ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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――ベート。

――あ? 団長か。

――行くのかい?

――悪いが止めても俺は行くぜ。

――仕方がないね。ただ君の覚悟を確かめたかったのさ。

――満足か?

――うん。今回は君のやりたいようやっていいよ。

――『仮面ライダー』、ね。彼は一体何を背負っているんだろうね、ロキ。




41. 戦争遊戯・破(一)

 

 

『……は? な、何が起こったのでしょうか? わ、私には流れ星が落ちてきたようにしか』

 

 

 鏡に映しされた映像に、実況も都市の観覧者も言葉お失ってしまう。

 砂塵が舞い、瓦礫が散乱している中、正門近くにいたアポロン・ファミリアの部隊はそれぞれの安否確認を行っていた。余りにもの衝撃と規模に視界は遮られ、判断できるのは冒険者たちが発する声だけである。

 しかし運よく軽傷で済んだ隊長が呼び掛けても、それに返答する声が聞こえない。うめき声の様な物は聞こえてはくるのだが、誰それが無事か負傷しているのかの報告も上がってこない。それどころか、何かに打ち据えられている音ばかりが響き、そのたびに誰かが倒れていく音も続く。

 

 

「ど、何処にいやがる!? 出てこい!!」

 

 

 何が起こっているのかわからず、恐怖に吞まれた指揮をしていた冒険者は大声を上げて威嚇した。しかしこの手段はこの状況においては悪手である。視界を遮られ且つ敵の生死が不明な状況において大きな音を出すことは、自分の場所を知らせているのと同義である。

 

 

「どこだ!? 逃げやがったのか!?」

 

「……こんなやり方好きじゃないけど」

 

「なっ、下!?」

 

 

 だからか、冒険者が気付いた時にはすでに遅く、ベルの拳が腹に衝き入れられた。その衝撃と痛みに肺の中の空気が全て押し出され、間もなく気絶する。他の冒険者も同様、正門に集まっていた冒険者たちは軒並み倒され、気を失っていた。ベルの愛剣を使われなかったのは、彼の優しさかそれとも甘さか。

 

 

「なんの音だ!?」

 

「おい、正面が崩壊してるぞ!!」

 

 

 騒ぎに気付き、城内から何人もの冒険者が出てくる。そのころにはある程度の砂塵は風に払われ、なんとか被害状況を確認できるほどには視界を確保でできる程度には回復している。駆け付けた冒険者たちが目を凝らした先には、死屍累々という表現が最適といえるような、地面に倒れ伏す多くの冒険者と、その中央に多少の土埃で汚れながらも立っているベルの姿だった。

 

 

「はあ!? あの兎野郎ってレベル2程度のはずだろ!? なんでやられてんだよ!!」

 

「そう言えばまだ公になってませんでしたね。僕のレベルは5、つい一昨日久しぶりにステイタスを更新したら上がってました」

 

『うっそだろふざけんなああああああ!?!?』

 

 

 けろっとした顔でそう言いのけるベルに、相対している冒険者たちは勿論のこと、図らずもオラリオ中の声が一致した瞬間であった。レベル5ともなれば、オラリオでも上位に入るほどの実力を持つ証である。ファミリアに入って一年もしていない駆け出し冒険者が、そんな簡単に至れるような次元ではないのだ。

 

 

「へ、ヘスティア!! どういうことだ、まさかギルドに偽りの申請をしていたのか!?」

 

「いいや違うよ。一昨日彼のステイタス更新をして、昨日提出したんだ。だからみんなが知らないのは無理ないだろうね」

 

「へ、屁理屈を!!」

 

「それよりも試合を観ようじゃないか」

 

 

 バベル三十階では、アポロンがヘスティアにかみついていたが、彼女は取り付く島を見せなかった。別にインチキや虚偽をしているわけでもないし、事実ベルのステイタスを聞かれたときはまだ更新を行っておらず、ゴライアス騒動直後のステイタスのままだったのである。

 

 

「い、いつの間にか私よりも強く……」

 

「ん~でも仕方ないんじゃない? 英雄君はアギトだし、人よりも強くなるのが早いのかも」

 

「そう。だから急な成長に心がついていかなくて暴走した」

 

「あ……あのマグマのような姿の」

 

「でもあの子は克服したわ。だから相応に成長しててもおかしくない。そもそもアギトを、私たちのレベルという概念で縛ることが変なのかもね」

 

 

 ロキ・ファミリアの面々は冷静にベルの成長を分析する。主神であるロキからアギトについての説明されているため、まだまだ理解できる範疇にある。とはいえど、若干羨ましいと思ってしまうのは仕方のないことだろう。

 

 

「さて、流石に不意打ちは出来そうにないですね」

 

 

 ベルはリラックスした雰囲気を崩さず、それでいて背中の二刀を抜かずにゆっくりとか構えを取った。見る人が見ればわかる、アギト・グランドフォームの徒手空拳の構えである。ベルからすれば相手殺さずに済み、且つ無力化できる方法であろ、更に加えるならばある意味最も全力を出せる戦い方である。

 しかし当然と言えば当然か。一度相手をしたことあるモルドや見たことのある取り巻き達。その他正しく相手の実力を測れる力量を持つ者は除いて、現在ベルと相対する冒険者たちの殆どは、自分たちが舐められていると感じた。

 

 

「貴様、馬鹿にしてるのか!!」

 

「やってしまえ!!」

 

 

