ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~目覚めるその魂~   作:シエロティエラ

56 / 57


お待たせしました、最新話です。
ようやく一つプライベートで肩の荷が下りたので、亀の歩みのようなペースではありますが、更新していこうと思います。

それではどうぞごゆるりと。




54. 我は問う、汝は何ぞや

 

 

「異端児」たちとの邂逅から早数日、ベル達はダンジョン攻略と彼らとの交流に日々を費やしていた。元々団長のベルが余程でない限り非好戦的な性格であるし、原点の彼と異なって英雄願望も持ち合わせていない。そのためか、避けられる戦闘は徹底的に避けることを信条としており、団員も彼の気質に魅かれて集まった者たち。自然と他の団員も必要以上の戦いは行わないという、ヘスティア・ファミリア暗黙のルールが出来上がっていた。

 ある日、ベルは再びウラノスによって呼び出しを受け、ギルド本部の神の部屋にいた。

 

 

「ヘスティア・ファミリアが団長ベル・クラネル、ただいま参上いたしました」

 

「よく来てくれた、急な呼びたてに応じてくれて感謝する。まずは座ってくれたまえ」

 

 

 ウラノスに促されるままに、向かい合うようにして椅子に座る。成程、見かけは頭から黒い布を被った、老いた男神と言ったところ。しかしその身から発せられる覇気は、枷をつけられた下界においても強い圧迫感を醸し出している。仮に対面に座るのがベルやベートでなかったら、本人にその意図はなくとも、恐れひれ伏してしまうだろう。

 

 

「本日はいかがされました? まさか『異端児』たちに何か?」

 

「うむ。少し関係があるが、一から説明しよう」

 

 

 ウラノスによると、最近ダンジョンで姿を消す冒険者が増えてきているらしい。もともと命がけの職業である冒険者は、ふとした時に命を落とすというのは珍しいことではない。しかし助かる命は助けるというウラノスの心の元、「異端児」たちが中心となって安全圏に移動させたり、薫のように裏で動ける人員に救助させたりしていた。

 しかし最近の行方不明者はその比ではない。ロキやヘファイストス、フレイヤなど強大なファミリアに埋もれてしまっているが、オラリオには十を優に超えるファミリアが存在する。中にはヘスティアやタケミカヅチのように、数人しか眷属がいないというファミリアも少なくない。

 そういったファミリアにおいて行方不明者が出ているのである。オラリオの冒険者ギルドを統括する神として、見過ごすわけにはいかない。付け加えるとすれば、リドによると、生まれたばかりの『異端児』やある程度の強さを持つ単独主義者も行方不明になっているらしい。

 

 

「その調査を『異端児』と一緒にしてほしいと?」

 

「そう言うことだ。とはいえ他ファミリアであるお主を危険にさらすのだ、孫の方にも儂から説明する。そして相応の保証をせねばな」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 

 一先ずの用事が済んだところでお互いに黙りこみ、机に置かれた茶に手を伸ばした。どちらとも語ることなく湯呑を傾けるが、やがて先に飲み干したベルが口を開いた。

 

 

「ところでお伺いしてもよろしいですか?」

 

「許そう」

 

「20層の彼、イチジョウさんは何者ですか?」

 

「何者、とな?」

 

「ええ。彼は生身の人間にしては力が突出しています。それもスキルやレベルでは説明できない程です。

 始めは私の同類、アギトかと思いましたがその気配はない。ウチの春姫の出身地では代々警察組織の出と伺ってますが、それにしては格闘能力や狙撃に始まる射撃能力は、今の時代にそぐわないものです」

 

 

 ベルの問いかけにウラノスは黙りこくった。否、正確にはどう話そうか考え始めた。ウラノスとしては、ベルだけに話すことは吝かではない。しかし果たして当人がいないところでベラベラと話してよいものだろうか。

「神に人の道理は通じぬ」とは昔から言われていたが、長い年月を経て、ヒトで言う「良識」を持ち合わせた神々も少なくはない。ウラノスもその一柱で、曲がりなりにも所属している団員総てを把握し、彼なりに地上のヒトを愛している。

 

 

「いいですよ、彼に話しても」

 

