ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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最近前書きとあとがきのネタが思いつかないです、どうしましょう?

それでは本編どうぞ。



28. 直系

 

 時間帯で言えば翌日のこと。早朝に当たるときに、ベルは拠点付近の安全区域にいた。共に行動することを了承した以上、移動速度は合わせなければならない。とはいえ、それまでの時間を持て余すのも事実。そして元々早起きであったベルは、書置きを残して一足先に自主鍛錬を行っており、現在は座禅を組んでいるところだった。

 自身の内面に潜り込み、精神鍛錬を行うことで意思を強くする目的があったが、このところそれが思うようにいかない。原因は目星がついている。今回を含めた二回の暴走が、彼の精神面を蝕んでいた。

 

 

「……ベル?」

 

「あれ? アイズさん、どうしたんですか」

 

 

 そんなベルに近づいてくる者がいた。彼女の名前はアイズ、ロキ・ファミリアの幹部の一人であり、以前よりベルと共に鍛錬を積んでいた少女でもある。そんな彼女は数刻前に見たベルの姿を見て思うところがあったのか、昨晩からベルを見ている場面が多々あった。

 

 

「どうしたんですかアイズさん? 鍛錬の時間はまだなんじゃあ……」

 

「うん、でも少し気になったことがあって」

 

「気になること?」

 

「そう。ベルは、自分の力が怖い?」

 

「……」

 

 

 アイズの歯に衣を着せぬ問いに、ベルは口を閉ざしてしまった。彼女が悪意なく聞いているのは理解している。ベルの知る由ではないが、アイズはある目的のために強くなることに執着しており、己の高めること以外には興味がないとまで言われている。そしてその高めかたは、時に無茶ともいえることもあった。

 そんな彼女だからこそ、ベルが強くなることを恐れることがわからなかった。

 

 

「……この力、アギトの力は強力なのは知ってますね」

 

「うん。私たちにはない、ベルの特別な力だよね?」

 

「今はまだ、ですけど……」

 

「『まだ』?」

 

「アギトの力は、神以外の全ての種族に宿っています。勿論アイズさん、貴方にも」

 

「私にも?」

 

「ええ、ですがそれが目覚めるも目覚めないも個人差です。僕のように戦士として覚醒する者もいれば、スキル外の念力や魔法として発現する人もいます。今を生きるエルフやドワーフといった種族も、アギトの無限に進化する力によって形成された特性といわれてます」

 

 

 ベルの話す内容、それはアイズにとって初耳なことばかりだった。リヴェリアやレフィーヤといったエルフも、ガレスといったドワーフも、元々は人間が進化適応した果ての姿だという。そしてその大元となった力は、種族問わずに全ての人類に眠っているというのだ。

 

 

「念力や透視なら何とかできるでしょう。ですが僕が目覚めたのは、戦闘者としての力です。単純な力量じゃない、闘争本能の覚醒に伴う肉体変化です。それは意志を持たなければ、戦うだけの絡繰りと一緒です」

 

 

 そこまで来て、ようやくアイズは理解した。ベルが恐れているのは力そのものではなく、その力を抑えられずに大切なものを傷つけてしまうことであると。力を持ったことはすでに受け止めているが、彼の心と成長がかみ合っていないのだと。

 

 

「……ねぇベル」

 

「はい?」

 

「この後ある鍛錬、変身して戦ってほしい」

 

「え!?」

 

 

 アイズの唐突な提案にベルは目を白黒させた。今までの話とアイズの提案に、全くのつながりが見出すことができない。

 アイズとしては、高レベル冒険者を複数相手に取ることで、力に慣れていくことを図っているのだが、ベルにはいまいち伝わっていなかった。仮に暴走したとしても、レベル5前後の冒険者が10人近くいれば何とか止められると考えたゆえである。

 

 

「……わかりました。目的は分かりませんが、何か理由があるのでしょう」

 

「うん、お願い」

 

 

 ベルが承諾したのを確認すると、アイズはキャンプへと戻っていった。背中を見送るベルだったがすぐに地に座り直し、再び座禅をくんだ。

 そして朝食を取り終えて場所を移動したのち、今日の拠点の近場の安全地帯に、ベルとロキ・ファミリアの幹部、そしてリリとヴェルフが佇んでいた。二人は被害が及ばぬ外側に、鍛錬を行う者は区画の中央に集まっている。

 

 

「さて、アイズから聞いているけど、本当にいいのかい?」

 

「ええ、二言はありません。僕の全力で、相手をしましょう」

 

 

 フィンの問いに答えると、ベルは腰にオルタリングを巻き、構えをとる。ゆっくりと吐き出される息と共に右腕が突き出され、吐ききると同時にベルトのボタンを押すと、一瞬の輝きと共に黄金の肉体と角を持った戦士が立っていた。

