Fate/Select Advance “旧題:静謐が俺の鯖の件について”   作:ボロ刀(改)

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短い付き合いからの別れの件について

 探索中は、時折に襲い掛かるスケルトンは部長のドール・レオニダスに戦闘を任せ、QPが貯まれば少しずつでも強化をさせるをを繰り返しつつ進んでいく。

 その最中に、他の部署の若い男2人、若い女7人の計9人が会議室に籠っていたのを発見する。

 どうやら、まだ事態に対抗する為の情報は一切ないようで、いつ来るかわからないスケルトンに怯え縮こまっていたらしい。

 なので、スマホの所持をしているかを確認してみると、女性一人は落としてそのままとのことなので落とした場所を聞き出した後。

 

「す、凄ぇっ!? サーヴァントが、本当に出てきやがった!」

「これなら、死なずに済むかもな!」

「た、頼もしいかな?」

「そうね。富田さんの説明だと、新規の人のドールは弱いらしいし……」

 

 FGOのアプリのことを説明し、1人を除いた7人はアプリのダウンロードをしたり、元々FGOをしていた1人の男は俺が静謐を絆10にしたように、英霊の絆を上げていなかった。

 それでも、充分な強さがあるので彼が中心になればこの先を生きていきやすいだろう。

 さて、俺が探してる仕事仲間は今のところ見当たっても部長を除けば無惨な方々の仲間入りをしていた。

 探索中、それを見た部長はグロテスクなことになった仕事仲間の絵のお陰で、吐きそうになっていた。

 俺も吐きそうになったが耐えて探索に集中してきたが、それもそろそろ限界が近いかも知れない。

 どこかで休憩をしておかないと、体が持たなくなりそうという訳なので、会議室の中で休息を取ることにした。

 

「サーヴァントさえいれば、もう怖くないな!」

 

 休息を取りながら、会議室に立て籠っていた社員達の会話を耳に入れてみたのだが、9人の内にいたFGOマスターがドール達のステータスを確認し、俺の説明を聞いてから天狗の鼻が伸び始めている。

 まあ、レベルだけなら充分高いので今のところ敵無しなのは間違いないだろう。

 命令内容さえ間違えなければ、楽勝なのだとわかれば天狗になるし、世界が可笑しくなったことは、日本や外国の法が意味をなさなくなったということなので、やろうと思えばやりたい放題出来るかも知れないのだ。

 精神が高揚がします、とハイテンションになるのは避けられなかったのだろう。

 こういう奴は危険人物になる可能性があるので、休息が終わったら速やかに離れた方が良いかも知れないな。

 

「なあ、富田。アイツ、マズくないか?」

 

 部長も若い男性社員の危うさを感じ取ったのだろう、長く関わるのは嫌がっている様子だった。

 

「実際はどうなるかはわかりませんけど、可能性はあります」

「そ、そうか……教えたのはマズかったのか?」

「かといって、放っとくのもマズいです。自力で生きていける力は誰にでも必要な世の中になっちゃったみたいですから」

 

 何もせずに見捨ててしまうのも気分が良くないので教えたけど、今の俺達が休息後に会議室から離れてからの人間関係がどうなるかまでは面倒見切れんよ。

 

「んじゃ、俺はそろそろ他に生き残りがいないかを探しに行きます。部長はどうしますか?」

「君に着いていこうと思っている」

「残らないんですか?」

「ああ。あれを見ていると不安しか感じなくてな」

 

 ここから、あのグループがどうなろうが知らんという訳で、生き残りを探しにいくとしっかりと伝えてから会議室から離れ、離れた後は生き残りを探し回ってみるのだが、立て籠っていたと思われる場所を見つけることが出来ても……

 

「ドアを破壊されたようだな」

「……せめて、冥福を祈りましょう」

 

 部長が呟いたように、ドアを破壊された形で侵入されての虐殺をやられた跡しかなかったというのを見ては探し、見ては探してを繰り返すばかり。

 折角休息を取ったのに、ドンドンと体力以上に精神力が削れていく感覚に俺と部長は何度か吐いてしまいながらも、探索を終わらせることが出来たが。

 

「探せる限り探したが、生き残りは若者グループが一つだけだったな」

「他に探してない所といっても、もうないですし……」

「マスターも、吉川さんも疲弊してしまっていますし、今日はここに泊まって英気を養うべきです」

 

 会社中を探索し回って疲れを隠せないのを見ている静謐の言葉に賛成しつつ、俺と部長は最後に立ち入った社長室内で一晩を過ごすことにした。

 敵が来ても命を守れるようにと、部長のドール・レオニダスと俺のドール・ランスロット(セイバー)を近くに置き、ドールと静謐に守られながら眠りに入ったのが初日の終わりであった。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 二日目。

 社長室のソファーで目覚めたら、俺の腕の中に静謐が納まっているのを最初に見ることになる。

 

「マスター。おはようございます」

「ああ。おはよう……」

 

 ここにいるのが普通のことだと言わんばかりに挨拶を返してくるのだが、いつからそこに収まっていたのかが気になるし、静謐の体が柔らかくてそれなりにあるおっぱいと太股の感触が実に……って、俺の思考はどこへ走ろうとしてるんだよ。

 俺の葛藤による沈黙を、別の意味で受け取ったらしく静謐は腕の中にいる理由を教えてくれたけど。

 

「疑問についてですが、ドールに任せておけば、私がここにいても対処は可能と判断し、こうしています」

「本音は?」

 

