ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~ 作:シエロティエラ
本当はもうちょい先まで行きたかった。
さて、更新です。ごゆるりと。
暫くして拠点に戻ったが、いくら探してもヘスティアの姿がなかった。他の女性陣は水浴みから戻ってきており、話を聞く限りでは一緒に戻ってきたはずらしい。しかし彼女の姿を確認することができない。荷物は指定のテントにはおいてある。
ふとベルが視線を落とすと、床に一枚の小さな紙片が落ちていた。訝しみながらもその紙片を拾い上げて捲る。そして書いてある内容を確認すると同時に、ベルは目にもとまらぬ速さでテントを駆け出していった。
指定の場所は木々が鬱蒼と茂った場所であり、加えて拠点から離れていた。そのため、救援などはすぐに呼ぶことはできない。とはいえ、ベルは救援など呼ぶ気はさらさらなかったのだが。指定の場所についたベルは一人の男を見つける。それは拠点近くの街でベルとひと騒動起こしたならず者、モルドの姿だった。
「……お前が」
「よう、お前の神様はこっちだ。ついてきな」
それだけを言い、モルドはベルに背を向けて歩き出した。出会いが最悪だったゆえに、彼のことが信用できないベルは、しかし他に選択肢もなくおとなしく彼についていく。暫く歩くと、岩場から突き出た円形の地形にたどり着く。中央が開け、周囲をぐるりとならず者の集団が取り囲むさまが、まるで円形闘技場の様な雰囲気を醸し出していた。
「安心しな。お前さんとこの女神様は無事だ。俺も神を傷つけるような罰当たりじゃねえ」
「なら、僕に直接用事が?」
「ああそうだ。お前さんにとっちゃはた迷惑な話だろうが、俺たちにもなけなしのプライドがある」
「……その白黒をつけるためですか?」
「話が早い。ここで俺と一騎打ちをしてもらうぜ。俺に勝てば女神さまは無傷で返してやる。だが俺が勝てば、てめえの身包み全てよこしてもらうぜ」
「……乗った」
決闘の承諾と共に、ベルは背中から一本のみ抜刀した。誰が見ても業物と分かる逸品に、周囲を囲うならず者たちの目が輝く。そしてベルと相対するモルドも自身の武器を取り出す。しかしその口元には真顔のベルとは反対に獰猛な笑みが浮かんでいた。
「覚悟しろよクソガキ。これから始まるのは、てめえが嬲り殺しにされる残虐ショーだ!!」
モルドが叫ぶのと、彼が剣を振り下ろすのは同時だった。地面に切り下された剣の刃は、地面に転がる水晶体を砕ききった。同時にベルの視界は強い光によって満たされ、思わず彼は目を覆ってしまう。そしてそれがモルドの狙いであった。
彼が砕いたのはベルの視界を遮り、「ハデス・ヘッド」というアイテムを使うためである。この頭部のアイテムは使用者を透明化させるものである。生き物は外界の情報のほとんどを、目から入る光景によって判断しているとされている。そのため、透明化されたとなると、咄嗟の反応をするのが非常に困難となるのだ。
「はっはぁー!! この程度かよクソガキ!!」
姿が見えないのをいいことに、モルドは右から左からと斬撃を加えていく。ベルも何とか剣が空気を切る音で判断して斬撃を防いで入るが、このままではじり貧だろう。モルドもそれがわかっているのか攻撃の手を緩めず、また周りのならず者たちも彼等の一騎打ちをはやし立てる。唯一ヘスティアだけが両手を組み、ただただベルの無事を祈っていた。
◆
「『ハデス・ヘッド』も見事なものだねぇ。どう思うかい、アスフィ?」
「悪趣味です。何の理由があってベル・クラネルにあんな冒険者をけしかけるのですか?」
「それが彼の器を測るのにちょうどいいと思ったからさ。どうも僕が見た限り、人間の汚い部分をあまり知らなそうだったし」
「本当にそうでしょうか?」
ベル達が戦っている広場のはるか上、切り立った岩場の上からそれを眺める二つの影。今回の捜索に同行した男神ヘルメスと、その眷属である女性アスフィである。
そもそもの話、ベルのこの戦いを仕組んだのは何を隠そうヘルメスであった。街でベルがモルドを一蹴したと聞き、彼にアイテムを与えて戦わせることで、ベルの力量とあり方を見定めようとしたのである。結果としては上々、アイテムの力もあるがベルは見事に苦戦はしているものの、あきらめずに立ち向かっていく。それは彼の実直な性格とヘスティアわ大事に思う紛れもない証拠であった。
「おや? 彼は何を?」
ヘルメスが唐突に声を上げる。横に立つアスフィは改めてベルに目を向ける。途中から手数を補うためにもう一本の武器も抜刀していたが、唐突に両方とも納刀してしまったのだ。はたから見ればベルが降参したように見えるし、ヘルメスもアスフィも、ならず者たちもそう考えた。
しかし実際に向かい合っているモルドとヘスティアは違った。ベルが目をつむり息を吐く動作を見て、彼の戦闘スタイルが変わったとわかったのはたったの二人だけ。
(なんだ? あからさまに空気が変わりやがった。経験で分かる。ああいうタイプのやつはヤバい!!)