 

 

「改めてみると、やはり伝承は本当だったんだね」

 

「アギト、創造主の系譜たる龍戦士という言い伝えだが、確かに龍だ」

 

「さて、ルールの確認をしようか。時間は十分、君一人対僕たち全員。伝承に沿うなら、君は戦闘形態を切り替えることもできるんだろう? それも使っていい」

 

「……本当に?」

 

「ああ、これでも皆レベル4以上だし、個別の戦闘力も高い。遠慮はいらないよ」

 

 

 フィンはそう言うと、持っていた槍を構えた。同時の他の面子も、各々の武器を構える。ベルも無言で構えをとると、自然フィンたちの武器を握る手にも力が入る。

 

 

「……はじめ!!」

 

 

 リリの掛け声と共に、ロキ・ファミリアとベルが衝突した。フィンの一突きを槍をつかむことで防ぎ、ガレスのハンマーの一振りを手甲で受け止める。そのまま二人をフィンの槍ごと振り回して巻き込み、高速で迫ってきた狼人族のベート・ローガ向かって投げ飛ばす。そのすきを狙ってアイズとヒリュテ姉妹がスピードを生かして彼に飛び掛かる。

 しかしそれを分かっていたかのように体を傾け、攻撃を全てよけていく。そしてすれ違いざまに拳や蹴りを打ち込むが、彼女らはその速さを生かして防いだり距離をとったりして去なしていく。

 右に左にと素早く動いていく彼女らを追うのをあきらめたのか、ベルはまずベルトの右側を押し込むと、フレイムフォームへとフォームチェンジする。追ってよけられるならば、こちらにおびき寄せればいい。そう考えたベルはフレイムソードを手に取り、攻撃を受け流してはカウンターを打ち込んでいく。

 一度距離をとった彼らは再度武器を構えると、今度は縦横無尽にベルに襲い掛かる。先程までの統率された動きとの違いを察したベルは、ベルトの左を押し、ストームフォームに変化した。

 

 

「嘘っ!? アギトって青色にもなるの!?」

 

「しかもさっきより早くなってない!?」

 

 

 ストームハルバードを駆使したスピード戦法に、ヒリュテ姉妹が悲鳴を上げる。アイズも声を上げることはないが、突然の戦い方の変更に若干戸惑っているのがわかる。

 

 

「『疾風の様に現れ、嵐のように厄災を薙ぎ払う』か。本当に伝承通りの蒼き嵐だ」

 

「リヴェリア様、アレでは……」

 

「難しいな。だが範囲魔法ならばあるいは」

 

 

 近接者が戦っている間に、魔法を主力とするリヴェリアとレフィーヤが詠唱を始める。素早い動きをする相手には、広範囲に及ぶ攻撃か、行動範囲を抑制する地形の生成が必要である。

 

 

「全員、離れろ!!」

 

 

 リヴェリアの声と共に近接冒険者たちは、一斉に距離をとった。同時にベルの周囲には氷が生成され、次の瞬間、彼が巨大な氷に閉じ込められる。追い打ちをかけるようにして、上空から幾本もの光の矢が降り注ぎ、小売りを砕きながらベルにダメージを与えていく。

 人一人に対してオーバーキルと、知らぬ人が見ればそう思うだろう。事実、彼等の様子を盗み見しに来た他の面子も、そのように感じていた。

 魔法によって砂塵が舞う中、全員が警戒したまま中央を見つめる。濃厚な砂煙が少しずつ晴れる中、黄色い二つの光が浮かび上がる。そしてそれを取り囲む彼らの肌にも、ビリビリとした感覚が襲い掛かってきた。

 

 

「……ハアアアアァァァァァ」

 

 

 長い長い吐息と共に姿笑わしたのは、罅割れ、燻った紅色の肉体と角を持つ戦士。しかし先程までの流麗な肉体ではなく、筋骨隆々で巌の様な体躯をしている。

 

 

「あれは、まずいね」

 

「そうだね、もしかしたら鍛錬どころじゃないかもしれない」

 

おおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 一旦下がったフィンたちにかまうことなく、中央でベルは雄たけびを上げる。誰が見ても、正気を失っている様相のベルは、天井に向かって声を上げ続けていた。先刻の戦う姿を見ているためか、額を伝う汗が止まることを知らない。

 

 

《……れ》

 

「え?」

 

「どうしたんだ、アイズ?」

 

「誰か、なんか言った?」

 

「いや、何も言ってないぞ」

 

 

 唐突にアイズが顔を上げ、キョロキョロ周りを見渡す。挙動不審なアイズをリヴェリアが見とがめるが、それでもアイズは周囲を見るのを辞めない。

 

 

《……れ……まれ……》

 

