ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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――そういうことなのね

――あの輝き、あの眩しさ、あの美しさ

――総てはあの子がアギトだったが故

――嗚呼でも

――やっぱりあの子が欲しい





10. 深緋の焔

 

 

 アイズの向かった先にはヒュリテ姉妹とレフィーヤが、地中から突如現れた食人花(ヴィオラス)を相手に戦っていた。しかし食人花の表皮は固く、加えて今日は祭りを楽しむためにヒュリテ姉妹は自分の愛武器を持っていなかった。その辺の武器屋から武器を急ぎ拝借した二人は兎も角、魔導士のレフィーヤと途中から駆け付けたアイズは偶然か武器を持っていたが、それでも苦戦を強いられている。

 敵は理性無きモンスター、しかしその勘は獣故に鋭いものである。レフィーヤが魔力を集めて隙を伺っているときに、食人花は地面から触手を伸ばし、彼女を屠ろうと攻撃をした。

 

 

「あっ……」

 

 

 勿論突然のことで思考が停止してしまう。腹に伸びる触手の動きが、異様にゆっくりしている様に錯覚する。一緒に戦っていた仲間が、敬愛してやまない剣姫が、レフィーヤの名前を呼ぶのが聞こえる。彼女に駆け寄ろうと走り出すが、多数の触手に阻まれるのが見える。

 

 

(もう……だめなの?)

 

 

 不思議と恐怖はなかった。だが生物の本能か、襲い来る攻撃から目をそらすため、レフィーヤは咄嗟に目を瞑った。しかしいつまでたっても、痛みに襲われることはない。それどころか、この場にいなかったはずの男性の呻き声が聞こえる。

 恐る恐る目を開けると、目の前に金の人影があった。

 目の前の人影は腕を振るうと、あれほど断ち切るに苦労した触手が、豆腐の様に切り裂かれ、食人花の本体は苦悶するように身をよじらせた。

 

 

「う、ぐぅ……」

 

 

 人影は膝をつくと一瞬体を光らせ、次の瞬間にはヒューマンの少年に姿を変えていた。真っ白な髪を汗で湿らせ、額には脂汗が浮かんでいる。

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「はぁ……ぐッ!?」

 

 

 見れば少年は右肩口から血を流している。傷口には触手の切れ端が刺さったままであり、それがビチビチと暴れていた。

 

 

「すぐに治療しないと!! いったん下がります!!」

 

「……大丈夫です」

 

 

 レフィーヤは少年の両脇に腕を入れ、急いで後方に下がった。レベルが3であるレフィーヤならばヒューマンの少年一人運ぶのはそれほど苦労しない。

 少年を治療しようとしたが、少年自身がそれを止めた。何を言っているのかわからない。しかし一見貧弱そうな少年が、自分を守って怪我をしたのは紛れもない事実。ポーチからポーションを取り出そうとしたが、少年はそれを押しのけ、無理やり触手を引き抜いた。

 

 

「あれは……植物ですよね?」

 

「はい。でも刃が通らないから、私の魔法でやろうとして……」

 

「魔力に反応したってことですね?」

 

 

 少年の問いかけに、レフィーヤは頷く。見れば見るほどに、兎を思い浮かべる様な、儚げな印象を持たせる少年である。しかしその目は、一人前の戦士を思わせる輝きを放っている。

 

 

「……魔法ならいけますか?」

 

「え? は、はい。相手は植物、ですので炎の強力な魔法を使えば。あるいは凍らせて一気に砕けば……」

 

「分かりました。じゃあ僕は……」

 

 

 少年は立ち上がると、再び構えを取った。そしてその腰にベルト/オルタリングが装着され、待機音が鳴り響く。同時に、食人花の動きが完全に止まり、触手の先が全て少年に向けられた。

 

 

「あのベルトは、まさかあの子が?」

 

 

 レフィーヤもヒュリテ姉妹も、そしてアイズの目も、彼の腰のベルトに集まる。特にアイズは二度、そのベルトを目にしているがために、驚きに目を見開いていた。

 

 

「……エルフのお姉さん、お名前は?」

 

「え?」

 

「これから共に戦う人の名前、貴女の名前を教えてください」

 

「……レフィーヤ・ウィリディスです」

 

「レフィーヤさんですね。僕はベル・クラネルです」

 

 

──今この時、僕の背中を貴女に預けます。

 

 少年、ベルはそう言うと、ベルトの両脇を一気に押し込んだ。一瞬の輝きと共に、彼の体を黄金が包み込む。そして間髪入れず、右側のボタンを押し込んだ。

 バーナーを吹かすような音、そして間近にいたレフィーヤだからこそ感じた、肌を焼くような熱。瞬きしたときには、目の前の黄金は、隆起した右腕と共に深緋(こきひ)に染まっていた。そしてオルタリングの中央にある賢者の石も、黄金から深紅へと色を変えていた。

 

 

「……」

 

 

 食人花はベルを第一級の脅威と感じたのだろう。全ての触手を以って、ベルに襲い掛かった。ベルよりも高ランクの三人に振り向くことすらしない。

 ベルは冷静にその場を離れ、レフィーヤに攻撃が行かないよう移動した。そしてベルトの前に手をかざすと、一振りの刀がその手に収まった。

 襲い来る触手を、無言で切り払うベル。その動きはグランドフォームよりも遅いが、まるでどこから襲うか理解しているかのように、後ろからの不意打ちにも対処していた。

 

 これこそが【超越感覚の赤】。

 

