ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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大変お待たせして申し訳ございません。
色々展開を練っていて、書いては消して書いては消し手を繰り返し、ようやく納得のいくものを仕上げたつもりです。
それではどうか、ごゆるりと。




48. 烽火(のろし)

 

 

 ベルが誘拐された。

 その知らせは瞬く間にオラリオ中に知れ渡った。無論字面だけでは誰も信じない。それはひとえに戦争遊戯でのベルの無双っぷりが、未だ黒に新しいためである。誰もがその話を聞いたとき、嘘だと笑い飛ばした。しかしすぐにその認識は覆ることになる。

 何とその場に偶然いたロキ・ファミリアのラウルも一緒にさらわれたという。ベル達にとっても完全に予想外だったのだが、件の待ち伏せ場所に偶然にもラウル含む数名の冒険者と鉢合わせたのだ。何とか理由をつけて彼らをこの場から逃そうとするも、春姫のスキルによってステータスにブーストされたイシュタル・ファミリアのアマゾネスたちの不意打ちに対処できず、加えてその場にはベルしかいなかったこともあり、ラウルも巻き込まれることになったのである。

 辛うじて逃がすことに成功した他のロキ・ファミリア団員はすぐさま主神ロキと幹部に事の次第を伝え、そしてヘスティア・ファミリアとギルドにも警告を発したのである。たった一つの予期せぬ偶然により、図らずもヘスティア・ファミリア単独による突入が回避されたのであった。

 そして事の次第を全て聞いたロキは、ヘスティア・ファミリア傘下の訓練場、その地下の一室にヘスティアと共にいた。

 

 

「さあ話せドチビ、何でベルがイシュタルの子供ら程度に誘拐されたんや?」

 

「……ベルの個人的なお願いでね、とある狐人の命を救うために一芝居をと計画していたんだ」

 

「それで何でウチの子が攫われなあかんねん?」

 

「それに関しては全くの偶然だ!! 計画ではベル君だけで奴らに誘拐、それによる内部侵攻のはずだったんだよ」

 

「ラウルたちを巻き込む気はなかったと、それをウチに信じろと?」

 

「そうとしか言えないんだよ。ボクが信じれないなら僕の眷属から話を聞くといい。子供たちはボクら神に嘘は付けない」

 

「……」

 

 

 ヘスティアの言葉にロキは黙り込み、彼女の態度と言葉に嘘がないか観察を続ける。やがて大きくため息をついたロキは、頭が痛いとでも言うように額に手を当てた。事実、戦争遊戯前から様々なことがヘスティア・ファミリア、ベル関係で自分のファミリアに立て続けに起こり、そろそろ胃薬と頭痛薬を常備しようか本気で悩んでいた。

 それはさておき、ひとしきり頭を掻きむしったロキは落ち着いたのか、再び目をヘスティアに向けた。

 

 

「ほんで、何でベル坊はイシュタルんとこに潜入するんや?」

 

「『殺生石』。狐人を犠牲にして作られるアイテムで企て事をしているようだよ。それ以上はボクもわからない」

 

「……やつのファミリアは色々と黒い噂が絶えんが、確たる証拠を入手できんで調査が何度も頓挫しとる。今回のベル誘拐が何を目的としているか」

 

 

 神二柱が頭をひねるも、中々に良い案が思い浮かばない。ベルがアギトであることは先の戦争遊戯で知れ渡っており、それによってベルの改宗やヘスティア・ファミリアへの入団申請が絶えないのは周知に事実である。そのため、イシュタルがベルを狙ったとしてもおかしくはない。ただ何のためにベルを求めるのか、それがわからないのである。

 

 

「悩んでいるところ申し訳ないが叔母上、失礼するよ」

 

「ヘルメス?」

 

 

 五分ほど時間が経ったとき、ノックの音と共にヘルメスが入室してきた。いつもの爽やかさを感じさせない、至極真面目な表情を浮かべているため、自然とロキもヘスティアも姿勢を正す。

 

 

「どうしたんだい?」

 

「俺の方でも情報を集めたから伝えに来た。結論を言うとイシュタルは黒だよ、ベルを狙っているのは何も彼女だけじゃない。フレイヤは言うまでもないけど、戦力としてもファミリアのステータスとしても彼を欲しがる神々は多い」

 

「うん」

 