(徒手空拳。グランドフォームの様な戦い方を武器持ち相手にするのかい? いや、エルロードたちは武器持ち。彼の存在と鍛錬したベル君ならばあるいは)
息を吐いて動かなくなったベルを見て、周りのならず者たちのヤジが飛ぶ。しかしモルドはベルの今の状態を敏感に察知して、むしろうかつに動けないでいた。しかしいつまでも手をこまねいているわけにもいかず、武器を握りなおしてベルに切りかかる。
「ッ!? ほう? なかなかやるね、彼」
「見えない攻撃をいなしていく? しかしどうやって」
「さぁ? 流石に俺もわからないよ。(あの動き、まさか……)」
襲い掛かられたベルは放たれる斬撃を避け、受け流し、返す刀のように拳を的確に当てていく。猛き炎の様な強力な打撃に、形を持たぬ風の様な清廉さ。その在り方に姿の見えないモルドは段々押されていき、ついに頭部のアイテム破壊されて姿が現れた。それからは棒立ちから一転、ベルの怒涛の攻撃が決まっていき、ついにモルドとの一騎打ちはベルの勝利という形で決着がついた。
「流石はレベル2、というべきかな? 一応モルドは対人経験が勝っているはずだけど」
「そうですね。それで? 知りたいことは知れましたか、ヘルメス?」
「ん~底が知れないということだけかな。今度は別の方法……で……」
尋ねられたことに素直に返したが、言葉の途中でアスフィと声が違うことに気が付く。違和感を感じたヘルメスが振り返った先には、中世的な外身を真っ黒な衣装で包み込んだ存在が立っていた。そしてヘルメスの隣にいたアスフィは、突然現れた存在の醸し出す「格」の違いに押され、言葉を発することができずにいた。
「な、何故!?」
「私がここにいることが不思議ですか? ヘルメス、何やらベルが気になっているようですが」
「え、あ……これは、その……」
アスフィは知る由ないが、この黒衣の存在こそが「世界」創造の片割れ、オーヴァーロード/テオスである。無論神であるヘルメスは出会ったことはなくとも、直感で逆らってはならぬと理解してしまっていた。
「どうやらベルの器を測ろうとしていたようですが。まぁあの程度ではあの子を見ることはできませんよ。あの子は彼の戦士たちの魂を継ぐもの、ならず者との戦いではあの子の本当の力は発揮されない」
「て、テオス様。それはどういう?」
「知りたければ静観を貫くことです。下手に手を出せば、あの子によって貴方は滅されますよ」
「人の子が神を滅する? 悪い冗談ではないですか?」
「冗談ではありませんよ」
そう言い残すとテオスは現れた時同様、瞬きする間に消えていった。同時に重たくのしかかっていた存在感に解放されたために、アスフィは何度も肩で息をしていた。ヘルメスもいつもの爽やかさの気配はなく、額に大粒の汗を浮かべていた。
◆
「……この気配」
「うん、テオス様がいらっしゃったね」
「恐らくこの計画を立てたのはヘルメス様だったのでしょう。同じ場所にヘルメス様の気配も感じます」
「まあ何はともあれ、お互い無事でよかった。ごめんよベル君。ボクが油断していたばかりに」
互いの無事を確認し、二人で帰路に就くために足を踏み出した。しかしその時重々しい地響きが聞こえてくる。頭上からは砂塵がパラパラと落ちてきており、足音の様な地響きは段々とこちらに近づいてきていた。人とは異なる大きな気配を放つそれを危惧し、ベルはヘスティアを抱えて広場から岩伝いに地面へと降りていった。
拠点まで走っているとついに十八階層の天井は崩れ去り、人の何倍もある大きさのモンスターが落ちてきた。
