戦姫絶唱シンフォギア 輝ける星の聖剣   作:茶久良丸

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今回の話はかなり賛否が別れる内容となっています。
もしかしたら読者の皆さんの中にあるセイバーのイメージを壊してしまうかもしれません。
注意をお願いします。

それでは続きをどうぞ!


忿怒(ふんぬ)の王

 武装組織[フィーネ]のアジト潜入から数日後の事、仮設本部でノイズの反応を検知して、数分後に消失した現象が確認された。現場を調べてみたら、何者かが使用した痕跡と多数のノイズ被害者の遺体()が確認できた。十中八九、武装組織[フィーネ]のひいてはウィル博士の仕業だろうね。

 しかもこの武装組織[フィーネ]、元を辿ると米国の聖遺物研究機関[F.I.S]て言う所の一部職員が暴走して結成された組織だった。フィーネを名乗っていたのはマリアさんの事だけじゃなく米国と繋がりがあった了子さん(フィーネ)を指しての事もあったらしい。

 ただここで疑問が出てくる。さっきの話に出てきたノイズの出現があった現場、被害者の遺品や所持品がどう見ても米国…それも軍隊の物だった。つまり[F.I.S]は自国にも敵として見られているみたいなのだ。まだ詳しい事は分からないけど絶対厄介事に違いないだろうね。

 

 その間、響ちゃん達は母校の[リディアン音楽院]で文化祭を満喫していた。人類の為、ノイズと戦うシンフォギア装者の響ちゃん達だけど彼女達は花の女子高生。

 一度しかない青春を血生臭い日々にするなんて勿体ない。だから響ちゃん達にはこう言うイベント事を楽しんでほしいと私も弦十郎さん達もそう思ってる。

 

 だけどその文化祭にあの緑とピンクのシンフォギア装者(切歌・調)が潜入していたらしい。なんでも二人はシンフォギアのペンダントを賭けて決闘を申し込んできたとのことだ。

 う~ん、コッチの戦力を削ぐためにわざわざそんな回りくどい方法をするかな?しかも負けたら自分達のペンダントも渡さないとイケないリスクまで背負ってまで?リスクとリターンがまるで噛み合ってない。それなら闇討ちとかの方がまだ可能性があると思うけど…。

 

 色々考えたけど結局は全員で行く事になった。

まぁ、罠だとしても虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うしね。

 で、その決闘の指定先はなんと[旧リディアン音楽院]。またの名を[カ・ディンギル跡地]だった。

 

「決闘を求めるにはおあつらえ向きの舞台と言う訳か」

 

 確かに翼さんの言う通りかもしれないね。マリアさんが本当にフィーネなら前回の敗戦の地でリベンジなんてのも考えられるからね。

 だけどそこにいたのは予想外の人物だった。

 

「フン」

「野郎!」

 

 そこにウェル博士がいた。

 響ちゃん達の話と違う…。決闘を求めたのはあのシンフォギア装者の二人じゃないの?

 そうこうしている内にウェル博士は[ソロモンの杖]でノイズを呼び出す。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

「Imyuteus amenohabakiri tron」

「Killter Ichaival tron」

 

 響ちゃん達が各々のシンフォギアを纏い始める。私もそれに合わせて第二霊騎へと姿を変えノイズを迎撃する。

 

「調ちゃんと切歌ちゃんは!?」

「あの子たちは謹慎中です。だからこうして私が出張って来ているのですよ。お友達感覚で計画遂行に支障をきたされては困りますので」

「何を企てる、[F.I.S]!?」

「企てる…?人聞きの悪い。我々が望むのは…人類の救済!月の落下にて損なわれる無垢の命を可能な限り救いだす事だ!」

 

 月の落下!?どう言う事!?確か[ルナアタック]以降各国で月の観測がされているはず…。ウェル博士の言っている事が事実ならどうして政府は黙ってる!?

