ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~ 作:シエロティエラ
――人がいない街はただの空虚な箱だ。
――自分が生まれた街が涙してほしくなかった。
――他の誰でもない、最高のパートナー。
――君と/お前と、心と体は一つ。
――1人では届かなくても、二人なら叶うさ。
――俺たちは/僕たちは、二人で一人の仮面ライダーだから。
――僕らをつないだ風を止めないように。
――街を泣かせる悪党に俺達は永遠に投げかけ続ける。
――さぁ、お前の罪を数えろ。
ベルがレベルアップした。
これはオラリオを震撼させる出来事となった。何故ならば、オラリオ内でのレベルアップの最高記録を更新する速さだったからである。事情を知るヘスティアとウラノス、そしてソーマとフレイヤはこの異例の速さの原因に当たりをつけていたが、他の神々はそうはいかない。何か秘密があるはずだと、次の
ヘスティアの悩みの種はもう一つある。それはレベルアップしたベルのステータスだ。ファミリアに入ったときからスキルを発現し、レベルアップするまでに更にスキルが増えるという奇天烈なことをやり遂げたのだ。
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ベル・クラネル
Lv, 2
力:I0
耐久:I0
器用:I0
俊敏:I0
魔力:I0
≪スキル≫
【
光の力/火のエル・プロメスの系譜を示すもの。
【
無限の可能性を秘めし者。
【
整いしもの。進化はここから始まる。「超越肉体の金」。
【
猛き炎のもの。その剛腕で全てを燃やし尽くす。「超越感覚の赤」。
【
鋭き嵐のもの。その速さで全てを薙ぎ払う。「超越精神の青」。
【
戦士が繰るは絡繰りの馬。主が呼べば、時空すら超えて馳せ参じるだろう。
【
時代を駆け抜けた仮面ライダーたち、彼らは人の自由と尊厳のために戦った。仮令その身は死しても、ライダーの魂は不滅、彼等の遺志は受け継がれていく。
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アギトに伝わるフォームチェンジに加えて、更によくわからないスキルが発現しているのだ。否、一つはまだ理解できる。先日彼が持ち帰った、絡繰りの鉄馬のことを指しているのだろう。自分含めた神々が生まれたロストエイジに、人類が発明したものだから、非常によく覚えている。
「行きたくないなぁ~」
「何というか、僕のせいですみません」
「いや、どの道いつかは聞かれることだから大丈夫だよ」
「そうですよベル様。これはベル様の責任ではありません」
「問題はどう聞かれるかなんだよな。ロキなら二人きりで盗聴されないようにするだろうけど、他の神々がなぁ」
自分以外の神の反応を思うと、頭が痛くなってくるヘスティア。原因の一端が自分にあると理解しているからか、ベルも申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ところで聞きたいんだけど、いいかい?」
「何でしょう?」
「この『仮面ライダー』というのは何だい?」
「ある戦士たちが受け継いだ称号のようなものです。その歴史は、ロストエイジにまで遡ります」
「そんな昔の称号が、何故ベル様に?」
「それは……僕にはなんとも。なんとなく想像はできますが」
「まぁベル君が話したくないなら、君が話すときに聞くよ」
ホームで夕食をとりつつ、三人は他の神々にどう嘘をつかずに誤魔化すのかを話し合った。
次の日、ヘスティアの姿は三か月に一度の神会にあった。本当なら最悪サボろうかと考えていたのだが、旧知の仲の女神ヘファイストスから、今回は参加するよう言われたのだ。彼女には以前ニート同然に世話になっていたため、今でも頭が上がらない。そのために、出たくもない神会に出席することになったのだ。
「ほんじゃあ第ン千回神会を始めたいと思います。今回の司会はウチことロキや!! よろしゅうな!!」
