ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~ 作:シエロティエラ
――ベート、体はどうだい?
――……腹立つぐらい調子がいい。
――やっぱり、ウチに黙って変身しとったんか。
――ふん……。
――ベートが本を読むなんて……「仮面ライダー」ってなに?
――おい、勝手に見てんじゃねえ!!
――良いではないか。別にみられて困るものではなかろう?
――あれ? なんでこの本にベートや
宴会が終わった翌日、「戦争遊戯」の詳細を決めるために「
「ほんじゃ、今回もウチの進行でやらせてもらうで」
「ロキ、待ってくれ。もう一人まだ来ていない」
「なんやドチビ、まだ誰か来るんか?」
「うん、ちょっとね。ほら噂をすれば……」
ヘスティアがそう言うと同時に、会議室の扉が開かれる。そこから入ってきたのは、今まで殆どこの神会に参加してこなかった、ソーマその
当然、会議室には驚愕の声があちこちから上がり、アポロンは勿論のこと、普段は余裕さを崩さないフレイヤまでもが驚きに目を見開いている。それだけソーマが顔を出すことが珍しいことなのである。
しかし他の神々の反応を気にすることなく、ソーマは歩みを進めてヘスティアの隣に座った。
「ソーマ。来てくれたね」
「遣わされた役目を全うするため。見届けるために」
「うん。それも又、ボクたち神々の仕事だ」
当人たちにしかわからない会話を二言三言で済ませた二人は、一口だけ水を飲んで無言で両の手を組み合わせた。もう話はないだろうと判断したロキは口を開いた。
「もうええか? なら確認するで。今回の『戦争遊戯』において、アポロン・ファミリアの条件は『ドチビのとこのベル坊の引き抜く』こと。ドチビの条件は『なんでも要求をのむ』ことで」間違いないな?」
「うん、大丈夫だ」
「構わないよ」
「ああそれと一ついい?」
「何やヘファイストス?」
「私のところのヴェルフだけど、ヘスティアのところに『
前触れのない報告に神々は再度驚いたが、眷属たちのこれまでの行いを鑑みると納得できないわけではない。ヘスティアとヘファイストスは事前に協議済みなのか、特に騒ぐこともしない。それを見たロキは冷静さを取り戻し、一度机上のベルを鳴らして全員を静まらせた。
「話を続けるで。条件の承諾は両ファミリアから得られたから、次はゲームの形式や」
「全員参加型に決まっているだろう? 聞けばベル・クラネルは中層のモンスター群を単独で撃破できるというじゃないか。それに彼の噂は耳に入っているよ? そんな彼に単独で戦わせるなんてさせるわけないじゃないか?」
「よく言うよ」
「それに、そっちの方が大層盛り上がりそうだとは思わないかい?」
「ご自由にどうぞ。言っておくけどアポロン、ボクは相手が甥の君であろうと容赦はしないよ」
アポロンのその発言に、宴会の時と同様他の神々が「大人げない」だの「容赦ない」などとヤジを飛ばす。しかしアポロンもヘスティアもどこ吹く風、アポロンは見下すようにヘスティアを見つめ、ヘスティアはヘスティアで面倒臭いとでも言うように頬杖をついている。
何も言わないヘスティアに気を良くしたのか、アポロンが進行役であるロキを無視して話を進めていき、ゲームの方法は「攻城戦」ということで落ち着いた。
「相応の城も見繕わなあかんし、ゲーム開催日はギルドと協議して決めなあかんから解散やな」
「じゃあねヘスティア。当日を楽しみに知っているよ!!」
ロキの締めで、アポロン含めた神々は退室していった。それら神々の中ではヘスティアの敗北で決まっているらしく、出ていきながらもヘスティアの眷属が何処まで食らいつけるかだけを話していた。ファミリアの所属人数を考えればそう結論づけるのは理解できなくはないが、些か配慮が足りないようにヘファイストスは感じていた。ただ当のヘスティアがあくびをしているのを見て、心配するだけ無駄なのではとも考えてしまう。
最終的に部屋に残っていたのはヘスティアとロキ、ヘファイストスにヘルメス、ソーマ、タケミカヅチ、そしてミアハの七柱だった。
「ロキ?」
「なんやドチビ」
「できれば場所は更地になってもいい場所にしてほしい」
「理由を聞いていいか?」
「うん。ここには関係者̪しかいないから言うけど。嫌な予感がするんだ」
「予感? もしかして昨晩の警告のこと?」
