ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

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お待たせしました、続きです。
それではごゆるりと。




49. 蛙、龍を獲ること能わず

 

 

 東の空から月が昇り始めるのを横目に、春姫は何人かの戦闘娼婦(バーベラ)に連れられて歩いていた。

 自身がこれから連れらていく別館屋上では既に『殺生石』の儀式の準備が進められているそうだ。春姫が到着すればすぐに儀式が始まり、彼女の魂は石に封じ込められてしまうだろう。

 

 

(これも因果応報なのでしょう)

 

 

 歩きながら春姫は懺悔の想いを頭に浮かべる。

 春姫は英雄譚を好む。一騎当千の戦士、仲間との絆、様々な英雄譚が好きだ。ベルと初めて会ったとき、まるで物語の中から飛び出してきたような印象を受けたのは記憶に新しい。

 何度か会って彼と話を重ねるうちに初めて聞く英雄譚、今や失われたロストエイジの物語を知った。彼の境遇を知った。あの日、おら戦争遊戯で何があったかを知った。

 

 

(どの英雄譚でも、娼婦の存在は破滅への布石だった。知らなかったとはいえ、彼の誘拐の一助となってしまった)

 

 

 後ろから急かされながら、春姫は歩みを進める。

 思い返せば、彼の話はこんな遊廓でもよく耳にした。余りホームから出ない春姫でさえ耳にするベルの武勇伝。きっと遊廓の外ではより詳細な話が出回っていたのだろう。初めは憧れでしかなかった。伝説のような存在が、自身の生きている間に生まれ出でていると聞いただけで興奮した。

 実物のベルを見たときは、興奮よりも何故か安堵の想いが勝った。雲の上の存在のはずだった時代の英雄も、自分たちと変わらぬ人間なのだと知ることが出来た。彼の裏表のない正確に、身の程も弁えずに惹かれてしまった。

 

 

(けどクラネル様を、彼という英雄を不幸にしてしまうならば、私など……)

 

 

 知らず彼女の眼には涙が浮かんでいた。周りの戦闘娼婦にも気づかれずに頬を流れたそれは、はらりと床へと吸い込まれていく。

 突如大きな音と共に、彼女らが歩いていた地面が揺れた。轟轟という地鳴りはやむことを知らず、むしろより大きくなっていく。春姫を引率していた戦闘娼婦たちは咄嗟に胸壁に乗り出し、音の発生源の確認をしていた。かくいう春姫も一緒に身を乗り出した。

 視線の先には土煙を上げる歓楽街の一角、ダイダロス通りに面しているイシュタル・ファミリアのホームからである。別館から遠くもなく近くもないそこでは絶えず音が鳴り、土埃が舞い上がり、その合間を鈍色の輝きが閃く。

 

 

「な、何だよアレは……」

 

 

 一人の娼婦が戦慄してつぶやく。文字通り人ではなく「アレ」と示された存在は次々と宮殿を破壊しながら戦闘娼婦や冒険者を沈めていき、中庭の方へと、正確に言えば別館に近づくように進撃している。

 一際大きな爆発音と共に、一つの影が夜空に姿を現した。

 両の手に逆手に持った二刀は、まるで広げた翼のようにも見える。白銀の髪は(たてがみ)のように風に靡き、紅色だった瞳は黄金に爛々と輝いている。月を背景に浮かび上がるそれは、まるで伝説上の翼竜のよう。

 

 

「クラネル……様?」

 

 

 知らず口から言葉が出た。

 視線の先にあるシルエットが、一瞬だけ彼女に顔を向けた気がした。戦意を漲らせた金の瞳が、紅色に輝いたように見えたが、すぐに土煙の中へと消えていった。

 再び地表で衝撃音と煙が上がる中、先程とは別の方向からも大きな音が鳴り響いた。僅かに吹く風によって、硝煙の鼻につく匂いが漂ってくる。このオラリオにも大砲や花火はあるため、火薬の存在は然程珍しいものでもない。しかし銃器の類を扱うのは、ヘスティア・ファミリアの赤髪の青年以外はありえないことである。

 

 

「おい、あれってヘスティア・ファミリアの鍛冶師じゃねえか?」

 

