ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~ 作:シエロティエラ
――自分の存在、自分を取り巻く全て。
――誰も一度はその意味を知りたいと思うだろう。
――隠れていても何も始まらないから。
――閉ざされたドアも、溢れ出す感情も。
――全て壊して突き破ろう。
――前に進むことを怖がらないで。
――生まれ変わる自分を止めないで。
――新しい明日、時代へ歩き出そう。
――覚醒(ウェイクアップ)、運命(さだめ)の鎖を解き放て。
日が昇る前の早朝、オラリオ外壁のすぐ外に、四つの人影があった。
「はっ、よっと!!」
「はぁっ!!」
「……」
二人の少女が己が武器で攻撃をするが、それに相対するヒトは無言でそれをいなし、且つ二人がフレンドリーファイヤをしないように距離を離す。二人の更に後方に少女が魔法を発動するが、それすらもヒトは無言でよけるか、体のどこかで受け流していく。
決定打となる攻撃が与えられないことにしびれを切らしたのか、前衛の少女の片割れが大きく下がり、剣を構える。すると少女から少女から突風が沸き起こり、少女の周りの砂も巻き上げられていく。それを確認したもう一人の少女は彼女とヒトの間から退き、後衛の少女は詠唱を始める。すると剣を構える少女の周りに風だけでなく、氷のつぶても共に舞い上がる。相対するヒトは構えを取り、右拳を引く態勢をとる。
「リル・ラファーガ!!」
技の名を叫ぶと同時に、風と氷を纏った少女は、渾身の突きを放った。対するヒトは右拳をタイミングを合わせるように突き出し、剣の切っ先に拳を当てた。
衝突と同時に暴風が発生し、事の成り行きを見守っていた二人の少女は吹き飛ばされ、剣を持った少女も拳に押されたか、突きの構えのまま後退した。逆にヒトは拳を突き出したまま、砂埃が舞う中でも真っ赤な双眼を爛々と光らせていた。
◆
「いや~やっぱ強いね~」
アマゾネスの少女、ティオナは大きく伸びをしながら後ろを歩くベルに話しかける。対するベルは苦笑いを浮かべるだけで、特に否定も肯定もしなかった。
「流石はアギト、といったところですか。まるで歯が立ちませんでした」
「僕が言うのもなんですが、この力はズルのようなものです。今回の鍛錬ではどうしてもということで変身しましたけど、以後はやりませんので」
「わかってるよ。アイズも、そう言う条件だからね」
「……うん。残念だけど、わかった」
ティオナの隣で不満顔ながらも承諾するアイズに、ベルは少しだけ微笑んだ。なお、その様子に少しだけ嫉妬するレフィーヤの様子も確認されたが、彼女がアイズを強く慕っているのは周知の事実なので、特に突っ込まれることはなかった。
ことの発端は昨日の話。いつも通り早朝に共に鍛錬をしていたベルとアイズの下に、レフィーヤとティオナが見物に来た。元々最近日の出前に出かけるアイズを不審に思ったレフィーヤが、ティオナも誘って観察していたことにつながる。
ベルが変身せずにアイズの相手をしていることに初めは憤ったレフィーヤであったが、鍛錬によっておった外に足りない部分を模索していることに気づいたのだ。やがてベルに隠れていることを言い当てられたレフィーヤたちは、翌日に手合わせをするという一方的な約束を取り付けた。レフィーヤからしてみれば、アイズに稽古つけてもらっていることに対する嫉妬の愚痴で、本当に手合わせする気はなかった。
しかし同行していたティオネ、そしてアイズもその話に乗り、引くに引けなくなったというのが事実である。加えてアイズはベルに変身するようにせまり、変身しなければベルがアギトであることをロキに言うとまで言い、急遽今朝の手合わせが行われたのだった。
「すみませんベル・クラネル。私があんなことを言ったばかりに」
「いいですよ。そうでなくても、高レベル三人相手に生身は無理でしたし」
「そう言っていただけるなら」
