ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~ 作:シエロティエラ
――ちょっ、ちょっと!? 何よあの武器は!?
――銃っていうらしいけど、まさかロストエイジの?
――で、でもロストエイジの道具って朽ちて使えないはずです。
――多分ゴブニュ様のとこじゃない? ほら、英雄君のバイク直したのもあそこだし。
――成程。だからあの鍛冶師さんもバイクを持っていたと。
――でもよく扱えるわね。たぶん相当肩や腕に負担があるはずよ。
――そうだよね。……あれ? ベートはどこ?
ダフネ率いる部隊と、外壁に配置されていた部隊の全滅は総司令を担うヒュアキントスの耳にも入っていた。たった四人の冒険者にここまで言いようにされている現実に、全くの理解ができずに彼は癇癪を起こす。
「まだ始まって一時間も経過していないというのに……何が起こっている!? 『
「報告です!! 傍聴したところ、敵頭領ベル・クラネルは一昨日のステイタス更新にてレベルが5に上昇している模様!! 本人の虚言でなければ、異例の成長です!!」
「レベル5だと!? たった数週間で2程度から三つも上がるわけないだろうが!?」
「失礼ですが、我が勢力の半数を討ち取った事実を鑑みると強ち嘘ではないかと!! ここはひとつ、本陣を離れてベル・クラネル以外の無力化を図るべきです!!」
「ええい、黙れ黙れ!! 貴様はもう口を開くな!!」
頭に血がの乗り切っていたヒュアキントスは部下の忠言に対しても、耳に逆らうと言わんばかりに怒鳴りつけて黙らせた。頭に多量の汗をかき、必死に頭を働かせて打開の策を練り上げていく。しかしどう考えても、ベル・クラネルを撃破する策を思いつくことができない。加えて彼の頭には、先程の部下の忠言など忘却の彼方に置かれていた。
「団長様!! どうかこの場から逃げてください!!」
「ええい貴様もしつこいぞ、カサンドラ!!」
ヒュアキントスの側にいたカサンドラは、夢で予知をした影響か頻りにヒュアキントスに撤退を促している。が、やはり彼は聞く耳を持とうとしない。今までカサンドラの予知は外れたことはなく、大まかにではあるが当たっている。しかしその内容が内容だけに、信用する者が極端に少ないのである。
「仮令奴らが不可思議なことを行っていようとも所詮は四騎、他が落ちればベル・クラネルも多勢に無勢で押し通せる!! それに万が一があっても、アポロン様に託された
ヒュアキントスはそう言うと、懐から黒色の禍々しい懐中時計を取り出した。些か絡繰りじみているそれには、怪物のような顔が描かれており、時計なのになぜか長針と短針が見当たらない。
「ああ!? いけません団長様!! それだけは、それだけは決して使ってはいけません!! なにか……侵してはならない『ナニカ』の怒りに触れてしまいます!!」
「この世に神より高位な存在などあるものか!! その神からこれを託されたのだ、何の怒りに触れると!? 貴様も黙っていろ!!」
「龍の……『世界』が遣わした輝く炎龍の一撃が……ああっ!?」
「いったい何の話を……」
ヒュアキントスの言葉は最後まで語られなかった。先程まで縋り付いていたカサンドラが、突如予想外の大きな力で彼を玉座から月ばしたのである。初めはそんなことをしたカサンドラに怒鳴りつけようと考えたヒュアキントスであったが、それもすぐに頭からすっぽ抜けることになる。
鼓膜が破れんばかりの轟音と共に天井が崩れ、いくつもの巨大な瓦礫が玉座に降り注いだのである。もしカサンドラが彼を突き飛ばしていなければ、確実に下敷きになっていただろう。
「な、何が起こった?」
