ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

55 / 57

はい、生きてます。
五か月、ですか?
本当にお待たせしました。


では最新話です、ブランクもありましたが、現状私にできる限りで書きました。
どうぞ、ごゆるりと。




53. 汝に問う、ヒトとは何ぞや

 

 

 ウラノスに言われた翌日の早朝、日も昇らぬ時間帯でダンジョンには殆ど人影はない。その中で第20層に向かうベル達一団は、ある意味では異色の集団ともいえた。

 一応ウラノスの言う通りウィーネを連れてはいるものの、彼女や自分たちにモンスターが襲いに来ないと言われるとそうでもない。ウィーネは十中八九モンスターの変異体だろうが、自分たち冒険者と戦う以外でも、モンスター同士で殺し合い、相手の魔石を取り込んで己を強化するのである。もし仮にウィーネの魔石やベルの血肉を取り込むとなると、どのような変異種や強化種が現れるか、そんなこと想像もしたくない。

 

 

「待ち合わせ場所まで、そろそろのはずだけど」

 

 

 手元の簡易地図を見乍ら、一行の先頭に立つベルがそう呟くが、周囲は岩壁に依然として囲まれている。比較的安全なルートを通っているためか、モンスターの気配もない。勘の鋭いベルや竜女のウィーネが特に反応しないということから、彼等の周りに敵性反応がないことは自ずと他の面子も察する。

 暫く地図に従って歩くと、一行は二十層でも初めてみる広い空間にたどり着いた。周囲からモンスターがわく気配もなく、準安全地帯ともいえるのだろう。朝から歩き通しだったこともあり、ベル達は朝食がてら手持ちの弁当の包みを開いた。

 因みにウィーネはベル達と過ごすうちに同じものを食すようになっているため、特に気を遣う必要性はない。現にベルの目の前で、おいしそうにサンドイッチにかぶりついている。

 ダンジョン内では異質ともいえる、ほんわかとした雰囲気がベル達を包む。しかしベルは食べ終わると同時に、背中から剣を一本抜き、元来た道とは別方向に繋がる通路に向けた。

 

 

「……先程からこちらの様子を見ていますが、誰ですか?」

 

 

 警戒心を若干強めながらベルは問いかけた。それに合わせるようにヴェルフもベルの隣で大剣を構え、その後ろで命が刀を、ウィーネのすぐそばでリリと春姫がすぐに逃げ出せるよう準備している。

 果たして暗闇から姿を現したのは、東洋人のような顔つきをした男。黄土色のロングコートを軽鎧の上から羽織っており、左腰には刀を差し、反対の右腰には手錠とピストルボウガンらしきものが畳んでホルスターに収められている。

 

 

「……白い頭髪に十代後半程度の体つきと顔、特徴的な片刃の双剣。成程、君がベル・クラネルだな?」

 

 

 男はベルに問うた。敵意こそ感じられないが、男の纏う気迫は歴戦の猛者のそれであり、ベル自身、得意分野で試合ったとしても勝率は二割を下るかもしれない。彼のフレイヤ・ファミリアの眷属であり、恐らくオラリオ最強とも言われるオッタルにも引けを取らぬのいうのが、ベルの彼に対する印象である。

 

 

「……確かに僕はベルですが、貴方は?」

 

「ウラノス様の使いで、この先の案内役だ。名前は悪いが控えさせてもらう。まだお前たちが信用できないからな」

 

「わかりました。話はウラノス様より聞いているお思いますが、僕たちは彼の神の依頼でこちらに来ました」

 

「……あの顔、どこかで?」

 

 

 男から簡潔に紹介されたことで、早速ベル達は本題に入った。春姫一人だけが、男の顔を見て首をかしげていたが。

 男によると、これから向かう場所はおいそれと他者に教えることはできないらしい。それはウラノスから言われたベル達でも、例外なく道筋を教えられないそうだ。

 

 

「だから目隠しをしたうえで、この縄でみんなと私を繋ぐ。私を先頭にして目的地に、向かうが、それでいいな?」

 

「ええ、問題ありません。みんなもそれでいい?」

 

 

