斬って、斬って、斬り捨てる話。
この小説は東方Projectファンフィクション小説です。
少女は最善を尽くしていますが、現在準備中です。
用意ができるまで、温かく見守ってあげてください。
その少女は死後の世界に生きていた。
あなたは少女達とともに、斬るべき何かを見つけることでしょう。
鎌倉時代の武士、僧侶、歌人。
桜を愛した西行は、修験者としての修行の傍らで数々の名歌を各地で残した。
出家する際に、泣き縋る娘を蹴倒し、一人の従者を連れ立っていったという逸話が残っている。
少女祈祷中 Now Loading......
終了まで結構時間かかりますので、その間にお茶でもどうぞ。
少女祈祷中 Now Loading......
……OK!
START ゲームを開始します。
・難易度を選択すること
──脅威・Lunatic……奇特な方向け
・主人公を選択すること
──魂魄妖夢……半人半霊の剣士
・武器を選択すること
──幽剣……近接タイプ
「楼観剣」
「白桜剣」
難易度・脅威、主人公・魂魄妖夢、武器・幽剣
READY……? GO!
残暑。
現世ではすっかり日が落ちて、月が顔を覗かせる頃合い。
茹だるような暑さの中、二人の少女がちゃぶ台を囲んでいた。
ちゃぶ台の上はまさしく満漢全席、二桁人数を必要とするような総量の料理が連なっていた。
桃色の髪を携えた少女は、普段ぽややんとした顔をキッと引き締め、目の前の戦いに勇んで励む。
その傍で白髪の少女は、呆れ顔を浮かべながらも、甲斐甲斐しく彼女の世話を焼いている。
「幽々子様。お茶をどうぞ」
「ありがと〜。妖夢」
桃髪が箸と口を動かすのを止めるや否や、白髪が急須から注いだお茶をずずいと差し出す。
主人が小休止を終え、再び食に挑むのを待ってから、従者は自分の小鉢を箸でつつく。
彼女たちはかれこれ数十年ふたりぼっちで寝食を共にしてきた。
二人の食事風景は、円熟し、効率的で、機能的で、芸術的で、阿吽の呼吸で……つまりは美しい食べっぷりだった。
食べる、食べる、飲む、食べる、話す、食べる、食べる、食べる──。
健啖家の桃髪と、育ち盛りの白髪。
彼女たちにとっては、どんなに量があったとしても、結局のところは二人前に他ならない。
ちゃぶ台の上に所狭しと並べられた皿たちも今は昔。
料理という料理があらかた食い尽くされ、残すは大皿に盛られたメインディッシュの煮物のみ。
白髪の従者の目の前には、名残惜しそうな顔をして口を動かす主人が座っている。
少女は幸せそうに食べ物を頬張る主人の横顔が好きだった。
──少なくとも、桜の根元について思い悩んでいた時に比べれば、ずっとずっと。
じっと白髪が自身を見つめていることに気がついたのか、桃髪は口の中の人参を咀嚼し嚥下して、照れ臭そうに笑った。
そして彼女は、思い出したかのように口を開く。
「……あ、そうそう」
白玉楼の女主人・西行寺幽々子は従者・魂魄妖夢に対し、軽やかに告げた。
「妖夢〜。あなた、明日からお休みね〜」
「えっ」
ぽろり。
妖夢の箸先から、摘まれた芋が転がり落ちた。
それを見た幽々子は握った箸をあくせく動かす。操られ飛び立った幽蝶が、こぼれ落ちた里芋の煮っころがしを捕獲せしめた。
斬始・西行寺幽々子
intro stage 〜 my family 〜
「どっ、ど、ど、どういうことですか! 幽々子様! 私、何か粗相をしでかしたでしょうか!?」
妖夢は慌てた。
半霊があちこち動き回るほどに、文字通り死ぬほど慌てた。
彼女は白玉楼の庭師だ。
半人半霊という特異な体で生まれ落ちて以来、ずっと幽界で暮らしてきた。
少女にとって、庭師の仕事をする、というのはイコールで白玉楼に住むことと結びつく程に当たり前のことだ。
きっとこれからも、最期までそうすることだろう。
白玉楼での仕事は妖夢の半分の人生そのものだった。
そのため幽々子の決定は、妖夢には寝耳に水だった。
すわクビか、と慌てふためく妖夢をよそに、扇子で口元を覆った幽々子は、からからと玉を転がすように笑う。
「違うわよ、妖夢。お休みって言ってもほんの数日間のことよ。私がここを離れるから、その間妖夢もお休みってだけ」
…………。
妖夢はがっくりと肩を落とす。
住み込みで働く少女にとって、庭師の仕事と普段の生活が区分できていなかった。
お休み、と聞いて解雇と直結させたのも、やむを得ないことだろう。
気恥ずかしさを振り払うかのように、妖夢は疑問点を指摘する。
「……それには私もついていくことは、できないのでしょうか?」
「え〜。でも私と、紫と、狐さんの三人での旅行よ?