「イシュタルは後者、ステータス目的でベルを欲しがっていた。フレイヤが魅了できないベルを魅了したら、自身の地位は揺るがないと思っているようだよ。確かに財政面で言えば、彼女のファミリアはオラリオ随一だ。そこに可能性はゼロだけど、ベルが加われば間違いなく不動のトップファミリアになる」

 

「……あの女が考えそうなことや」

 

 

 実に嫌なことだ、という意思を表すようにロキは冷たく吐き捨てた。

 

 

「でも今回ベルが攫われたことで、ある意味ギルドにとっても好機になったんだ。ロキには悪いけど、キミの子供が一緒に攫われたことで、あの女神のファミリアが非合法に手を染めているという尻尾をようやく出すことになった。上手くいけば、今までの不正も明るみに出て、被害者の僅かな救済にも繋がる」

 

「本当に悪びれもせず言うな、ヘルメス。まあええ。どちらにせよ、うちの子に手を出したからには黙ってるつもりはないで」

 

「無論ボクの方からも、ヴェルフ君を出陣させる。他の二人はまだ正面突破には力量が足りないから、ホームでの待機になるけど」

 

「ヴェルフ? ああ、あの赤髪の兄ちゃんか。うん? まさかG3システムは完成しとるんか?」

 

「G3マイルド。G3やG3-Xに比べると戦力不足は否めないけど、只人と相対するには十分すぎる性能だよ。ロキも覚えてるだろ? G3-Xのサポート用に過去に開発された」

 

「ああ、ビートルロード相手に時間稼ぎしよったアレか。確かに冒険者相手でも十分やな」

 

 

 強化ゴライアス、生身での成り損ないたちとの戦闘を経て、ヴェルフのレベルも3へと上昇しており、本職が鍛冶師といえどそこらの冒険者とは一線を画する強さを持っている。そんなヴェルフがG3シリーズを扱えば、アギトに迫る強さを手に入れるのは想像に難くない。

 どのタイミングで攻め入り、どうイシュタル・ファミリアを崩壊させるかの話し合いを始めた神々の許には、いつの間にかヴェルフやベートなど、主力の顔も室内にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャラリと鎖の音が暗い部屋に響く。ノロノロと意識を覚醒させたベルは、やがて自分が両手両足を縛られ、大の字になるよう壁に繋がれているのを確認した。対面に見える先には、同じように磔にされて気絶するラウルの姿がある。結局のところ、ベルは単独で潜入するはずが予期せず他派閥を巻き込んでしまったことになった。

 

 

「おや、お目覚めのようだねぇ~?」

 

 

 どう脱出するか思案していると、暗い室内にだみ声が響いた。目線だけ声の方向に向けると、巨人と見紛うような巨体を揺らしながら、一人のアマゾネスが歩いてきていた。

 彼女の名前はフリュネ・ジャミール、イシュタル・ファミリアのレベル5冒険者であり、自意識過剰かつ傍若無人な人柄によって他の団員からも忌避されている冒険者である。己こそが最高に美しいと考えており、自らの主神であるイシュタルすらも内心では見下しているほどのナルシストでもある。

 

 

「ここが何処だか気になるかい? ここは『ダイダロス通り』に隣接いてねぇ~、地下にはこんな秘密の部屋が合ったりするのさあ~。ここはそのうちの一つで、アタイだけの愛の部屋なんだよぉ~!!」

 

 

 カエルのごときギョロ目を嫌衝かせながら、悦に入ったようにフリュネは語りだした。話を聞き流しながら、ベルは全神経をとがらせて周囲の音や気配を探っていく。石造りの部屋で小さく水音が響くが、この室内には自分を含めた()()しかいない。そして外では騒々しく走り回る何人もの足音が響いている。

 得意げに語るフリュネの声を聴きながら、試しに腕と足の鎖を動かしてみた。一見ただの鎖に見えるが、軽く動かしても簡単に千切れる気がしない。

 

 

「無駄だ無駄だ。その鎖はねぇ、『ミスリル』製で何重にも巻かれれば上級冒険者だろうとすぐには壊せない!! それに『魔法』を使えばミスリルが反応して手首が吹っ飛ぶよぉ~」

 

 

 ベルが鎖を外そうとしたと考えたのか、無駄な行為だと止めを刺すようにフリュネは声を上げた。視界の端では、カエルのように長い舌で舌なめずりす彼女の姿が映る。直視していないとはいえ、ベルの背中には薄ら寒いものが走った。

