ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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――ん? 鍵かけた覚えはないんやけど。

――……ロキ。北欧の魔術の申し子。

――へ? ま、まさか、貴方がたは!?

――貴方の愛し子についてお話があります。

――ウチの子供、まさかベートを殺しはるんですか!?

――安心してください。そのようなことはしませんよ。




37. 理由

 

 ベートがベル達と酒場でひと悶着起こしていた夜。リヴェリアの部屋には何故かアイズの姿があった。

 

 

「それで、相談とはなんだ?」

 

「うん。なんか、私おかしいみたい」

 

「おかしい?」

 

 

 アイズの言葉にリヴェリアは首をかしげる。幼少期はそれこそ人形のように、ただ只管にダンジョンに潜っては修羅のようにモンスターを狩っていたアイズ。最近ベルと関わり始めてからは表情も若干ながら変化するようになり、喜怒哀楽の表現も少しずつ出るようになってきた。時には姉のように、時には母のようにアイズに接してきたリヴェリアにとっては、アイズが徐々に己を取り戻していくことは嬉しいことである。

 そんな家族である彼女が珍しく相談をしてきたのだ。乗らぬという選択肢はリヴェリアにはなかった。

 

 

「あの日、あのゴライアスの戦いの時からだけど。ベルを見ると落ち着かない」

 

「ベル・クラネルを? それはどのように落ち着かない?」

 

「わかんない。でもゴライアスと戦う姿を見て、なんか置いて行かれたような気がした。そして……」

 

「そして?」

 

「ほっといたら何処までも独りで、そのまま孤独に」

 

 

 アイズの言葉に少しだけリヴェリアは驚いた。アイズが他人を、更には他派閥の者にそこまでのこだわりを見せ、尚且つその未来を案じているということに。

 

 

「……? リヴェリア、どうしたの?」

 

「いやなに、お前がそういう相談を持ち掛けてくるとは思わなかっただけだ。それで、お前はベル・クラネルとどうしたいのだ?」

 

「どう、したい?」

 

「そうだ。彼について嫌な予感がする。そのうえでお前は彼に何かしてあげたいのか、彼に何かしてほしいのかそれとも別の何か。お前自身がどうしたいのかだ」

 

「私は……」

 

 

 リヴェリアの問いにアイズは答えを窮した。当然だ、そもそもベルに対してどのような感情を持っているのか、それはアイズ自身がわかっていない。嫌ってはいないが、だからと言って恋い慕っているわけではないだろう。なのに彼に対して胸騒ぎがするのは何故なのか。その答えを、彼女の前に座るリヴェリアは決して教えないだろう。

 暫く黙りこくっていたアイズではあるが、やがてポツリポツリと小さく口を開いた。

 

 

「私は……私は知りたい。ベルのことをもっと知りたい」

 

「そうか……本当なら副団長として他派閥と深い関係になるのは勧められないが。まぁ私個人として手を貸すのはよかろう」

 

「ありがとう、リヴェリア」

 

「で、彼を知るならば無論彼に近づかねばならん。確か近々アポロン・ファミリアが『神の宴』を開くと招待状が来た。その宴に主催者であるアポロンが、最近噂のヘスティア・ファミリアを呼ばぬ可能性は低い」

 

 

 アポロン・ファミリアに関しては、正直リヴェリアはあまり良い話を聞いていない。噂が本当ならば、自派閥よりも弱小な他派閥に優秀な冒険者がいれば、理不尽な要求の末に引き抜きを行うという。

 ヘスティア・ファミリアの眷属であるベルとリリは、リヴェリアから見ても駆け出しにしては優秀の部類に入る。更には箝口令が敷かれているものの、ベルにはゴライアスを単騎圧倒できる力が眠るという話が広まってしまっている。幸いにしてアギトであることは余り伝わっていないが、神アポロンがそれを放っておくとは考えにくい。

 今回の「神の宴」はアポロンの意向で、神以外にも眷属一名の同伴が義務付けられている。もしヘスティア・ファミリアにも招待状が届いているのならば、護衛もかねてベルが選抜される可能性が高い。

 

 