アイズとティオナの後方を歩く二人の間で、そのような会話がされている。無理な手合わせの詫びとして、ベルのセカンドウェポン調達のための場所に向かっている最中であった。
実は先日、十層でオークに囲まれた際、小太刀は受け止めた攻撃に耐えられずに壊れてしまったのだ。それ以来探索はメインの両剣だけでやっていたが、接近戦に持ち込まれるとどうしても徒手となってしまう。その悩みを聞いた彼女らが、ベルのために一つ見繕うことになったのだ。
しばらく歩くと目的の場所についたようで、アイズとティオナはさっさと建物に入ってしまった。
「やっほー、きたよ~」
「何じゃ、また『剣姫』が武器を壊したか?」
「違う違う、今回は新しいお客さんにだよ」
「新しい客? そこのちんまいのか?」
ティオナに応対した初老の男が、ベルに観察するような目を向ける。彼こそがオラリオにある鍛冶屋ファミリアの片割れ、「ゴブニュ・ファミリア」の主神ゴブニュである。
ゴブニュは上から下へ、ベルの全身をなめるように観察し、再度ベルの顔に視線を合わせた。
「で、この小僧に何を作るんだ?」
「ここまで来て言うのもなんですが、小太刀を一本お願いしてもいいですか? 素材はこちらと予算はこれで」
「モンスター素材を使ってこの予算か。まぁできないこともないが、お主、何故武器をいくつも持つのじゃ? まさかウェポンマスターにでもなるつもりか?」
「誰ですか、そんな『ゴクリッ』とか言いそうな野バラの反乱軍は」
「まぁよい。それで、小太刀じゃな? 素材まで用意されているのなら、この値段でよかろう。ついでにそっちの杖も整備しようか」
「ああ~これはちょっと特殊なやつなんで、制作者以外に頼むのは」
「そうかの」
商談は成立したが、料金はロキ・ファミリアの三人持ちということを彼女たちが譲らなかった。そのため素材だけベルが用意し、お金は彼女たちに任せることにした。
「ところで少年、すこしいいか?」
「ええ、何でしょう?」
「お前さん、見たところ左右の体のバランスが非常にいい。普通は利き腕の方に筋力が寄りがちだが、全く均等というのも珍しい」
「そこでだ、うちの得意先が持ってきたのだが、どうにも普通じゃ使いこなせんものがある。見ていかんか?」
「は、はあ。わかりました」
ゴブニュに促され、ベルは建物の奥に向かう。ついでの他の三人も彼らについてきていた。奥の部屋に鎮座していたのは、大きな金属の塊だった。何やら馬に似ているようで、しかし生き物の気配を全く感じない代物だった。
「何やら古代の遺跡で掘り起こされたものでな。知り合いに頼まれて整備していたが、なかなかに難しい絡繰りだ。普通の冒険者が扱うには少々バランスをとるセンスがないと難しい」
「その点、体のバランスがいい感じで均等なベルなら、使えるかもってこと?」
「そうじゃな」
ゴブニュの言葉を聞きつつ、ベルは「鉄の馬」に近寄る。
全体的に白いフォルムで、体の前後に二つの車輪がついている。しかし車輪の材質は、オラリオでも見たことのないもので、煤で汚れていなければ真っ黒であることがわかる。車体後部にはたくさんのパイプがつながれており、何かの機関であることは分かるが、何のためにあるかわからない。
何よりも目を引くのが、車体の頭といえる部分に大きなガラスが二つ、両の目の様にはめ込まれており、その真ん中に妙なロゴが入っていることだ。ロゴは虫のような顔の後ろに、真っ赤な文字で「R」と書かれていることだ。
「これ、なんだろうね」
「遺跡から出てきたってことは、私たちよりも前の人類が使ってたものと思うけど」
「でも、それが今でも使えるとは思えない。特にロストエイジの機械の類は、ほとんどがゴミ同然の代物」
ロキ・ファミリアの言葉を聞きながら、ベルは車体の周りを一周したベルは、そっと車体の頭に触れた。