 一応ベルがファミリアのリーダーであるため、彼が中心になって交渉を進めた。どうにもこれから向かう先には大きな秘密があるらしく、依頼を完遂するためにも、条件を飲むほかない。それに大した条件でもなくベル達に不利になるような内容でもないため、誰も反対することなく承諾した。

 それからというものの、一行は男を先頭に目的地へとゆっくりと向かっていく。生来面倒見がいいのか、逐一足元の注意を促すさまは先までの雰囲気や表情とギャップを感じるには十分すぎる要素であった。

 

 

「……ついたぞ。リド、開けてくれ」

 

 

 目的地に着いたのか、男は扉らしき壁の向こうに話しかける。少しの間の後、遮られた視界の外で岩のようなものを動かす音とわずかな振動をベル達は感じた。そして薫が動くままに足を進める。

 

 

「よし、取っていいぞ」

 

 

 男の許可が出たため、ベル達は目隠しを外した。そして目の前に広がる光景に驚き、声を上げることすらかなわなかった。

 ベルを遥かに超える体躯は全身が真っ赤な鱗に包まれ、蛇のような頭部から覗く黄色い双眼でこちらを見つめる蜥蜴人(リザードマン)の男。

 毛先が青みかかった金色の羽毛に包まれた肉体と、今にも羽ばたいて空を飛びそうな両湾を持つ歌鳥人(セイレーン)の女性。

 他にも多種多様のモンスターの特徴を持った存在がひしめき合い、興味深そうに、あるいは警戒するようにベル達を見つめている。

 

 

「ベル・クラネル。これがウラノス様の言う秘密だ。彼等は我らと同じく理性を持った存在、そこのウィーネという少女と同じ存在だ」

 

「意思疎通できる、モンスター種?」

 

 

 やっと口を開いて出てきたのは、自分に言い聞かせるような言葉。それほどにまで、ベル達にとっては衝撃的な光景だった。

 暫く無言で互いに見つめ合っていたが、ウラノスがこれまで隠していたということは、彼らを保護対象として匿っていたのではとベルは推測した。そしてもし仮にベル達を信用してここまで案内させたというならば、敵対行為など決してしてはならない。

 漸く冷静になったベルは自身の武器を地面に置き、他のファミリアメンバーも武装解除するように促した。訝し気に、しかし目の前のモンスター種が攻撃してこないことを確認すると、全員が武具を地面に置いた。

 

 

「リド。見ての通り、彼らに敵対意思はない。それに、後方の竜女の少女を保護したのは彼らだ」

 

「それは本当か?」

 

「ああ。一応ウラノス様の保障も得ている」

 

「そう、あの神が認めているなら、一応は大丈夫そうね」

 

 

 男の発言を受け、リドと呼ばれた蜥蜴人と歌鳥人は警戒心を下げた。他の者たちも警戒はしているものの、武器や爪などを下におろす。

 話ができる状況になっただろう、そう判断したベルは武器を地面に置いたまま彼らに一歩だけ踏み出した。

 

 結論から言えば、武器を置いたことが功を奏した。初めは互いに恐る恐るといった様子で名乗り、自身のことについて説明することに時間を費やす。その際ウィーネがベルや春姫になついていたことや、地上での彼らの動きを男が補足したことで、昼時に差し掛かるころにはほとんどのモンスター種と和気藹々とした雰囲気を作り出すことに成功した。

 そして彼らによると、ウィーネやリドといった通常とは異なるモンスターを「異端児(ゼノス)」と称し、他の仲間を探したり、ウラノスから頼まれてダンジョン内の問題を解決したりしているらしい。そしていつの日か、地上に出てヒトと共存することが、ほとんどの異端児の夢だという。

 互いに理解を深め合うためにも話を重ねたいと思うベル達だったが、現実はそう簡単には行かない。手持ちの食料はどんなに長くても昼間で尽きてしまい、かといって異端児たちのように、モンスターの魔石を取り込むというやり方はウィーネ以外に出来ない。

 互いに名残惜しみながらも別れの挨拶と再会を約束し、再び目隠しとロープに繋がれて外へと出ていった。なお、ウィーネは知己を増やす一環として今日一日は他の異端児たちの許に残ることになった。

 

 

「……意外だった」

 