先程ヒュアキントスに忠言をしていた冒険者が、呆然とした様子で玉座の方を見つめていた。彼の視線を追うように全員が玉座に目を向けると、そこには白銀の髪を土埃で汚しながらも堂々と立っているベル・クラネルの姿があった。既に背中の二刀は抜かれており、それぞれの柄頭で組み合わせて両剣の形になっている。普通の両剣と異なるのは、刀身が折り畳まれて
「ベル……クラネル……」
「さぁ、邪魔者はいません。あなたたちは此処で、僕と戦ってもらいます」
そう言うとベルは手に持つ獲物を投げつけ、天井の不安定になっている部分を全て打ち砕いていった。遮るものがなくなったことにより、雲一つない空と照り付ける太陽が顔をのぞかせる。太陽の象徴として名高いアポロン、しかしその眷属の見つめる先で照らされるベルが、太陽ではなく光そのものに愛されているように感じられた。天井が開いたためか、彼の横に浮いていたボードは空に走り、広間から姿を消した。
「くそ……クソクソクソクソクソクソ!! 図に乗るな、三流ファミリアごときがあああああ!?!?」
冷静さを失ったヒュアキントスが緋色に輝く己の剣を抜いてとびかかっていった。しかしベルは冷静にそれをはじき、彼の腹を蹴り飛ばしていく。ステイタス更新をしなくても、彼の一撃に然程ダメージを受けることはない。しかし刃物を扱っている以上、業物であれば怪我もする。
腐ってもヒュアキントスはレベル3でありそれ相応の技量も持っているため、得物が優良であれば危険である。加えて冷静さを失っている分、何をやらかすか分かったものではない。
ベルは一度ヒュアキントスの剣をはじいた後、両剣形態から二刀流に戻した。左は逆手に持ち、右の剣先をヒュアキントスに向けるように構える。
「くっ。お前たち何している!? さっさと奴に攻撃しろ!!」
焦るヒュアキントスは汗のにじむ顔で部下たちに怒鳴った。そこにはいつものクールな雰囲気は露程にもない。しかしようやく呆然自失とした状態から復活したのか、一人また一人と己の得物を手に持ってベルに襲い掛かった。
先程の外壁での戦いとは異なり、全員が一定以上の力量を持ち、尚且つ連携もできているため、ベルも目を走らせながら攻撃をさばいていく。しかし敵もさること、時折嫌な角度から攻撃を加え、少しずつだがベルの鎧にも傷が入っていく。そしてついにというべきか、ヒュアキントスの放った突きがベルの頬をかすめた。
「は……ははは……いいぞいいぞ!! このままこいつで止めだ!!」
顔に傷をつけたことにより調子を取り戻したのだろう、ヒュアキントスは懐から黒い時計を取り出してベゼルを回してボタンを押した。それを見たベルの顔が、驚きと共に憤怒に染まる。それを間近で診てた冒険者たちは、自然と距離をとってしまった。
《ÅGⅠTΩ》
禍々しいオーラと共に、地獄から響くような音をとどろかせた時計は、ヒュアキントスの体に溶け込んでいき、黒い靄で覆っていく。ヒュアキントスはやがて形を変えていき、若干だが人ではない姿がわかるほどにまで変形していた。そして黒い靄が晴れた頃には、くすんだ黄金に全身を覆われ、苦しみに歯を食いしばったような顔をした異形が立っていた。
「団長……? なんですかその姿?」
「まるでモンスターだ……」
「使ってしまった……『偽りの龍』が、出てきてしまった」
部下たちがもろもろの反応を示す中、唯一カサンドラだけが絶望に顔を染めていた。止めることができなかった自分への怒りと、天罰を下す存在への恐れに。
誰一人動くことができない中、唯一ベルだけが咄嗟に行動をした。「敵だから救う必要はない」と戦争を知る者ならば、何人かはそう言うかもしれない。しかしベルの中では、最早戦争遊戯は二の次となるものに成り下がっていた。
呆然とするアポロン・ファミリアの冒険者たちの襟首をつかみ、急いで自分の後方へと下がらせる。目の前でねじ曲がった二刀を構えて高笑いする様は、ヒュアキントスの意識を残していないようにも見えた。事実、かれはウォッチの力に飲み込まれ、殆ど自我を残していない。頭に残っているのは、アポロンへ勝利を捧げることと、目の間の