ヘスティアの言う予感に、全員が昨晩の水のエルロードの発言を思い浮かべた。本来静観を貫いてきたエルロードや創造主が危惧するほどの事態となると、ただ事ではないというのが神々の共通認識である。まさかそのような大事が、「戦争遊戯」の最中に起こるとでもいうのだろうか。
「いや、水のエルの警告とは別のものだ。この際だから言うけど、ベル君が以前とある事情で里帰りした折に、ベル君の故郷がアレスに襲われたんだよ」
「アレスに!? ありえん、彼は軍事王政国家であるラキアを拠点にしていたはずだ!!」
「うん。普通なら一都市を拠点とする神が、何処にでもある廃れかけの村を襲うなんてありえない。でもその村にどうしても見過ごせないものがあったら?」
「ドチビ、勿体ぶらずに言え。お前、何を見たんや?」
言葉を選ぶようなヘスティアに業を煮やしたロキが結論を急がせる。彼ら彼女らにとって、ヘスティアは怠け癖など色々と短所は目立つものの、人の本質を見抜いたり、この先起こりうる悪い予兆を感じ取る勘などは馬鹿にしていない。それは顔を合わせれば口喧嘩をするロキも認めるところである。
だからこそ、ヘスティアが危惧するほどの事態が何なのか、その一欠けらだけでも知りたいのであった。
「ベル君の育ての親、それは天界に送還されたと思われていた我が弟、ゼウスだったんだよ」
「「「「 何だって!? 」」」」
「ゼウスが、父上が生きていた?」
「似た風貌の男の噂を聞いていたが、まさか本当に我らが父ゼウスが……」
「ちゅーことはなんか? アレスはゼウスが生きとるのをどっかで聞いて、確実に殺すために襲撃したというんか?」
「そうだよ。そしてその襲撃方法が、疑似的にアギトの力を使うことさ」
アレスの襲撃方法に再度一同は驚愕の声を上げるが、ヘスティアの説明に何とか冷静さを取り戻し、そして彼女の危惧することに当たりをつける。アポロンはアレス共々、かつての神話では何度か問題を引き起こしている。それは他の神々も大差ないのだが、長き時の中で改めるどころか更にその短所を助長させてしまっている。是にはギリシャ神話の体系に位置する神々は頭を悩ませており、天界にいるときから何度も諫めているが聞く耳を持たなかったのだ。
「……なるほどな。アレスの後ろに暗躍しとるやつがいる」
「その者がアポロンと接触を図っておるかもしれぬと」
「ねぇヘスティア。今回のその悪い予感って、ベルが感じたことなの?」
「その通りだよヘファイストス。彼のアギトとしての勘は馬鹿にできない。それこそみんな知っていると思うけど、アギトの勘っていうのは一種の予言に近しいものなんだ。そのベル君がゲームで何か起こる感じている」
「……そういやベートも嫌な感じがする言うとったな。分かったわドチビ、お前の言うようオラリオから少し離れた場所で話を進めるさかい、庵安心しいや」
「頼んだよ、ロキ」
ヘスティアはそう言うと会議室を出ていった。他の神々も中々の事の重大さを感じ取り、予め備えておくためにホームへと戻っていッた。
「そうだロキ。ヘスティアのチーム編成はまだ申請してないだろう?」
「まあこれからやけど、どうしたんやタケ、それにヘルメスも?」
「いやなに、戦力は多いに越したことはない。それに許可はとってある。まぁ彼女の子らに良くしてもらっているサプライズさ」
「まぁええわ。ほんで、どうするんや?」
「我がファミリアからは助太刀を」
「僕からは物資補給の資金だね」
「……わかった。それもギルドに伝えとくわ」
その言葉を最後に、今度こそ会議室は無人となった。なお、後日それを知ったヘスティアは
神会による決定から数週間ほど。
ゲーム開催日が決定したことにより、ベルとリリ、そして改宗を済ませたヴェルフはゲーム会場に向かう馬車の荷台に乗っていた。既にアポロン・ファミリアは現地入りしているそうで、ゲーム前に拠点となった城の外壁などを修繕しているらしい。
そしてこれはヘスティア・ファミリア全員が驚いたことなのだが、タケミカヅチ・ファミリアからヤマト・命がサポートとして参加し、またゲーム後にヘスティアファミリアへの期間限定での改宗を望んでいるという。特別この申し出を断る理由もないため、本人がそれを望んでいれば良いという判断をヘスティアは下した。
「そろそろ出発だね。みんな忘れ物はない?」
「おう、心配ないぜ。本当は隠し玉があったんだが、流石に間に合わなかった。すまねぇな」
「大丈夫だよ。リリと命さんは?」
