お前のハーレムをぶっ壊す   作:バリ茶

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リアが勝ちます(無慈悲なネタバレ)



リア&視聴者(おれたち) vs クソザコ片思い怪人

 陽菜をソファで寝かせた俺は、リビングで牛乳を飲んで休んでいた。

 兎にも角にも、陽菜を助けるためには噂の怪人とやらを倒さなければいけない。

 

 海夜に任せておけば解決しそうな気がしないでもないが、それはあくまでも予想の話。

 ここで妹を助けずして、何がお姉ちゃんだ。俺が全部なんとかしてやらぁ!

 

 

「……ん?」

 

 外出用の服に着替えていると、テーブルの上に置いてあったスマホが震えた。

 急いで暖かいコートを着込み、スマホを手に取る。そして画面を確認すると、これまた今まで見たことの無い画面が表示されていた。

 

 

【視聴者参加型バトル開催! コメントで決定する行動に従い、陽菜にひどい事したゴミカスうんこ生きる価値なしガチクズ怪人をぶっ殺そう!】

 

 

 はい  ←

 いいえ

 

  ※いいえを選んでも残機は減りません

 

 

「……ふむ」

 

 想像以上に視聴者側の怒りが伝わってくる煽り文句が来た。やはりあっちから見ても陽菜はかなり可哀想だったらしい。

 数秒間逡巡し、どうするかを考えてみる。

 

 いやまぁ、違法サイトでデスゲームの生配信見てるような奴らだから、まともじゃないことは知ってる。こいつらの言うことを鵜呑みにするのは流石に馬鹿だ。

 

 だが、俺一人で戦うよりは勝てる確率が高い。この煽り文句を見れば、視聴者が例の怪人をボコボコにしたいことは否が応でも伝わってくる。

 

「……いいだろう」

 

 お前らの気持ち、受け取ったぞ。一緒にクソカス怪人をぶっコロコロしようぜ。

 

 

 はい  ← 【決定!】

 いいえ

 

 

「おっ」

 

 スマホをタップすると、目の前にワイヤレス型の小さなイヤホンが出現した。

 

 それを手に取って耳に装着すると、何やら棒読みでゆっくりな機械音声が聞こえ始めた。

 

 

【名無し1:後輩っ娘をいじめたゴミを駆逐するRTAはーじまーるよー】

 

【名無し2:お、ゆっくり音声で再生されんのね】

 

【名無し3:いぇーいアーカイブの奴ら見ってるー?】

 

 

「まじか……」

 

 耳に流れ込んでくる棒読みの機械音声を聞きながら、この企画の趣旨を理解した。

 これ、簡単に言えば視聴者によるリアルタイム実況だな?

 

「……えっと、よろしく」

 

 

【名無し4:協力ヨロ】

 

【名無し5:いきますよ~いくいく】

 

【運営1:安価で武器を決めます ▼安価↓4】

 

 

 これ実況っていうより掲示板のノリじゃねぇか! 武器とかめちゃくちゃ重要なのに軽すぎんだろ!? 

 

 

【名無し6:包丁】

 

【名無し7:陽菜ちゃん連れてく】

 

【名無し8:ポイントのレーザー銃】

 

【名無し9:フライパン】

 

【名無し10:自転車】

 

 ……えっ、待って?

 フライパン?

 

【名無し11:しょっぱなから酷くて草】

 

【名無し12:スナイポゥ……】

 

【名無し13:>>7 タヒね】

 

【運営1:安価により武器はフライパンとします プレイヤーは台所にあるフライパンを使用してください】

 

 勝ち目がない(絶望)

 選んだからにはコイツらに従わないと、何されるかわかんねぇし……ぐぬぬ。

 

「フライパン……あった」

 

 キッチンに置いてあった大きなフライパンを両手で持つと、再び機械音声が流れ始めた。

 

 

【名無し14:(今回の参加型バトルは)ダメみたいですね……】

 

【名無し15:今北産業って言おうと思ったら武器がフライパンになってて草 バトロワゲーのやりすぎだろ】

 

【名無し16:これ普通に再安価なんじゃねーの?】

 

【運営1:再安価は無しとします】

 

 

 まじでフライパンで戦えってことか……。

 畜生、腹くくるしかねぇのか。

 

「が、頑張る……これで怪人、やっつける」

 

 

【名無し17:強がってて草 かわいい】

 

【名無し18:う~んこの絶望感たるや】

 

【プレミア:陽菜ルート87周した俺が通りますよっと】

 

【名無し19:ファッ!?】

 

【名無し20:プレミアム会員だ! 囲め!】

 

 

 は、87周……? これは期待できるのでは?

