ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~ 作:シエロティエラ
――そういうことなのね
――あの輝き、あの眩しさ、あの美しさ
――総てはあの子がアギトだったが故
――嗚呼でも
――やっぱりあの子が欲しい
アイズの向かった先にはヒュリテ姉妹とレフィーヤが、地中から突如現れた
敵は理性無きモンスター、しかしその勘は獣故に鋭いものである。レフィーヤが魔力を集めて隙を伺っているときに、食人花は地面から触手を伸ばし、彼女を屠ろうと攻撃をした。
「あっ……」
勿論突然のことで思考が停止してしまう。腹に伸びる触手の動きが、異様にゆっくりしている様に錯覚する。一緒に戦っていた仲間が、敬愛してやまない剣姫が、レフィーヤの名前を呼ぶのが聞こえる。彼女に駆け寄ろうと走り出すが、多数の触手に阻まれるのが見える。
(もう……だめなの?)
不思議と恐怖はなかった。だが生物の本能か、襲い来る攻撃から目をそらすため、レフィーヤは咄嗟に目を瞑った。しかしいつまでたっても、痛みに襲われることはない。それどころか、この場にいなかったはずの男性の呻き声が聞こえる。
恐る恐る目を開けると、目の前に金の人影があった。
目の前の人影は腕を振るうと、あれほど断ち切るに苦労した触手が、豆腐の様に切り裂かれ、食人花の本体は苦悶するように身をよじらせた。
「う、ぐぅ……」
人影は膝をつくと一瞬体を光らせ、次の瞬間にはヒューマンの少年に姿を変えていた。真っ白な髪を汗で湿らせ、額には脂汗が浮かんでいる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「はぁ……ぐッ!?」
見れば少年は右肩口から血を流している。傷口には触手の切れ端が刺さったままであり、それがビチビチと暴れていた。
「すぐに治療しないと!! いったん下がります!!」
「……大丈夫です」
レフィーヤは少年の両脇に腕を入れ、急いで後方に下がった。レベルが3であるレフィーヤならばヒューマンの少年一人運ぶのはそれほど苦労しない。
少年を治療しようとしたが、少年自身がそれを止めた。何を言っているのかわからない。しかし一見貧弱そうな少年が、自分を守って怪我をしたのは紛れもない事実。ポーチからポーションを取り出そうとしたが、少年はそれを押しのけ、無理やり触手を引き抜いた。
「あれは……植物ですよね?」
「はい。でも刃が通らないから、私の魔法でやろうとして……」
「魔力に反応したってことですね?」
少年の問いかけに、レフィーヤは頷く。見れば見るほどに、兎を思い浮かべる様な、儚げな印象を持たせる少年である。しかしその目は、一人前の戦士を思わせる輝きを放っている。
「……魔法ならいけますか?」
「え? は、はい。相手は植物、ですので炎の強力な魔法を使えば。あるいは凍らせて一気に砕けば……」
「分かりました。じゃあ僕は……」
少年は立ち上がると、再び構えを取った。そしてその腰にベルト/オルタリングが装着され、待機音が鳴り響く。同時に、食人花の動きが完全に止まり、触手の先が全て少年に向けられた。
「あのベルトは、まさかあの子が?」
レフィーヤもヒュリテ姉妹も、そしてアイズの目も、彼の腰のベルトに集まる。特にアイズは二度、そのベルトを目にしているがために、驚きに目を見開いていた。
「……エルフのお姉さん、お名前は?」
「え?」
「これから共に戦う人の名前、貴女の名前を教えてください」
「……レフィーヤ・ウィリディスです」
「レフィーヤさんですね。僕はベル・クラネルです」
──今この時、僕の背中を貴女に預けます。
少年、ベルはそう言うと、ベルトの両脇を一気に押し込んだ。一瞬の輝きと共に、彼の体を黄金が包み込む。そして間髪入れず、右側のボタンを押し込んだ。
バーナーを吹かすような音、そして間近にいたレフィーヤだからこそ感じた、肌を焼くような熱。瞬きしたときには、目の前の黄金は、隆起した右腕と共に
「……」
食人花はベルを第一級の脅威と感じたのだろう。全ての触手を以って、ベルに襲い掛かった。ベルよりも高ランクの三人に振り向くことすらしない。
ベルは冷静にその場を離れ、レフィーヤに攻撃が行かないよう移動した。そしてベルトの前に手をかざすと、一振りの刀がその手に収まった。
襲い来る触手を、無言で切り払うベル。その動きはグランドフォームよりも遅いが、まるでどこから襲うか理解しているかのように、後ろからの不意打ちにも対処していた。
これこそが【超越感覚の赤】。
オラリオにアギト:フレイムフォームの降臨した瞬間である。