すると突然、鉄の馬はブルブルと震え始めた。頭のガラスからはチカチカと光が漏れ始め、やがて段々と光を増していく。そして馬はまるでうなり声を上げるように機関から音を発し始めた。
「動いた!?」
「なんで!? ベルなんかした!?」
「いや、僕は何も!!」
「でも動いてますよ、これ!?」
途端に部屋の中が騒がしくなる。そしてベルの目の前は、突然白く染められた。
◆
「……ここは?」
ベルが目覚めたのは、白く何もない空間だった。先程部屋にいた人たちはおらず、この空間にいたのは先程の「鉄の馬」とベルのみ。しばらくその空間で立ち尽くしていると、唐突に頭の中に映像が流れ込んできた。
その映像に出てくる者たちは様々だったが、皆が共通して「人の自由のため」に戦っていた。ある者は改造されかけて、ある者は遺物に偶然見初められて。ある者は秘密結社に霊石を埋め込まれ、ある者は陰謀に巻き込まれながらも己の意思で。
そしてその中には、己と瓜二つの戦士もいた。力に目覚めたのは全くの偶然。しかし同じ力を持つもの、力を持たぬものと共に、人間の未来をてにした戦士だった。
「テオス様の言っていた、初めてのアギト」
彼の物語は、ベルが過去に聞いた話とそっくりだった。人類で初めて、そして最後に生まれた光輝に目覚めたアギト。彼を超えるアギトは、彼の後には現れなかったという。
「でもなんで、僕に彼らの戦いの記憶を?」
「それは君が、正しく彼の歴史を継承する者だからだ」
応えのないはずの疑問、しかしそれに答を示すものがいた。驚いて振り向いた先には、ことさらに強い輝きと、その前に現れた玉座に座る男だった。絢爛な装いにもかかわらず、後方の光のせいで彼の者の顔が見えない。
「歴史の継承? どういうことですか?」
「お前も見ただろう。彼の、否、彼等の駆け抜けた時間を。彼等の戦いのときを」
「時間? とき?」
「君たちがロストエイジと呼ぶ、最初の人類繁栄の時代。彼らはその時代の中で、偶然か必然か力を手にした。戦いたくなかったかもしれない、しかしそれでも自分の大切なものを護るために、これ以上人の運命をいいようにされないように、文字通り血反吐を吐きながらも戦い続けた」
男はそう言うと、徐に「鉄の馬」を指さした。
「そのバイク、お前たちでいう『鉄の馬』は、始まりの男が使っていたもの。私が受け継いだ歴史よりも前に誕生した、真の戦士が使っていたものだ」
「それが何故動くのですか? ロストエイジのものなら、最早動かないことが今の僕たちの時代の常識ですよ?」
「新たな時代の戦士。君がなぜその力を手にしたか、何故力を求めるのか。あの人がいない今、そのバイクが代わりに聞きたかったのだろう。私が本来いないはずのこの世界にいるのも、そのバイクに宿る思念によるものか」
玉座に座る男はゆっくりと立ち上がり、腰に妙なベルトを、そして右手に時計のようなものを発現させた。
≪ジクウドライバー!!≫
≪Zi-O≫
自然じゃない声と共に、ベルトと時計が起動した。そしてその奇怪なベルトに時計をつけると、男の後方に巨大で半透明な時計針と歯車が現れる。暫くチクタク動く音を鳴らすと、男はベルとのバックルを一回転させた。
≪RIDER-TIME!! 仮面ライダージオウ!!≫
そして再び響いた音声と共に、男に銀と黒の鎧が装着された。そして顔面にはまるで複眼の様に文字が書かれているが、ベルにはそれを読むことができない。
しかし無言でたたずむ男を前にして、ベルは己のするべきことを悟る。腰にオルタリングを出現させ、アギトに変身する。目の前の男と違い、鎧を纏うのではなく体を変質させるもの。根本的に変身の質は違うが、目の前の男も、魅せられたビジョンの一人であることはすぐに理解できた。
「始めようか、ライダー流継承式を」
「……はい」
記憶で見た彼らは苦難に立ち向かい、負けられない戦いを繰り返してきた。自分とは違い、負けることは即ち人類の負けを意味していた。その覚悟、その信念は、自分とは比べ物にならないほど強固なものだったのだろう。
