デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~   作:鈴木颯手

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第四十二話「天央祭・Ⅲ」

『まもなく天央祭、ステージ部門を開始します。参加者の皆さんは控室に集まってください』

 

「…いよいよか」

 

天宮スクエア全体に響き渡ったアナウンスを聞き彼女は呟く。既に出店している全ての店に入りほとんどのメニューを食べ終えた彼女は三つ目の財布が心もとなくなってきていたため他のブースへと足を運んでいた。

 

「そろそろ行かないと間に合わないな」

 

彼女は紙が完全になくなったポイを返しその場を離れていく。因みに彼女がやっていたのは金魚すくいであり赤や黒の金魚が巨大なプールの中を泳いでいたが彼女は一匹も取れていなかった。彼女にとっては楽しめたため特に気にはしていなかった。

 

ライブが行われる一号館に入る。チケットは予め美九から貰っていた。最前列のチケットであり位置も美九の目の前と言う破格の席だった。

 

中はそれなりに埋まっており誰もが美九の演奏を楽しみにしていた。…中には美九の容姿を見るために集まっている者もいるが。

 

そして、ライブが始まり美九がステージに立つ。瞬間青いスポットが一斉に美九を照らし出す。そして中央に立った美九が口元にマイクを持っていき、静かな曲調に合わせて声を発する。

 

瞬間、鳥肌が立ったようなゾワッとした感触が体表を撫でる。この一瞬で彼女は美九の歌声に圧倒されていた。

 

無論それだけではここまでにはならない。バックダンサーや美九の振りも合わさった結果の事であり彼女は初めてライブに行く人の気持ちが理解できた気分だった。

 

そうして、圧倒されている間に一曲目は終了していた。そして瞬間会場の照明は全て消えた。突然の事に会場の人たちはざわめく。いきなり照明が落ちればこうなる事は必然だろう。

 

しかし、ステージを見れば中央に立っている美九が光り始める。その事に彼女は、そして精霊(・・)を知っている者なら気付いた。

 

「〈神威霊装・九番(シャダイ・エル・カイ)〉!」

 

瞬間美九の服装は変わった。体のラインに沿うように張り付いたトップス、ボリュームのある袖、それらを包むように展開したボレロ状の光の帯。そして、光のフリルが幾重にも折り重なった煌びやかなスカート。

 

誘宵美九の、【ディーヴァ】の霊装であった。

 

「上げていきますよー!ここからが本番です!」

 

そこから美九はマイクも使わずに歌い始める。スピーカーはない。アンプもない。それなのに美九の歌声は先ほど以上に心に届く。観客たちは一層の盛り上がりを見せる。彼女もつられるように盛り上がっていた。先程の事を当初、彼女はアクシデントか?と考えた。だが、これを見せられれば先程のは演出だったのだろう。美九の歌声をより観客たちに届けるための。

 

彼女は初めて、美九の本当の力を、姿を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美亜さーん!私の歌、どうでしたか?」

 

美九のライブが終わり休憩と次の準備のため今ライブは停止していた。未だに圧倒されている彼女の元へ美九がやって来る。先程纏った霊装のままであった。

 

「…すごかった。それ以外に言葉はないよ」

 

「ふふ、それは良かったですー。本当は男なんかに私の声を聞かせたくはないんですが美亜さんが目の前で応援してくれたので最後まで歌えました~」

 

どうやら彼女に最前列のチケットを渡したのは美九の精神安定も兼ねていたようである。そんな打算的な美九に彼女は苦笑する。

 

「…次は来禅高校の演奏だけどこれを聞いた後だと、ね」

 

「ふふ、当たり前じゃないですか。私は士織さんを手に入れるために手は緩めませんよ?」

 

「知っているよ。美九がそう言う性格だってことをね」

 

そう言って美九の頭を撫でる。美九より身長が十センチほど高い彼女が撫でると彼氏彼女にすら見えてくる。美九は嬉しそうに目を細め頬を緩める。

 

「えへへ~」

 

緩まった口からアイドル、いや女性とどうなのかと取れる言葉が出てくる。幸い機材の故障なのか会場は暗かったため美九のその姿に、そもそもここに美九がいる事すら気付いていなかった。

 

「…そろそろ来禅高校の番だ」

 

「そうですね~。でも、私に勝つなんて無理ですよ~」

 

「…分からないよ。いくら美九の声が凄くても、それを超える事は可能なんだから」

 

「…ふふふ、美亜さんは面白い事を言いますね」

 

美九は彼女の言葉に一瞬眉を顰めるも直ぐ何時もの表情に戻り可笑しそうに笑う。そこには自分が得意な歌で負けるはずがないとと言う自信が伺えた。

 

確かに美九の歌は凄まじかった。彼女を超える事などアマチュアの士道では不可能だろう。しかし、美九は気付いていないのだ。この勝負の(・・・)勝利(・・)条件を(・・・)。気付いていたらここまで歌に力を注ぐことなど出来ないだろう。とは言え美九がこれで少しでもいい方向に変わればいいと考え何も言わなかった。

 

「ほら、そろそろ戻らないと…」

 

彼女は美九に戻るように伝える途中で背後を向く。正確には背後の天井部分。彼女の表情は段々険しくなっていく。いきなりの事に美九は困惑する。

 

「…?どうかしましたか?」

 

「…いや。すまないが美九。少し用事を思い出した。少し、外に出てくるよ」

 

「?構いませんけど…」

 

彼女は美九の怪訝そうな視線を背後に感じながら急いで外に出た。そして、ライブが始まる直前、天宮スクエアのはるか上空で複数の爆発音が響いた。

 




次の投稿は11月8日12:00です。

エンディング

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