「奇妙な鎧を纏っているけど、あの変ちくりんな武器は間違いないよ!! 何であいつがここにいるんだ!? ギルドのペナルティとか考えてないの!?」

 

「いや、団長である『可能性の戦士(アルファ)』を攫っている時点で、ペナルティ受けるのはウチらじゃないかな?」

 

「「そうだった!?」」

 

「じゃああっちで暴れている『剣姫』と『凶狼』はどう説明すんのさ!!」

 

「そういえば攫った二人のうち片方がロキ・ファミリアの団員だったような……」

 

「「何これ無理ゲー!?」」

 

 

 緊急時なのに漫才のようなやり取りをする戦闘娼婦たちだったが、騒ぎを聞きつけたイシュタルが彼女らの許に姿を現す。その表情は不機嫌さを隠そうともせず、眉間にそれはそれは深いしわが寄っている。

 

 

「何の騒ぎだ?」

 

「い、イシュタル様!? ヘスティア・ファミリアの鍛冶師、並びにとロキ・ファミリアの『剣姫』よ『凶狼』が攻め入ってきました!!」

 

「恐らく『可能性の戦士』と、ついでに攫った冒険者の奪還のためかと!!」

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン? それにベート・ローガだって?」

 

 

 自らの眷属による報告を聞いたイシュタルはしばし思案するも、すぐにその口元を妖艶に歪め、三日月を描いた。先程までの眉間の皺も嘘のように引き、機嫌も良くなっている。

 

 

「……丁度いい。ロキの奴もフレイヤに次いで目の上のタンコブだった。『可能性の戦士』を手に入れた後に、あいつらも手中に入れてやる。鍛冶師の方はどうでもいい」

 

 

 クツクツと偲ぶように笑うと、先程よりも鋭い光をはらむ視線を、容赦なく春姫へと向けた。

 

 

「お前たちはさっさと春姫を連れていけ!!」

 

「は、はい!!」

 

 

 指示を出された戦闘娼婦たちは急いで春姫を引き連れ、庭園へと向かう。そこから一泊遅れるようにして、イシュタルも建物の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲い来る冒険者たちを峰打ちで沈めていき、目的の空中庭園へと走り続ける。先程爆風を利用する形で宙に浮いた時、春姫と庭園のおよその位置関係は把握した。全力で行けば、あるいは儀式が始まる前に救出が完了する距離にベルはいた。

 ベルが現在変身していない理由はいくつかある。その中で最も大きな理由は、ベルのプライドの問題である。歴代の数いる仮面ライダーの中には、個人に固執していた者も確かにいただろう。だがベルにとって、ライダーの力はそのために使うものではなかった。というよりも、今夏に限ってはアギトとしてではなく、ベル・クラネルとして救いたいという思いが強かった。

 幼稚で愚かといわれるかもしれない。

 目に入れることも憚れる偽善者と蔑まれるかもしれない。

 しかしそれでも、ベルは春姫の救出だけは変身せずに成し遂げるべきと考えていた。

 勿論このままイシュタルを野放しにすれば、いずれはオラリオの、もしかするとオラリオ以上の脅威になりかねないだろう。必要であれば変身してアイテムの破壊を先に行うべきかもしれない。

 

 

そこを……どけえっ!!

 

 

 階段を上る先で占拠する冒険者たちを吹き飛ばし、更に上へと駆け上がっていく。それほど時間をかけずに空中庭園へと繋がる廊下にたどり着く。が、そこには先客がいた。

 

 

「ようやく来たね『可能性の戦士』。いや、アギト」

 

「……女神イシュタル」

 

「よくもまぁ好き勝手暴れてくれたねぇ。私に喧嘩を売るとは、中々にいい度胸してるじゃないか」

 

「最初に手を出したのはそちらでしょう。そんな自分勝手なら、最古で暴君と名高いギルガメッシュ王でも嫌うのも頷けます」

 

「私の前でその名を出すな!! 私の顔に泥を塗ったあの男、あの屈辱を忘れるものか!!」

 

 

 ベルの出した名前に過剰に反応し、イシュタルは唾を飛ばしながら激昂する。それほどまでに、少なくとも彼女にとっては耐えがたい黒歴史となっているらしい。

 何度か深呼吸を繰り返して平静を取り戻したのか、再び微笑を浮かべてイシュタルはベルに向き直った。

 