「……カサンドラさん、でいいですか?」
「え? あ、はい!!」
「できるだけ他の人を連れて離れてください。可能なら城からも離れてくださると尚良いです」
「お、おいアルファ。お前、アレが何か知っているのか!?」
「ええ、遺憾ながら。あれは無理やり自分の分身を作り出します。それも近くにいる人を使って」
「近くの……ということは俺たちも?」
「はい」
高笑いを続けている間に、ベルは簡単に状況を説明した。アナザー・アギトの能力として、周囲の人間のアギト因子を無理やり覚醒させるものがある。目覚めると、余程の幸運がない限り正しくアギトとなる確率は非常に低い。ほとんどが自我をなくし、人にもアギトにもなれない中途半端な存在となって苦しむだけなのだ。そのような苦しみを、二度と誰かに味わわせたくなかった。
「あれが出た時点でゲームは破綻しています!! 外に僕の仲間がいますから、気絶している他の人達も運んでください!! 手遅れになる前に、早く!!」
ベルはそう言うと腰から小さな筒を取りだし、火をつけて上空に投げつけた。筒は天井の外に行き、そこから赤い煙を途切れることなく出し始めた。
「……あれは?」
「ヴェルフ殿、あれはなんでしょうか?」
「ベルに渡してた発煙筒の一つだが……赤色ってことは非常事態ってことか!?」
「ヴェルフ様!! ベル様がアレを使ったということはもしや!!」
「ああ、ゲームが破綻した。急いでずらかるぞ!! できるだけ大きい荷車を数台持ってきてくれ!! 城にいるやつらを運ぶ!!」
「「 はい!! 」」
城の上方で焚かれた発煙筒に、事の重大さをヴェルフたちは把握した。外壁近くにいる者たちは後回しにし、場内に残る冒険者たちを運びだすためにヴェルフと命は城に入っていく。
幸いなるかな、ヴェルフが制圧した者たちは外に近い場所に集められていたため、それほど運び出すのに時間はかからなかった。問題はそれ以外の冒険者である。ヴェルフが把握していないだけで、上階にも何人かの冒険者たちはいた。ただベルが上空から攻めたために、遭遇しなかっただけである。
荷車への積み込みと城外への運び出しは命とリリに任せ、ヴェルフは上層へと急いで駆け上っていった。先程から刃物がぶつかり合う音が聞こえてくるため、嫌な予感がぬぐうことができない。そしてヴェルフの予想は、悪い方向で当たることになった。
「おいおい。なんだありゃあ?」
ヴェルフの目に映ったのは、頭だけがアギトのように変形しており、本能に従うままに武器を振り回す冒険者たちであった。そしてそれら成り損ないは、まだ変身していないカサンドラたち冒険者に武器を持って襲い掛かっていたのである。
「しゃあねぇ!! 悪く思うなよ!!」
腰のホルダーからGG-02を抜き放ったヴェルフは、拳銃の引き金を引いて成り損ないに当てていく。流石にアギトに覚醒しかけただけあって、多少のノックバックは受けているものの、普通の冒険者のように痛みに悶える様子がない。しかし気を引くことができたのか、成り損ないたちは一斉に注意を向けた。
「おい!! 無事なやつはいるか!!」
「はい!! ここに何人か!!」
「俺が注意を引くから、他の無事なやつを連れて外に出ろ!! 負傷者は用意してる荷車に優先的に乗せていけ!!」
「あ、ありがとうございます!!」
何とか全員を運び出させることに成功したが、ヴェルフは成り損ないの群れに囲まれてしまっていた。ケルベロスの弾倉を何度か装填したが、そろそろ弾薬も尽きてしまいそうである。実戦用の魔石弾を用いてはいるが、それでも単騎でどうにもできる物量ではなかった。
ついにGX-05もGG-02も弾切れを起こし、使える武器は背中に背負う大剣のみとなる。ヴェルフは魔剣を鍛えられるし一応魔法を使うこともできるが、ベルのようにアギトに変身したり、命のように重力魔法で拘束することもできない。まさに絶体絶命の状況に陥っていた。