「だれ? 何を言ってるの?」

 

「お主が何を言っておるのだ、アイズ」

 

 

 依然頭の中に声が聞こえてくる声が気になり、アイズはベルのことに集中できない。幸いか、雄たけびを上げ終えたベルは動くことなく、息を荒らげてはいるが立ったままである。だからこそ、アイズがしきりに周囲を見渡しても、襲われることがなかったのだ。そして彼等の側が安全と判断したのか、ヴェルフとリリもフィンたちに呼ばれてひと固まりになった。

 

 

「ちっ、このまま立っていても仕方ないだろうが。俺が行く!!」

 

「ッ!? 待て、ベート!!」

 

 

 業を煮やしたのか、狼人族の青年ベートが飛び出していく。右に左に動き、自慢の脚力で素早く飛び出して蹴りを出すが、ベルはよけることなくそれを胴体で受け止めた。言い方を変えると、素直に攻撃を喰らったともいえる。しかし蹴られてもびくとも動かず、その無機質な黄色い双眼を、ベートへとゆっくり向けた。

 薄ら寒い風が背中に吹いた感覚が走り、ベートは咄嗟にベルから離れようとした。しかしそれよりも早く、ベートの足が掴まれ、地面にたたきつけられる。先程よりも緩慢で鈍重な動きだが、それに比例するように筋力が上がっている。その証拠に地面にたたきつけられたベートは、少しだけだが地面にうつ伏せにめり込んでいた。

 

 

「ベート!?」

 

「あれは、なんだ?」

 

「あれってアマゾネスの伝説に出てくる奴じゃない?」

 

「そうね。でもアレになったアギトは、本能の赴くがままに戦うって聞いてるけど」

 

「……動かぬのう」

 

「ええ、敵意を向けられた時だけ反応してる」

 

 

 アマゾネスであるヒリュテ姉妹は、ベルの状態を知っているのだろう。だが彼女らは動かないベルを見て違和感を感じているようだ。確かに彼女らの言う通り、本能に従うように、無差別に攻撃しているわけではない。先程のベートへの攻撃も、彼が先に攻撃したからこそのカウンターであった。

 

 

「……ベルだ」

 

「アイズ様?」

 

「……ベルが、止まろうとしてる。さっきから、ずっと」

 

 

 アイズは気になっていた。ベルが暴走態になってからずっと響いてきた声に、何とかして耳を傾けていた。そして聞こえたのは、しきりに「止まれ」と叫ぶベルの声だった。

 何とかして止まろうと、自制しようとした結果が、今目の前に無言で佇む様なのだろう。

 

 

「グっ……く、そぉ……」

 

「ベート?」

 

「調子に……乗るなあ!!」

 

 

 めり込んだ地面から身を起こしたベートは、再度ベルに向かって殴りかかる。また受け止められ、カウンターで返されるのだろう。それが容易に想像できたフィンたちは、何とかしてベートを連れ戻そうと駆け出そうとした。

 しかし、驚くべき事態が起こった。

 起きざまにベルに拳を叩きこんだベート。それに対して先程と異なり、ベルは衝撃でよろめき、数歩後退したのだ。

 

 

「攻撃を、受けた?」

 

「待って? ベートの手が……」

 

 

 そう、殴り飛ばしたベートの腕が変化していた。黒いグローブを装着した腕に重なるように、生々しい緑色の腕が延ばされている。荒々しく吐く息と呼応するかのように、緑色の部分が広がっていく。そしてゆっくりと、しかし明確に彼の腰に金の装飾のベルトがまかれていく。

 

 

「ベート、まさかお主!?」

 

 

 唯一ガレスだけが、何か知っているかのように声を上げる。全員彼に何かを聞こうと顔を向けるが、口を開く前にベートの雄叫びが今度は響き渡る。

 叫び声に呼応するように、ベートの体が変化していく。片腕だけだった緑色の部分が、腰のベルトの発光と共に全身に広がり、ベートは変身を完了した。双眼はアギトのように真っ赤に燃えているが、頭部に映える角はどちらかというとカミキリムシの触覚のようだった。そして彼の体はアギトと異なり、毒々しい黒と深緑の肉体に覆われていた。

 

 

「「おおおおおおおおおおおおお!!」」

 

 

 二体の獣はひときわ大きく叫ぶと、互いに向かって走り出し、拳を衝突させた。

 

 

「……ネフィリム」

 

 

 そしてその戦いを、身の丈ほどの尾びれの様な斧を持った存在が、感情を見せぬ目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

――ステイタス更新

 

――プロメスの末裔(ネフィリム)

 

――力の代価(ギルス)

 

 





――人の子よ、愛しき我が子よ

――何故力を求める?

――己がため? 他者がため?

――それとも、贖罪のため?


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