「私の予想が当たればいいのだが、もし宴にベル・クラネルが来たのならば少しずつ彼と話せばいい。朝の鍛錬だけではわからぬこともちょっとずつわかっていくだろう」

 

「うん。わかった」

 

 

 一先ずアイズはすっきりとしたのか、一言礼を言うと退室した。再び一人になったリヴェリアは一つ軽く嘆息し、何をすることもなく椅子に座る。長いこと面倒を見てきたゆえに、彼女の成長が嬉しく思うと同時に少し寂しく思えてしまう。

 ぼうっとしていると、再び部屋の戸が叩かれた。今日は訪問客が多いと思いつつも扉を開くと、そこには同族の少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベートに鍛錬をつけた日の探索後。ギルドで報告を済ませた折にアポロン・ファミリアからの接触があった。カサンドラとダフネと名乗る二人の少女から、ヘスティア・ファミリア宛に宴の招待状を渡されたのである。

 アポロン・ファミリアに関する妙な噂は、勿論ベル達にも伝わっていた。昨日の彼等の絡み方を鑑みると、あながちその噂もバカには出来ない印象を持つ。自惚れで泣ければ、神アポロンは自身の噂を聞いて、何かしらの手段でベルを引き抜きにかかるだろうと予想を立てた。

 

 

「やれやれ。多分昨日の騒動は、ボクたちがこの招待を断れなくするためのものだろうね」

 

「やることが陰湿ですね。ベル様、宴は私が魔法で化けて出ましょうか?」

 

「……いや、僕が行くよ。勘だけど、僕が言った方がよさそうだ」

 

「ベル君の勘は馬鹿にできないからね」

 

 

 結局は出席と結論が出たが、最悪宴中に実力行使に出るとも限らない。正装はしつつも、もしもを考えてベルは暗器を仕込むことに落ち着いた。

 

 宴の当日、服装を固めたベルとヘスティアはアポロン・ファミリア本拠店の門前にいた。彼等の他にも多くの神や眷属がいたが一度珍しそうにベル達を見ると、すぐに会場に入っていく。そして当のベル達はというと、なんとなくアポロンの企みに予想がついており、その表情は辟易としたものであった。

 

「今まで『腹くくって楽しめ』精神で出席してたけど、今回ばかりはそうもできないよ」

 

「ごめんなさい神様。色々と迷惑かけて」

 

「違うよベル君。正直言うとアポロンはボクの甥なんだけどね。昔からちょっと問題児というか色々やらかしてるんだ。寧ろ身内のごたごたに巻き込んでごめんよ」

 

「気にしないでください」

 

 お互い謝りあうという奇妙な空気を作りながらも、二人は会場入りを果たす。すでに会場内は賑やかになっており、互いの眷属自慢やお世辞合戦の場となっていた。同じく招待されていたヘファイストスとヴェルフ、ヘルメスやタケミカヅチや命に挨拶を交わすと、余り深く関わりたくないとでも言うように会場の端へと身を置く。

 パーティーが始まってもその体制は変わらず、慣れない空気にベルはバルコニーへと出ていた。ヘスティアはというと、同じく招待されていたロキと口喧嘩となり、今もなお道目をはばからず言い合いをしている。それを他の神々も面白がって見ているという始末だ。

 

 

「……隣、いい?」

 

 

 手すりにもたれて一人夜空を見ていると、唐突に声がかけられた。その方向に目を向けると、綺麗に着飾ったアイズが両手に飲み物を持って佇んでいた。挨拶の際に見とれて何も言えなかったが、今ならなんとか口を動かせそうだった。

 

 

「ええ大丈夫です。……綺麗ですね」

 

「ありがとう。嬉しい」

 

 

 よく見ればわかる小さな笑みを浮かべ、アイズはベルの隣に移動した。ついでに片手に持っている飲み物を彼に手渡す。

 暫く無言でグラスを傾けていたが、徐にアイズが口を開いた。

 

 

「疲れてない?」

 

「あはは、やっぱわかっちゃいます?」

 

「うん。心が疲れてる感じ」

 

「慣れないですからね……」

 

 