 

「月の公転軌道は、各国機関が三ヶ月前から計測中!落下などと結果が出たら黙っているわけ…」

「黙っているに決まっているじゃないですか!対処方法の見つからない極大災厄など、さらなる混乱を招くだけです!不都合な真実を隠ぺいする理由など、いくらでもあるのですよ!」

「まさか!この事実を知る連中ってのは、自分達だけ助かるような算段を始めているわけじゃ!?」

 

 クリスちゃんの言葉にニヤリと嗤うウェル博士。

 

「だとしたらどうします?貴女達なら?対する私達の答えが…

 [ネフィリム]!!」

「っ!クリス、下です!!」

「下ぁ!?」

 

 私は[直感]スキルでクリスちゃん足元から何かを感じ取った私はクリスちゃん向け叫ぶ。だけどクリスちゃんは直ぐに反応できず、地面から飛び出してきたナニか(・・・)元い[ネフィリム]によって吹き飛ばされる。

 以前より大きくなってないアレ(ネフィリム)!?

 

「クリスちゃん!」

「雪音!」

「クリス!」

 

 クリスちゃんはそのまま地面に叩き付けられる。一番近くにいた翼さんがクリスちゃんを抱き上げ様とするけど細長いノイズから出てきた粘着液で動きを拘束された。

 

「くっ!このようなもので…!」

「人を束ね、組織を編み、国を建てて命を守護する! ネフィリムはその為の力!」

「■■■■■!!」

 

 そこに大口を空け迫ってくる[ネフィリム]。私はで[ネフィリム]の顔面を[約束された勝利の剣(エクスカリバー)]で叩き斬る。

 

「はぁぁぁ!」

 

 ザシュン!

 

「■■■■■!?」

 

 だけど思ったより皮膚が堅く、撃退に至らない。

 

「ヒビキ!ツバサとクリスをお願いします!私はアレ(ネフィリム)を!!」

「セイバーさん!」

 

 私は響ちゃんに二人(翼・クリス)を任せ、[ネフィリム]に突っ込み斬りかかる。[ネフィリム]も流石に警戒したのか距離を取って応戦してきた。

 

「驚きましたよ。まさか貴女の様な方まで[フィーネ]と同じく過去から甦ったのですから」

 

 ウェル博士が私に話しかけてくる。

 過去から甦る?まさか、私の正体が!?

 

「だってそうでしょう?あのライブ会場で使用した完全聖遺物。アレを完璧に使いこなすなんてその使い方を知っているに他ならない!」

 

 しまった!ライブのTV中継が無くなったと確信したらから[転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)]の真名解放をしたのに!まさかあの時何処かで見られてた!

 

「そう!貴女こそこの現代に甦りし本物の英雄!円卓十三騎士の一人、太陽の騎士[ガウェイン]!!」

 

 ………へ?

 

「まさか[ガウェイン]が女性だとは思いませんでしたよ。しかし!その武勇は英雄と言うにふさわしい。だからこそ、貴女の存在は邪魔だ!この世界に英雄は二人もいらない!貴女を殺し、僕が真の英雄となる!!」

 

 なんか勝手にペチャクチャ喋ってるけど無視する。たぶん私がライブで[転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)]を使ったから勘違いしたんだろうけど、修正する暇も必要性も今は無い。

 とにかく今は目の前にいる[ネフィリム]を倒さなければ!

 

 この時、私は功を焦っていた。[F.I.S]のアジトの潜入の時、私がもっとしっかりしていればウェル博士も[ソロモンの杖]も取り逃がす事なんて無かったと思い込んでた。だから今、いち早く[ネフィリム]を撃退しウェル博士を捕縛しようと躍起になってた。

 

 だからだろう…、あんな事(・・・・)になってしまった。

 

 戦闘中、[ネフィリム]が前足を使って私に砂をかけてきた。私は砂が目に入り視界を奪われてしまう。

 

「くっ!おのれ!!」

 

 本能だけの獣かと思ったけど多少は知恵が回るみたいだ。

 

 たげど爪が甘い!私には[直感]スキルがある!例え視界が潰されても何処から来るか感じ取れる!

 

 私は[ネフィリム]が襲いかかるのを待ち構える。

 そして[直感]スキルがナニか(・・・)を目の前に捉えた。

 

「っ!そこだ!!」

 

 私は[約束された勝利の剣(エクスカリバー)]でそれを叩き斬る。

 だけど違った(・・・)。明らかに手応えがさっきと違っていた。

 

 この感じ…まるでノイズを斬った時の様な(・・・・・・・・・・・)

 

「セイバー、後ろだ!!」

「っ!?」

 

 私に向け翼さんが叫ぶ。それと同時に[直感]スキルが背後から迫るナニか(・・・)を感じ取った。

 

「しまっt」

 

 振り向いた時にはもう遅かった。[直感]スキルが避けられない事を伝えてくる。

 

 クソッ!駄目か!

