エロゲー世界でハードモード
俺には一人の弟がいる。現在高校二年の自分とはかなり歳の差がある、小学三年生の弟だ。
誰にでも優しくとても明るい自慢の弟。
そんな弟が一週間後に誕生日を迎える。当然誕生日プレゼントなるものを聞いてみたのだが、良い子すぎてあまり我が儘を言わない弟は「なんでもいい」と答えた。
『ダメぇ! 我が儘いってね! お兄ちゃんに頼れコラ!!』
そう拒否して逆に俺の我が儘をぶちまけた後、弟は折れる形でプレゼントの内容を語ってくれた。
ダイビング・システム──略してDS。近年若者たちの間で話題沸騰中のゲーム。
弟が恥ずかしそうに注文してきたのはそれだった。
DSはその名の通り潜る……もっと言えば、ゲームの中に潜ることのできるシステムだ。
その中身はいわゆるVRMMOといったものではなく、ゲームの中に特別なキャラクター枠を生成しFPS視点でプレイヤーがそのキャラを操作するといったもの。
VRと違う点は、その没入感。
プレイには頭全体を覆うヘッドギアを用い脳に直接情報を伝達するのだ。
これは別の世界を直接体感できる、まさに現代科学の結晶といっても差し支えない。
ただ、DSは値段がちょっとお高い。
いや嘘ついた。めっっちゃ高い。
流行しているにも関わらず品切れの状況が生まれていない理由はその値段にあるというわけだ。
しかし、いつも良い子にしてくれている弟のせっかくの我が儘。
これを叶えてやらなきゃお兄ちゃん失格だ。
というわけで週に数回通っているコンビニバイトの給料を全部はたいても太刀打ちできないDSを購入するため、俺は友人の紹介で短期の高額バイトをすることになった。
───なのだが。
「お、お嬢ちゃん……迷子、かな?」
道行く脂ぎったデブのおっさんに心配され、
★ ★ ★ ★ ★
先程のおっさんをうまくあしらった後、片手に数個のおにぎりとお茶のペットボトルが入ったレジ袋を持って近くにあった公園のベンチに腰を下ろした。
すると脹脛まである無駄に長い銀髪をお尻で踏んでしまい、思わず小さな悲鳴を上げた。
「……いた」
喉から出てきたのは自分の物とは思えないほど透き通った小さい声音。
もはや棒読みに近いそれは傍から見れば本当に痛みなど感じているのか? などといった疑問すら浮かばせることだろう。
個人的には「いてっ!?」と呟いたつもりだったのだが、この身体ではそんな素っ頓狂な声も出ないらしい。
どうも思い通りにならない現実に溜め息を吐きつつ、傍らにあったレジ袋からおにぎりを取り出し小さな口でそれを頬張り始めた。
事の顛末を簡単にまとめてみよう。
まず俺が誘われたバイトの内容は新しい
確かに少々怪しい香りはしていたのだが紹介してくれた友人とは仲が良かった為、二つ返事で了承してしまったのは少なからず俺の落ち度と言える。
そしてバイト当日怪しげな部屋でヘッドギアを装着した俺は、何故かすぐさま眠りに落ちてしまった。
目を覚ましてみれば自分がいたのは見知らぬ街の広場。
そこに突然現れたスーツ姿の男は俺にこう言った。
『あなたを含めた5人のプレイヤーには、これよりデスゲームを行って頂きます』
あんぐりと口を開けたままアホ面でそいつの説明を聞いていたのを覚えている。
要はどこぞの金持ちの変態が今回のDS企画──つまり『命を賭けたゲームプレイの生放送』を立ち上げ、俺を含めた5人のバイトはそれに巻き込まれたということらしい。
ゲームの内容は至ってシンプルで、自分はゲーム中とあるキャラクターを演じつつ特定のミッションを達成して得られるポイントを指定された数まで集めるといったもの。
ポイントが指定の数まで達した者はクリアとし、このゲームから解放される。
逆に期間内に集められなかった者はゲームオーバーとされ、肉体を殺される。なんとも物騒な話である。
そして実はゲームオーバーにはもう一つ条件がある。
それは与えられた『残機』が全て無くなった場合──らしい。
