今日のまとめ：デスゲームに巻き込まれた
この世界に訪れて数時間は狼狽しっぱなしだったけど、夜になるにつれて落ち着いてきたので、とりあえず報告書形式でノーパソに状況を纏めることにしたぞ。
誰かに対して見せるわけではないけど、後でこれを見つけたプレイヤーの手助けくらいにはなって欲しい。
さて、今日起こった出来事のまとめを記そう。
まず最初に、俺はデスゲームに巻き込まれた。部活動の先輩から割のいい短期バイトを紹介されたのがきっかけだ。
金が欲しい金が足りないと喚いていた同級生の男子にそれを紹介して、一緒に参加したが運の尽き。目覚めた時には、既に仮想世界の中だった。
同級生のアイツには悪い事したなぁ。……いや、そんな軽い感じで済ませちゃ駄目なんだけども。ごめぬ。
ともかく、必要なのは情報収集。とりあえず今日一日はスマホに記載されているキャラ設定に沿って、無難に過ごしてみた。
そうして今、分かったことがある。
……えぇっと、これ、『最良の選択 ～まけるな蓮斗くん～』ってエロゲの世界だな！？
知ってる、勿論知ってるわ。このエロゲはつい最近発売されたばかりで、俺もプレイ済みだから記憶に新しいぜ。
最良の選択っていうのはシリーズ名で、～まけるな蓮斗くん～ってのが実質のタイトルだ。
シリーズは数年前から続く人気シリーズで、その驚異的な難易度から一部界隈ではめちゃくちゃ盛り上がってるエロゲだ。
毎回正解が違う、ランダム生成の選択肢。プレイヤーの心を砕くような即死トラップの数々。
そしてなにより、シリアス……というか、めちゃくちゃに『重い』ストーリーが、界隈の人間たちを刺激したらしい。もちろん俺もその一人だ。
今作なんて4ヒロイン全てのルートで、主人公の妹こと海夜小春が死んでしまう。物語の仕様で助ける選択肢が存在せず、100パーセント確定で犠牲になるのだ。
それはもう一人の隠しヒロインルートでも例外ではなく、そのルートにおいては『レーザーで焼き尽くされ全身穴だらけの状態』という、ライトなリョナ勢でも引くレベルの死に方をする。かわいそすぎる。制作陣は人間ではない。
しかも主人公の蓮斗は道中怪人にゆく手を阻まれ、彼女が無残に殺されてから十分後に現場へ到着する。諸行無常。
妹を殺した犯人は分からず、助けられなかった絶望感で精神が摩耗してしまう。
その結果、偶然その場に居合わせ、妹を見殺しにした謎の少女に妹の面影を重ね、彼女を妹だと思い込みながら『悪の組織やヒロインたち能力者全員』を敵に回して逃亡劇を繰り広げるのが、隠しヒロインルートだ。
何といってもこの隠しヒロインルート、ただでさえクソ鬼畜難易度のヒロインルートを、全ヒロイン分攻略しなければ解放されないにもかかわらず、当の隠しヒロインルートがそれ以上の難易度ルナティックモードと化しているらしい。なにがまけるな蓮斗くんだふざけやがって。
そして販売開始からまだ一週間という事もあって、攻略掲示板ですら上述した断片的な情報しか出回ってないのだ。クリアできた猛者なんているのかしら……。
ちなみに俺はフィリスルートしか攻略できてないです。ネタバレとか解説記事とか見てるから4ヒロインのルート内容は大体把握してるけど、やってみると難しくて精神こわれる～＾。
おっと、話が逸れた。ともかく、今日は情報収集だけに専念した。
俺のキャラは主人公の親友である田宮浩太だ。いわゆるお調子者な男友達ポジションだな。
そこまで難しい役柄ではないし、余裕が出来たら……同級生のアイツを探そう。不可抗力とはいえ、巻き込んじまったわけだし、何か助けになってやらねぇと。
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今日のまとめ：特になし
今日明日は休日なので、学校でのみ出会う友人キャラな俺にこれといった仕事はない。
強いて言えば、この二日間で小春が死亡するってことは覚えておかないとな。
ルートによって死因は異なるが、どれも共通して蓮斗がギリギリで間に合わない。そして心が砕けた蓮斗を支える女の子こそ、そのルートのヒロインとなる。