 オラリオにアギト:フレイムフォームの降臨した瞬間である。

 

 

「うそ……でしょう?」

 

「あれって……アギトだよね?」

 

「赤い……アギト? 聞いたことがないです……」

 

 

 アギトは種族ごとに言い伝えが存在する。その中で、伝えられなかった姿は必然出てきてしまう。エルフのレフィーヤが、フレイムフォームを聞いたことがないのは、そう言う経緯があるからこそであった。

 

 

「フゥゥゥゥ……フンッ!!」

 

 

 一度大きく息をついたベルが、一息に刀を逆袈裟に振り切った。断ち切られた触手の切れ端は地面に落ち、その身を燃やしながらやがて灰となった。よく見ると、彼の振るう刀は陽炎のように熱をもっていた。それに斬られたことにより、触手の切れ端は焼かれ、本体の切り口からは焼けただれた傷が広がっていく。

 

 

「あっ、私たちも行くわよ!!」

 

「「「うん(はい)!!」」」

 

 

 最初に我を取り戻したティオネにより、他の面子も意識を戻す。レフィーヤは魔法の準備を始め、他の三人はベルと共に切りかかっていった。

 アイズはその身軽な身のこなしと風の魔法で攪乱し、ヒュリテ姉妹はアマゾネス故の身体能力を駆使し、触手や本体に刃を入れていく。高ランクの冒険者三人に、焔を纏うアギトの斬撃。四人の攻撃に、食人花は次第に弱っていく。

 

 

「みんな、ひとついい?」

 

「何をするのですか?」

 

「レフィーヤの魔法で確実に倒すために、力を合わせる」

 

「どうするの?」

 

 

 ベルに注意がひきつけられている間に、アイズたちは作戦会議をする。弱った食人花に対し、連携でダメージを与え、最後に魔法を核に当てるという流れである。しかしここで懸念事項があった。

 

 

「アギト、あの子はどうするの?」

 

「申し訳ないけど、その場で合わせてもらうか、下がってもらうしか……」

 

「じゃあ私言ってくるわ。ティオナと違って、あたしは小回り効くし」

 

 

 そう言うや否や、ティオネはベルの下に向かった。攻撃を避けて偶に斬撃を加えながら、ベルに作戦を伝えていく。無言で、しかし一つ頷くと、ベルは再び刀に火炎を纏わせ、大きく振った。それにより、ティオネの後方から迫っていた触手は焼かれ、地面の上で燃えカスとなる。

 

 

「じゃあ、いこう!!」

 

 

 アイズの掛け声と共に、一斉に準備に入る。それを察したのか、ベルは左腰のあたりで刀を構えて、若干腰を屈める。すると刀の鍔、アギトの角を彷彿とさせる装飾が変化し、花が開くように四本の角の装飾が追加された。そして刀身には、今までの比ではないほどに燃え盛る焔が現れた。

 

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

「フゥゥゥゥ……」

 

「「ヤァっ!!」」

 

 

 最初にヒュリテ姉妹が対象に突進した。姉は二振りのナイフを、妹は大剣を振るい、本体に大きく斬撃を放つ。

 

 

「ヌゥゥゥウウン!!」

 

 

 大きくのけぞった食人花に対し、先に近寄ったベルが上段からの大振りの唐竹割を放つ。大きく縦に斬られ、そこから燃やされる痛みに、食人花はもだえ苦しむ。

 

 

「リル・ラファーガ!!」

 

 

 間髪入れずにアイズの風を纏った突進が放たれ、その余波で作られた暴風により、火炎の竜巻が出来上がる。灼熱の旋風に包まれた食人花には、最早抵抗する術はない。

 最後にレフィーヤの放つ氷魔法により、焔もろとも食人花は凍らされ、巨大な氷像へと仕上げられた。

 

 

「ハァァァァァァァ……」

 

 

 それを見たベルはいつの間にか姿を変えたのだろう、再び黄金に体を染めると、長く、永く息を吐き、構えを取る。すると地面には、ミノタウロスの時より大きなアギトの紋章が現れ、彼の角は六本に開かれる。

 紋章は右足に収束し、側にいた全員が軽く引くほどの圧力が輝きと共に発せられる。

 

 

「ハッ、タァァァアッ!!」

 

 

 飛び上がり、そして爆発的な加速をしたキックは過たず食人花を、その核を貫き、木っ端微塵に砕ききった。戦場に残るのは宙を舞う無数の焔の氷片と、砕け散った魔石の欠片。

 疑似的なダイアモンドダストが舞い散る中、四人の冒険者の視線の先には、威風堂々とした姿勢で地に立つ、黄金の龍戦士がいた。

 

 

 

──ステイタス更新

 

──スキル:【焔を宿すもの(フレイムフォーム)

 

 

 

 





まさか、三話更新になるとは思っていなかったです。正確には本日書いたのは二本ですが。
さてさて、覚えている限り翔一が覚醒したのはストームフォームが先でしたが、ベルはフレイムフォームを先とさせていただきました。またこの世界ではバイクがないため、ライダーブレイクは登場しない予定です。
また前回に披露した腕で切り裂く技。あれは公式にはライダーチョップと言われる技で、明確な描写は「平成ジェネレーションズFOREVER」に出てきます。
また外伝では腹を貫かれたレフィーヤですが、今回はベルが庇った形にしました。

さてさて、ついにロキ・ファミリとついに邂逅したベル君。今後どう話を展開させるか悩みどころです。


それではまた次回。


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