残機が減る条件はさまざまなのだが、俺の場合は『ゲーム中の死亡』と『性行為を行う事・もしくは男性の精液の摂取』だ。
……うん、なんかめちゃくちゃ変な部分があったけど一旦この話を最後までしよう。
この世界はいわゆる成人指定、俗に言う『エロゲー』を主とした仮想空間らしい。
そこでプレイヤーがキャラクターを演じ、彼らがクリアの為に四苦八苦する様子を違法な動画サイトで生放送する──というのがこのデスゲームの内容だ。
まとまったかな? うん、まとまったな。
じゃあおにぎりを食べよう。
「……うま」
若干泣きそうになりつつ、最初に支給された少ない所持金で手に入れた食料をむりやり腹に詰めていく。
仮想空間なのに腹が減るというのもおかしな話なのだが、食べなきゃ空腹の感覚が辛いのでこうするしかない。
ペットボトルのお茶でおにぎりを流し込みとりあえず食事はいち段落した。
そしてポケットからスマホを取り出し画面を表示させる。
そこには残存するプレイヤーの数と俺の大まかなステータスが表示されていた。
プレイヤー数は未だ5人。誰もゲームオーバーになっていないことは嬉しい……のだが、彼らが何の『キャラクター』になっているのかが分からない。
もちろん同じプレイヤー同士で協力したいところなのだが、立場的に敵キャラになっている可能性も少なからずある。
それにどのキャラクターがプレイヤーなのかを判断する方法も無いため、現状は一人でなんとかするしかないのが辛い所だ。
「……移動」
口から出てくる棒読みボイスに辟易しつつ俺は公園のベンチから立ち上がった。
現在時刻は早朝の7時。とりあえずまずは朝の内から周囲を散策することにした。
住宅街をちょこちょこと歩きつつスマホの画面を弄ってみる。
そして別のページを表示させ、そこの内容に目を通した。
書かれているのは俺の詳細なプロフィールと指示されたミッションの内容だ。
【キャラクター名:リア 能力:無し】
【ミッションNo.1:主人公のメインヒロインとなること】
他にも細かく書かれているが大事なのはこの部分。
どうやら俺、設定的には『悪の組織の実験場から逃げてきた薄幸の少女』になっているらしい。
そんでもって与えられたミッションはメインヒロインになること。
これはつまり──主人公を自分のルートに進ませる、ということだろう。
他にもいろいろミッションはあるがポイントが一番高いのはこれだ。
……エロゲー主人公のメインヒロインにならなきゃダメなのに、えっちなことしたら死ぬってなんなんだ。まるで意味が分からんぞ!
事前の説明によればこのエロゲーはいわゆる『能力バトルもの』らしい。
そして与えられた残機は3つ。
よく考えてみれば、これめちゃくちゃハードモードなんだよな。
俺はこれから悪の組織に殺されないようにしつつ、えっちなことを回避してエロゲー主人公のヒロインになり、なおかつ激しい能力バトルが勃発するような世界を無能力で乗り切れ──と強要されてるわけだ。……うーん、無理!(にっこり)
「……むり」
小さな弱音を呟きつつ十字路に設置されているカーブミラーをみた。
そこに映っている自分は見慣れた男子高校生ではない。
袖が余っているブカブカなパーカーを着こみ、それに反して短めなプリーツスカートを履いたなんとも不思議な雰囲気を醸し出している低身長の銀髪少女。
軽く光を反射するほどの艶がある銀髪は腰どころか脹脛まで伸びている。風に吹かれるといちいち邪魔だったので、ポケットに入っていたヘアゴムで後ろ髪は一つにまとめた。いわゆるポニーテールだ。
色素が薄く太陽の光に弱そうな白肌は全体的に少し肉つきが足りない印象を受ける。ガリガリに痩せ細っている……というわけではないが、少なからず不健康そうに見えてしまう。当然胸も控えめだ。
設定によれば俺は昨日まで非人道的な実験台にされており、それを見かねた心優しい研究者に逃がされたらしい。仮面ライダーか何か?