 頭に血が上った冒険者たちが一斉にとびかかるも、ベルは流れる水のような身のこなしで除けていき、腹や顎に一撃を入れて昏倒させていく。いくらレベル5を誇っていても、正確無慈悲に急所に当てることは非常に困難である。それを成し遂げられるのは、ひとえにアギトの力との親和性が増し、技量が爆発的に底上げされたからと言えるだろう。

 鏡越しでは、ベルが千切っては投げ千切っては投げというように、襲い掛かる冒険者たちの意識を容赦なく刈り取っていく。彼等彼女らが重ならないように倒れ伏しているのは、偶然とは思えないだろう。

 

 

「ば……化け物……」

 

「失礼な。少なくとも心は人間ですよ」

 

 

 一人残って及び腰になっていた冒険者も、顎をかすめ脳を揺らして気絶させる。ここまででアポロン側の冒険者は負傷者多数、死亡無し。なお、ファミリアの半数近くがゲーム中の復帰が不可能という結果となった。そしてそれを成し遂げたベルはというと、ところどころ魔法による火傷や切り傷、矢傷が見植えられるものの、大きな消耗は見受けられない。

 

 

「嘘でしょう? たった一人に半分もやられたというの!?」

 

「はっ!! 敵は単騎で、尚且つ空から強襲した模様!! 衝撃で外壁守護の半数近くが戦闘不能になり、その後駆け付けた救援含めて総て制圧されたようです!!」

 

「空から、ですって? 天が遣わした輝く炎龍……まさか……」

 

 

 城内に残っていたダフネは、伝令役からの報告に開いた口が塞がらない心境だった。急なレベルアップも驚くところだが、リタイアした冒険者はレベルが2前後の者ばかりであっても、量でかかれば苦戦は必至だろう面子なのである。それがあっさりとやられることに納得がいかない。

 

 

「報告です!! 敵勢力第二波が、当城裏門を制圧した模様!!」

 

「何ですって!? ベル・クラネルならともかく、他の面子はそんな高いレベルじゃないはずよ!!」

 

「それが……裏門がいつの間にか開かれており、警備の者もこの短時間で戦闘不能に陥ったようです……」

 

「冗談じゃないわ!! だいたいそんなに小さくないこの城の裏手に、どうやって回り込むというのよ!!」

 

 

 ベル達が扱っているバイクは、勿論この時代には失われたものであり、そのスピードの知識なども残っていない。そもそもヴェルフたちが気付かれなかったのは、ベルが正面で大暴れしていたからであり、そうでなければこんなに容易に裏門を制圧などできようもない。

 残った人員でどのように相手をと考えを巡らせていると、彼女たちの後方から何かを力尽くで壊す音と生じた風圧が襲い掛かってきた。飛び交う小石や砂塵に目を覆うも、何とか衝撃の発生源にダフネは目を向けた。

 

 

「よお。初めまして、だったか? 悪いがお前らをベルのところにはいかせねえぜ」

 

 

 視線の先にいたのは真っ赤な髪を湛えて背中に大剣を背負い、左手にボウガンのような、しかし意匠の違う見たことのない武器を抱えた青年だった。青年は左手の武器をしまうと背中に手を回し、大剣ではなくアタッシュケースのようなものを取り出す。

 

 

「あー確かコードはっと。『132』で合ってたか? おっ、開いた開いた」

 

 

 青年はケースの横の突起を押すと、ダフネたちが驚きで動けないことをいいことにケースを組み替え、鉄筒を六本ほど組み合わせた絡繰りへと変形させた。

 

 

「さて、卑怯なんて言わないよな? こっちは出来るだけの準備をしたんだ。まさか見たことないもの使ったからってイチャモンつけたりしないだろう?」

 

 

 そう言いながら青年は六つの穴をダフネたちに向ける。そこに来てようやく彼女たちは、その絡繰りがボウガンのような射撃武器だと気づいた。しかし時はすでに遅く、彼女が防御の指示を出す前に引き金が惹かれてしまった。

 小規模だが小さくない連続した爆発音に彼女たちの聴覚は一時的に奪われ、次いで全身に襲う痛みに声すらも上げることができなくなってしまった。およそ数十秒の間に、この場に立っているのは青年とダフネだけになっていた。恐る恐る彼女が振り返った先には、血こそは流していないものの、腕や足など肌が見える箇所に青痣をこさえている冒険者他tだった。よく見れば、足元には小さな黒い玉が大量に転がっている。

 

 

「安心しな。誰一人殺しちゃいねえよ。ウチの団長が無暗な殺生を許さねぇし、俺も好きじゃねえ。特殊な弾だから、一発一発は痣ができる程度だよ」

 

 

 青年はそれだけを言うと絡繰りをしまい、今度は背負う大剣を引き抜いた。

 

 

「さぁ、今度はこっちでやろうぜ? 邪魔者もいねえしよ」

 

 

 ニヤリと歪んだ青年の表情は、ダフネにとっては獲物を見つけた肉食獣のようにしか見えなかった。彼女は気づいていないが、彼女の武器を持つ手は小さく震えていた。

 






――ウォッチの対応はあの者に任せるとして、アポロンは如何様に?

――それはあなたたちに任せよう。最悪天界送還も辞しません。

――御意。

――できるなら、ウォッチの入手ルートを聞き出すように。

――暗躍者の割り出しでしょうか。

――その通り。風と土もアポロンにつけておきます。

――かしこまりました。


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