昨日見た限りじゃあ、この世界はフィリスルートかしらね。一番好感度が高そうだったし、次の日にショッピングの約束もしていた。
まぁ最良の選択シリーズは行動によって急にルートが切り替わるのが特徴なので、油断は禁物だが。
──あと一番大事なこととして、ここはあくまで『最良の選択 ～まけるな蓮斗くん～』を
現在でもまだまだ取り扱える企業が少ないこの仮想空間は、NPCひとりひとりに人間とほぼ同等の知能回路が組み込まれている。
それゆえに、ルートとは違う行動に出る場合も多い。自由度が高すぎる分、しっかりとプレイヤーに手順を踏ませるゲームには若干不向きなのだ。
そして何より、運営がデスゲームを行うようなアホ共だ。もしかしたら4ヒロインのルート全部を一気にやろうと企てる馬鹿がいる可能性もある。
……ともかく、休み明けはまず蓮斗の家に直行だ。
小春を失って悲しみに暮れている蓮斗を励ましにいって、彼の傍にいるヒロインに「今は来るな」と追い出される──という様式美を踏まなければ。
どのルートにおいても小春が死ぬのは確定だし、暫くはゲーム通りに事が進むだろ。今はかるーく身構えておこう。
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今日のまとめ：やばいやばいやばいやばい
なんか普通に兄妹そろって登校してきたんですけど。
……え！？ なにごと！？
えっえ、なに？ これは一体なに？(二回目)
なんで生きてんだお前。何普通にお兄ちゃんと会話しながら校門通ってんの？ ていうか蓮斗もなんでそんな晴れやかな顔してんのぉ……？ 引きこもるんじゃなかったのぉ！？
おかしいでしょ、日にち確認したから間違いないって！ 休日中にヤバい事件が起こった筈だよな……！？
待ってよ、いま何のルートなの？ 攻略掲示板でも小春が生き残るルートなんて無かったよ？
なんか盛大に狂ってきたぞ。このままじゃこの世界の展開に置いてかれちまう。
……あと、何故か隠しヒロインのリアが居ました。校舎裏でフィリスと話してたわ。
アイツがいるなら尚更小春がご存命の理由が見当付きませんねぇ？
てか、もう少し時間が経過してから現れるはずの『赤青怪人兄弟』が今日出てきたのも意味分からん。しかもあいつらフィリスルートでしか出てこないんだぜ？ リアが学校にまで出現してるのに何であいつら登場してんのこれ何ルートなの……。
──ちょ、ちょっと待て！？
もしかして運営、この世界を全部のルートぶち込んだ闇鍋状態にしてんのか！？ でも小春が死ぬのって全てのルートにおいての共通点のはず……あー、無理。考えるのやーめた(思考放棄)
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今日のまとめ：てんっっっさいな俺は全て理解した
少し落ち着いてから脳細胞をトップギアにした結果、今の状況を完全に把握したぜ。
今小春が生きているのは、考えるまでも無くデスゲームプレイヤーの介入が原因だ。おそらく先日怪人が暴れている場所に、そのプレイヤーが居合わせたのだろう。
そのプレイヤーのキャラは十中八九リアだ。
アイツがいるってことは、つまりレーザーの怪人が出現するという事。そしてレーザーの怪人から小春を救えるのは、偶然その場に遭遇する
残りの可能性として蓮斗もプレイヤーの可能性があったが、カマを掛けたりスマホのポイント画面をチラつかせても反応しなかったのでシロだ。
そして恐らく高確率で、そのプレイヤーは同級生のアイツではない。
アイツも確かにエロゲを嗜む紳士ではあったが、最近会話したときに最良の選択肢の話題を振った際は「まだ最新作買ってないしCMすら見てねぇや」と笑っていた。さらには内容も全然知らなかったらしい。
まぁ発売して一週間なので、それは致し方ない。
それで、だ。この鬼畜難易度のエロゲを、未プレイのアイツが無双できるわけがない。
ここ最近のヒロインたちの様子をみるに、恐らく彼女らのルートを蓮斗の代わりにリアが攻略したんだろ。
本来しない筈のリアの話を、ロイゼやフィリス、陽菜までもがしている始末だ。これは確定で間違いない。