 

 

「あん? 何だい、全然準備できてないじゃないか。こりゃクスリでも入れるかねぇ」

 

 

 ベルの下半身を一度見たフリュネは大きなため息をつき、再びドスドスと足音を立てながら部屋から出ていった。暫くして完全にフリュネの気配がなくなり、ベルは少しだけ力を込めて鎖を引きちぎった。

 レベルも5に上がり、更には新世代の人類であるためか、変身前の体の能力も強化されているため、千切るのは簡単なことだった。鎖だけでなく手首足首に繋がれた拘束輪も強引に外す。別段魔法を用いているわけでもないため、爆発の危険もない。拘束具を外したベルは、すぐにラウルのも外しにかかった。

 

 

「……今は誰もいませんよ。出てきたらどうです?」

 

「やっぱ気づいていたんだね。捕まったのも演技だと」

 

 

 ベルの声に応えたのはアイシャ、イシュタル・ファミリアのアマゾネスの一人である。春姫経由で何度か顔を合わせており、一応一定以上には親しい関係を築いている一人である。

 

 

「まぁ、目的のためにですけど」

 

「それはあの子を、春姫を助けるという目的かい?」

 

「気づいていたんですか?」

 

「いや、ただの予想だよ。ただあんたの春姫に向ける目を見たら、ね」

 

 

 悲しげに微笑みながら、アイシャは言葉を紡ぐ。短い間の沈黙が流れるが、やがてベルはラウルを背負って出口へと向かう。部屋から出ようとしたとき、ふいに背後から声をかけられた。

 

 

「なあ、アンタは何で戦うんだい?」

 

「何で戦う、ですか?」

 

「ああ。アタシらで言えば、本人の意思に関係なく『恩恵』を受けたからには主神を裏切る行為は直接できない。本来であれば、春姫を救ったところでアンタらのファミリアに何の得もない」

 

「……損得の話じゃないんです。手を伸ばせば届く距離にいる、助けられる。それなのに手を伸ばせなかったら一生後悔する。だから僕は戦うんです。少しでも手を伸ばすために」

 

「それに聞いたんです。春姫さんは聞かれていないと思ってそうですが、確かに『助けてほしい』と言ったのを」

 

「……春姫を頼んだよ。情けないことに、あの子に情が移っちまった。でもさっきもいたように、アタシがあの子を助けることは主神を裏切ること。本心では助けたくてもそれを実行できない。だからこんな形で依頼することしかできない」

 

「……無論」

 

 

 アイシャの言葉を背に受け、今度こそ駆け出そうとしたが、背中に背負ったラウルの重さがふと失われた。驚いて背後を見ると、ベルの代わりにアイシャが彼を背負っていた。

 

 

「春姫は別館の屋上にある空中庭園に連れていかれるよ。アンタの持ち物は、この通路から出た近くにある宝物庫に置いてある。何とかそっちはフリュネに盗られなかった。次に会ったときは容赦できない。アンタも容赦しないでくれよ」

 

「アイシャさん……」

 

「こいつはアタシが責任を持って安全に外に届ける。この男に関しては特別なにも言われてないからね。どうしようがアタシの勝手さ。だから……頼んだよ」

 

 

 最後の激励を受け、遂にベルは駆け出した。全速で走っているため到底目で追える速さではなく、何人ものアマゾネスや戦闘娼婦が彼を見逃していく。やがて件の宝物庫に着いたベルは手早く装備を整え、件の塔を目指すために外へ出た。

 しかし戸が開く音で察したのか、扉の外には何人もの戦闘娼婦とイシュタル・ファミリアの男性団員が武器を手に持って待ち構えていた。

 慄く者、舌なめずりする者、険しい表情や青ざめた表情を浮かべる者。

 静かに彼ら彼女らを見つめるベルは、ゆっくりと背中の二刀を引き抜く。その刃は窓から差し込む月明かりを受け、鈍色の輝きを放っていた。

 

 






はい、ここまでです。
さて今回の春姫の騒動ですが、原作をお読みになったりアニメを視聴された方々はお気づきだと思います。内容を結構端折ったり、展開を捻じ曲げたりしています。
ラウルの件がその大きな例です。ロキ・ファミリアが介入しやすいように挿入した展開です。
一応ご都合主義のタグを入れておりますが、念のために報告いたします。

さて、次回も待たせずに上げる予定ですので、またお会いしましょう。
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