いろんな実験されてた割には結局無能力なのも俺のキャラ設定への呆れに拍車をかけている。
俺のキャラマジで何なんだ。良いところが無さすぎる。
「はぁ……」
わざとらしい溜め息を吐く少女の顔は『無表情』の一言に尽きる。
実験の影響で感情を塞ぎこんでしまったその名残らしい。
俺自身はバリバリ感情たっぷりなのだがこの身体ではそれが表現できない。
焦っても驚いても顔の筋肉は動かないし大きな声も出ない。というかテンポよく喋れないのだ。
いわゆる無表情キャラ。
──えっちな事に及ぶ際は官能的な表情をして喘ぎ声も出てくると設定に書いてあった。
知るかバカ。それやったら残機が減るとか死に設定じゃねぇか。
「歩く……」
とりあえずは歩いて、情報収集に専念しよう。
兎にも角にもまずは主人公を発見しないと話にならない。
スマホにはカメラに映した人物をキャラクター分析する機能があるので、簡単な話そこに『主人公』と表示される人物を探せばいいわけだ。
それにここはエロゲーの世界。
銀髪少女の俺がヒロインになる以上主人公は男子学生か汚いおっさんの二択だろう。多少例外はあるだろうが、そこは一旦考えないようにする。
催眠とか成り上がりとか性行為描写が主とされる『抜きゲー』寄りの世界だとしたら、攻略は不可能に近い。
性的興奮が目的の作品でえっちなことが出来ないヒロインとかヒロインじゃないからしょうがないね。
「……うーん」
眠そうな無表情のまま唸り声を上げた。
周囲を散策しながらスマホのカメラで撮影をしていたのだが、道行く人々はどいつもこいつもモブばっかりだ。
朝の住宅街となれば学生の主人公が登校する時間だと踏んでいたのだけど、場所が悪かったかな?
「……学校、どこだろ」
そう言いながらスマホで地図アプリを起動させた。検索するのは周囲の小・中以外の教育機関だ。
大抵のエロゲーは通っている学校が家の近くにあるか、寮生活の二択だと相場が決まっている。
親や弟に隠れて培ってきた経験が無駄にならない事を祈りつつ表示された一番近い学校に向けて歩き出した。
「……なに、これ」
つい、動揺を含めた震える声音が口から漏れた。
俺の目の前に飛び込んで来たのはショッピングモールもビックリな巨大施設だ。
焦って地図アプリを確認したのだが、やはりここが『
……ま、まぁ確かにエロゲーの学園って無駄に充実してるしな。
ちょっと学園のサイトを覗いてみたけど、国内有数の学校法人とか書いてあったしここが物語の主な舞台だってことは明白だ。
じゃなけりゃこんな学園がエロゲー世界に存在する理由なんてない。
サイトによればこの露恵学園は各種スポーツ施設やらカフェやらレストランやらなんでもござれらしいので、まさにキャラクターの個性を作るのには最適な舞台だ。
催眠術でハーレムを築く様なエロゲーだとおっさんが主人公の可能性もあるが、この世界のジャンルは『能力バトル』だ。この時点で主人公が学生なのは明白だろう。
となれば、やることは一つ。
カメラを構えて、校門の入り口で待機だ。
「……ふふ」
ようやく状況が前進した気がして少し笑った。もちろん声は棒読みだけど嬉しいのはホントだ。ガッツポーズもしてやる。
「でさ~」
「マジ? それってやばそう~!」
程なくして、学園の校門前に生徒がチラホラ現れ始めた。
学園外に植えられている大きな木の影に隠れつつ、スマホを横にしてカメラを構えた。あと銀髪もかなり目立つのでパーカーのフードで頭を隠しておく。
おいでませ主人公……なんて考えながらスマホの画面を確認する。
表示されるのはモブ、モブ、モブと、主要人物ですらない。
まぁ今は早朝ということもあって登校しているのは朝練に来た部活連中なのだろう。
主人公はだいたい帰宅部か特殊な部活に所属してるのが常なので、登校するにしてももう少し遅いのかもしれない。
待つこと数分。一人も見逃さないようにカメラを向けている途中でカメラに『モブ』以外の文字列が表示された。
「あー、
スマホを耳に当てながら歩いている少年が目の前を通った。
今一度カメラを向けてみれば、そこには『
軽く設定に目を通してみれば彼は主人公と中学からの仲とある。今は主人公とは別のクラスで、彼と学校で会うのは登下校や昼食の時らしい。
「……メモ、しなきゃ」
ぼそっと呟きながらメモアプリを起動させた。
これから相手をするのは主人公だけではないだろうし、重要人物を覚えておくに越したことはない。
さっと名前と役割だけ書きすぐさまカメラに切り替えた。
友人の田宮浩太が校舎内に入って数十分後、またもやモブ以外の人物が現れた。
今度は女子で校門前に立って待機している。
「……
表示された名前を復唱しつつステータスや設定を見ていく。
キリッとした顔立ちで背も少し高い。長く伸びた黒髪を一つに縛り上げていて、制服の上からでも主張してくるその大きな胸が特徴的だ。
役割はヒロイン候補。設定は剣道部とのこと。能力は身体強化……と、中々分かりやすい。