 

 

【名無し21:筋力クソザコなリアちゃんが フ ラ イ パ ン で す よ ?】

 

【プレミア:余裕 寧ろ木の枝とかじゃなくて安心したわ】

 

【名無し22:強者の風格ですねクォレハ】

 

【名無し23:陽菜ルートは即死ルートがクッソ多いんだよなぁ】

 

【名無し24:そこはリアちゃんのアドリブと俺らのアドバイスでなんとかなるでしょ(適当)】

 

 

 そこから1時間程度、作戦会議という名の雑談が繰り広げられた。

 俺もちょくちょく口を挟んでみたが、こいつら自由すぎて駄目ですね!(涙目)

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 はい、やってきました露恵学園。視聴者勢の話によれば、噂の怪人は旧校舎の人気が無い教室に引きこもってるらしい。

 

 陽菜を認識させない能力には集中力が必要で、落ち着ける静かな場所にいるとのこと。なので怪人の居所はランダム性が強いのだが、噂のプレミアム会員には「十中八九ここで間違いない」と太鼓判を押された。

 

「えっと、まずは……」

 

 学園に到着次第、まず学生寮の近くへ向かった。片手には猫缶が入ったレジ袋、背中のリュックには取っ手がはみ出てるフライパン。制服じゃないし完全に変質者だ。

 

 とはいっても、露恵学園は一種の学園都市。許可を取れば自由に敷地内を散策できるため、大した問題はない。

 許可はどうしたって? ……ふふふ、俺の友達には豪邸に住んでるお嬢様がいるんだぜ?

 

「……あ、いた。猫」

 

 学生寮の付近を散策していると、草むらの影に猫を見つけた。あの子が今回の攻略の鍵とのこと。

 レジ袋から猫缶を取り出し、蓋を開けてからそーっと猫に近づいていく。

 

 すると「にゃーん」と鳴きながら、猫自らこちらに近づいてきた。この猫は元々野良で、ここら辺でうろついてる間に、寮に住む学生たちが世話をし始めたらしい。それならこの人懐っこさも納得だ。

 

 

【名無し554:ネコと和解せよ】

 

【名無し555:元から争ってない定期】

 

【名無し556:が゛わ゛い゛い゛な゛ぁ゛ネ゛コ゛ち゛ゃ゛ん゛】

 

 

「……うるさい」

 

 

【名無し557:怒らないで(´;ω;`)】

 

【名無し558:リアママこわいバブ】

 

【名無し559:んなことより時間ないからはよ移動せぇ】

 

 

 機械音声に急かされ、俺はその場を後にした。猫にご飯あげるのが何の鍵になるかは知らないが、俺はコイツらを信じるだけだ。三人寄れば文殊の知恵、いっぱい寄れば無敵の知恵である。

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 旧校舎、そして怪人がいるであろう教室のドア、その目の前に来た。

 リュックを降ろし、中からフライパンを取り出す。

 

 

【名無し571:OK! 次に進もうぜ~!】

 

【名無し572:OK! (俺たちと)一緒なら大丈夫~♪】

 

【名無し573:歌い始めるな】

 

【名無し574:武器の貯蔵は十分か?】

 

 貯蔵もなにもフライパンしかないんですけど。これで怪人の頭ぶっ叩けばいいのか?

 とりあえず準備は完了したので、ここから先は戦闘だ。

 

 

「い、いくよ」

 

 

【名無し575:突撃ぃ!!(日本兵)】

 

【名無し576:\( 'ω')/ウオオオオアアーーーッッ!!!】

 

【名無し577:FBI OPEN UP!!!(ズドドドド)】

 

【プレミア:入ったらすぐ左に跳べな ナイフ頭にぶっ刺されて死ぬからよ】

 

【名無し578:冷静で草生えた】

 

 

「……っ!」

 

 意を決し、ピシャン、と勢いよく教室のドアを開けた。そしてすかさず床を踏み込み、左側に跳んだ。

 

 その瞬間、俺が先程まで居た場所に、天井から数本のナイフが降り注いだ。

 