 

「……まあいい。どの道今日であの雪辱は果たされる!!」

 

「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!! やっと見つけたよぉ、『可能性の戦士(アルファ)』ぁ!!」

 

「諦めの悪いことで……」

 

 

 イシュタルの声に合わせるように、階下からフリュネが飛び出してくる。その背後には幾人かの戦闘娼婦がおり、フリュネを除いた全員が何やらオーラで包まれている様子で、各々が自分の武器を手に持っていた。

 

 

「……レベルブースト、それが春姫さんの能力ですね。対象の冒険者の能力を引き上げ、本来のレベルよりも高い力を一時だけ得るもの」

 

「ゲゲゲゲゲゲッ、分かったところでどうしようもないさ!! なんせアンタはアタイに、負けるんだからねぇ!!」

 

 

 そう叫ぶとフリュネは己が得物を持って、ためらいなくベルへと向かってきた。周囲を考えない攻撃から身を護るためか、後方の戦闘娼婦たちが手を出す気配はない。

 右に左にと振るわれる彼女の斧から目を離さず、出来るだけ触れないようにしてフリュネの攻撃を避けていくベル。初めは愉悦の表情を浮かべていたフリュネだが、次第にその顔は険しいものへと変わっていた。

 彼女が焦るのも無理はない。

 一般的な認識では、ベルは大幅なレベルアップによる影響で思い通りに動けないと考えられている。加えて戦争遊戯があった後でも、大半の冒険者は変身前のベルはレベル相当の技量しか持たないと考えている。それはこの場にいる戦闘娼婦たちも例外ではない。

 さらに言えば、ベルのステイタスは力よりも敏捷の能力が高い。そのため避けることに徹すれば、ある程度相手が上のレベルでも、何とか張り合うことが出来るのである。焦りで動きが単調になれば尚更だ。

 

 

「なんで……当たんないんだ!?」

 

「貴方は強い。正直こうして避けることに集中していなければ、確実に負けていたのは僕だったでしょう」

 

「クソッ、バカにしやがってえええ!!」

 

「けど単調な動きになった後なら……!!」

 

 

 ベルはそこで一度言葉を切り、フリュネの大振りの一撃を躱して彼女の懐に入り込んだ。フリュネとベルとでは、その体格は横も縦も大きく異なる。それこそ人間と小人族ぐらいには体格が違う。

 さて、自身よりも小さいものが己の足元へ移動したらどうなるか。応えは至極簡単、視界から消えたように錯覚してしまう。そしてその錯覚は、戦闘中においては致命的なミスになってしまう。

 

 

「こうやって……でやあッ!!」

 

「グゲエッ!?!?」

 

 

 懐に入ったベルはそのままフリュネの鳩尾に容赦ない正拳突きを入れた。一切の防御をせずに思い一撃を受けたフリュネは成す術なく、床に伏せることになる。

 フリュネは実力に限って言えば、イシュタル・ファミリアの中でも指折りの技量と力を持っている。結論を言えばフリュネが倒されたということは、彼女の後方にいた戦闘娼婦たちでは相手にならないという事実を突きつけることに他ならない。自然とオーラを纏った冒険者たちは戦意喪失し、後ずさることも無理はなかった。

 彼女たちの戦意が失せたことを察したベルは視線を背け、再びイシュタルと向き合う。

 

 

「情けないね。まあいい、いくらアンタでも私の『魅了』にかかれば!!」

 

 

 イシュタルはそう叫ぶと、自身の纏っていた衣服を全て脱ぎ、その裸体を惜しげもなくベルの前にさらした。

 その顔に、勝利を確信した笑みと獲物を見つめる眼光を刻み付けて。

 

 






はい、ここまでです。
実はちょっとアニメ版を見直しまして、前回話を丸々修正するかしないか迷ってます。
原作では春姫に解放されてるんですよね。それに攻め入りには命とかも参加してますし。
まぁそれは追々考えていきます。書き直す場合は、今回の話に然程影響がないように変更する予定です。その場合は事前に予告いたします。

さて、次回はクライマックス。
イシュタルの『魅了』にベルはどう対処するのか!?(白目)

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