向こうも猫ちゃんはお留守番することだし、あなたもそうしたら?」
と、提案する桃髪の少女。
なおも食い下がろうとする従者の耳元にそっと口寄せて、こしょこしょと一言付け足した。
──私たち三人がするのは、
そしてそのまま、半霊の耳をかぷりと甘噛みする。
霊体特有のひんやりとした感触が、耳越しに全身へと伝わり、細かな息遣いが妖夢の身体を吹き抜けた。
妖夢は堪らず幽々子を手で遠ざけて声をあげる。
「──何するんですか! 幽々子様!」
「え〜。でも妖夢がわがまま言うから仕方ないじゃない?」
何が仕方ないなのか、妖夢にはまるで理解できなかった。
とはいえこの主人、ぽやぽやとした雰囲気とは裏腹に、やるときはやる女なのだ。
甘噛みだろうが、異変だろうが、ことの大小に関わらず執り行うだろう。
妖夢は観念して白旗をあげることにした。
「わっ、わかりました。この魂魄妖夢、しばしの暇をいただきます」
屈服し、納得した少女の顔は、ほんのりと赤面していた。
それに満足した幽々子は、悪戯っぽく笑って言葉を重ねた。
「さっ、そうと決まれば、白玉楼を留守にする前に、足が速いものをさっさと食べちゃいましょう!」
「それなら幽々子様。買っておいた桜餅がありますよ!」
あわあわと動転し、主人の言葉に追従する妖夢。
空気に乗せられ、言葉に乗せられ、桜餅を献上する流れに乗せられたことには、ついぞ気がつくことはなかった。
──これは、夢だ。
「あなた、人間ね」
月光の下、白玉楼に連なる階段上で。
妖夢は訪れた珍客と一人対峙していた。
少女の眼前に広がる一面の銀世界。
白一色の風景で主張するのは、目の前に佇む紅白の少女だけだ。
「この不吉な感じ、あんまり喜ばしくないわね」
そう愚痴を漏らす紅白巫女。彼女は言葉とは裏腹に、何ら痛痒を感じていない立ち振る舞いを取っていた。
空中に浮いた巫女は「寒いから早くしましょ」などと妖夢にのたまう。余裕そうに振る舞う少女だったが、それははなはだおかしなことだ。
何しろここは白玉楼。此岸と彼岸、その境目。
決して生身の人間が入っていい場所ではない。
──十割幽霊である幽々子のように、五割幽霊である妖夢のように「あちら側」に適した規格を持った存在。
──境界や九尾のように、幽界という異郷であっても、零落しないだけの強度を持った存在。
──あるいは魔法を操る、空間を操るというように、周囲の環境を適応させうる「程度の能力」者。
そういった存在以外にとって、白玉楼とは正しく死地なのだ。
妖夢には目の前にいるふわふわと浮いているかのように希薄な気配の少女が、ここで生きていけるとは思えない。
故に少女は、お互いのために心の底からお帰り願っていた。
しかしそんな妖夢の心配なぞいざ知らず、巫女はぶつくさと不平不満を口にする。
「こんな普通に、普通の人間があの世に入れたら、危ないじゃないの」
傲岸不遜。傍若無人。
さる魔法使いならば、これでこそ幻想の巫女と讃える面構え。
侵入者である少女の物言いに、思わず突っ込みが妖夢の口をついて出た。
「あんたが、結界を破って入ってきたんでしょ!」
妖夢の物言いに対し、巫女はやれやれと軽く首を振って返す。
嫌に堂に入った立ち振る舞いだった。
「あんな結界、普通に破れたわよ」
プツリ。
「入ってくるな、の意思表示に結界が張ってあったわけでしょ!」
「『のぼるな危険』の鉄塔にのぼる子供じゃないんだから」
「勝手に結界を破って、勝手に危険とか言ってるんじゃないよ!」
立て板に水とばかりに妖夢の口から軽口が流れ出す。
妖夢自身は気がついていないが、それははなはだ珍しい事だ。
妖夢の半分の生涯は、西行寺幽々子という主人と、魂魄妖忌という祖父兼師匠の二人と過ごす時間が大半だった。
そのため彼女にとって、同年代、同じ立場、同格と呼べる存在はこれまで誰もいなかった。
