ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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――この空っぽの星で、ゼロから時代は始まる。

――積み上げられた伝説は、塗り替えよう。

――その身よ、強くあれ。

――恐怖もなく、痛みもなく。

――恐れることなく、青空を走り続ける。

――ただ、ヒトの笑顔を守るために。

――新たな英雄、新たな伝説。







13. 出会いの予兆

 

 

 

 エイナとの買い物があって数日、ベルはダンジョンからの帰路についていた。エイナからの許可もあり、5層以下も無理のない範囲で攻略しにいっていた。そのおかげか、今までの比ではない稼ぎをたたき出し、しばらくはファミリアの予算にも余裕が出てくると予想できる。

 新調した武具の調子もよく、特にメンテナンスされた両剣は、試し切りの時とは桁違いに切れ味が増している。そんな新武器の調子に満足しつつ、たまには早く帰るのもいいだろうと判断したベルは、いつもは通らない裏路地に足を進めた。

 

 

「あっ!?」

 

 

 しかし上の空だったベルは、不注意にも飛び出してきた小さな人影とぶつかってしまった。人影はベルの体に跳ね飛ばされ、尻餅をついている。

 

 

「すみません、大丈夫ですか?」

 

 

 ベルは謝罪しつつ、倒れた人影に手を差し出した。見ると人影は人の子供程度の身長である。しかし単純に背が低いわけでなく、ありとあらゆる体のパーツが、大人の女性より一回り小さい体系なのだ。数学の相似といえば、想像しやすいだろう。

 

 

「……小人族(パルゥム)?」

 

 

 小人族の人物は、特に手入れもされていないボサボサの栗色の髪と、ボロボロの外套を纏っていた。そして唐突に表れたのと、微妙に荒い息をしていることから、この人物は走っていたとベルは推測した。ついでにその体の凹凸と外套の下の服装から、目の前の小人族が少女であるということも把握する。

 

 

「やっと追いついたぞ、この糞小人族!!」

 

 

 しかし時間を置くことなく、少女を追うように一人のヒューマンの男が鬼のような形相でこの場に現れた。その手には抜身の剣が握られており、ベルの目の前の少女と男に何かトラブルがあったことは明白である。

 走ってきた男はスピードを緩めることなく、そのまま剣を振りかぶって突進してきた。ベルにとっては、この程度の突進はよけることができる。特に冷静でなく、単調な攻撃なら尚更である。

 だがベルの頭にはよけるという選択肢はなかった。少なくとも目の前に救える「命」があるのなら、戸惑うことなく手を伸ばすのが、この十数年で形成された彼の気質だった。ベルは戸惑うことなく迫る刃を、背負う両剣の持ち手で防ぐ。そしてそのまま抜刀するように、男の手から剣を弾き飛ばした。

 

 

「なっ!? 何なんだよテメェ。テメェもそいつの仲間か!!」

 

「いえ、初対面ですが……」

 

「じゃあなんでそいつを庇ってんだよ!?」

 

「自分の目の前で命が奪われるのを、見て見ぬふりするほど人間が出来てないので」

 

「……まぁいい。邪魔するならテメェから殺す!!」

 

 

 男は冷静な判断ができているとは、ベルには到底思えなかった。再び剣をとった男が切りかかってきたが、技術もクソもないレベルと恩恵に任せた、ただの力任せの一振りとベルは評価を下す。

 そもそも、太古の昔から存在しているエルロード等と比べること自体が間違っているのだが。

 

 

「な……にぃ……?」

 

 

 だからこそベルが選択したのは、武器破壊ではなく、使用者の無力化である。武器に罪はない、使用者に問題があるのなら、そちらを落とせばいいだけのこと。

 手に持った両剣を折り畳んだまま、ベルは一息に男の鳩尾に突きを入れた。無論男は防ぐこともできず、間もなく気絶して地に伏した。

 男が眠ったことを確認したベルは両剣を背中に背負いなおし、後ろを振り返った。しかし先程まで倒れていた少女はおらず、夕日に照らされた路地が広がるだけだった。視界の端、建物の陰でで見え隠れしているボロ布には気づかないふりをして。

 

 

「……やはりお強いですね、ベルさん」

 