 

 待ち合わせ場所に到着して目隠しをとると、案内役だった男が口を開いた。その声色からはわずかな驚きと疑念が含まれている。

 

 

「何がですか?」

 

 

 しかし男の疑問が何を指しているのかが分からない。沈黙を保っているベルの代わりに、彼の側にいたリリが問いかける。

 

 

「いくら竜女の少女がいるとはいえ、普通なら彼らを見ればそれなりに警戒するはず。だが君たちは多少驚きはしたものの、すぐに彼らに歩み寄った。それが不思議だった」

 

 

 男の疑問にしばしベル達は考え込む。一分ほどの思考ののち、初めに口を開いたのはヴェルフだった。

 

 

「別に大した理由なんてねえよ。ただ言葉が通じるならそれに越したことはねぇ。それに、あちらさんが襲う気がねえってんなら俺たちが攻撃する必要もねえ」

 

 

 ヴェルフの言葉に賛同するように他も頷く。そしてヴェルフに続くようにリリも口を開いた。

 

 

「リリも以前までなら問答無用で攻撃していたでしょう。ですがベル様に出会って、普通じゃできない経験をして、この娘と出会って。自分の知らないものが存在するということを知ったからこそ、リドさんたちのことをすんなり受け入れられたのだと思います」

 

 

 リリの言葉を静かに聞き、彼女の言葉が終わっても何も言わずにベル達を見つめる男。暫くリリやヴェルフらを見つめていた男だったが、最後にベルへと視線を向けた。

 

 

「君のこれまでをウラノス様から聞いた。君は、何故戦う? 何のために戦っている?」

 

「……単純な答えでしかないですけど、『ヒト』の笑顔と自由、未来のためです」

 

「異端児たちが人間に刃を向けたら、君は狩ると?」

 

「違います。僕にとっての『ヒト』とは、種族を指しているのではありません。僕にとっての『護るべきもの』こそが『ヒト』なんです。それは異端児たちも例外じゃありません。少なくとも今日出会えた彼らは、僕のエゴで護りたいと感じたものたちです」

 

「種族なんて関係ない、市民の、異端児の、オラリオの笑顔と自由を護れるなら、僕はそれを脅かす存在と戦う。だって市民も異端児も、みんなこの世界の未来なんだから。未来のために戦うことが罪だというなら、(オレ)それを背負う覚悟を持っています」

 

 

 ベルの覚悟を聞いた男はしばし黙り込んだが、少しだけ泣きそうな顔と微笑みを浮かべ、ベルへと向き直った。それまで浮かべていたしかめ面がウソのような笑みだったために、今日何度目とも分からぬ驚きがベル達を襲う。

 納得できる答えを得たのだろう。もしもまた異端児に会いたいのならば、その前日にこの空間の壁に指定の印を書くように言い、この場で解散となった。細かな調整のためにベルだけ少し残り、他の面子は来た時同様に安全ルートで地上へと戻っていった。

 

 

「では、次回については追ってお伝えします」

 

「……薫」

 

「……え?」

 

「イチジョウノ・薫。それが俺の名前だ。好きに呼ぶといい」

 

「……ではイチジョウさんと」

 

「ッ!?」

 

「何故か、貴方をそう呼ぶべきだと思ったんです。では、またいずれ」

 

 

 その言葉を最後に、今度こそこの空間は男、薫ただ一人佇む空間となった。

 昼も夜も分からぬダンジョンの薄暗闇の中、男はそっとコートのポケットから真っ赤なベゼルの金時計を取り出した。

 

 

「まだ若いのに、世のため人のため、笑顔と未来のため。どうにも覚悟を決めたものを止めることが出来ないな。どれほど時がたっても、あのような未来ある子供に、戦いとは無縁で生きてほしいと願ってしまう。お前はこういうときどんな言葉をかけるんだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――なぁ、五代

 

 






はいここまでです。
改めまして、本当にお待たせしました。
決してプリティーなダービーに勤しんだり、騎空団活動していたり、英語のお勉強に精を出していたわけではないです、はい。
まだまだ遅々とした投稿になってしまいますが、どうかご容赦を。

それではまた次回お会いしましょう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。