妖夢にとって、気兼ねなく軽口を叩ける存在というのは、あるいはこれがファースト・コンタクトだった。
「あなたはここで斬られておしまいなのよ」
「あの世で死んでも、あの世に逝くのかしら」
「あんたは地獄逝き」
「あ、ここは地獄じゃないの?」
二人の軽口も佳境に入る。
軽快に交わされる言葉とは裏腹に、二人の間を揺蕩う空気は、重く深く沈殿し始めた。
妖夢は得物を握り直し、右足を半歩分前に出して構える。
前を見れば、紅白巫女もどこから取り出したのか、左手に金属針、右手にお札の束を広げて、軽く首を回す。
妖夢が持っていた瓶の中から、集めた桜吹雪がひらりと舞った。
「妖怪が鍛えたこの楼観剣に──斬れぬものなど、あんまり無い!」
言葉とともに、決戦の火蓋が斬り落とされる。
階段上の戦い。妖夢は上段に位置し、巫女はふわふわと浮遊することで高さを少女と合わせている。
妖夢は立っている石段を強く蹴りつけ、勢いそのままに正面に向かって跳び上がった。
「────疾ッ!」
横向きに放たれる弾道。
自身の飛行能力を水平方向に傾けたそれは、瞬間的には幻想郷最速に迫らんばかりだった。
突撃を見るや否や、巫女は咄嗟に針を投げ放つ。
妖夢の周辺に放たれた封魔針。一撃一撃は致命傷とはならないが、そこに封じられた霊気は確実に人外の気迫をそぎ落とす。
無論妖夢にそんな知識はなかったが、本能的にそれらを避け進み──嫌な予感を信じて急停止した。
妖夢の眼前で佇む巫女は、針を投げて空いた手にお祓い棒を握り、彼女の突進を今か今かと待ち望んでいる。
勢い任せに突っ込めば、手痛い反撃を受けていたことだろう。
残念そうに肩を落として、妖夢は巫女に言葉を投げかける。
「やっぱり一刀両断、とはいかないわね」
「当然でしょ。あんた、私を舐めすぎよ。
──それより、今その剣で直接切りつけようとしたけれど、それって『ルール違反』じゃない?」
これまでずっと、どこか泰然自若としていた巫女。
何事にも囚われず、つかみどころのない性格。
その彼女が、ここに来て初めて語気を強めて問いかけた。
そのことは妖夢にとって少々意外だった。
とはいえ、勝手に反則を取られるのもはなはだ遺憾なので、少女は律儀に返答する。
「──スペルカードに付随する流れとしてならば剣戟も有効だと、境界の賢者から聞いている。無意味な揚げ足取りはやめてもらえない?」
「……あっ、そう」
妖夢は、幽々子越しに聞きかじった知識を毒を含めて披露する。
それで納得したのか、巫女は漏れ出た霊気を引っ込めた。
妖夢にとってそれは、本気を出すまでもない、と言われているかのようだった。
再開される弾幕ごっこ。
とはいえ先制の近接戦をいなされたのは、妖夢にとって大きな痛手だ。
お祓い棒こそあるものの、巫女にはわざわざクロスレンジに付き合う道理はない。
必然、戦いは中距離戦へと移行する。
「霊符『夢想封印 散』!」
宣言とともに、巫女の全身から光弾が放たれる。
モノクロだった幽界中に色とりどりの花火が駆け巡った。
「……くっ!」
妖夢は必死に剣を振るい、衝撃波を放って光弾を逸らす。
時には剣閃を飛ばして、巫女に対する牽制の一撃とした。
が、それは巫女に片手間に回避される。
近距離型の妖夢にとって、徹底的にアウトレンジから殴られるのは不得手だった。
なんとか抜け穴を探そうと体を捻り、目を凝らす妖夢。
しかし、楽園巫女の「遊び」には、思った以上に「遊び」がない。
妖夢が突っ込んだ先には、待ち構えたかのようにお札が、針が飛来し、少女を巫女の元へと近づけさせない。
迎撃され、撃ち落とされてから既に何度目か。
ふと妖夢が見上げれば、広がっていたのは光弾が七割に針お札で三割の空。
幻想の空は、楽園巫女のものだった。
「あ、隙あり」
巫女の空域に思わず妖夢は怯んでしまう。
それを巫女は見逃さなかった。