「うわぁっ……」

 

 血の気が引く、とはまさにこの事か。指示に従っていなければ、今頃俺は串刺しの刑に処されていたことに戦慄する。

 

 だが、怯えている暇はない。すぐさま正面を向き直ると、そこには全身の肌が緑色の少年が立っていた。オカマは例外だったけど、怪人って大体肌の色が変色するのね。

 

 

 じっとその怪人を観察していると、相手の方から喋り始めた。 

 

「お前……よくもボクの計画を!」

 

「う、うるさいバカ、ピーマンみたいな肌、しやがって」

 

 挑発するように反論すると、予想通り怪人は怒りに顔を歪めた。その顔、なかなかブサイクで面白いぞ。

 

「あと一歩だったんだぞ! あの海夜とかいう先輩にも認識されないって理解したうえで! ボクが彼女を助ければ……簡単にボクの女にできたはずなのに!!」

 

「回りくどい。好かれる努力から、始めろ、アホ」

 

「あ゛ぁ゛!?」

 

「学生の内から、怪人とか馬鹿すぎる。陽菜を追い詰めてるの、いじめと同じ。道徳って言葉の意味、知ってる? 小学校から、やり直した方がいいと思う」

 

「~~っ゛っ゛!?」

 

 

【名無し579:割と辛辣ですね……たまげたなぁ】

 

【名無し580:コイツには何言ってもたりねぇし意味ねぇぞ!】

 

【名無し581:そうだよ(便乗) さっさとぶち転がして、どうぞ】

 

 

 言われなくても分かってる。この怪人は情状酌量の余地なし。一切の情けも与えず地獄を見せてやる。

 

「ボクの邪魔をした罪は重いぞ……!」

 

 俺がフライパンを構えると、怪人が右手をドリルに変形させて襲い掛かってきた。まぁ怪人だし腕ドリルくらいじゃ驚かない。

 

 

【名無し582:いま足元にある空のペットボトル蹴っ飛ばすと、もれなく怪人が勝手に転ぶキャンペーンを実施してます!】

 

【名無し583:飲んだ後ゴミ箱に捨てなかったコイツが悪い】

 

 

「ほっ」

 

「──ぁ、うわっ!?」

 

 指示通り足元にあったペットボトルを蹴飛ばすと、怪人はそのペットボトルを踏み込んで、勢いよく顔面から転倒した。痛そう(小並感)

 

「う、うぐぐ……!」

 

「とうっ」

 

 立ち上がろうとする怪人の顔面に、思い切りフライパンを叩きつけてみた。

 

「ブガッ!」

 

 見事に怪人はひっくり返り、哀れにも涙目になりながら鼻血を垂らした。

 怯んでいる隙を見逃さず更にもう一発、仰向けになっている怪人の顔にフライパンアタックをおみまいしてやる。

 

「ングびッ!」

 

 

【プレミア:すかさず2発目を……って、もう攻撃してたんか】

 

【名無し584:アドリブは得意なんだぞ うちのリアちゃん舐めんなよ】

 

【名無し585:あ、この次はオーラ出した後の衝撃波で吹っ飛ばされるンゴ フライパン手放しちゃ駄目ンゴ】

 

 

「えっ──ワァッ」

 

 警告通り怪人が緑色のオーラを発生させ、それで生じた衝撃波によって、体の軽い俺はいとも容易くふっ飛ばされてしまった。

 

「かはっ……!」

 

 勢いよく教室の壁に叩きつけられ、肺の空気が一気に漏れ出てしまい、思わずフライパンを手放してしまった。

 ぺたん、と力なく床に倒れると、怪人が高笑いをした。 

 

「あっはは! やっぱり僕が負けるはずないんだ! 一人で来たのは間違いだったなぁ!?」

 

「うっ、いた……」

 

 痛む肩を押さえながら、なんとか立ち上がった。

 しかしフライパンは手から離れてしまい、少し先の床に落ちてしまっている。

 

 

【名無し586:あ、フライパン離しちゃったぞ】

 

【名無し587:何やってんだよ団長!?】

 

【名無し588:はい負け~!!(武器を取るより先に攻撃されて詰むため)】

 

【名無し589:お願い負けないでリア乃内! あんたが死んじゃったら陽菜との約束はどうなっちゃうの!? 頑張ればまだ勝機はたぶんあるんだから!(適当) 次回、リア乃内死す!】

 

 

 やばい、このままじゃ本当に詰む。ここで怪人に殺されたら、俺の残機がとうとう残り一つになってしまう。そんな余裕の無い状態になったら精神崩壊してマジの無表情っ娘になっちまうぞ!

