ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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――今夜も一人で足跡をたどる

――君が笑顔で待っているだろうから

――誰かを助け、救って、抱きしめて

――心に触れて、未来へつなごう

――奇跡と偶然、太陽と月、光と闇

――光であろう、一つになろう

――二つのボトルでベストマッチ

――Are you ready(覚悟はいいか)? さあ、実験を始めよう




22. 逆鱗

 

 

 目の前にてうごめいている軍勢。全員が別々の服を着てよたよたと覚束ない足取りをしてたが、ある一つの共通点があった。

 

 

「おじいちゃん、あの顔……」

 

「アナザーアギト……そのなり損ないか、無理やりアギトに覚醒させられたか」

 

「元に戻るの?」

 

「自我があるならまだしも、あれはもう無理です。アギトの力は諸刃の剣、一度飲み込まれれば中々戻れない」

 

「テオス様……」

 

「ましてやベルのように覚醒しているわけでもない。戻るのは絶望的でしょう。せめて痛みを感じさせることなく、黄泉に送るのが今できることです」

 

 

 いつの間にかベルの隣にいた存在、オーヴァーロード/テオスにそう説かれ、ベルはうつむく。その間にも、刻一刻と村の境界線に不完全なアギトの集団が寄ってくる。

 戦いは時に非情になる必要がある。命の奪い合いが始まる時、敵の命を気遣うことは命取りになる可能性もはらむ。ダンジョンに潜っていれば、否が応でもその認識が身につく。しかし、それはあくまでも対モンスター限定での話だ。残念ながら、オラリオに住まう殆どの善良な住民は、冒険者も含めて対人戦闘を命がけでやったことはない。そしてそれはベルも似たり寄ったりだ。

 

 

「ベル、お前は優しい子だ。だがその優しさは、今回貴方を邪魔している」

 

「……」

 

「情けは捨てなさい、ベル。今は命を絶つことが、彼等への救いだ」

 

 

 テオスの言葉にベルは歯を食いしばった。助かるのなら、この手を伸ばして届くのならどれだけよかっただろう。思うとおりに、助けたい存在を助けたかったらどれほどよかっただろう。

 拳を握りしめたまま、ベルは顔を上げる。よく見れば、幼いころに自分に良くしてくれたものも敵集団に交じっている。顔は変化していても、つい数か月前まで同じ集落で過ごしていた家族を忘れられようか。

 この事態を引き起こした元凶にベルは怒りを禁じえなかった。

 

 

「……変身!!」

 

 

 始めからストームフォームに変身し、ストームハルバードを展開して構える。一対多の戦場では、剛力と超感覚のフレイムフォームよりも、俊敏と範囲攻撃を得意とするストームフォームの方が都合がいい。目の前の集団を一掃するのであれば、これほど調度良い戦闘能力はない。

 しかしそれは、あくまでも俯瞰してみてから判断できるというもの。今回はベルは個人的な感情によって、直接ストームフォームになることを決めたのだった。それは一刻も早く彼等を開放したいという、もうこれ以上苦しませたくないという感情だった。

 

 

「スウウウウウゥゥゥゥゥゥ……」

 

 

 ストームハルバードを構え、腰をかがめる。脚部には限界まで力が籠められ、その影響か足が若干地面にめり込んでいた。次の瞬間、テオスの隣にいたベルの姿は消え、前方の集団の中心で大きな地鳴りが響いた。迎撃しようとしていた村の者たちは、突然の轟音と弱い地震に驚き、ほとんどのものが尻餅をつく。

 何が何だかわかっていない村人たちをしり目に、ベルは次々と、顔がアギトのように変わってしまったヒトたちを切り裂いていく。切られたヒトらは、うめき声を上げ乍ら倒れ伏し、小規模な爆発と共にその身を散らしていく。その様子がまた、ベルの悲しみを増していく。

 

 

「……ベル」

 

「今は耐えなさい。只人よりも弱いあなたでは、知恵を授けられても戦えない」

 

「しかし……!! いえ、おっしゃる通りです」

 

「これはベルにとっての試練と同じ。いえ、知己をその手で葬らねばならない分、津上翔一よりも過酷でしょう。もう一度言います、今はこらえなさい、全知全能の柱(ゼウス)

 

 

 テオスの言葉に義祖父、否、ゼウスは言い返すことができず、うつむくしかなかった。しかしそれは刹那の間、再び顔を上げた彼は、決して見失わぬようベルに視線を向けた。

 村の人口の何十倍もあろうかという軍勢は、その八割の数を減らしていた。しかしそれでも村びとの何倍もの成り損ないがおり、ジリジリと村に向かって、足が覚束ないながらも歩みを進めている。

 

 

「ふう、ふう、ふう……ハアアアアア……」

 