「あれは、『
「多分ボクら神を滅するためだ。テオス様の存在を感じて、そして同じくダンジョンにいたボクやヘルメスを察知したんだよ!!」
「だとすれば、アレを倒さない限り何処までも追ってきますね」
走りながら推論を立てていく。拠点までの道のりの途中で、非常事態を察したヴェルフやリリやリュー、そしてアイズたちロキ・ファミリアの幹部らもこの場に集結している。
「ベル、これはいったいどういう状況だ?」
「わからない。でもたぶんアレを倒さないとこの階層から出られないと思う」
「特徴はゴライアスだけど、色が黒くなっている。多分強化されている」
集まったはいいが、いくら高レベルの冒険者であっても、無策で階層主に挑むのは自殺行為である。加えて慣れ親しんだ団員だけでなく、この場には初めて戦闘パーティを組む者たちもいる。付け焼刃のチームワークでは、かえって死亡率を高めてしまうことになる。ロキ・ファミリア団長のフィンは頭の中で思考を進めていくが、いい策があまりわいてこない。しかしこうしている間にもゴライアスは歩を進め、ヘスティアとヘルメスを目指して近寄ってきている。
「……フィンさん。何とか策を出すことは出来ますか?」
「できると思う。でもどうにか時間を稼がないと……」
「なら僕は時間稼ぎをします。それに、どうも拠点にもモンスターが近寄ってきているようです」
「なんだって?」
ベルの索敵の話を聞き、フィンたちは更に焦った。いま拠点にはヘファイストス・ファミリアの面子しかおらず、多少のモンスターは退所できても、こんな下層のモンスターを単騎撃破できるほど強いわけではない。加えて拠点を構えていたのが安全圏というのもあり、奇襲も同然のモンスター襲撃なのだ。
頭を悩ますフィンとリヴェリアだったが、彼の目の前で黄金の輝きと緑色の輝きが起こった。そちらに目を向けると、ギルスに変身したベートとアギトに変身したベルが、それぞれ拠点とゴライアスの方向を見つめている。
「おい兎野郎。あいつの相手は出来るか?」
「時間を稼ぐことなら」
「そうかよ。手助けは期待するなよ」
そう言うや否や、ベートは拠点に向かって目に見えぬ速さで駆け出していき、ベルもまたゴライアスに向かって飛び出していった。フィンの指示も出ぬままに駆け出した二人に一つため息をついたリヴェリアとフィンは。首を一度振って顔を上げた。
「殲滅を得意とする者は拠点の救援に!! リヴェリアはそこで指揮をとってくれ!! ゴライアスには僕とアイズ、ガレスとレフィーヤで向かう!! 他の者たちは……」
「私たちはベル様の方に行きます」
「俺たちはベルのパーティーメンバーだ。あいつの救援に行かせてもらうぜ」
「私も、微力ながらベルさんの助太刀に行きます」
ベルのパーティーの面々は、是が非でもベルの助太刀に行く気だった。そこには強い意志があり、仮令フィンが拒否したとしても無理やりついてくるかもしれないということが伺えた。
「……自分たちのみは自分たちで守るんだ。こちらも戦力を半分に割く以上、フォローも満足にできない。いいね?」
フィンがそう言い募るのと拠点で緑の強い輝きが起こるの、ゴライアスの足元から大きな火柱があがるのは同時だった。
――晴れる日も雨の日もある。
――携帯なくすこともあれば、帽子をなくすこともある。
――でも生きることはなくすことじゃない。
――自分を強く持っていなければ、その自分に負けてしまう。
――だから人は体を、心を鍛えるんだ。