 

 しかしウラノスの思考を遮るように男の言葉が部屋に響いた。そちらに目を向けると、ここ数日ベルが世話になっていた件の男が立っていた。

 

 

「薫、帰っていたのか」

 

「報告がてらです。さて私が何者か、だったね。そうだな、結論から言えば私は次元の渡航者だ」

 

「次元の渡航者?」

 

「そう。『破壊者』と違うのは、私は元の世界から受動的に来たということだ」

 

「なら正確に言えば転生ですか?」

 

 

 ベルの問いかけに薫は曖昧な表情を浮かべる。

 ゲゲルが真に終息したのち、薫はとある立てこもり事件で人質を庇って致命傷を受けた。立てこもり犯は拳銃を所持しており、撃たれた場所も左胸に三発。何とか己も発砲して犯人の拳銃と脚に入れて逮捕に貢献したが、そのまま殉職になると彼は自覚していた。しかし気が付けばウラノスの前で無様に寝転がっていたという。犯人に撃たれた場所は生々しい傷跡として残っており、己が死にかけたのも、見慣れない世界に来たのも現実だと否応なく理解させられたらしい。

 それが数か月前、ちょうどベルがバーニングフォームで暴走し、ギルスとなったベートと戦ったとき。

 

 

「そのときウラノスの隣に黒衣の男とも女とも分からない存在がいて、私を手繰り寄せたと言っていた」

 

「テオス様が呼び出した? いやそれ以前に、まさかこの世界にはもう一人のイチジョウさんがいるんですか?」

 

「いやそれは違う。元々この世界の私は行方不明のまま死にかけていたようでね。魂が死んだこの世界の私に肉体が死んだ向こうの私、二つを合わせるという強引な手段を使ってこの世界に繋ぎとめたらしい。だからこの世界に一条薫は私一人しかいない」

 

「なら、憑依?」

 

「それが近いようだね。ところでこれを君に」

 

 

 そう語りながら、薫はポケットから金と紅に彩られた時計を取り出した。本来ある筈の針はなく、文字盤には「2000」の文字とベルには馴染み深いライダーズクレストが刻まれていた。

 

 

「クウガ……五代雄介さんのウォッチ?」

 

「そう、五代の力だ。何のために私のもとに来たのか知らないが、時が来るまで持っていようと思っていた」

 

 

 そう言うと薫はベルの方にウォッチを差し出した。

 

 

「これは君に託そう。君なら、あいつの魂を悪く使うまい」

 

「ですが、もし五代さんの力なら、貴方こそ持つべきではありませんか?」

 

「いや、俺はあいつに戦いを強いていた。戦うのを、ヒトを傷つけることを嫌っていたあいつに。仮令あいつが許したとしても、私は一生()を許せはしないだろう」

 

 

 薫はベルの手を取り、無理やりにウォッチを握らせようとした。気のせいだろうか、金色のベゼルが弱しく光を放ち、一瞬だけクウガの顔が浮かび上がった。

 

 

「……やっぱ受け取れません。このウォッチは貴方が持つべきです。いつか、いつかあなた自身の手で、五代さんに返してあげてください」

 

 

 ベルは改めて薫にウォッチを握らせると、両の手でそのまま薫の手を包み込んだ。ウォッチは先程よりも輝きを強くし、仄かにだが熱を持ち温かくなった。それはまるでウォッチ自身に意思があるように。

 結局ベルに言い包められ、薫は継続してクウガライドウォッチを所持することになった。彼自身の身の上について聞くつもりが、色々と脱線してしまった。しかしベル自身は知りたいことを知れたし、ウラノスも話すべきことを話したため、今日はこのまま解散となった。

 

 

 ギルドを出ると、太陽は西の方に傾いていた。恐らく今は昼八つどき、これからダンジョンに行っても碌に調達もできないだろう。幸い今日は自分の財布を持ってきており、帰りがてら夕食の材料を買うこともできる。ついでにファミリアで食べる菓子類を買うのも悪くない。

 そう考えたベルは、早速商店街のほうへと足を向けた。

 

 

「おばちゃん、このシチュー熱すぎねえか?」

 

