ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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皆さん、世界を混乱に陥れているコロナですが、大丈夫でしょうか?
手洗いうがいは勿論のこと、エタノール消毒など人事を尽くしているかと思います。ただ、どうか理性ある行動をお願いします。
私の勤め先(アルバイト)の本屋何ですけど、マスク付けずにゲホゲホと咳を平気でする人が多くて。店がある建物全体でも予防措置を徹底しているのですが、それでもこの現状です。

それではお待たせしました、最新話です。





25. そのレンズは何を写す

 

 

 オラリオに戻ってからというもの、ベルはダンジョン攻略よりも修業に精を出していた。原因は勿論故郷における暴走である。背中のステイタスも文字化けしたままであり、一向に改善される気配がない。加えて、ベルは夜な夜なうなされており、その時は決まって高熱を出して多量の汗をかくという状態である。

 もちろんヘスティアやリリは彼を休ませようとしたが、彼はダンジョン攻略を控えても鍛錬を辞めることはなかった。そのせいなのか、オラリオの一角にある廃教会で女性の怒号が響いたのは、近隣の住民にとっては記憶に新しい。

 

「ベル君、これは主神命令だ。今日一日は鍛錬も攻略も禁止だ」

 

「神様!? でもそれじゃあいつまでたっても」

 

「無理をすれば力を制御できるとでも? ゼウスも言っていただろう、君には休むことが必要だと」

 

 

 ヘスティアの言葉にベルは反論できなくなる。

 彼女のいうことは正しい、それはベルも理解している。事実、ベルは故郷を出立する際にゼウスに諭されたのだ。

 

 

『暴走は怖いだろう。しかし己を追い込むことだけが全てではない。忘れるなベル、お前はお前のままでいいんだ。暴走しようがしまいが、お前は儂の大事な孫であり、姉上の眷属であり、ベル・クラネルなのじゃ』

 

 

 優しい声色で諭すゼウスは、しかし有無を言わせぬ様子でベルに言葉をかけた。焦っても仕方がないというのは理解している。しかしそれでも、この暴走をどうにかしない限り次の段階に至れないことがわかってしまう。

 別にゼウスもテオスも、ヘスティアもベルにアギトとして進化してほしいわけではない。テオスは知らぬが、ゼウスもヘスティアも、ベルには幸せな生を送ってほしいと心から思っているのである。勿論その二柱も、今のベルの焦りを理解はしている。だから余程無茶だと判断できない限り、強く止めることができないのだ。

 

 

「気晴らしに街の散策でもするといい。休むことも修業の内だよ、ベル君」

 

「神様……分かりました」

 

 

 ベルのことを思うヘスティアに、ついに彼は折れて修業を中断した。とはいえ、突如暇になっても人間戸惑うばかりである。特にこれまで精力的に外出や仕事をしてきた者は、唐突に発生した暇の時間は何をするのかわからなくなり、ひどい場合は家でデスクワークをすると言った行動をとる。

 ベルの場合はそれほどワーカーホリックというわけではないが、それでも修業まで制限されたとなると、特に何をすればいいか分からなくなる。一応料理も好きだが、今の時間から始めるのはいささか昼食には早すぎる。しかhしベルの性格上、拠点でのんびりとするということはできない。そのため仕方なくではあるが、外に散歩に出かけることにした。

 

 

「あれ? こんなお店あったんだ」

 

 

 しかし改めて街を散策すると新たな発見があるというもの。いつも通る道をゆっくりと歩いていると、今まで気にも留めなかった店や住宅が目に映る。中には穴場ともいえる喫茶店などもあり、いつか休みに訪れるのもいいだろうと考えられる。

 時間的にはそろそろ昼食をとってもいいころ合い。いつもとは違い、「豊穣の女主人」に向かわなかったベルは、ふと目についた一つの喫茶店に足を向けた。そこは一度だけ過去に訪れたことのある店で、サンドウィッチとコーヒーが非常に美味であったことを思い出し、入店に至ったのである。

 席につき注文したベルは料理を待つ間、義祖父に渡された一冊の本を開いた。そこには古今東西の伝説・神話のほかに、仮面ライダーに関することも事細かに表記されているのである。記憶しか見ていないベルにとっては、唯一といえる資料なのである。

 

 

「失礼、相席いいかな?」

 

「え? はい、いいですよ」

 

 

 唐突に声をかけられて驚くが、ベルは快く承諾した。目の前に腰かけた男性は全身黒色の服装に身を包んでいたが、上着の下に着ているシャツは鮮やかなマゼンダ色をしていた。

 

 

「ここのオススメはなにかわかるかい?」

 

「サンドウィッチとコーヒーがおいしいですよ」

 

「ありがとう」

 

 

 ベルと軽く会話した男は勧められたメニューを注文し、何やら首から下げた道具をいじりだした。特に何か話を咲かせるわけでもなく、お互いに無言で自分のことをする。料理が運ばれてもそれは変わらず、各々の反応は示しつつも舌鼓を打つだけにとどまっている。

 やがて先に食べ終わったベルは長居は無用というように、伝票を持って支払いへと向かった。

 

 

「では僕はこれで」

 

「わかった。ああそうだ、一つ聞きたい」

 

「何でしょう?」

 

「もし自分じゃどうにもできない、偶然で大きすぎる力を持ってしまったとき。君はどうする?」

 

 

 青年の問いかけは要領を得ない。なぜ初対面の人間にそのようなことを聞かれてしまうのか。勿論ベルにはその質問に答える義務はないので、そのまま無視して場を離れるという選択肢も残っている。

 だが生来のお人よしさ故か、ベルは律儀のも立ち止まって青年に向き直った。

 

 

「たぶん戸惑うでしょう。なんで自分にと考えると思います。もしかしたら、力におびえて逃げてしまうかもしれない」

 

「……」

 

「でも向き合わないといけない。もしも自分の未熟のせいで仲間に、友に、家族に不幸が降りかかるのなら、僕はそれを一生許せないでしょう。だから僕は、しっかりとそれに向き合って、受け入れたいと思います。今は怖くても、いつかきっとそれが誰かのためになるのなら。誰かの笑顔になるのなら」

 

「そうか、大体わかった」

 

 

 その言葉を最後に青年は立ち上がり、会計を済ませて去っていった。服装は違和感を持たないデザインだったが、何故が彼の存在自体が、世界にとっての異物感がぬぐえないものと感じられた。

 

 

「……あの首から下げていたもの、まさかね」

 

 

 姿が見えなくなった今、考えても詮無いことである。それになぜか、いつも人探しの時でも働くアギトの勘も、今回ばかりは宛にならない。だが彼がいるからといって、この世界が何かしら被害を被ることはほとんどないだろう。

 

 

「さて、午後からどうしようかな」

 

 

 再び暇を持て余したベルは今日残り半日の予定を考えながら、街の雑踏の中に足を進めるのであった。

 

 





――あれがこの世界のアギトか。

――正しくは継承者というべきかな。

――さて、俺のこの世界でのすべきことは……

――まぁ、この世界では余り動かない方がよさそうだ。

――お前が仮面ライダーに相応しいか、見させてもらうぞ。


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