『イエ────イ!!』
ロキの音頭と共に他の神々がハイテンションで返事をする。その様子に、ヘスティアは更にげんなりとした表情を浮かべた。表情には出していないが、隣に座るヘファイストスもうんざりとした雰囲気を纏っている。
初めはしっかりとした会議だった。オラリオの外にある軍神アレス率いるラキア王国が、オラリオを攻める準備をしているということだそう。その対立のために、この場に集うファミリアに召集がかかるかもしれないということだ。
戦に参加する可能性があるのは仕方がない。問題はベルをどうするかなのだ。ベルの性格上、共に戦う仲間のためならば変身することを躊躇わないだろう。しかしオラリオにいるアギト否定派の神々の目に留まれば、最悪闇討ちされるかもしれない。テオス直々に鍛え上げられたのだろうが、やはりそこは一抹の不安が残る。
「ほんじゃあ真面目な話はここまでにして、次は命名式やあああ!!」
『イエ────イ!!』
再びロキの温度と共に、場の空気が一部を除いて盛り上がった。この命名式、レベルが上がった冒険者の二つ名を決める催しなのだが、神々が生まれたロストエイジでは、「痛い」や「厨二」と称される二つ名をつけられるのだ。
このことは、下界の今の人類は知らない。そんな何千年、数万年単位で昔の基準を出されてもいまいちピンと来ないだろうし、何よりその単位で昔のことを研究しているのは、今では酔狂な研究家しかいない。
話を戻すと、そのような「痛い」二つ名を眷属につけられるとわかっていて、喜ぶ神はいない。だから対象となった自分の眷属に、出来るだけマシな二つ名を選ぼうとするのは、自然なことである。アイズ・ヴァレンシュタインの「剣姫」などは、比較的まだまともな方なのである。
「まずはセトの所のセティっちゅう冒険者からや!!」
「頼む、どうかお手柔らかに……」
最初の標的にされたセトは他の神に懇願するが、その願いを悪乗りした者たちが一刀両断する。それはこの二つ名会議では当たり前の光景であり、常識的なものがみれば狂っている思うであろう光景だ。
「冒険者セティ・セルティ、称号は『
『痛エエエエ!!』
「最早『狂宴』だね」
「貴方の言葉に同意するわ。狂ってる」
盛り上がる神々とは反対に、ヘスティアとヘファイストス、それからこの後カモになる神々は、非常にうんざりとした表情を浮かべていた。
その後も順調(?)に会議は進み、タケミカヅチの眷属である
「さーて今回のメインは、ドチビ、あんたのとこや」
「ボクのかい?」
「そうや。オラリオに来てまだ少ししか時間たってないのに、最速でレベルアップていうやないか。ドチビに限ってそれはないと思う、でもお前『
「使うわけないだろう? ボクはそういうチートは嫌いだ。今回のレベルアップは純粋に、ベル君の実力で成し遂げたんだよ。彼はオラリオに来る前から、相当に心身を鍛えていたんだろうね」
「にしちゃあおかしいんや。何か特別なスキルが出ているとしか思えへん」
普段は飄々としているロキが、大真面目な顔と声色で、ヘスティアに質問を重ねる。加えてその疑問は他の神々も感じていたことなので、誰も止める者がいない。いよいよもって追い詰められたヘスティアは、どうしようか頭を悩ませた。
ロキは頭が回る。初めて神話で語られた時代では、たぐいまれなる魔術の腕と狡猾さで、非常にうまく立ち回っていた。単純にゼウスの姉でしかなかったヘスティアでは、潜り抜けた修羅場の数も違う。まぁヘスティア自身も、自分の親であるクロノスに丸飲みにされたりと、なかなかに波乱万丈な生を送っているが。
「……こればかりはボクの口からは言えない。どうしても知りたければロキ、君だけがあとで個人的にボクのところに来てくれ。君にだけならと、ボクの子供と相談して昨夜決めた」
最後の譲歩として、ヘスティアは条件を提示した。昨晩のファミリア内会議で、最悪幹部数人に正体がばれているロキにだけなら、話すことも仕方ないだろうという結論が出た。
