デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~   作:鈴木颯手

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第五十三話「各々の動き」

「なっ!?」

 

狂三が出した信じがたい提案に、士道は目を見開いた。本来二人の関係は捕食者と餌の関係に近い。それなのに、捕食者である狂三がこんな提案をして来るとは思えなかったからだ。

 

「手伝…う?狂三が?俺を?」

 

「ええ。十香さんを助けだすのに手をお貸ししますわ」

 

そう言って狂三は、くすくすと微笑む。

 

士道は突然の狂三の言葉に頭を抑える。現状、士道一人では何もできない。現に今の今までこの廃ビルの中で息を潜めている事しか出来なかった。だが、狂三が手伝ってくれるというならそれは大いに助かる事も事実。狂三の分身体を使えば簡単に十香の居場所も分かるだろうしDEMとの戦いでも大いに役立つことは明白だった。

 

しかし、

 

「何が目的なんだ?」

 

士道はこれまでの経緯から狂三の言葉を手放しで信じる事は出来なかった。

 

「目的だなんて。わたくしはただ、士道さんのお役に立ちたいだけですわー」

 

士道が信じるとは思っていないのだろう。狂三は芝居がかった口調で言ってくる。

 

「お前な」

 

「あらあらあら」

 

士道が呆れたように、半眼を作り狂三を見ると態とらしく泣き真似を始める。

 

「悲しいですわ。わたくしは士道さんの事を思っているだけなのに」

 

「…」

 

「信用がありませんわねぇ。まぁ、仕方ないかもしれませんけど」

 

狂三は泣き真似を呆気なくやめ肩をすくめた。

 

「白状をすれば、わたくしも別口でDEM社に用事がございますの。手を貸す代わりに、わたくしも士道さんを囮として利用させていただきますわ。ギブアンドテイクでしてよ」

 

「用事…?」

 

「ええ、とある方を探しておりますの」

 

「とある方?一体誰だ?」

 

「それは秘密ですわ」

 

狂三が鼻の前に指を一本立てながらウインクをして来る。そんな狂三に士道はいぶかしげな視線を向ける。

 

「ご安心くださいまし。戯言を吐いてはいませんわ。…尤も、それでも信じていただけないのであれば、無理にとは申しませんけど」

 

「う…」

 

狂三の言葉に士道は苦々しげに呻く。狂三を完全に信用する事は出来ない。狂三が士道にしたことはそれだけ悲惨であったのだから。

 

だが、狂三がこの状況を打開できる唯一の希望であることも確かであった。今の狂三の手を取る事は果たして希望への道筋なのかそれとも絶望への片道切符なのか、それを今の士道に判別する事は出来ない。何もしないという手も底なし沼に埋まっているような現状ではいずれは地獄へと堕ちるだろう。

 

ならば、例えそれが罠だとしても士道には手を取る以外の選択肢は存在しなかった。

 

「…分かった。信じるよ、狂三。俺に手を貸してくれ…」

 

「…ええ、喜んで」

 

狂三は優雅な仕草で持ってスカートの裾をつまみ上げ膝をかがめて見せた。それはまるで名家のご令嬢が道化の様におどけいる様であった。

 

この瞬間、士道と狂三の間に同盟が結ばれた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うむぅ?」

 

精霊【プリンセス】こと、夜刀神十香は小さなうめきと共に目を覚ました。その眼に映るは自分の部屋。自分のベット。何時も通り(・・・・・)の光景を見る。

 

「ふぁぁぁぁ」

 

大きく欠伸をした十香はいつも通りの行動をしようと動こうとして違和感を感じる。手足が動かないのである。まるで、何かに拘束されている感じに十香は疑問を持つ。

 

瞬間、十香の目に写っていた部屋はあっという間に様変わりした。生活感ある部屋は無機質な空間へと変わり十香も椅子に座っている状態であった。

 

そしてその椅子は十香を逃がさないとばかりに枷が付いており腕には点滴の針が刺さっていた。十香の視界には映らないが頭に何かが付いているのが感触で分かる。

 

「な、なんだこれは!?」

 

十香は改めて周りを見渡してみる。部屋の広さは教室ぐらいであろうか?十香を拘束している椅子と点滴以外には何もない無機質の部屋。部屋の角にはスピーカーとカメラが取り付けられている。まるで独房の様な様相であった。

 

「ここは…一体」

 

十香は必死に最後の記憶を思い出そうとうねる。そして、直ぐに最後の記憶を思い出し目を見開いた。

 

「そうだ、確か天央祭でステージに立っていて…」

 

誘宵美九に操られた【ハーミット】四糸乃、【ベルセルク】八舞姉妹。そして美九に味方する【SS】。そして最後に現れた白金の鎧を纏った魔術師(ウィザード)。彼女に敗れ何とか士道を逃がす事は出来たものの自分は捕まってしまい、

 

「と言う事は、ここは…」

 

瞬間、目の前の壁が長方形の亀裂が入りドアの様にスライドする。そこから出てきたのは十香と戦った魔術師(ウィザード)、エレン・メイザースであった。後ろには白衣を着た科学者らしき男もいたが十香の目にはエレンしか映っていなかった。

 

「貴様!」

 

十香は飛び掛かろうと力を入れるが枷は日々一つ入ることなく十香の動きを阻害する。

 

「落ち着いてください。今のあなたの力ではその枷を外す事は出来ません」

 

「ふざけるな!今すぐこの枷を外せ!」

 

エレンが落ち着いた声で宥めようとするも今の十香には火に油を注ぐだけで終わってしまう。

 

「外したところで、どうするのですか?」

 

「知れたこと!シドーを助けに行くのだ!」

 

「シドー…。五河士道の事ですか。安心してください。彼の行方は我々も調査中です。遅くとも数日中にはここへ連れてきます」

 

「なっ!」

 

 

「天宮スクエアの方も今攻略部隊を編成中です。夜明けと共に総攻撃をかけ【ディーヴァ】以下、【ハーミット】、【ベルセルク】を捕獲します。運が良ければ【SS】も捕獲したいですが難しいでしょうね。まあ、貴方のお友達には直ぐに合わせてあげます」

 

「ふざけるな!そんなことさせない!」

 

「今のあなたに何が出来るというのですか?安心してください。暴力は振るいませんよ。抵抗されたらその限りではありませんが」

 

「っ!」

 

エレンの言葉に十香は憎悪の視線を向ける。それと同時に枷からミシ、という音が聞こえてくる。しかし、

 

「ぐぁぁぁぁっ!!」

 

十香の体を無数の電撃が走る。十香はあまりの痛みに声を上げる。そこに先ほどまでの力はなくぐったりと体を椅子に預ける。

 

「…どうやら私の出番はないようですね。リトルトン」

 

「当たり前でしょう?対精霊用の拘束椅子です。ただ枷を嵌めて終わりという訳がないでしょう?」

 

電撃を受けぐったりしている十香を見てエレンが後方にいる男に声をかける。男、クラーク・リトルトンは当然と言った様子で言葉を返した。

 

「さて、抵抗は無意味と分かってもらえたようですしいくつか質問をさせてもらいます」

 

エレンはそう言うと壁の一部を引っ張り出すとそれを椅子代わりにして十香の目の前に座るのであった。

 

エンディング

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