本能的に、巫女は封魔針を妖夢に向かって投げ放つ。
自身に向かってまっすぐに飛来する金属針。
回避運動を取ろうとした妖夢だったが、周囲には巫女が張り巡らされた弾幕の目があり、彼女の動きを致命的なまでに阻害する。
妖夢は針の被弾を経験的に判断した。
巫女は針の直撃を直感的に判断した。
二人の予測は、埒外のパワーでもって奇跡的に外れた。
「──恋符『マスタースパーク』!」
星の極光が駆け抜ける。
はるか遠く、幽界と現界を隔てる結界。
それが貼られているちょうどその位置から、光の柱が妖夢達の元へと飛び込んできた。
物理的に引き裂いた閃光は、巫女が放った針を諸共に消しとばす。
これまでの二人の間は、お互いが放った大量の針、お札、弾幕、剣閃で埋め尽くされていた。
しかし、今や彼女たちには何の障壁も存在しない。
妖夢には、巫女の胸元に垂れ下がった、糸くくりのアミュレットが見て取れた。
巫女には、妖夢が握った楼観剣の拵え模様、桜文様が見て取れた。
そして、この瞬間、致命的な隙を晒していたのは紅白巫女の方だった。
「──勝機ッ!」
それはまさしく一生に一度、千載一遇のチャンス。
降って湧いた幸運に、妖夢の頭からは「斬」以外の思考が抜け落ちた。……あるいはスペルカード ・ルールの基本原則でさえも。
右手の楼観剣を振り下ろす──それは霊魂を切り裂く長刀だ。
左手の白楼剣を刺し出した──それは精神を断ち切る短刀だ。
肉体、精神、魂魄。絶死の二刀が、必勝の一撃を損なった巫女を斬り捨てようと閃き瞬く。
「……まずっ」
紅白巫女は自身に向かう刃を認識してようやく呆けから抜け出した。
これまでの生涯で、巫女は常に幸運だった。
──それ故に、自身の攻撃が偶然に打ち消され、意に寄らずに偶然に隙を晒す、という状況下に慣れていなかった。
そういった経験は、最強と称される巫女らしからぬ致命的な隙に繋がった。
側頭部、心臓へと向かう二振りの霊刀。
決死の一撃は、寸分違わず狙いを捉え──巫女を
「……な、んで!?」
「──ああ、もう! 魔理沙! 弾幕なんて下手に撃つんじゃ無いわよ!
……これは
驚きに染まった妖夢をよそに、巫女は苦々しげに呟く。
その『技』は本来この異変で使われるものではなかった。
遊びでなければ誰も勝てないと言わしめた究極奥義。
魔法使いが勝ち目を放棄する曰く付きの
あらゆるものから浮いてしまう夢想の極致は、妖怪が鍛えた刀、魂魄家の守り刀からも、当然のように浮いてしまった。
お互いの意にそぐわぬ状況。しかし弾幕ごっこは続いていく。
二刀を振り切った妖夢の身体は、斬るべき筈だったものを捉えられなかった反動で、大きくいづこかへと流れていく。
もはや誰の目にも明らかな、妖夢の「死」だった。
苦汁走った顔つきで、巫女は右の二本指でお札を挟み上げ、ラストワードを謳いあげた。
「夢符──」
詠唱とともに、妖夢の足元から光が吹き上がり────
「──────ッ!」
────二重に広がる結界に弾かれ、少女は飛び起きた。
妖夢は枕元に備え置いた、二本の刀を引っ掴んで全身に力を入れる。
掛け布団を蹴飛ばし立ち上がった彼女は、左手の白楼剣を腰だめに、右手の楼観剣を上段に掲げて構えた。
戦い備えて一拍、二拍……何も起こらない。
ここは白玉楼の離れ。妖夢の自室だ。
障子の隙間からひゅるりと風が流れる。
遠い何処かで、ちりんと風鈴が鳴った。
「……夢か」
雪一面の春一番に敗北を喫して以来、魂魄妖夢は度々夢を見る。
それはあの日、回収し損ねた桜の断片。
少女の心に溶け残った夢だ。
そして夢は、まだ覚めない。
追加TIPSを入手しました。
旅符『無縫の桜姫』
刀譜『頓死パーフェクトブロッサム』
幻菓『白玉桜餅』
夢符『二重結界』
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