どちらから声をかけることもなく、組手が始まる。互いが拳や蹴り、掴みを放つがベルは持ち前の直感で、男は蓄積された経験によってそれらをいなしていく。しかし差は必ず出る。経験が薄いベルでは、膨大な経験を持つ男にはかなわない。それと同時に、男から流れ込んでくる
それによって生じた隙で、ついにベルは男のパンチで吹き飛ばされた。重い一撃に少し悶絶するが、男は回復を待ってはくれない。
≪フィニッシュターイム!!≫
再び男がベルトを操作すると、音声と共にベルの周りにキックという文字が十二個、円を描くように形成され、一秒ごとにそれが重なっていく。状況からして、男は強力な一撃を叩き込むのだろう。それを察したベルは角を展開し、足にアギトの紋章を映し出す。やがて紋章は右足に収束し、飛び上がった男同様、全身全霊の力を右足に集める。
「はっ、タア!!」
≪ターイムブレーイク!!≫
男の蹴りとベルの蹴りがぶつかり合い、まぶしい輝きが空間を埋め尽くした。光が収まると、地に伏したベルト、それを見下ろす仮面の男。ゆっくりと、しかししっかりとした足取りで身を起こしたベルは、変身を解除し、男と向かい合った。男も変身を解除すると、そこにはベルとそう変わらない青年が立っていた。
「……あなたは?」
「俺は常盤ソウゴ。簡単に言えば、仮面ライダージオウかな」
「じゃあさっきの男の人は」
「あれも俺だね。向こうが本当の姿だけど、こっちのほうが話し易いかなって」
そう青年、ソウゴはにこやかに話す。そしてポケットから一つの時計を取り出した。それには「2002」という数字とアギトのライダーズクレストが描かれている。
「正しい歴史には正しい継承者を。これを、君たちの世界に返そう」
「でもそうしたら、貴方は」
「大丈夫だよ。これは世界が元に戻った後に手に入れた力。俺には、世界が分離する前に受け継いだ力があるから」
「……わかりました。僕が名乗れるかはわからないですが、その力を受け取ります」
「頼んだよ、
その言葉を最後に、ベルは空間から消え失せた。
目覚めたベルは、バイクが再び沈黙し、四人が自分をのぞき込んでいるのを確認した。バイクが動くとベルは気を失い、その場に倒れたのだという。ただ倒れて十秒も経たずに、こうして目が覚めたというわけだ。
そしてバイクだが、全員の目の前で光り輝き、形が変化した。白い車体は赤と金に彩られ、はめられたガラスは青い発行体に変化している。極めつけは車体頭部の先に、アギトのライダーズクレストが刻印されていることだった。
「どうやら、これは小僧を選んだようだな。小僧以外には扱えんだろう」
「でも、いいのですか? 依頼されたものでは」
「まぁいずれにせよ、誰も扱えなかっただろう。小太刀とは別に金は請求するが、それほど高くない。ソロ冒険者稼ぎ一日分程度じゃ」
結局バイクはベル専用のものとなり、今日までの整備費用だけの料金で受け取ることのになった。ポケットに入った時計には触れずに。
「そう言えば小僧、その『鉄の馬』の名は何位するんじゃ?」
退店する際、ゴブニュがベルに問う。暫く考えたベルは、やがて一つの名前を口にした。
「トルネイダー、今日からそれが、こいつの名前です」
◆
「よろしかったのですか? 我が魔王」
「うん。これがきっと、正しい選択だと思ってる」
「そうですか」
「あのウォッチは、必ず彼の助けになる。僕はそう確信している」
「ならばここは謳いましょうか」
――世界が滅びる夢をみたから。
――本当の自分自身に出会いたかったから。
――そのために彼らは旅に出た。
――人は誰も旅人であり、旅の途中である。
――その瞬間瞬間で、己で決断すること。
――その答えは未来を、絶望にも理想にも変える。
――だからいつも信じた道を走っていこう。
――目の前に道はいくつもあるけど。
――いつか全て重なり、新しい夜明けになる。
――全てを破壊し、全てを繋げ。