ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~ 作:シエロティエラ
――何故生まれてくるのかわからない
――でもいつか見つけて新しい時代に漕ぎ出そう
――人は死ぬ、君も俺も必ず死ぬ
――人生は誰もが一度きりだから
――思いのままに生き抜こう。
――同じ時代に生まれてきた仲間たちよ
――命、燃やすぜ!!
「里帰りがしたい?」
オラリオのとある場所にある廃教会に、女性の声が響いた。時刻は夕方を過ぎ、夜の帳が降りているころ。廃教会でも他の例にもれず、住人は夕食をとっていた。
そんな中、ベルはヘスティアに自分の故郷に一度戻りたい旨を話したのだ。突然のベルのお願いに、ヘスティアもリリも困惑するばかりである。
「唐突にどうしたんだい、ベル君?」
「ええ、ちょっとボクの育ての親に聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと、ですか?」
「うん。おじいちゃんに『仮面ライダー』について聞きたくて」
ベルの言い分としてはこうだ。なんでもベルの育ての親、義祖父は英雄や伝説に非常に詳しく、ベルが小さいころから古今東西の様々な話を聞かせていたという。その義祖父ならば、ヘスティアも知らぬ『仮面ライダー』についても知っているのではと考えたのだ。故郷からオラリオまでは相応に時間はかかるが、トルネイダーを得た今ならば、やろうと思えば日帰りも可能になっている。
「う~ん、たしかにボクでは『仮面ライダー』についてはそんなに知らないし」
「でしたらリリが同行しましょうか? それならベル様も一人にならずに安心でしょう?」
「なっ!? ボクを差し置いてベル君と二人きりなんて、そんなことは許さないぞ!!」
「いいじゃないですか少しぐらい!! 知ってるんですよ、ヘスティア様がベル様にいつもその無駄に大きい胸を態と押し付けてるのを!!」
「無駄とはなんだ無駄とは!! これも男を落とす立派な武器なんだぞ!!」
唐突にベルを無視しながら始まったヘスティアとリリによる口喧嘩。実はこの光景は廃教会において既に日常となっており、初めは戸惑って何とか仲裁しようとしていたベルも、あきらめて無視することにしたのは早かった。
さてそんなこんなな夕食風景となったが、結局ベルが一人で故郷に戻り、長くても3日でオラリオに戻るということで話は落ち着いた。幸いにしてリリの加入によって魔石も多く集めることができ、ファミリアの収入も増えている。そのため、3日ほど攻略に赴かなくても、ファミリアの財政が傾くということはほとんどない。高額な買い物や浪費が無ければいいが、そこはリリに任せておけば安心だろう。
というわけで翌日の早朝、オラリオ城壁外に移動したベルは、トルネイダーに跨って猛スピードで出発した。
「……ヘスティア様」
「……なんだいリリ君」
「なんだか嫌な予感がするです」
「君もか。ボクも嫌な予感がするよ。まるでかつて親に食べられたときみたいな、嫌な胸騒ぎだ」
◆
「おじいちゃん、ただいま」
「ほっ!? どうしたというんじゃ、ベル!!」
村に見たこともない乗り物に乗って帰ってきたベルに、村人はおろか義祖父も驚愕に目を見開いていた。そんな懐かしい面々の様子に苦笑いしながら、ベルは義祖父へと足を進めた。
「久しぶり、おじいちゃん。元気そうでよかった」
「ああ、元気じゃが。ベル、その乗り物は……そうか」
義祖父は一瞬乗り物に目を向けたが、それだけで何かを察したらしい。家の中に招き入れ、ベルのためにお茶を用意する。変わらぬ祖父の味に安心のひと時を甘受するが、お茶を飲み終えたベルは顔を引き締めた。
「おじいちゃん、今日は聞きたいことがあって帰ってきたんだ」
「……さて、どのようなことかのう」
「おじいちゃんは知ってる? 『仮面ライダー』と呼ばれた人たちのこと」
ベルの問いに、彼の義祖父は暫く瞑目した。「仮面ライダー」と呼ばれた者たち。彼の義祖父は知っているか否かを問われたら、知っていると答えるだろう。しかしどこまでを話すか、どの部分を話すまいかについて判断に迷うところである。ベルがアギトに目覚めたときからおよそ覚悟は決めていたが、果たして彼に「仮面ライダー」の業を背負う覚悟があるのか。それが彼の義祖父としては気になるところである。
「……おじいちゃん。僕は一応ライダーと呼ばれた人たちの記憶を見ている」
「何じゃと?」
「そしてその時に、あのバイクとこれを受け取ったんだ」
そういい、ベルはポケットからアギトライドウォッチを取り出し、義祖父に見せる。ウォッチを見ると、明らかに義祖父の纏う空気が変化した。驚愕、あきらめ、決心。それらが綯い交ぜになったような複雑な表情を浮かべている。
「それを持っておるということは、会ったのじゃな?」
「うん。ソウゴさんが僕に、この世界に返すって」
「自ら赴き、託していったのか。そしてそのバイクは……」
そこで言葉を切った義祖父は、ついとバイクに目を向ける。するとトルネイダーは一瞬だけ輝き、大元の白い機体になり、再びトルネイダーへと戻った。そして一連の行動から、ベルも自身の義祖父について一つの確信に近い仮説を立てていた。彼は人ではなく、降りてきた神の一柱ではないかという仮説を。
しかし彼が何者であろうとも、彼に対する態度は変わらない。仮令神の一柱であっても、彼はベルにとっては育ての親であり、大好きな義祖父なのだから。
「わかった、話そう。『仮面ライダー』というのはな……」
「ゼンさん、大変だ!! 見たことない怪物たちが多数押し寄せてる!!」
「なに!?」
しかしそこで待ったがかかった。駆け込んできたのは、村で農業を営んでいる若者。ベルにとっても兄貴分に当たる男だったが、尋常ではない焦り浮かべて家に駆けこんできたのだ。
「あっベルもいるのか!! ちょうどいい、手伝ってくれ!!」
そう言うと若者は返事も聞かず、農具を持ったまま駆け出していった。
「……どうやら話はお預けのようじゃ。ベル、いくかの?」
「うん、放っておけないよ」
立ち上がったベルは己の武具を背負い、若者に続いて家を飛び出していった。その様子を苦笑いしながらも、両手斧を持って彼の義祖父を家を出た。自分たちの暮らしを守るために、村が一丸となって脅威に立ち向かわんと血気だつ。
しかし……。
――素晴らしい、素晴らしいぞこの力!!
――これこそ、私にふさわしい力だ!!
――手始めにあの村に襲撃をかけようか。
――聞くところによると、あの村にはあの人がいるらしいからね。
――下手に動き出す前に、こちらから叩いておかなければ。
――下手な真実なら知らない方がいいだろう。
――それでも何故、ここまで遠くに来たのだろう。
――未知の領域、神々が与えし試練。
――その答えはこの手の中に。
――心が高鳴り、導く場所へ駆け抜ける。
――誰も自分を止めることはできない。
――ノーコンティニューで運命を変えろ!!