ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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お待たせしました、続きの更新です。
今回も申し訳ありませんが、薄味気味になっているかもしれません。

それではどうぞごゆるりと。


47. 画策

 

 

 明くる朝、まだファミリアの面々が寝静まっている間に、ベルの姿はある場所にあった。元アポロン・ファミリア拠点を改築したその土地の地下、鍛冶場や訓練所の他にも、その日の経理などを行う執務室の様な物も施設にはある。しかし実は、その部屋から更に地下に通じる隠し通路があることをベルと建築担当、そしてある人物以外は知らない。

 件の隠し通路にやってきたベルは、そのまま奥へと進んで一つの部屋へと入った。特に大きいわけでもなく、およそ六畳ほどの部屋の天井は2メートル程度の高さしかなく、部屋の真ん中に小さめのテーブルと対面になるよう配置された椅子。ほの暗く室内を照らす小さなランタンしかなかった。

 しかし二脚のうちの一つには既に先客がおり、ベルが来るのを待っていたみたいである。

 

 

「それで、早朝に僕を呼び出したのは理由をお伺いしても?」

 

「一昨日の晩に依頼された調査報告だ。今の貴様にとっても有力な情報だと思うが?」

 

「そうですか。では先払いとしてこちらを」

 

「……あの日から毎度思っているが、よくもまぁそれだけをホイホイと出せるものだ。財源は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫ですよ、一応コツコツ貯蓄した()()()()()()から出してますし。ファミリアの財政には何の痛手もありません」

 

「……そうか。なら早速仕事の話をしよう」

 

 

 目深にフードを被った人物の前に、決して小さくないきんちゃく袋を置いた。中身はどう考えても貨幣であり、重そうな音を室内に響かせる。その人物は手早く巾着を懐にしまうと、居住まいを正して椅子に座りなおした。

 

 

「お前がヘルメス様から聞いたという『殺生石』。あれは極東の伝説とは全く異なるものだ。生贄にされた狐人の持つ妖術、ここでいう魔法を第三者が使えるようにするアイテムを指す。で、イシュタルはそれを手に入れるために、件の春姫だったか? その狐人を利用するつもりらしい」

 

「やはりそうですか」

 

「それからこの情報はその過程で偶然入手したのだが、こちらも聞くか?」

 

「ええ。追加も必要ならお支払いしますよ」

 

「いらん。偶然手に入ったと言っただろう? まあいい。どうやら女神イシュタルは『殺生石』を手に入れるだけじゃ飽き足らず、お前をも手にしようと画策しているようだ」

 

 

 情報屋の話を要約すると、どうやら女神イシュタルは女神フレイヤ同様、美の女神としてのアイデンティティを持っているらしい。しかしながらフレイヤ自身にそのつもりがなくても、神々やヒトはイシュタルよりもフレイヤに悉く魅了され、それがイシュタルのプライドを傷つけてしまっているようだった。

 そんな中、フレイヤがどうやらアギトであるベルに好感を持っているという情報を手に入れた。そこでイシュタルはベルを手に入れることでフレイヤより優れていると示し、『殺生石』を手に入れることで己の立ち位置を確固たるものにしようとしているのこと。

 なんともまあ、自己中心的で本人以外の誰も得をしないない様だと、ベルは大きくため息をつく。しかしながら今回のことは、テオスは動かないという予感はしている。『殺生石』はあくまでも人為的に作り出され、アナザーウォッチのように世の理に真正面から喧嘩を売るような代物ではないはずである。

 

 

「だが、もし仮にイシュタルが強硬手段に出れば、お前たちも行動しやすいのではないか?」

 

「……僕が拉致されることで、ヘスティア・ファミリア側が攻め入る大義名分を得られる」

 

「その通りだ。まぁ、この手段をとるかどうかはお前次第。奴らの決行日は明日、ダンジョンの十四階層だ」

 

「わかりました。ご協力ありがとうございます、()()()()()()()さん」

 

「一ファミリアの団長から、裏路地の情報屋になり果てた私に敬称は不要だ」

 

「ですが風のエルロードも称賛してましたよ? 貴方の情報収集力を、下界調査に欲しいとおっしゃってました」

 

「ふん。仮令神以上の存在だとしても、私が敬愛するのはアポロン様ただ一柱のみ。今は追放されたアポロン様を探すための、資金集めをしているにすぎん」

 

 