「うそ……でしょう?」
「あれって……アギトだよね?」
「赤い……アギト? 聞いたことがないです……」
アギトは種族ごとに言い伝えが存在する。その中で、伝えられなかった姿は必然出てきてしまう。エルフのレフィーヤが、フレイムフォームを聞いたことがないのは、そう言う経緯があるからこそであった。
「フゥゥゥゥ……フンッ!!」
一度大きく息をついたベルが、一息に刀を逆袈裟に振り切った。断ち切られた触手の切れ端は地面に落ち、その身を燃やしながらやがて灰となった。よく見ると、彼の振るう刀は陽炎のように熱をもっていた。それに斬られたことにより、触手の切れ端は焼かれ、本体の切り口からは焼けただれた傷が広がっていく。
「あっ、私たちも行くわよ!!」
「「「うん(はい)!!」」」
最初に我を取り戻したティオネにより、他の面子も意識を戻す。レフィーヤは魔法の準備を始め、他の三人はベルと共に切りかかっていった。
アイズはその身軽な身のこなしと風の魔法で攪乱し、ヒュリテ姉妹はアマゾネス故の身体能力を駆使し、触手や本体に刃を入れていく。高ランクの冒険者三人に、焔を纏うアギトの斬撃。四人の攻撃に、食人花は次第に弱っていく。
「みんな、ひとついい?」
「何をするのですか?」
「レフィーヤの魔法で確実に倒すために、力を合わせる」
「どうするの?」
ベルに注意がひきつけられている間に、アイズたちは作戦会議をする。弱った食人花に対し、連携でダメージを与え、最後に魔法を核に当てるという流れである。しかしここで懸念事項があった。
「アギト、あの子はどうするの?」
「申し訳ないけど、その場で合わせてもらうか、下がってもらうしか……」
「じゃあ私言ってくるわ。ティオナと違って、あたしは小回り効くし」
そう言うや否や、ティオネはベルの下に向かった。攻撃を避けて偶に斬撃を加えながら、ベルに作戦を伝えていく。無言で、しかし一つ頷くと、ベルは再び刀に火炎を纏わせ、大きく振った。それにより、ティオネの後方から迫っていた触手は焼かれ、地面の上で燃えカスとなる。
「じゃあ、いこう!!」
アイズの掛け声と共に、一斉に準備に入る。それを察したのか、ベルは左腰のあたりで刀を構えて、若干腰を屈める。すると刀の鍔、アギトの角を彷彿とさせる装飾が変化し、花が開くように四本の角の装飾が追加された。そして刀身には、今までの比ではないほどに燃え盛る焔が現れた。
「【
「フゥゥゥゥ……」
「「ヤァっ!!」」
最初にヒュリテ姉妹が対象に突進した。姉は二振りのナイフを、妹は大剣を振るい、本体に大きく斬撃を放つ。
「ヌゥゥゥウウン!!」
大きくのけぞった食人花に対し、先に近寄ったベルが上段からの大振りの唐竹割を放つ。大きく縦に斬られ、そこから燃やされる痛みに、食人花はもだえ苦しむ。
「リル・ラファーガ!!」
間髪入れずにアイズの風を纏った突進が放たれ、その余波で作られた暴風により、火炎の竜巻が出来上がる。灼熱の旋風に包まれた食人花には、最早抵抗する術はない。
最後にレフィーヤの放つ氷魔法により、焔もろとも食人花は凍らされ、巨大な氷像へと仕上げられた。
「ハァァァァァァァ……」
それを見たベルはいつの間にか姿を変えたのだろう、再び黄金に体を染めると、長く、永く息を吐き、構えを取る。すると地面には、ミノタウロスの時より大きなアギトの紋章が現れ、彼の角は六本に開かれる。
紋章は右足に収束し、側にいた全員が軽く引くほどの圧力が輝きと共に発せられる。
「ハッ、タァァァアッ!!」
飛び上がり、そして爆発的な加速をしたキックは過たず食人花を、その核を貫き、木っ端微塵に砕ききった。戦場に残るのは宙を舞う無数の焔の氷片と、砕け散った魔石の欠片。
疑似的なダイアモンドダストが舞い散る中、四人の冒険者の視線の先には、威風堂々とした姿勢で地に立つ、黄金の龍戦士がいた。
──ステイタス更新
──スキル:【
まさか、三話更新になるとは思っていなかったです。正確には本日書いたのは二本ですが。
さてさて、覚えている限り翔一が覚醒したのはストームフォームが先でしたが、ベルはフレイムフォームを先とさせていただきました。またこの世界ではバイクがないため、ライダーブレイクは登場しない予定です。
また前回に披露した腕で切り裂く技。あれは公式にはライダーチョップと言われる技で、明確な描写は「平成ジェネレーションズFOREVER」に出てきます。
また外伝では腹を貫かれたレフィーヤですが、今回はベルが庇った形にしました。
さてさて、ついにロキ・ファミリとついに邂逅したベル君。今後どう話を展開させるか悩みどころです。
それではまた次回。