 

「そこはこの呪いで調教しましてですな―――」

「そういう問題ではないのだよ、貴公」

 

 どこかと噛み合わない奴隷商を横目に、ハベルは檻の中で藻掻く獣人のソウルを感知していた。確かにソウルの量は《高名な騎士》程度の大きさのモノであり、この部屋で確認できるどの奴隷よりも膨大である。それこそ、そんじょそこらの冒険者の比較ではない程に。だが、亡者でなくとも感じ取れる程、獣人が持つソウルの質は最悪と呼ぶ他ないものであった。この区域に存在している殆どの者のソウルはくすんでいたが、目の前のオススメは特に酷いモノである。これでは連れ歩いてもそう長くはもたないだろう、と彼は一目見たときからとっくに結論付けていた。

 

「一つ聞きたい。貴公の店には獣を被った者達が多いようだが、何故だ?」

 

「それは簡単です! メルロマルク王国は人間種至上主義ですから、亜人や獣人は単体での生活が困難な国なのです。そういったカテゴリーの人種はここでは決まって、旅の行商か冒険者崩れ、そして奴隷として扱われるのが主なのですよ」

 

「・・・・・・この区域に居る者達はどちらが多い」

 

「はあ・・・そう言えば盾の勇者様はこちらの世界には疎いのでありましたな。ここに並んである商品は需要のある肉体労働や戦闘向きであります故、獣度合いが強い獣人が殆どです。逆に家事・雑用・性処理向けは非力な種族、亜人もこの中に入りますかね。奥に控えておりますがあまり出来の良くない品揃えの商品ばかりでして・・・・・・とてもじゃありませんが勇者様の仲間にするにはあまりにも―――」

「では奥の方も見せて貰おうか、ここに私の求めるモノはない」

 

 奴隷商の勧めを遮ってまで、ハベルは堂々と言い切った。そんな彼を見て奴隷商は何を思ったか、ニヤリと品のない笑みを浮かべては奥の方へとハベルを誘導した。

 

 その後も奴隷商に希望する性別や種族などを矢継ぎ早に質問され、それらを適当に答えつつハベルは大人しく後ろをついて行く。すると、テント内の腐敗臭が強くなり、同時に雰囲気が静かなものへと変わっていくのを感じた。不意に視線を周りへ向けると、様々な種類の亜人が年齢問わず檻の中で絶望しているのが見えた。その光景は、まるで北の不死院にて幽閉された亡者のようである。

 

「ここまでが勇者様・・・と言うよりもお客様に提供できる最低ラインの奴隷ですな。左から・・・・・・」

 

 奴隷商が商品を順に説明していくが、最初から耳に入れる気のないハベルはいつもの如くソウルを感知している。そして案の定ではあるが、ぱっと見て彼の目に叶うソウルがあるはずもなく、ハベルの眉間には皺が寄っていた。

 

―――《故も知らぬ》程度の僅かなソウルばかりであるな。予想に違わず先程の者達よりもくすみきっているときた。やはり一人で使命を全うするほか・・・・・・ッ!

 

 不意にハベルは一番奥の檻から小さなソウルを感じ、思考の中だというのに言葉を失っていた。その檻から感じたソウルは今にも消え入りそうな程に僅かなものではあったが、他にはない確かな輝きを放っていた。《導き》と言うべきものだろうか? それほどまでに、彼の目は釘付けになっていた。

 

 堪らずハベルは早足気味に例の檻へと近付いていく。雑に布が掛けられている檻の目の前まで足を運ぶと、コホッコホッと苦しげな咳の音が繰り返し聞こえてくる。恐る恐るハベルは布へと手を伸ばして捲ると、そこにはハベルの予想とは大分かけ離れた存在が座り込んでいた。

 

 粗末な服の上からでも分かる程ガリガリにやせ細り、犬にしては丸みを帯びた耳と妙に太い尻尾を生やした亜人の少女である。いきなりのハベルの行動に亜人の少女は怯えるが、目の前にいる人物が奴隷商ではないことを認識すると、咳をしてはジッと不思議そうに見つめていた。彼と兜越しに目が合っても、奇妙なことに彼女は他の者達と違って怯える様子を見せなかった。

 

 ハベルに興味を持っている亜人の少女とは真逆に、ハベルの心境は穏やかではなかった。予想すらしていなかったソウルの持ち主の正体に、どうしたものかと考え込み、まるで岩のようにその場に固まってしまった。

 

「貴方は・・・コホッ・・・盾の勇者様・・・ですか?」

 

「・・・・・・ぬ?」

 

「コホッ・・・その左腕に・・・付いてるのって・・・コホッ・・・伝説の盾じゃ」

 

 やっとの様子でかすれた声を出す少女は、ハベルの左手に装備されたままの四聖盾を小さな手で指していた。ハベルはこれ以上怯えさせないようにゆっくりと腰を下ろし、彼女と目線を合わせた。

 

「・・・・・・何故そのことを知っている」

 

「コホッ・・・小さい頃・・・お父さんとお母さんが・・・読み聞かせてくれた・・・絵本があって」

 