「大丈夫ですよベル様。ポーションもミアハ様のところで取り揃えてますし」
「自分も問題ないです。武器の整備も十分です」
全員の状態を確認し終わると同時に馬車が動き出した。ゆっくりと走り出したそれに、しかしベルは後方から近寄る気配を感じてそちらに顔を向けた。そこには必死の形相で走ってくるシルの姿があった。
「シルさん!? 何故ここに、というか危ないですよ!?」
「ベルさん。これを!! これを渡すために!!」
走り寄るシルの手には、緑に輝く宝石の首飾りが握られていた。大事なものなのだろう、だがベルの勝利と生還を願って彼女はこのお守りを託すと決めたのだった。徐々に彼女との距離が離れていくが、何とかベルに首飾りを渡すことができた。偶然かはたまた馭者が気を聞かせてくれたのか、渡し終えるとともに馬車はスピードを上げて更に遠ざかっていく。
「どうか、どうか勝ってください!! お店でおいしい料理、たくさん作って待ってますから!!」
「シルさん……はい!! 必ず勝ちます!! だからシルさん、待っててください!!」
何度も客と店員として接し、時にはプライベートでも関わる中で垣間見た彼の人柄に惹かれ始めたのはいつだったか。自分でも定かではないが、それでも好いた相手の勝利を願い、シルは姿が見えなくなるまでベル達を見送ってた。
やがて見えるのは地平線だけとなり、今日も今日とて店の給仕をするためにシルは踵を返した。
「……っ!? 痛……い。なんか最近よく頭痛が。それに、何か嫌な感じもする……」
しかし彼女にも何かが、確実に起きていた。
──────────
一方その頃のアポロン・ファミリア。
拠点となるシュリーム古城跡地を修繕しながら戦いの時を待っていた。とはいっても対するのは総勢四人の弱小ファミリア。総団員数が百人前後おり、半数近くがレベル2以上の自分たちが万に一つも負ける要素はないと高を括っていた。
しかしただ一人、夢という形で稀に予見をするカサンドラだけが焦燥に駆られており、同僚のダフネに縋り付いていた。
「お願いダフネちゃん、一緒に逃げよう? 今ならまだ間に合うから、お願い」
「できるわけないでしょう? 第一四人相手にどうやって負けるのよ?」
「光が、炎が覆いつくして……だめ!?」
「まったく、どんな夢を見たのよ?」
作業の手を止め、ダフネはカサンドラに向き直った。これでも彼女らは友人同士であり、ダフネもカサンドラが予知夢を見ることは知っている。ただその夢が非常に要領を得ずに、また空想的な表現の者が多いため、話半分に聞くことも多い。
「天で調子づいた太陽が、黒い雲からもらった何かを人類に渡すの。それ原因で人間は龍の紛い物になっちゃう。それを見て怒った『釜戸の炎』と『なにか』が、光り輝いて且つ燃え上がってる龍を遣わすの」
「考えすぎじゃないの? それにドラゴンって、『黒龍』の討伐じゃあるまいし」
「龍はその輝きと炎で太陽を堕として、太陽に偽物の龍にされた人間は本物の龍によって倒されちゃう。偽物の龍の子供も、輝く龍の仲間たちと駆け付けた狼の王によってコテンパンにされちゃう」
余りもの荒唐無稽な内容に、ダフネはあきれた表情を隠そうともしなかった。その顔を見たカサンドラも、落ち込んだようにシュンとしてしまう。しかし共に逃げることをあきらめていないのか、ダフネの服の裾をつまんだままだった。
「いい加減にしなさい!! 所詮は夢なのよ、あんたは気にしすぎ!!」
「で、でも……」
「『でも』も『スト』もない!! ほら、さっさと手を動かして仕事をしなさい!!」
そう強めに告げ、ダフネは己に課せられた作業に戻った。暫くはその背中を見つめる悲し気な視線を感じていたが、やがて諦めたのかゴソゴソ物を動かしたりする音が聞こえ始める。
「それに、本当にこのファミリアを潰してくれるなら。このファミリアを離れられるんなら本望じゃない……」
そんなダフネの呟きは誰に聞かれることもなく、大気の中へと消えていくのであった。
――すばらしい!! 何故我が兄弟はこれを独り占めしていたんだ。
――これは試作品だ。酷使すれば当然壊れるぞ。
――何でもいいさ!! これさえあれば、ただでさえ勝ち以外見えない勝負だけど、これのおかげで我らの完全勝利になる!!
――まぁそれは不完全なもの、どんな弊害がおこるかは……。
――ああそう言うのはいいから!! これはヒュアキントスに渡しておこうかな。
――……警告はしたぞ。