 それだけを言い情報屋、ヒュアキントスはベルとはまた別のドアから退室した。彼は戦後処理で冒険者権限を剥奪され、ファミリアも解散となったために日銭を稼ぐ必要が出てきた。ウォッチ使用による投獄期間はまだあったが、ベルが秘密裏且つ独断でポケットマネーから保釈金を支払い、情報屋として雇っていたのである。

 アナザーアギトになった影響か、加護が切れても高い身体能力と酒に酔わない体質を手に入れた彼は、いろんな人種が集まりやすい酒場や歓楽街を中心として情報収集を行った。そのおかげか、所謂表世界では到底手に入らない情報をも入手できるようになったのである。

 

 

「さて、たぶん神様は気づいているようだから帰って報告しよう。タケミカヅチ様たちは……どうしようかな」

 

 

 立ち上がったベルはランタンの灯を消し、部屋と施設を後にした。東の空からはもうすぐ日が昇るのか、地平線辺りが薄く紅を差し始めている。今日の朝食当番であるリリがそろそろ起きる時間であり、今から急いで帰っても外出がバレるだろう。ご機嫌取りといえば聞こえが悪いが、何もせぬよりはマシというもの。走りだしたベルは朝市へと向かい、肉や野菜などを購入していった。

 

 

「さてベル様、何故朝帰りをしたのでしょうか? まさか本当に歓楽街へと女遊びに出かけたのですか?」

 

「正直に言った方が身のためだよベル君。神に嘘は付けない」

 

 

 朝食をいつも以上に静かに済ませた面々は、後片付けを終わらせると同時にベルを囲み尋問する体制になる。自然ベルはファミリア、特に女性陣の威圧感が半端なものではなく、床に正座をしてしまった。

 

 

「もう吐いちまったがいいんじゃねえか? なあベルよ」

 

 

 それを面白そうにヴェルフが煽るものだから、余計にベルを襲う圧力が増してしまう。背中に尋常ではないほどの汗を流しながら、ベルは事の次第を説明した。初めは眉間に皺を寄せていたリリとヘスティアだったが、話を進めるうちに別の意味で顔をしかめた。具体的には女神イシュタルに対する呆れである。

 

 

「この際キミがポケットマネーで情報屋を雇っていたことは目を瞑ろう。しかし君はどうするつもりだい?」

 

「ベル殿。まさか自ら囮になるとでも?」

 

「……そのまさかを考えてる。今のところ、イシュタル・ファミリアに攻め入る大義名分を作るにはそれしかありません」

 

「しかしよ、俺はG3ユニットがあるからまだしも、リリ助や命についてはどうするんだ?」

 

「私は一応変身魔法があるので、潜入は出来ますが」

 

「……今回二人には直接戦闘は避けてほしい。勿論魔法での拘束や変身魔法での攪乱も、有事以外は避けてほしいのが僕の本音だ。ましてや命さんは限定メンバー、タケミカヅチ様から一時的に預かっている身です。ダンジョン攻略以外で、そのような危険なことをさせられません」

 

「ベル殿……しかし……」

 

 

 ベルの意見に命やリリは渋るが、こうなったベルが引くことがないことは皆重々承知している。そしてそれは必ず、自分以外の安全を考えているとき。

 暫く沈黙したにらみ合いの中、ヘスティアが大きくため息をついた。

 

 

「……わかった。非常に、非常~~~~~~~~~に不本意だが!! キミの意思を尊重しよう。でもベル君、これだけは約束してくれ」

 

「……」

 

「絶対に帰ってくること。絶対に救いだすこと」

 

「……はい」

 

「ボクたちを、置いて逝かないことだ」

 

 

 苦渋を滲ませながらも決定を下したベルの脳裏に、かつての怪物祭での出来事が蘇る。あの時も同じように顔をしかめつつも、彼女はベルを送り出していった。結局負傷した彼を見たヘスティアは泣きつき、次の日の攻略を休まされたほどであった。

 二度とは繰り返さぬと誓っていたが、今再び同じことをしてしまった己に怒りを感じる。その思いをヘスティアは察したのだろう。彼女はベルに万全の準備をするように言い含め、午後からのタケミカヅチ・ファミリアとの会談の準備を始めた。

 

 






はい、今回はここまでです。
いやはや、先に進むのが遅々としてしまって申し訳ありません。冒頭を端折ったはずなのにこの体たらく。

さて、本編更新と並行して分岐後の下書きも進めています。しかしどうしたものか、春姫√とシル√が悲恋になってしまうんですよね。
春姫の方は最早開き直ってそれでもいいかと思っているんですが、シルは何とかしてハッピーエンドにしたいと画策しています。

ではまた次回。


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