「・・・・・・そうか」

 

 その親に捨てられてここへ来たのか、はたまた親が不幸に遭い行く当てもなくここに来たのか、それとも誘拐か何かか・・・・・・いずれにせよハベルはそこから深くは聞かなかった。そして、ハベルが興味を持ったのをいいことに、奴隷商が早速と揉み手をしながら近づいてきた。同時に、少女は奴隷商の気配を感じた途端に怯え始め、檻の隅へと震えながら逃げていく。

 

「そのラクーン種は心身共に病んでおりましてな。顔も基準以下、しかも夜間にパニックを起こす始末でして、私も手を焼いておるのです。以前の飼い主が拷問好きな男でして、恐らくそう長くは持たないでしょう。それでもお買い上げになるなら、サービスして銀貨30枚です!」

 

「・・・・・・まだ買うとは決めていない」

 

 種族が違うとはいえ、このような少女を連れて魔物が巣くう地を一緒に旅をするなど正気の沙汰ではない。ましてや災厄の波を払う戦いに参加させるなど・・・と腰を下ろしながら思案していると、檻の端にいる少女の目線が尚もハベルに向けられているのに気が付く。

 

「・・・・・・お前は、如何したい?」

 

「・・・・・・えっ?」

 

「・・・・・・このまま朽ちていくか、それとも私と・・・盾の勇者と供に『使命』を果たすか・・・お前は、如何したい?」

 

 幼くから奴隷として捕らえられている彼女を見て、何の義理もない慈悲の心が湧いたのか・・・それとも亡者であるが故に、正常な判断すら出来ずに狂ってしまったのか・・・ハベル自身でさえ何故そんなことを彼女に口走ったかは分からずにいた。ただ、先程から彼女を見ているうちに、ハベルの頭の中でアストラの上級騎士がへばり付いて仕方がなかった。

 

 彼が自身の『使命』を託す相手を選ぶ際、数ある亡者の中で自分を選んだのは何故だろうか? 正気を保っていた亡者が私だけだったのか? それともただの偶然だったのか? もし彼が生きているならば、自分と同じ『使命』の道を共に歩んでくれただろうか? ロードランで早々に考えることを辞めた疑問が、異界の地で再び渦巻いていた。 そして、確かに思ったことが一つ。名も無き不死であった自分と同じく全てを失った彼女に、自身と同じ『使命』を与えれば、求めていた答えが得られるのではないか、と・・・。

 

「コホッ・・・・・・私・・・は・・・・・・・っ!」

 

 少女はハベルの兜を見つめ続け、唇をギュッと噛み締めながら頷いた。

 

 

 

 ハベルはソウルの導きに全てを任せ、奴隷商に銀貨30枚を渡し、鍵を受け取って檻の扉を開けた。彼女を外へと連れ出し、奴隷商の指示に従って早々と奴隷の誓約を結ぶ。誓約の際にステータス魔法が発現し、奴隷に対する制限の項目が並べられるが、ハベルは全てを取り払い、強調した命令に従わぬ時だけに呪痛を与えるという最低限の呪いだけを残した。

 

 同時に『同行者設定』なるものも済ませた後、奴隷の誓約締結の際に必ず訪れる呪痛に喘ぐ彼女の手を握り、粗布のタリスマンを片手に《回復》の奇跡を使用する。体中の傷を即座に癒やし、全身から急激に痛みが引いてポカンとする彼女を引っ張るように連れ出して、ハベルはサーカステントの出口へと向かっていく。

 

 途中、呪痛から意識を取り戻した獣人がハベルに向けて再度殺意を向けては唸り声を挙げた。しかしハベルと兜越しに目線が合った瞬間、獣人の中にある僅かな人間性が疼く。刹那、今までに感じたことのない拒絶が獣人の中で暴れ回った。人にも成れず、獣にも堕ちきれぬが故の感覚、呪痛など比にならない程の忌避感を味わい、獣人は檻の奥へと縮こまってしまった。その様子を最後まで見ていたのは、一人残されニンマリとした笑みを崩さぬ奴隷商だけであった。

 

「・・・クックック・・・いやあ、私ゾクゾクしてきましたぞぉ!」

 

 

 

 

 

「いらっしゃい! ハベルのあんちゃ・・・オイオイ、何だよその子は?!」

 

「貴公、まずはこれを頼む」

 

 亜人の少女の身なりを整えるため武器屋に顔を出したハベルは、入店するなり店主のエルトハルトに絶句される。当のハベルは気にする素振りを見せずに、手元に掴んだ鉄製のダガーを支払いの銀貨6枚と共にカウンターへ置いた。質問の答えはなく無造作に置かれた商品と金を見て、エルトハルトは脱力しながら深い溜息を吐く。そうして会計を済ませたダガーを、ハベルは亜人の少女の目の前に差し出した。

 

「最初は軽い得物で慣らした方が良いだろう。受け取れ」

 

「・・・・・・えっ?」

 