今の会議の状況では、ヘスティアに味方する者はいないだろう。ならばここでカードを切り、追及を逃れることも一つの手である。果たして運命は、ヘスティアに味方した。
「……なんか引っかかる言い方やな、まぁええわ。でもウチが聞いて、言うても良いと思ったら次の神会で言うで?」
「……それでいいよ。早く終わらせてくれ」
ヘスティアは非常に疲れた様子で、ため息交じりにそう言った。他の神々から好奇の視線にさらされているが、最早ヘスティアはこれ以上は引かないだろうと判断し、二つ名選びに戻った。
「んじゃ気を取り直して、二つ名やな」
「『
「『
「やめてくれ、ボクの眷属はモンスターじゃないんだよ?」
次々と出てくるあんまりな二つ名に、ヘスティアは辟易した態度を隠さなかった。
「『
そこに、非常に艶やかな声が部屋に響いた。入り口には、およそこの世界の美を組み合わせて、究極の美を体現したともいえる女神が立っていた。彼女の名はフレイヤ、その外見に違わぬ「美」を司る女神である。
「なんやフレイヤ、珍しいな」
「ええ、何やら面白そうなことを話してるようだからね。それで、どうかしら?」
フレイヤの美しさにやられた神々は、例外なく彼女の案に賛成した。ロキやヘスティアなどは除いてだが。他に案も出ることがなかったため、ベルの二つ名はフレイヤの案で決定した。まぁ他の面子に比べれば、遥かにマシな二つ名だったのが僥倖だと言えるだろう。
◆
「
会議を終え、ヘスティアとロキはロキ・ファミリアのホームに場所を移していた。本来彼女が他の神を招くことはないのだが、ヘスティアの真剣な様相で事の重大さを察し、今回は特別に自室に招いたのだ。
「うん。ベル君だけど、彼はアレなんだ」
「アレ? どういうこっちゃ?」
「『プロメスの遺志』、それがベル君のスキルだ」
ヘスティアの告白に、ロキは唖然とするしかなかった。プロメスは自分たち神話の神々とは別次元の存在である。プロメスを含めたエルロードとオーヴァーロード・テオス、彼らは自分たちとは異なり、その気になれば何の縛りもなく下界に降りることができる。様々な縛りがある自分たちでは、天界送還覚悟で『神の力』を開放して全力で向かっても、戦神でない限り片手間でやられるだろうことは想像に難くない。
「……冗談やないやろな?」
「こんなことでボクは嘘をつかないよ。それにベル君を鍛えたのは、テオス様ご本人らしい」
「んなアホな!? あの方はアギトを滅ぼそうとしはったやろ? それが何でまた……」
「ベル君から聞いたし、それに地上の子は神に嘘はつけない。加えてベル君自身に自分は『闇の力』だと明かしたそうだ」
「はぁ、ということは怪物祭で無双していたアギトは」
「間違いなくベル君だよ」
ヘスティアの言葉にロキは頭を抱える。アギトを根絶やしにしようとしたテオスが、アギトを擁護して庇護下に置いているも同然の状況なのだ。これがアギト否定派の耳に入ればどうなることやら。最悪行動を起こした神々が、彼の者かエルロードによって存在諸共、天界からも抹消されてしまうかもしれない。
尤もテオス自身は、ベルが死ねばそれまでの存在だったと見切りをつけるのだが、ヘスティアたちの知る由ではない。彼の配下たるエルロードたちは言うまでもないだろう。
「……前途多難やな。フレイヤのあの様子じゃあ魂覗いて知っとるやろうし、ウチだけに言うたのはええ判断や。ほんで、他にどの神が知っとる?」
「ボク以外だとウラノスだね。あとベル君の話ではソーマも知っているそうだ」
「ソーマは眷属は兎も角ソーマ自身は中立やから、その二人ならまだ大丈夫か。ドチビ、お前のことは信用しとるが、間違ってもこのことを広めたらあかんで?」
「無論さ。ボクも自分の子供を裏切ることはしないよ」
――赤子は欲しいと願って生まれる。
――明日を迎えることも一つの欲望である。
――欲望なくして、生き物は生きられない。
――だから俺は変身する。
――この手を伸ばしたいと思ったから。
――明日はいつだって白紙だ。
――だから自分の道は自分で決めよう。
――Life goes on, anything goes