 苦笑しながらベルは頭の後ろを軽く掻いた。その様子をアイズは、じっと見つめている。自分よりも年下だが少しだけ見上げるお位置にあるベルの顔。治療で一度だけ見た鍛え抜かれた肉体に、彼の年にそぐわない傷跡の数々。そして何度か見た戦う姿。

 己以上の脅威にも臆せずに立ち向かい、それを打ち破っていく力。しかし強すぎる力に怯え、そして見も知らぬ人をも労わる優しさを持つ。

 

 

「ベル、聞いてもいい?」

 

「なんでしょう?」

 

「ベルは、どうして戦うの? どうして知らない人のために、命を懸けれるの?」

 

 

 アイズの問いに、ベルは咄嗟に答えられなかった。アギトであることはこの際どうでもいい。それはあくまでも戦う理由の一つに過ぎない。しかしベルの予想が正しければ、アイズは『仮面ライダー』についてはほとんど知らない。主神であるロキがは話していないことを、他派閥の自分がホイホイと話していいかどうかも考え物である。

 

 

「僕の戦う理由ですけど」

 

「うん」

 

「泣いてほしくないんです。せめて自分の手が届く範囲では、悲しみの涙を流してほしくない。僕がどんなに手を伸ばしても、届かない人がいるのを分かっていても」

 

「……」

 

「でもだからこそ、理不尽に『人の自由と尊厳』が奪われていくのが許せない。それを護るのが僕の、()()()の魂に誓ったことなんです」

 

「でもそれは……」

 

「ええ、修羅の道でしょう。誰にも理解されることもなく、いずれその護る対象の人によって処断されるかもしれません。叶いそうにないと、ただの夢だと笑われるかもしれません」

 

「それでも、どれほど傷つこうがどれほど危険だろうが、たった一度だけ与えられた命はチャンスなんです。僕が僕自身を勝ち得るために、(こころ)のこの旅路を進んでいきます」

 

 

 凛とした表情で、しかしその口元には微笑みを絶やすことなくベルはそう言ってのけた。その顔は、その心は。この先に何が待ち受けていようと決して憂うことはないと、如実に表していた。それはまるで、この世界に於いて時に優しく照らし、時に雄々しく恐ろしく燃える炎のような魂。

 アイズは何も言えなかった。彼のその言葉の一つ一つが、彼女の心に打ち込まれていった。アイズとベルは気づいていないが、アイズはぼうっとした顔でベルに見とれており、彼女の頬は少しだけ赤く染まっていた。彼なら、彼ならば自分の痛みを分かってくれるかもしれない。彼ならば自分の苦しみを、自分の憎しみを溶かしてくれるかもしれないと。

 会場から綺麗な音色が響いてくる。どうやら中では舞踏会と相成っているらしい。見ればヴェルフはヘファイストスと踊っており、他の神々も己の眷属と踊ているようだ。ロキもヘスティアも、自分とバディをを組むためにベルとアイズを探しているらしく、しきりにベル達の名前を呼んでいる声が聞こえてくる。

 ベルは会場を一瞥した後、自身の前でやはり会場を見つめているアイズに向き直った。ベルが見ていることに気づいたアイズは、顔をベルの方に戻す。

 

 

「アイズさん」

 

「どうしたの?」

 

Shall we dance, lady(私と一曲いかがですか)?」

 

「あっ……I'd love to(是非)……」

 

 

 ダンスに誘われたとわかったアイズは大人びたような感じのベルに一瞬呆けるが、やがて少し頬を染めつつも誘いを承諾した。そしてぎこちないながらもベルと手を重ね、二人は舞踏会場へと入場した。

 

 

「あっ、私ダンス少ししかできない」

 

「大丈夫ですよ、僕がリードします」

 

「え? できるの?」

 

「ええ、まあ。水のエル様に修業の内だと叩き込まれたので」

 

 





――ほう、ヘファイストスとその小僧か。何用じゃ?

――ええ、実はこいつを見てほしくて。

――むぅ? ほっ!? こいつはまさか!!

――知ってるの、ゴブニュ?

――こいつはの、大昔の警備組織の機構鎧じゃよ。

――これが?

――壊れとるがな。とある未確認生命体を模したという話だ。

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