 

 そう思った瞬間…

 

 ドンッ!

 ガブッ!

 

 私は真横から来たナニか(・・・)に押し出された。そこでようやく目の砂がとれ、前が見えるようになった。目の前の光景が写る。そこには左腕が無くなった(・・・・・)響ちゃんとナニか(・・・)を飲み込む[ネフィリム]の姿があった。

 

 一瞬で何が起こったのか理解できた。

 

「ひゃほぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 私は後ろを振り返る。そこには歓喜極まったウェル博士がいた。

 

 その姿を見た瞬間、私は…

 

 

 

 

 

 

 プッツンした(・・・・・・)

 

━━━━━━━━━━

 

「いったぁぁぁ!パクついたぁ!シンフォギアを!!これでぇぇぇ!!」

「ぐ…ぐぅ…」

「立花!立花ぁ!」

「バカ!しっかりしろオイ!」

 

 ウェル博士が歓喜を全身で表している中、ノイズの拘束から解かれた翼とクリスは左腕が食い千切られた響に駆け寄る。

 

「完全聖遺物[ネフィリム]は、いわば自律稼働する増殖炉!他のエネルギー体を捕食し取りこむ事でさらなる出力を可能とする!本来ならガウェインの持つ完全聖遺物を取り込みたかったがそれは結果オーライィ!さぁ始まるぞ!聞こえるか?覚醒の鼓動!この力がフロンティアを浮上させるのだ!フハハ、ハハハハ、フヒh」

「…………に…笑…い…」

「ひぇ?」

 

 [ネフィリム]が聖遺物を取り込んだ事で大型化していく中、ウェル博士の耳に誰かの声が聞こえてきた。声のした方向を見るとそこにはセイバーがいた。

 セイバーの顔は下を向いていてその表情は分からなかった。だがセイバーの纏う雰囲気は噴火寸前の火山の様であった。

 そして…

 

「何がそんなに可笑しい!!!」

 

 セイバーの怒りが爆発する。それは百獣の獅子が威嚇するかの様に咆哮する姿だった。恐らく無意識と思われる全身からの[魔力放出]によりセイバーの周囲の地面は盛り上がり、激しい突風を引き起こした。

 

「ツバサ、クリス!!ヒビキを頼みます!!」

「あ、あぁ…」

「お、おぉ…」

 

 セイバーの豹変に戸惑いながらも了承をする翼とクリス。

 セイバーはその場からゆっくりと一歩、また一歩とウェル博士に向け歩き始める。

 対するウェル博士は突風により尻餅を付いていた。そしてセイバーの表情を恐る恐る見る。そこには明らかに殺意を持った目をした怒れる獅子が自分を標的しているように見えた。

 

「ネ、[ネフィリム]!!何をしている!ソイツ(セイバー)を殺せぇぇぇ!!」

 

 怯えた声で[ネフィリム]に命令するウェル博士。[ネフィリム]は先程のセイバーの咆哮に怯みながらもセイバーに向けその大口を開き迫ってくる。

 セイバーは[約束された勝利の剣(エクスカリバー)]を[騎士王の宝財(ゲート・オブ・キャメロット)]にしまい、別の剣(・・・)を取り出し、それを真っ正面から迫り来る[ネフィリム]に対して横に構える。

 [ネフィリム]は迷うことなくその剣にかぶりつく。

 

 ガブッ!

 

「や、やったぁぁぁ!!シンフォギアだけじゃなく完全聖遺物までも取り込んだぞ!!これで最早[ネフィリム]は完全なる進化をとg…あれ?」

 

 ウェル博士が異変に気付く。

 

「■■■!?■■■!?」

「どうした[ネフィリム]!何故聖遺物を補食出来ない!?」

 

 [ネフィリム]が悶える。かぶりついた剣に何度も歯を立て名一杯の力を入れても砕く事が出来ないからだ。

 

「どうした理性無き獣よ…、貴様の牙はその程度か…?」

 

 セイバーが剣に魔力を送り始める。すると剣が徐々に青白い光(・・・・)を帯び始める。その光は輝きを増し、やがて臨界に至った瞬間…

 

 バュウン!