「ほっときゃ冷めるよ」

 

「俺は熱いうちに食いてぇんだよ」

 

「なら氷でも入れときな」

 

 

 市場街に出ればあらゆるところから声が聞こえてくる。品を売る声に値切りをする声、井戸端会議の声と、歩く人を飽きさせることはない。かくいうベルも両手に食材が入ったバッグを抱えており、表情には出さないものの内心は非常に満足していた。魚の口に小指を突っ込み鮮度を見るというベルの特技で、非常に状態のいい魚を購入できたということが大きい。

 仮に人の纏う空気を文字化できたのならば、「ホクホク」という言葉がベルの周りに浮かんでいるだろう。

 

 

「悪ィ!! そこの少年、その猫を捕まえてくれ!!」

 

 

 上機嫌のベルの耳に男の声が背後からかかった。振り返れば真っ白の毛並みの猫が、更に後方から駆けてくる青年から逃げるように走ってきている。両手の荷物を置いたベルは、そのまま両膝をついて猫を待ち構えた。猫はよけるかと思いきやそのままベルの懐に飛び込み、服の中に入ってしまった。

 

 

「……は?」

 

 

 あっけにとられるベルだが、ネコは暫くベルの服の中でゴソゴソと動きまわると、頭だけ襟から出す形に落ち着いた。頭の整理が追い付かないベルに、ネコを追いかけていた青年が近づいてきた。相当走ったのか、額には汗が浮かんでいる。

 

 

「すまねぇ、捕まえてくれてありがとうよ」

 

「あ、いえ。貴方の猫ですか?」

 

 

 何とか正気に戻ったベルは服から猫を取り出し、そのまま青年に手渡した。今度は猫も逃げることなく、目の前の青年におとなしく抱かれる。見れば青年の手には猫じゃらしのようなものが握られており、猫はそれに夢中になっていた。

 

 

「いや、そこのクリーニング屋のご婦人のだ。それにしても……」

 

「え?」

 

 

 ベルと青年の会話に突然第三者の声が混じった。そしてその声の主、もう一人現れた青年は遠慮という言葉を知らぬように、ベルの頭髪に触れたり目をのぞき込んだりしている。

 

 

「興味深いねぇ。髪は銀に近い白に虹彩は紅、アルビノの特徴なのにアルビノじゃない」

 

「あ、あの?」

 

「それに中世欧州に似ているようにも感じる街並み、なのに目に映るのは小説にしか出てこないような種族ばかり。ゾクゾクするよ!!」

 

「ダアアッ!? すまねぇな少年、この知りたがりは後で叱っとくから!! 何かあったらその場所に来てくれ、初回無料で請け負うぜ!!」

 

 

 流石に不味いと思ったのか。猫を追いかけいた青年はもう一人の方を掴むとお辞儀させるように押さえつけ、ベルの手に小さなカードを握らせて足早に去っていった。

 

 

「台風のような人たちだったなぁ。『鳴海探偵事務所:オラリオ出張所』? 場所は……バベルのすぐ近くか。まぁ機会があれば行ってみよう」

 

 

 少しの時間に目まぐるしく動いた事態に目を白黒させるものの、買い物かごを持ち直してベルは教会に足を向けた。尚、その日の夕食はベル御手製「魚のムニエル」となり、ファミリアの面々には非常に好評だったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、少しは押さえろっての」

 

「すまないねぇ、初めて見るものは気になってしょうがないのさ」

 

「さっさと事務所に戻るぞ。他の人らも集まってきているはずだ」

 

「彼の様にかい?」

 

「ここをこうすれば、ア"ッ、折れたァっ!?」

 

「何やってんだあの人は!?」

 

 

 





――案ずるな、計画に穴はない。

――そうやってティードが失敗したのを忘れたのか?

――俺は奴ほど甘くない。洗脳も上手くいっている。

《KUUGA》

《ÅGⅠTΩ》

――それに、量産型ではないこいつもあるしな。

――成程、だが依り代はどうする?

――目星は付けてるよ。こいつだ。

――ほう。

――苦労したがやっと見つけた。十数年前同様、手間をかけさせやがる。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。