 いきなり差し出された短剣に彼女はオロオロとするばかりで、手を出さなかった。まだ幼いこともあって、自分の状況を分かっていなかったのだろう。彼女は、ただ盾の勇者と供に外の世界に出られるとばかり思って、彼の問いに頷いたのである。その様子を察してか、ハベルは深い溜息を放った。

 

「・・・お前には、これから私と一緒に魔物と戦ってもらう。いや、魔物だけではないか・・・使命の邪魔をする全てのモノと戦ってもらうことになる。・・・・・・この意味が分かるな?」

 

「ヒィッ!?」

 

 放たれる気迫が増した盾の勇者を目の前に、少女は怯えて震えるばかりであった。

 

「コホッ・・・い・・・いや―――」

「嫌だ、とは言わせんぞ。お前が読んだ絵本の中の勇者は何をしていた? ただ付き従うだけの従者など最初からいらんのだ。私に付いてくるということは、共に使命を成すのと同意義であろう。そのためにも、お前には戦士になってもらう。使命を妨げる障害を排除できる程の力をつけた戦士にな。・・・無論、生き残る手段や戦いの術はこれから私が教えてやる」

 

 涙を浮かべ、心底怯えた目つきでハベルを見つめる彼女に容赦なく、ハベルは短剣を差し出し続ける。

 

「さあ、選ぶが良い。共に勇者としての使命を成すか・・・それとも価値無き哀れな奴隷に戻るか・・・お前がこのまま受け取らないのであれば、またあの奴隷商の下へと戻るだけだ。・・・・・・今一度問おう、お前は如何したい?」

 

 ハベルは本気であった。このまま怯え続けているつもりなら、例え引きずってでも彼女を奴隷商の下へと送り返す気でいた。今の彼女が足手まといになるのは百も承知であるが、自らに秘められた可能性すら手放すほどの軟弱者を、ハベルは必要とはしていない。亜人の彼女を自分と勝手に重ね、ただひたすらがむしゃらにでも藻掻いて欲しかったのだ。

 

「私は・・・・・・コホッコホッコホッ・・・・・・私は・・・・・・ッ!」

 

 奴隷商の下へと戻る・・・・・・その一言を聞いた彼女はより一層震えだし、咳が酷くなっていく。だがそれ以上に、彼女は盾の勇者に見捨てられることがなにより怖かった。彼の思いを汲み取ってか、覚悟を決めた眼差しをハベルに向け、震えた手つきのまま少女はハベルの手からダガーを受け取った。

 

「よろしい、ひとまずは合格だ。・・・・・・そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな? 貴公、名前は?」

 

「・・・ら、ラフタリア・・・です」

 

殺気にも等しい気迫が消え、ハベルへの恐怖が収まったラフタリアはおずおずと名乗る。

 

「そうか・・・良い名だな。・・・ロードランのハベルだ。・・・よし、エルトハルト、追加だ。ラフタリアの防具を見繕ってはくれないか。どんな物でも整えば良い、貴公に任せる」

 

「へいへい。他の客が居ないとはいえ、全くなんて修羅場を見せてくれやがるんだか。可哀想な嬢ちゃんのためにオマケしといてやる」

 

 恨みがましげに皮肉を言ってから、彼は素早く奥からマントと服を用意してはハベルへとぶっきらぼうに手渡した。ハベルはそのまま装備をラフタリアへと与え、着替えてくるように促すと、彼女はそそくさと更衣室に入り、着替え始めた。ラフタリアが居なくなった瞬間、エルトハルトはハベルの方を厳しい目つきで睨み付ける。

 

「あんちゃん、そんなんじゃ碌な死に方しねぇぞ」

 

「・・・生憎と、碌な死に方というものをした覚えがないのでな」

 

 彼の嫌みを不死人にしか通じない皮肉で返していると、タイミング良くラフタリアが更衣室から出てくる。新しい服へと着替えたお陰か、いくらか身なりは改善されたが、まだ髪など所々が薄汚れており、行水の必要性を感じさせた。丁度街を出てすぐの草原には川が流れているため、今日の野営場所にはぴったりであろう、とハベルは一人思案していた。

 

「何にせよ、色々とすまなかったな。・・・・・・また来るとしよう」

 

「・・・おう。またな、あんちゃん。嬢ちゃんも気をつけろよ」

 

「はい、あの・・・その・・・コホッ・・・・・ありがとうございました」

 

 出口で頭を下げるハベルを真似てか、最後にピョコッとお辞儀をしながら、ラフタリアはハベルの後を付いて店を出ていった。そんな二人を見送り、エルトハルトは最後にまた、深い溜息をつくのであった。

 

「国が悪いのか、それともあんちゃんが汚れちまったのか・・・いや、あんちゃんが変わった様子は無いから、元からああだったのか。・・・・・・とにかく生きろよ、二人とも・・・」

 

 どこか祈るような彼の呟きが、店の中で静かに響いた。

 




遂に彼女との出会いを果たした・・・ここまで実に・・・長く辛い道のりであった・・・(:3っ)っ -=三[布団]
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