ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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――どれほど危険でも、どれだけ傷ついても。

――魂(こころ)の旅路を進んでいこう。

――自分が生きていることを、体中で感じながら。

――鏡に映し出された憎しみは、打ち壊そう。

――たった一度だけのチャンスとして。

――命は与えられたものだから。

――何度も立ち上がって、強くなろう。

――戦わなければ、生き残れない。




14. サポーターの少女

 

 

 

 いつものように寝ぼけ眼のヘスティアに見送られたベルは、少し重い足取りでバベルに向かっていた。

 最近は十層に行っても問題ないほどに、力が増しているのがわかる。エイナの話から、ベル自身が、一般的なのレベル1からは逸脱した力を持っているのは把握している。アギトの力によるところもあるだろうが、故郷でエルロードやオーヴァーロード、その他アンノウンたちに鍛えあれたことも大きいだろう。

 しかし、オラリオに来てからひと月ほどの間に、度々変身する機会が存在した。その中で新たな力に目覚め、今も新しい力の芽が出始めているのを自覚している。

 

 

「……大丈夫なのかなぁ」

 

 

 そう独り言ちるベル。

 力を得られるのは、純粋な嬉しさがある。しかし、それに振り回されないかと不安に思う気持ちも存在する。ベルの脳裏に浮かぶのは、祖父の本棚にあった一冊の伝記の記述。

 そこには強すぎる力に魅せられ、己以外の特別を排除しようとした者の末路が書かれていた。最期は己以外の者を救えたが、自分を救えず、誰に知られることなく死んでいったというものだった。

 自分もそうならないとは、断言することができない。せっかく自分という存在を認めてくれたヘスティアを、悲しませたくない。

 ベルは一度両頬をたたくと、小走りでバベルへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バベルの広場には早朝にもかかわらず、多くの冒険者でごった返していた。そのほとんどがソロでの探索者ではなく、2人以上のパーティーを組んでいる。最近は上層とはいえ、下の階層に行くことになったベルも、そろそろサポーターを雇って、より多くの収益を得たいところである。

 

 

「でもこんな駆け出しの冒険者にやとわれるサポーターっているのかな?」

 

 

 ベルの不安も無理はない。現在はファミリアがベルだけで運営も何とかなってるものの、今後団員が増えたときの指導費用などを考えると、もう少し貯蓄が欲しいところである。となると、現在のベルの収入だと心もとない。いくら一般のレベル1冒険者の倍以上稼いでいるとはいえ、もう少し多く稼ぎは欲しい。

 

 

「お兄さん、そこのお兄さん」

 

「はい?」

 

 

 そんな悩むベルに、声をかける者がいた。身長はベルよりも小さく、それでいて体の数倍はあろうかという大荷物を背負っている少女が目の前にいた。パッと見る限り小人族であり、声を聴く限り少女のものだった。

 

 

「僕になにか?」

 

「はい。見たところ一人のようですし、自分でバックパックを持ってらしたので、サポーターを探しているのかと」

 

「確かに探しているけど、どうして? それに君は……」

 

 

 ベルの直感と記憶力、そして気配察知力の高さが、彼の脳内に一石を投じた。目の前の少女は、おそらく昨日ベルとぶつかった少女であると。何より少女の纏っているボロ外套は、昨日の少女のものと同一のものだった。しかしそれを指摘せず、まるで初対面であるように振る舞うあたり、何か隠しているのだろう。

 しかしそれを指摘することはない。ベルも曲りなりに、巨大爆弾並みの隠し事をしている。自分が明かさないのならば、目の前の少女に強要するのは間違っているだろう。

 

 

「私は現在サポーターとして生計を立ててるんです。見たところお兄さんは、何やら探しているようでしたし、サポーターを雇いたいのかと思いまして」

 

「なるほど、結構見られていたんだね」

 

「それで、どうですか? 私を雇ってみませんか?」

 

 

 少女の問いかけで少し考え、ベルは売り込みを承諾した。ただし、今回は試用という関係の上で。

 

 

「僕はベル・クラネル。あなたの名前はなんですか?」

 

「私はリリルカ・アーデです。どうぞリリと呼んでください、ベル様」

 

 

 互いに自己紹介した二人はその場で握手し、共にダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 結論から言うと、双方にとってこの契約はメリットがあった。ベルはソロの時以上に素材や魔石を集められ、リリは多額の報酬を見込めたからである。加えてリリには、彼女にとって良くも悪くも他にも得られた情報があった。

 

 

(ベル様の使う武器、あんな独特な武器はそうそうあるものじゃない。相当な値打ち物に違いない)

 

 

 リリは所属するファミリアにおいて、同ファミリアの冒険者から虐待に等しい処遇を物心ついた時から受けていた。そのせいか、「冒険者」に対しては憎悪といっても過言ではない、悪感情を抱いていた。

 ベルに近づいたのも、脱退のための資金集めと、「冒険者」という存在に対して復讐するためである。昨日の冒険者も、いわばリリの復讐の被害にあったものの一人だ。

 駆け出し冒険者ならば、武器をかすめ取ることなど簡単。そう思っていたリリだったが、果たしてその謀略は初めからひっくり返された。

 ベルは、まるで自分がなにをしようとしているかわかっているように、図ったようなタイミングで武器を手に持ち、敵に向かい、リリに顔を向ける。そのせいか、リリは一向に武器をかすめ取るということができず、結局この日の探索は終了してしまったのだった。

 リリにとって幸運だったのは、ベルが報酬を完全に折半にしたことにより、今までで一番報酬を得られたこと。加えて、元々ベル自身のソロでの稼ぎが多かったのもあり、サポーターであるリリが加入したことにより、中堅冒険者の一日の稼ぎに届きかねない総額をたたき出したことにある。

 

 

「ベル様は、どうしてそんなにお強いのですか?」

 

「え? 僕が強い?」

 

「はい。正直言うと、最近冒険者になったとは信じられないほどの力です。もしかして武器が強力だったりですか?」

 

「この両剣? いや、属性付加もないし、製作者曰くただの鋼製の使い手を選ぶ武器らしいよ。彼の言葉を借りるなら、杖と両剣をある程度使いこなせて、そして状況判断ができないと使えない武器らしいし」

 

「なんですかその武器として色々とおかしい前提条件は」

 

「まぁそんな武器だからか、余程変な店じゃない限り、500ヴァリス前後にしかならないって」

 

 

 値段の話が出たとき、リリは若干目に失望の色を浮かべた。無論ベルはそれに気づいたが、知らないふりを貫く。

 

 

「さて、一緒に探索したけど。良ければ明日以降も手伝ってくれないかな?」

 

「……へ?」

 

「あれ、忘れちゃった? 今日の試用で、今後も雇うか決めるって話だったけど。ものすごく助かったし、おかげでたくさん稼げたからまたお願いしたいんだけど」

 

「……は、はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 そう言うと、リリは足早に広場から去っていった。その背を見送るベルの目は、夕日の角度と長めの前髪によってできた前髪に隠れていたが、怪しく、美しく輝いていることに気づく者はいなかった。

 

 

 






――信じていた未来が崩れ去る。

――「明日」を迎える永遠もなくなるかもしれない。

――信じること疑うこと、守ること戦うこと。

――この身襲うジレンマは終わらないけれど。

――戦うことが罪であっても、悲しみを繰り返しても。

――己にやるべききことがあるのならば。

――この身は総てを背負い、本能は疾走り続ける。

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