 

「■■■■■!?」

「[ネフィリム]!?」

 

 ネフィリムが後方に吹き飛ばされる。口の中は血だらけで牙が数本折れていた。ウェル博士はセイバーを見る。セイバーの右手には金の装飾が施された刀身が白い剣が握られていた。

 

「そ、それは…ライブ会場で使った剣じゃない!?それは一体何だ!?」

 

 驚愕に染まるウェル博士。その問いに答える様にセイバーはその剣を構え直し…

 

「[無毀なる湖光(アロンダイト)]」

 

 と告げた。

 [無毀なる湖光(アロンダイト)]

 それはかつてアーサー王に支えてた円卓の騎士の一人[ランスロット]が持っていたとされる聖剣でありも魔剣もある剣。起源は[約束された勝利の剣(エクスカリバー)]と同じく神造兵装。その特性は絶対に刃が毀れることが無い(・・・・・・・・・・・・)事である。

 

 [ネフィリム]が聖遺物を補食(・・)して取り込む以上、口に含み噛み砕く必要がある事に目をつけたセイバーは絶対の強度を持つ[無毀なる湖光(アロンダイト)]を使用し補食できないように対抗してきたのであった。

 

「[無毀なる湖光(アロンダイト)]…!?そ、それは円卓の騎士の中でも最強と謳われた[ランスロット]の剣!?何故貴女がその剣を!?その剣は貴女の兄弟を殺した剣の筈!?」

「貴様に答える義理は無い!!」

 

 ウェル博士の問いを無下に[無毀なる湖光(アロンダイト)]を構え直すセイバー。[ネフィリム]は先程の[無毀なる湖光(アロンダイト)]から放たれた[魔力放出]による攻撃でセイバーに恐怖心を抱き、逃げようと背を向ける。

 それを見たセイバーは足元にあった手のひらサイズの石を左手で拾う。

 

「貴様!聖遺物が欲しいのならこれを取るがいい!!」

 

 セイバーは石をある物と思い込みながら(・・・・・・・・・・)魔力を送り込む。すると石に赤い[魔術回路]が巡り始める。セイバーはそれを明後日の方角に投げ込む。

 

「■■■■■!」

「な、何をしているネフィリム!敵は目の前のなんだそぉ!!」

 

 [ネフィリム]はまるで吸い寄せられるようにその投げ込まれた石に向かって走る。

 セイバーは石にあるスキルを発動していた。

 

[騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・ オーナー)]

 

 それは[無毀なる湖光(アロンダイト)]を手にした事で使用が可能になったランスロットの宝具の一つである。その能力は手にした物に[自分の宝具]として属性を与え扱う宝具の付与能力である。セイバーは足元の石を[投石用の石]と思い込む事で石に疑似宝具として扱わせたのだ。

 この(シンフォギア)世界において、宝具は存在そのものが聖遺物としての扱いを受けるためランスロットのこの能力は一種の[聖遺物の量産機]として機能した。

 

 尚、本来なら宝具として扱われる[騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・ オーナー)]だがセイバーとして召喚した際に、スキルとして扱われる事から使用が可能になったと思われる(これはセイバーの見解であるため事実なのかは不明である)。

 

 やがて[ネフィリム]が疑似宝具と化した石の元にたどり着きそれを食らおうとした直前、セイバーは跳躍し、[ネフィリム]の頭上を取り詠唱を唱えていた。

 

「最果てに至れ、限界を超えよ!

 泉の騎士よ…この光をとくと目に焼き付けよ!」

「や、やめろぉ!成長したネフィリムは、これからの新世界に必要不可欠なモノだ!それを!それをぉぉぉ!!」

 

 ウェル博士の悲痛な叫びはセイバーに届かない。[ネフィリム]が振り返る。だが既に遅い。セイバーの[無毀なる湖光(アロンダイト)]はもう既に眼前にある。

 

縛鎖全断(アロンダイト)過重湖光(オーバーロード)!!!」

 

 [無毀なる湖光(アロンダイト)]が[ネフィリム]の肉を斬り裂く。そして切断面から青白い光が溢れだし、魔力の斬撃が[ネフィリム]内部で炸裂する。

 