「見ていたんですか、リューさん?」

 

 

 後方からかけられた声に反応して振り向くと、「豊穣の女主人」のウェイターの一人であるリュー・リオンが立っていた。買い物帰りなのだろう、その腕には買い物袋が複数抱えられていた。

 

 

「すみません。助けに入ろうとは思いましたが、先にベルさんが対処したようなので」

 

「あ~それは何というか……」

 

「これならシルを安心して任せられますね」

 

「何の話ですか?」

 

 

 ときどきリューの話についていけないベル。如何に強い力を秘めていても、根っこはただの純朴な少年である。

 砂埃を落としたベルは、改めてリューを見た。直感とその身のこなしから、すでに彼女が冒険者だったことは理解している。だから彼女がその手に抱える買い物袋も、彼女にとっては軽いものであることも分かっている。

 しかしこのまま「はい、さようなら」とこの場を去るほど、ベルは薄情に育ったわけではない。何より彼の祖父に、女性の手助けは率先的にするように教育されている。

 

 

「手伝いますよ、リューさん」

 

「え? いいえ、大丈夫ですよ」

 

「確かに大丈夫でしょうけど、いつもおいしい料理をいただいていますし」

 

 

 そう言うと、ベルはサッと全ての荷物を持った。ベルは気づいていなかったが、その時リューの手に指が振れたために、虚を突かれたから為せたことである。

 

 

「これ、『豊穣の女主人』まででいいんですよね?」

 

「……え?」

 

「あの、行き先はお店で大丈夫ですよね?」

 

「え、ええ……お手数、お掛けします……」

 

 

 そう返事したリューは少しだけ頬を染め、しきりにベルの触れた部分を優しく擦っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんでリューがベルさんと一緒に!?」

 

 

 店に着くなり、シルの声が屋内に響き渡る。彼女が驚くのも無理はないだろう。本来エルフは異性に触れられることを極端に嫌う。触れられる異性は、生涯の伴侶のみというのも珍しくないほどの徹底ぶりである。

 そのエルフであり、また触れられることを徹底して避けるリューがベルと共に現れ、あまつさえ上の空の状態なのだ。

 

 

「帰りに偶然会いまして。じゃあ僕はこの辺で失礼しますね」

 

「はい……ありがとうございました……」

 

 

 返事もぼうっとした感じで返すリューに、さすがのベルも心配になったのか、怪訝な表情で彼女を見つめる。しかしリューはそんな胡乱な状態のまま足を踏み出す。

 だからか、彼女が足をもつれさせ、倒れそうになるのは必然であった。そして運の悪いことに、彼女は一瞬自分が倒れていることを認識できず、加えて倒れこむ先には机の角があった。

 

 

「リューさん!!」

 

 

 ベルが動けたのは、今までの訓練のたまものだろう。

 素早くリューの前に立ち、余り衝撃を受けないようにやさしく受け止める。その状況に、ベル以外は頭の中が追い付いていなかった。特にベルにやさしく支えられているリューは、自分が何をしているか、どのような状態なのか一切理解できていなかった。

 

 

「……あ……え?」

 

「大丈夫ですか、リューさん?」

 

「えっと……あ、え……ええええ!? クラネルさん!?!?」

 

「……兎に角、怪我がなくてよかったです。では僕はこれで」

 

 

 念のため椅子にリューを下したベルは、その足で店から出ていった。顔を真っ赤にしているリュー、オロオロと要領を得ないシル、その他呆然とする店員たちにミアの叱責が飛ぶのは、しばらく時間が経った後だった。

 

 

「……とっさに受け止めちゃったけど、エルフって確か……僕はなんてことを……!? それに、懐かしいような、いい香りも……ぼ、僕は何を言ってるんだ!?」

 

 

 なお廃教会のの近くで、頭を抱えて蹲る少年の姿が確認されたとか。

 

 

 






――光と闇は表裏一体。

――求めたものは、手を伸ばしてつかみ取れ。

――誰もが諦めるだろう、夢だと笑われるだろう。

――だが君のままでいい、そのままで変わればいい。

――その何かに向かって立ち上がれ。

――さあ、カウントはゼロになった。

――目覚めろ、その魂。



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