「……たはは。やってみて初めて分かるぜ。殿を務めて生き残るって、滅茶苦茶難しいんだな。やっぱベルはすげえや」
せめてもの威勢として苦笑いを浮かべるが、応えるのは成り損ないたちの唸り声だけだった。
「へっ。だがここでくたばる訳にゃいかねえんでな。最期まで付き合ってもらうぜ!!」
大剣を構えなおし、異形の集団へと切り込んでいく。人を切る嫌な感触に辟易としつつも、自身が生き残るために武器を振るい続ける。ヴェルフにとっては顔も知らない、自分たちを蔑んできた相手を切ることであったが、それでも人を殺めていることには変わりない。知己を葬ったというベルの心境を思うと、敵の撃破を素直に喜ぶことができない。
しかしうじゃうじゃと蟻のように沸いてくる異形たちに、ヴェルフも疲労が溜まる一方であった。ゴブニュに整備の過程で偶然制作された通信機で、避難者は全員ヘスティア・ファミリアの拠点へと到着して治療も済ませているらしい。ヴェルフも撤退するように指示を受けたが、そこで敵の攻撃によって通信機は壊されてしまった。加えて四方を異業たちに囲まれ、大剣も折れてしまって成す術がない。
「悪いベル、リリ助、命、ヘスティア様、ヘファイストス様。俺ここまでみたいだ」
折れた大剣を杖のようにつきながら、あちこちに怪我を負った肉体を支えて立ち上がる。倒した異形は爆散しているために復活はしないが、それでも三十はくだらない数の異形が残っていた。痛む体に喝を入れつつ、再度剣を構える。死に体の彼には戦う力は遺されていない。どちらにしても彼に時間が残されていないのは、誰が見てもわかった。実況も観戦者も声が届かないことがわかっていながらも、必死に声を上げて逃げるように促す。
誰もが終わりだと考えたその時、高めのエンジン音が響いてきた。ヴェルフ含めた全員が、城の外へと意識を向ける。ヴェルフが把握している限り、オラリオでバイクを支持しているのは自分とベルだけのはずだった。しかし聞こえてくるエンジン音は、トルネイダーともガードチェイサーのとも異なる。
そのエンジン音は段々と近づき、壁を破壊してヴェルフのいる広間に突っ込んできた。飛び込んできたナニカはバイクを駆使して異業を跳ね飛ばし、ヴェルフを囲む包囲網を打破して側に停車した。ベルのバイクよりも更に軽量そうなバイクに騎乗したその男は、ムスっとした表情を崩すことなくヴェルフを睨みつけている。
「あんたは、ロキ様のとこの『
「……ほらよ。ゴブニュん所からテメェにだ」
バイクに乗っていたベートが投げ渡したのは、GX-05ケルベロスの弾倉といくつかのポーションだった。唖然とした様子でベートを見つめるが、今が非常事態ということもあって黙って弾倉を組み替え、ポーションを飲み下す。
「感謝するぜ。そうか、ベルが言っていた頼りになる奴ってのはあんただったんだな」
「兎野郎に何て言われてようが関係ねえ。オラ、生き残るんなら逃げるか戦え!! 変身!!」
バイクを降りるとともに、ベートもギルスへと変身する。ベート自身は語る気がないのだろうが、彼も『ライダー』なのだろうとヴェルフは当たりをつけた。そうでなければ噂に聞く凶狼が、こんなところに乱入してまで救援に来ないだろうからである。
語るべきことなどない。今は目の前の脅威を打破するのみ。
自然背中を突き合わせるように立った二者は、己が得物を構えて異形の群れへと攻撃の楔を打ち込みに行った。
――神アポロン。貴様ハ侵シテハナラヌ領域ヲ超エタ。
――我ラガ主ニヨル決定、逃レウルト思ウナ。
――何を根拠に!? 私が何をしたというんだ!!
――諦めるんだ、アポロン。君はテオス様の怒りに触れたんだ。
――そ、それではアレスはどうだというんだ!? あいつも使っていたんだろう!!
――ソノ者ニモ間モナク裁キガ下ル。