「■■■■■■■■■■!!!」

 

 [ネフィリム]が絶叫し、その肉体が爆発四散する。返り血がセイバーを汚し、辺りに[ネフィリム]の死骸が転がる。

 

「ネ、ネフィリムが…。新世界に必要な…、僕が英雄になるための…ネフィリムが…」

 

 ウェル博士が現実を受け止めきれず膝から崩れ落ちる。セイバーは[無毀なる湖光(アロンダイト)]を下方に向かって剣を払って血振りし、ウェル博士に振り返る。

 

「ひ、ひぃぃぃ!!」

 

 ウェル博士は恐怖する。セイバーの顔がまるで「次はお前だ」とばかりに眼光を効かせていたからだ。ゆっくり一歩づつウェル博士に近づいていくセイバー。

 

「く、来るな!来るなぁぁぁ!!」

 

 ウェル博士は手にしていた[ソロモンの杖]でノイズを呼び出す。だが…

 

 ザシュン!

 

 セイバーは[無毀なる湖光(アロンダイト)]を横に振り、風圧だけでノイズを撃退する。

 

「い、いやぁぁぁ!ひぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 余りの光景にウェル博士は惨めな姿も顧みず四つん這いでその場から逃げようとする。だがそれは叶わなかった。

 

 ザション!

 

「ひぃぃぃ!!」

 

 ウェル博士の眼前に[無毀なる湖光(アロンダイト)]が突き刺さる。セイバーがウェル博士の逃げ道を無くすため投げ込んだのだ。もしあと数ミリ手前であったのならウィル博士の頭上にそれ(無毀なる湖光)は無惨にも刺さっていただろう。

 

 気付けば足音が聴こえなくなっていた。ウェル博士はまるで壊れた玩具の様に『ギギギ』と音を立てながら首を後ろに向け…られなかった。

 セイバーがその前にウェル博士の胸ぐらを左手で掴み無理矢理起き上がらせる。

 

「貴様は大義名分を盾に子供を利用し、(あざけ)り、何よりも傷付く姿を見てそれを嗤った!その所業は万死に値する!!」

「ぼ、僕を殺せば人類は月の落下で死に絶えるぞぉ!?」

「それは貴様が決める事ではない!!!」

 

 セイバーは右腕にありったけの魔力を送り込みそのすべてを[魔力放出]に変換する。

 

「痛みを知れ!!!彼女(ヒビキ)の痛みを!!!」

「いやぁぁぁ!!死にたくないぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 ウェル博士の叫びも空しく、セイバーの右腕がウェル博士の顔面にえぐり込む…直前、

 

「「セイバー!!!」」

「っ!?」

 

 セイバーの右腕がウェル博士の顔面ギリギリで止まる。だが拳自体は止められたがそれによって発生した風圧は止められず、ウェル博士はそのまま突風で吹き飛ばされてしまう。

 

「あばぁぐぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 吹き飛ばされたウェル博士はそのまま瓦礫の中に転がり落ちた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 セイバーは肩で息をしながらその場で放心状態となった。頭によぎるのは『もしあのまま殴っていればウェル博士を殺していた』という事実だった。もう数秒、翼とクリスがセイバーを呼び止めるのが遅ければ間違いなくそれは起こっていた。

 

 セイバーはなんとか自身の心を落ち着かせ、翼とクリスの元へ歩み寄る。

 

「セイバー…」

「おい、大丈夫か…」

「…ハァ…ハァ、…何とか」

 

 セイバーは引き絞る様な声でそう答える。ふと翼達の後で横たわっている響を見る。いつの間にか響はギアが解除され、食い千切られた筈の左腕は何事も無かったかの様にそこにあり、まるで眠る様に気絶していた。

 セイバーは響を抱き上げる。

 

「…報告は後程、今はヒビキを本部に連れていきましょう…」

 

 翼とクリスはそれに同意する。ゆっくり、ゆっくりと本部に帰還していくセイバー達。

 

 その後ろ姿は戦いに勝利したとは思えないほど暗く重いモノだった。

 

 

 




補足:響は左腕が無くなった後、暴走しましたが翼
   さんの影縫いで動きを止め、クリスちゃんの
   必死の説得で何とが暴走を止められました。
   暴走の際に、左腕も再生しています。

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