 

 一騎当千の強さを見せるベルも、これほどに敵を蹴散らす戦いは初めてであり、スタミナと精神を削られていた。加えて自分が切っているのがかつての知己というのもあり、精神面に対するダメージは察するに余りあるだろう。

 だが今の彼の戦場に近寄ることは、残った村人たちにとって自殺行為に等しい。ベルが変身でき、オラリオに行くまでに度々村を救っていたことで彼を拒絶する者はいないが、それでもベルの戦闘力についていける者はいない。オラリオにおいても、変身したベルに合わせて動けるものは何人いるだろうか。少なくとも、高レベルの冒険者で且つ「神の恩恵(ファルナ)」とは別に素体の能力が高くない限り無理だろう。

 

 

「ハァァァァァァァ……グウ……」

 

 

 更に残りの半分に数を減らしたとき、ベルに異変が起きていた。元々真っ赤であった双眼は点滅するように輝き、その時金茶のような色に変化している。彼の肉体も、蒼く細身の肉体ではありえないほどの剛力を発揮し、集団を切ると同時に力押しで吹き飛ばしてもいる。その時異様に腕や体の筋肉が盛り上がり、ハルバードを振るった軌跡にわずかに火花を幻視しているようだった。

 極めつけは彼のベルト/オルタリングである。青に輝いていたはずの賢者の石も点滅を繰り返し、紫紺に色を変えると同時に、それを囲むように三本の真っ赤な爪のようなものが伸び始めている。

 

 

「テオス様……あれはもしや」

 

「……正直私にも想定外です。もうひと段階踏んで至ると思ってましたが」

 

「それではあの形態は、まさか津上翔一独自の?」

 

「その可能性が高いでしょう。証拠にこの時代まで、三位一体の戦士は現れなかった。ベルならと思いましたが、まさか……」

 

「ではあれは……」

 

「……」

 

 

 ゼウスの問いに黙して語らぬテオス。しかしその目はまっすぐにベルを見つめており、彼の手の甲には彼とエルロードたちにしか読めない紋様が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暴走する?」

 

「そうだよ。アギトの力は絶大にして無限であり、また無色でもある。無色ということは、何色にも染まるということ」

 

「それは……」

 

「君の想像通りだよリリ君。アギトは善にも悪にも染まり得る」

 

「しかし私たち小人族にはそのような話は……」

 

「それは偶々さ。ロストエイジよりもさらに前、テオス様と光の力による天地創造から数えれば、悪に染まって暴虐を行ったアギトは数知れない。そしてそんなアギトに対抗できるのは、同じアギトかエルロードたちのみさ」

 

 

 ヘスティアの話に、リリは動揺を隠せなかった。かつてアギトとして覚醒した者たちは、己の力に苦悩したことは書物として残っており、最低限のことは誰もが知っている。だがそこは伝記としての短所が出たのか、力に吞まれた存在に関してはほとんど闇に葬られ、書物や口伝では厄災としか語られていなかった。

 そしてその「厄災」に至る危険性を、あの優しいベルもが孕んでいるという。彼の力に対する姿勢を少なからず知っているために、リリにはこの話が信じられなかった。

 

 

「ボクも信じたくはないさ、ベル君がそんな存在になり果てることをね。でも、可能性はゼロじゃない。ゼロじゃないということは、何らかの切っ掛けでその少ない可能性を引き当ててしまうことがあるんだ」

 

「ベル様が……そんな」

 

「切っ掛けはそれこそどこにでも転がっているものさ。彼にとっての逆鱗が何なのか、それを知らないのが歯痒いよ」

 

 

 机上に肘をつき、両手を口の位置で組みながら、ヘスティアは悲しげにそう語る。その様子を見て、リリは否が応でも理解せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぐっ、フウウウウウゥゥゥゥゥ」

 

 

 少しずつ動きが遅くなり、武器の振り方も大振りとなる、そしてフレイムフォームよりも更に強力な力が沸き起こり、ベルの内側が灼熱に燃え上がるような感覚をおぼえる。

 今まで感じたことのない戦闘意欲と破壊衝動が生まれ、全神経をもってそれを抑えようとするも、なかなかに上手くいかない。ようやくすべてのヒトを還したときには、既に意識が朦朧としていた。

 

 

「やはり不完全なゴミでは話にならんか」

 

 

 そんな中、新たな声が戦場に響いた。はっきりとしない意識の中でも顔を上げると、目の前には一人の青年が立っていた。赤錆色の全身を覆うプレートメイルに、太陽の光を反射させて金色に輝く髪、どんなに低く見積もっても、上の中に入るだろう美貌を持つ顔の青年が、剣を肩に担ぎながらベルを見下ろしていた。