 そういう建前があるのはわかった。

 なら、本音はどうなのかと聞いてみると……

 

「マスターに、くっつきたかったのです……」

「素直だね」

「はい」

 

 うん、ドールによる安全があるからそうしてきたんじゃないかと疑っていたら、当たっていました。

 可愛い。

 

「静謐可愛い」

「えっ。あの、マスター? いきなりどうしましたか? か、可愛いだなんて……」

「なんでもない。てか、こんなことしてる暇は今はまだないんだ」

 

 今はイチャついてる場合じゃないと、ソファーから起き上がってから静謐を腕の中から解放してやる。

 その後、朝飯といきたいけど肝心の朝飯となるものが手元にないので空きっ腹で、二日目を過ごさなければならなかった。

 

「そういえば部長はまだ起きない……部長、何でそこに倒れてるんですか?」

「いや、彼女が君と添い寝していたのをなんとかしようとしたら、体が痺れてしまってな。大分マシにはなったが……動けんのだ」

 

 倒れた部長に話を聞いてみると、早朝近くに早起きした部長が見たのが俺が朝一番に見たのを部長視点で見たものだった。

 見てしまった部長は、若い男女他人がいる中でそうするのははしたないからと静謐を引き剥がす為に、うっかり触ってしまってからずっと床に倒れてしまっていたとのことだった。

 

「部長。静謐のことは、しっかりと伝えたつもりなんですが?」

「すまん。そこはあまり信じていなかった」

 

 まあ、俺が部長の立場だったら信じなかったかも知れないので、そこまで強く責めたりは出来ないけど、静謐に触れてよく部長は生きてたな。

 

「てか、FGOのマスターだからって静謐に触れて大丈夫って訳じゃないのがわかっただけでも、儲けだな」

「どころで私は、いつになれば動けるようになるんだ?」

「後30分程度は、倒れているしかありません」

「だ、そうです」

 

 部長が俺の忠告を忘れて静謐に触れてから、それなりに時間が立っていたのが幸いだったし、部長が死ななかったことも幸いだった。

 というか、何で朝からこうなるのさ?

 溜め息を吐きながら、部長が動けるようになるのを待つこと37分。

 動けるようになった部長は、次からは気を付けると宣言した後に会社から出ていく。

 幸いにも、まだエレベーターは生きていたので下まで移動するのは楽だった。

 

「それで、これからどうする?」

「コンビニか、スーパーにでも行きましょうか。お腹空きましたし」

「朝食はまだ採っていなかったな。なら、それが先か」

 

 会社の外へ出て、これからどうするかを考える前に朝飯を食うのが先だということで、近くのコンビニへ向かってみる。

 肝心のコンビニは、まだ中がそんなに荒らされていなかったので、まだ人の手は入っていないようなので取り放題だ。

 その場で俺はおにぎりと爽健美茶、部長もおにぎりと緑茶を楽しんだ後、コンビニ内を漁ってみると店員の私物らしきリュックを発見し、それを勝手に使わせて貰うことにする。

 もう一つあったので、それは部長に渡すが……

 

「泥棒はしたくないんだが……」

「今はそう言ってられませんよ?」

「…………」

 

 俺の言葉により暫し無言になる後、部長は顔も知らない持ち主に謝りながらも使うことを決め、リュックの中にお茶と食べ物を詰め込み始める。

 俺も部長と同じく、カロリーメイトやゼリー飲料を先にリュックに積めてから他のを詰めていく。

 それが終われば、コンビニに用がなくなり、次は何をしようという話になる訳だが。

 

「部長は、奥さんとかを迎えに行かないんですか?」

「私は独身だ。そういう心配はしなくて良い」

「なら、ここからは俺の用事になりますが……どうします?」

「そうだな。お前に着いて行っても、ドールのことで足を引っ張りそうだし、私個人の用もある。ここで、別行動を取るとしよう」

 

 なんと、部長は明確な目的もないと思われたのに俺と別れて行動していくと言ったことに、俺は理由を聞いてみると……

 

「親戚の夫婦とその子供が気になってな。それらを探してみようと思うんだ。富田は?」

「俺も親父と母さんの住む千葉の実家へ、行ってみようと思いまして」

「千葉か。私が向かう所と方向が違うなら、ここで別れようか」

 

 互いに気になってしまう所へ、人の元へ向かうと決めたのなら、心配ではあるけれど止める訳には行かないか。

 けど、大丈夫なんだろうかという気持ちが顔に出てしまっていたらしく、部長は……

 

「私の事は気にするな。君に助けられ力を得たんだ。アプリの件について色々教えてもらえたのだから、なんとかやっていくさ」

 

 と、気にする暇があるなら家族の元へ早く行けと言ってくる。

 ……部長が親戚の人を気にするように、俺は親父と母さんのことが気になっているのなら、向かう方向が気になるのなら、この別れは正しいのだろう。

 なら、俺が部長にかけてやるべき言葉は……

 

「お言葉に甘えます、部長。知人が死ぬなんて嫌ですから、死なないで下さいよ?」

「死なない……と、言いたいが、この変わりすぎた世の中では難しいな」

「それもそうですね…………ありきたりですが、頑張って下さい」

「お前こそ、御両親に会えると良いな……それと私に、この現状を歩ける力をくれて、ありがとう」

 

 互いに生きることを諦めるなと、俺と部長は言葉を交わした後、部長は背を向けて離れていくのを、俺は視界の中で豆粒のようになるまで見つめ続けてからその場を動かずに無事を祈るのであった。

 

 


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