主人公とは一年の頃にコンビニ強盗と偶然居合わせたところ、二人で一緒に撃退したことで知り合ったらしい。やっぱりこの世界バイオレンスですね……。
あのソワソワした様子を見るに彼女は校門前で主人公を待つつもりなのだろうか。
じっと彼女を見つめていると、藤堂文香の前にひとりの少女が走ってきた。
「あー! 文香先輩じゃないですか!」
「むっ? ……あぁ、陽菜か」
手を振りながら藤堂の前で足を止めた赤髪ツーサイドアップの少女。
首にマフラーを巻いており小柄ながらもその胸は大きい。……また巨乳ですかそうですか。
言葉遣いからも分かる通り、彼女は藤堂の後輩だ。といっても剣道部というわけではないらしい。
能力は浮遊。触れたものを浮かせたり、自身も浮かせることが出来る。
主人公とは同じバイト先のコンビニで知り合ったらしい。ちなみに彼女はバイト先では主人公の先輩だ。
二人は仲良さそうに会話をしつつその場に留まっている。どうやら自由ヶ丘陽菜も、ここで主人公を待つことにしたようだ。
ここまで見て分かったことだがどうやらこの世界は『能力バトルもの』ではあるものの、異能力が常識というわけではないらしい。
今のところ日常的に能力を使用している人間は見られないし、そもそもモブには能力持ちがいなかった。
つまり彼女たちは能力を隠しつつ学園生活を送っているというわけだ。
「……あっ」
周囲を撮影していたスマホにとある単語が表示された瞬間、思わず声が出た。
画面に映っているのは、ほどほどに黒髪が長くほどほどに身長が高くほどほどに顔が整った少年。
それは恋愛ADVやノベルゲームにおいて『普通』と称される、特徴が無さすぎるのが特徴な見た目。
───主人公キター!
「や、やった……」
控えめにガッツポーズをし、スマホに表示されている『主人公』の文字を見てもう一度深くガッツポーズをした。
うおー、幸先いいぞ! まさか一日目にして主人公を含めた主要人物たちを見つけられるなんて!
「ふふ……」
好調な出だしを無表情で喜びつつ目と鼻の先で繰り広げられるゲームの光景を眺める。
ヒロイン二人と若干面倒くさそうに会話している彼に、改めてスマホを向けた。
学力は並みだが昔から少し鍛えているので運動は得意。……出た、謎の鍛えてる設定。あるあるだよなこれ。
一つ下の妹との二人暮らしで両親は海外出張中で不在。
部活には所属していないものの、『とあること』が原因で毎日大忙し。
生来面倒くさがりだが困ってる人にはつい手を差し伸べてしまうお人好し。
大まかな設定はこんなもんか。まさにテンプレ通りだな。……よし、焦りは禁物だ。今日は観察と情報収集だけに時間を使おう。
「おー、文香と……陽菜か」
「何ですか先輩、その面倒くさそうな顔は!」
「いや、朝弱いだけだって」
自分の後頭部を手でかきつつ明らかに面倒くさそうな態度を隠さず、後輩をあしらう海夜蓮斗。頬を膨らませてそれに抗議する自由ヶ丘。
そんな二人を眺めている藤堂は若干苦笑いをしている。どうやらこれはいつもの光景らしい。
──これが、いつもの光景?
まてよ、ということは、だ。
思っていたよりこの世界の『共通ルート』がかなり進んでしまっている……ということになるぞ。
今どきのエロゲーで、最初からこんな風にヒロインたちがデレているのはそうそう無い。
それでは攻略するうまみが無いからだ。
自分の手で好感度を上げてこそゲームでのヒロイン攻略が楽しくなる。
こうなった状況はおそらく少なからず主人公がヒロインの好感度が上がる場面を、既に幾つかクリアしてしまっているからだ。
仮想世界ゆえに主人公が他プレイヤーやデスゲーム主催の人間が操っているのか、はたまたAIによる自律状態なのかは分からない。
どちらにせよこのまま放っておけば必ず現時点で好感度の高いヒロインルートへ優先的に進むだろう。
予想外だ。これは少々焦った方がいいかもしれない。
「……あれ?」
冷や汗を流しながら彼らを見ていると、いつの間にか海夜の隣に小さな少女が立っている事に気がついた。
「おや、フィリスじゃないか。いつのまに?」
「……つい、さっき。話してるの、見えた……から」
藤堂に話しかけられたその少女は、無表情のままたどたどしい喋り方で返事をした。
唐突に現れた彼女に焦りつつ俺はカメラをその少女に向けた。
水色の髪の毛で髪型はショートボブ。主人公より頭一つ小さく、その無表情な雰囲気からはクールというよりミステリアスな印象を受ける。
名前はフィリス・レイノーラ。能力は氷使いっぽいことなら大体できる。
物心をつく前に日本に越してきた為名前に反して中身は生粋の日本人。
しかし幼少期のとある事件がきっかけで、感情を塞ぎこんでしまった。以来話し方や感情の出し方に悪戦苦闘しているらしい。
進学の為にこの地域へ引っ越してきた際迷子になっていたところを海夜が助け、さらにクラスが同じというのもあり主人公と交流を深めている。当然の如くヒロイン候補だ。やっぱり胸もおっきいぞ。
───待って。
おいっ、おま、えっ?