 

 

「……貴様が元凶か、我が愚息アレスよ」

 

「お久しゅう、父上。まだしぶとく下界にいたのですね」

 

「白々しい、儂と分かっていて襲撃したのだろう」

 

 

 義祖父の表情は憎々しげに歪んでおり、対するアレスと呼ばれた青年/神は楽しくてたまらないという表情で全員を見下していた。

 

 

「まぁいい。今回は前哨戦だから大した痛手じゃない。なに、素材はいくらでもある」

 

「素材……だと?」

 

 

 ベルは耳を疑った。彼が今戦った軍勢、それらは総て、アレスによって人為的に作られたという。加えて目の前の男はそれを素材とのたまった。

 

 

「この力は素晴らしいものだ!! これさえあれば、下界降臨の縛りさえ振りほどける!!」

 

 

 そう言って取り出したのは、真っ黒な色の妙な形をした時計だった。そしてそれと似た形の時計を、ベルはその身に持っている。

 

 

《AGITO!!》

 

 

 スイッチを押すと同時に鳴り響く音声。しかしその音は、時の王より受け継いだものよりも邪悪で、濁ったものだった。アレスはそれを自らに押し当て、果たして濁った黄金の色を湛えた異形へと姿を変えた。

 双眼は真っ赤な水晶体となり、その内部に更に吊り上がった眼球がはまっている。口元は尖った歯が並んでおり、食いしばるように横に広がっている。

 極めつけはその体に書いてある文字で、「AGITO」「M.A1015」と書いてあること。数字から察するにロストエイジに奪われたのではなく、神話時代に入ってから奪われた力であることが伺えた。ということは、誰かが目の前のアナザーウォッチのために利用されたということである。

 

 

「貴様……いったいどれだけの人間を」

 

「うん? 何を言ってるんだお前。この力は人間には過ぎたモノさ。これは俺のような存在にこそ相応しい!! そしてそれを態々使ってあげたんだよ?」

 

「使ってあげた? ふさわしい?」

 

 

 最早ベルは正常な思考をできるほど、精神を持たせていなかった。だから己に湧き上がる感情を制御することもできない。沸々と、沸々と湧き上がる激情に抗うことすらできない。

 

 

「まったく嫌になるよ。こういうおもちゃは人間が持っちゃいけないんだ。プロメスだか何だか知らないけど、人間は俺たち神様の言いなりになっていればいいのさ!! だから彼らは感謝すべきなんだよ、この僕の実験に役立ったのだから!!」

 

 

 そう言い高笑いをするアナザーアギト/アレス。完全にベルから意識を外しており、彼に生じた変化に気づいていない。だから突然自分が吹き飛ばされたことに頭が追い付いていなかった。

 ようやく周囲に意識を向けたとき、アレスは己を殴り飛ばした存在を知った。先程まで地面に膝をついていたアギト、それが肩で息をしながら拳を突き出していた。その拳が殴ったのは、間違いなくアレスの頬。証拠に彼は顔に尋常ではない痛みを感じていた。もしウォッチを使っていなければ、その一撃で頭部をふき飛ばされていただろう。

 

 

「ふう、ふう、うおおおおおおお!!」

 

 

 一つ雄たけびを上げたアギトは、オルタリングの両脇のボタンを一気に押し込んだ。すると彼を中心に真っ赤な輝きが発生し、同時に熱風が吹きすさぶ。アレスは一瞬目を覆うが、すぐに目の前の存在に慄くことになった。

 真っ赤な双眼は金に輝き、頭部の黄金の角は真っ赤に染まって大きくなり、三対六本に増えている。特筆すべきは肉体であり、今までの細身の体とは異なり、筋骨隆々な真っ赤な肉体になっている。胸部中央のワイズマンズモノリスは黄色く変化し、そこからエネルギーが炎状に変化しながら全身に張り巡らされている。オルタリングの賢者の石は紫になり、それを包み込むように真っ赤なドラゴンズネイルが生えている。

 

 

「ベル……お前……」

 

「恐れていたことが起こりました。最後の引き金を、まさか彼が引いてしまうとは」

 

「オオオオオオオアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 三柱の神が見つめる先、そこには獣のように天に向かって叫ぶ、一人の竜人がいた。

 

 

 

 

 

──ステイタス更新

 

 

 

──スキル:【&え■$業―@もの】

 

 





――誰のための夢か、何のための夢か

――過去の意志は、嘘では欺けない

――重ねた痛み、刻んだ誓い、流星追う軌跡

――果てなき旅路を最後の一秒まで駆け抜けろ

――時の雨をすり抜けて

――絆結んだ未来を超えて

――俺は仮面ライダーの王となる

――祝え、新たな王の誕生を

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