 

「なんか、何かないの……」

 

 

【プレミア:お? 勝ちじゃん】

 

【名無し590:は?】

 

【名無し591:何言ってだお前(真顔)】

 

【名無し592:プレミアくん現実逃避始めちゃった……一緒に病院もどろ?】

 

【プレミア:馬鹿ちげぇよ リアちゃん、怪人に「他に仲間が来てる」ってカマかけてみな】

 

 

 何だかよく分かんないけど分かった!(トッキュウ1号)

 

 俺は敢えて無表情を崩し、なんとか頑張って小さく笑って見せた。

 この体で表情を作るのは中々難しいのだが、少し口角を挙げる程度ならなんとかイケる。

 

「……? なんだ、気でも狂ったか?」

 

「ふふ……」

 

 ダメだ声が棒読みのままじゃねえか。

 あー、もう、なりふり構ってらんねぇ!

 

 

「……実は、私は一人じゃない。仲間が来てる」

 

「ケッ、ハッタリだろ。命乞いしたって無駄だからな」

 

 

「嘘じゃないよ──ホラ」

 

 

 そう言って俺が指差した瞬間、怪人の背後で『ガタン』と物音が発生した。

 

 

「なっ──!?」

 

 怪人が驚愕し、体ごと後ろへ向けた。

 

 その視線の先にいたのは───ネコだった。

 

 

【名無し593:あの時のヌコ!? なぜヌコがここに!? 自力で脱出を!?(無言の腹パン)】

 

【名無し594:まってこんなルート初めて見たんだけど】

 

【名無し595:さすがプレミアくんだぁ(恍惚)】

 

【名無し596:読めなかった このリハクの目をもってしても……】

 

【名無し597:だから事前に猫缶をネコに与えておく必要があったんですね(RTA並感)】

 

【プレミア:今だ走れぇぇぇぇぇぇフライパン拾って後頭部なぐれぇぇェェェ】

 

 

「了解……!」

 

 すぐさまその場を駆け出し、フライパンを拾い上げて思い切り振りかぶる。

 

「しまっ──」

 

「くらえっ」

 

 そのまま勢いよくフルスイングされたフライパンは、ものの見事に怪人の後頭部にクリーンヒット。

 

 

「はがァっ」

 

 一瞬で意識を刈り取られた怪人は白目を剥き、顔面から床に倒れ込んだ。

 

 フライパンで殴った衝撃が手にジンジンと残り、その場で何度も呼吸を繰り返す。

 

「……ふぅ」

 

 そのまま息を続けていれば、程なくして爆速で動いていた心臓は徐々にそのスピードを落ち着けていった。

 

 

【名無し598:ケッ雑魚が! ヒロインに手ぇ出すからそうなるんだよ! ペッ!!】

 

【名無し599:圧勝だったなガハハ】

 

【名無し600:俺は最初からリアちゃんのこと信じてたけどね?】

 

【名無し601:この熱い掌返しよ】

 

【名無し602:てのひらジクウドライバーかよお前ら】

 

【名無し603:あまりにも掌ドリルすぎて右手がもげた】

 

【プレミア:おつ やっぱり行動力は大したものね 嫌いじゃないわ!】

 

【名無し604:プレミアさんありがとう! フラーッシュ! ……ん?】

 

【名無し605:え、あれ?】

 

【名無し606:あっ、ふーん(察し)】

 

【名無し607:ちくわ大明神】

 

【名無し608:MVPだから見逃してやれ】

 

【名無し609:誰だ今の】

 

 

 とりあえず怪人は倒せたので、ホッとした。──その瞬間、スマホが震えた。

 この震え方は間違いなく、強制選択のアレだ。

 

 

【怪人を警察に受け渡す(P+3)】

 

【怪人の金玉をこれでもかというほど蹴り飛ばす(P+3)】

 

 

 

「……下にしよう」

 

 

【名無し610:ヒェッ……】

 

【名無し611:タマヒュンした】

 

【プレミア:アタシも】

 




※R18版が投稿されました


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