というか凄すぎる。強制選択とか邪魔なシステムもあるってのに、蓮斗を他のヒロインルートに行かせないために、自分でヒロインのルート内容を消化しちまうなんて、とんでもない離れ業だ。俺なんて7ポイント貯めるだけでも精一杯だってのに。
多分リアの中身の人は、めちゃくちゃプロの天才ゲーマーか何かだ。バイトの報酬はそれなりに高かったし、短期となればそんな人が応募してもおかしくない額だった。
……というわけで、明日はリアことプロゲーマーの人に会いに行こうと思う。
最近は何故か学園の敷地内でよく見かけるので、きっと探せばすぐに見つかる筈だ。
簡単に言えば、協力を仰ぎにいく。こんなに凄い人なら余裕があると思うし、きっと快く手を貸してくれるはずだ。
なにも俺を助けて欲しいわけではない。俺には事前に持っていたこのゲームの予備知識があるし、最悪一人でどうにでもなる。
心配なのは、俺が連れてきてしまった同級生だ。あいつは未プレイどころかキャラの名前や大まかなストーリーすら知らない。
そうなると、きっと今も悪戦苦闘している筈。それでデスゲームに敗北して死んでしまったら、俺は死んでも死にきれない。
待ってろよ、絶対プロゲーマーの人を連れて助けに行くからな！ 一緒にノーコンテニューでクリアしようぜ！
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【校舎裏の体育倉庫に銀髪少女の気配がする！ 行ってみようぜ！（P＋1）】
【行くな！(チラチラ) 後悔してもしらんぞ！(ソワソワ) （P＋1）】
このあからさまにフリっぽい選択肢、久しぶりだなぁ。
ま、上だろ。そもそもこれから昼休みになるわけだし、最初からこの時間にあの人を探そうと思ってたんだ。
昼メシは後で食べるとして、さっそく探しに行こう。校舎裏の体育倉庫ってのが少し気になるけど、恐らくスマホで何かしらの操作をしているのだろう。
俺もプレイヤーだって話しかければ、きっと中に入れて貰えるはずだ。
「……へへっ」
くぅ～！ 会うのが楽しみだ！ キャラはリアだけど、プレイヤーは一体どんな人なんだろ！
お、見えてきた。そこまで大きくはなくて、あとエロゲってこともあって常に鍵が開いてる体育倉庫だ。
……そういえばあの体育倉庫、少し思入れ深いなぁ。
好感度が一定以上になったヒロインには『おねだり』というコマンドが追加されて、条件をクリアすれば青姦もできるという、エロゲらしく素晴らしいシステムだ。
中でもこの体育倉庫は条件が緩く、必要なのは好感度だけだ。つまり『おねだり』コマンドが追加されて一番最初に青姦できるのが、この体育倉庫というわけで。
そういう意味でも、この場所はプレイヤーに特に人気のスポットだ。
最良の選択がフルプライスというのもあってか、この体育倉庫だけでも一人のヒロインにつき5シーンも別のエロイベントがある。これには鬼畜難易度に唸っていたプレイヤーもニッコリ。
更にそんなヒロインごとに五つのシーンを秘めた青姦スポットが、街や学園の至る所に存在している。フルプライスで難易度もかなり高いこのゲームが流行る理由は、しっかりとエロも突き詰めているから……という部分もあると思う。
「……まぁ、主人公じゃない今は関係ないけど」
それはリアというヒロインになっているあの人にも言えることだ。
この世界はあくまで仮想世界。エロシーンを拝むことはできないし、楽しみたいなら早くクリアして本家をやろう！ という話だ。
「とりあえず先に窓から覗いて、中にいるか確認しよう」
体育倉庫と言っても、その付近にいる可能性も考えられる。それを確認するうえで、俺は背伸びをしながら高い位置にある窓に顔を近づけた。
「プロゲーマーさん、何してんのかなっと」
「……海夜、時間、ない。カウントするから、早く、だして」
「はぁっ、はぁっ……！ あぁっぐ、ひ、イクっ、出るぅっ……！」
「3……2……1───ゼロ。はい、びゅ、びゅうぅーっ……」
「……？」
ん。
えっと。
「ん？？？？？？？？？？？？？？？」
田宮：( ´･ω･`)?????????????（何も分からない）
リア：( ´･ω･`)……（性欲旺盛な蓮斗に呆れ）