フィリスちゃんお前──俺と属性被ってねぇか!?
感情を塞ぎこんで無表情になったとかほとんど俺と経緯同じだし!
マジかよ後から登場する二人目の無表情キャラとか誰得だよ勘弁しろよぉ……っ!
「どう……しよ……」
あぁ、焦りのあまり呟いたけどこれ声の印象まったく同じだ。
たどたどしい喋り方もダダ被りだし、さらに言えば名前も俺と同じ横文字。
もうだめだ、おしまいだぁ……。
「貴方たち! もうすぐチャイムが鳴ってしまいますよ! 遅刻したくなければ早く校舎に入りなさいな!」
唐突に現れた金髪縦ロールのお嬢さまぁぁんした女子生徒が、校門前でワチャワチャしてる四人に注意をした。
「今度は……なに……」
えーなになに、
みんなにはロイゼって呼ばれてるのね、うん、いいと思う。
部活は弓道部……え? そのおっぱいで? そこにいる女子の中で誰よりもでかいそのおっぱいで弓道は無理でしょ。
……あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! ヒロイン多すぎんだよ!!
てか属性被ってるのが居るとかおかしいだろ! 俺なんのポジションだよ! なに、二週目で攻略できる隠し要素とかそんな感じ!?
「……うぅ」
思わずその場で座り込んだ俺は悪くない。こんなの挫けない方がおかしいんだ。
「お、ロイゼ。わざわざ呼びに来てくれてありがとな」
「なっ! ……べ、別にあなたの為では……あぁん、もうっ。とにかく皆さん急いでください!」
視線を先に移せば、そこではワチャワチャしながら校舎に入っていく五人が見える。
俺を除いて、既に好感度がある程度高いヒロインが四人。
さらに言えば属性がダダ被りしている無表情系のヒロインもいやがる。
そんでもって全員当然の如く能力持ちだぞ。
あと俺だけ胸が控えめだ。たしかにあるけどちっぱいだ。
勝てる要素ないじゃん。やめてくれよぉ……。
──ぐぬぬっ、諦めちゃだめだ。
俺はどうしてもこのデスゲームを生き残って弟の誕生日を祝わなきゃならないんだ。
本来ならこんなことしてる時間なんてねぇ。
さっさと脱出して、金貯めてDSと誕生日ケーキを買わなきゃ駄目なんだよ! お兄ちゃんは忙しいんじゃい!
クソが、属性被りがなんだってんだ。こちとらエロゲーヒロインには詳しいんだよバカ野郎。
今に見てやがれ主催者。こんなもんクリアしてそのニヤニヤ眺めてるだろう顔面をぶん殴ってやるからな。
「……がんばる」
グッと気合を入れて立ち上がる。俺は決めたぞ。
あぁ、いいよ、やってやろーじゃねぇか。
異能力なし、表情と喋り方抑制のデバフ、主な属性の被り、おっぱいの低ステータス───と、高難易度のクソハードモードだろうが絶対にクリアして見せる。
「おいフィリス、ひっつくのやめろって」
「……さむい、から」
「あー! フィリスちゃんずるい! 文香先輩もなんか言ってやってくださいよぅ!」
「はは、二人とも朝から元気でいいな」
「貴方たち遅刻したいんですか!?」
ふん、今のうちに共通ルート特有の平和を謳歌しているがいい。
海夜蓮斗が進むメインルートは他でも無い、俺だ。
……俺がヒロインになるためにはあの状況をどうにかしないといけない。
よし、そうだな、俺は決めたぞ。
海夜蓮斗、いや……主人公!
まずはお前のハーレム俺がぶっ壊してやるぁ!!