お前のハーレムをぶっ壊す   作:バリ茶

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今回は★でフィリス→陽菜→蓮斗と視点切り替えが忙しいですのよ 

 ↓ 現実世界のリア(中身)の特徴

1.ホラー全般が無理 普通に泣く
2.弟を過剰に褒めがち ただ褒め方が下手くそ
3.高い場所だとテンションが上がる 屋上で悪ノリしがち



銀髪少女の三点バースト

 

 私たち四人は集合を終えた後、電車に乗って近くの遊園地へと向かった。今は四人で固まって、園内を散策中だ。

 

 遊園地を提案したのは他でも無い私である。

 幼い頃に悪の組織に拉致され、そこから長い期間社会から遠ざかっていたリアは『娯楽』というものに疎い。ゆえに遊びやすく、彼女にとっては新鮮な体験がたくさん出来るであろう遊園地を選んだのだ。

 

 感情を閉ざし、表情を失ってしまったリアだけど、今日の経験で何かしらを取り戻すことができれば……。

 

「あっ、先輩! あっちにお化け屋敷がありますよ!」

 

「確かここの遊園地のお化け屋敷って、全国ランキングにも載るくらい恐怖度高いとかなんとか言ってなかったか?」

 

 陽菜と蓮斗が先行してお化け屋敷に向かい、私とリアはその後ろをついて行く。

 程なくしてお化け屋敷前に到着すると、直前で注意書きの看板を見つけた。

 

 スリルを十分に体験して頂くため、一人、もしくは二人でのご入場となります。黒い看板に派手な赤文字で、大きくそう書かれていた。

 

 私たちは今四人。偶数なのでチーム分けしても余ることはないが、問題は相手だ。

 

「蓮斗、陽菜、ちょっとこっち来て」

 

 先行していた二人を呼び止め、リアから少し離れて小声で会話をする。

 

「分かってると思うけど……」

 

「うん、フィリスちゃんの言いたい事は分かるよ。……じゃんけん、だね?」

 

「え、何で?」

 

「察し悪いですね先輩。つまりじゃんけんで勝った人が、リアねえと二人でお化け屋敷に入るんですよ……!」

 

 言いたいことは陽菜がまとめてくれた。それなら話が早い。

 では、尋常に──勝負。

 

『じゃーんけーん、ぽん!』

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 勝利の女神は私に微笑んだ。ぶいっ。

 

 というわけで、既に私たちは屋敷内へと入っている。ここのお化け屋敷は難しい仕掛けや迷路なども無く、決められた道をゆっくり進んでいくだけの簡単な仕様だ。

 もちろん全国のお化け屋敷ランキングに載るだけのことはあるので、脱出までに襲い掛かってくる恐怖演出はなかなかのものだが。

 

 まぁ、私個人的には全くもって怖くない。組織から逃げてから数年間ずっと能力者や怪人と戦ってきたので、こういう怪異のような類の恐怖には慣れてしまったからだ。

 

 今怖いものといえば……ロイゼたちといった友達や、リアを失うことくらいだ。逆に言えば、それ以外の恐怖を感じるようなモノは恐るるに足らず、である。

 

 ──しかし、意外なことが。

 

「リア、だいじょうぶ?」

 

「……手っ……離さ、ないで」

 

 私の手を握りながら、リアがプルプルと震えている。視線を右往左往させて、物音がする度に肩をビクつかせるその姿は、なんとも庇護欲を刺激させるものであった。

 

『ウボォアアァ!!』

 

「ひっ、あっ、あわわ……」

 

 突然聞こえてきた大声に反応して慌てふためくリア。なにやら眼尻には涙が浮かんでいて、早くに次に進もうと私の背中をグイグイ押している。

 

 彼女は昔の私同様に激しい感情表現といったことはできないものの、その代わり身振り手振りが忙しい。目を閉じながら私を盾にして進もうとする彼女は──あぁ、ここまで心が揺さぶられてしまうものなのか。

 

「レイノーラっ、な、なんで止まってるの……っ」

 

『首を置いていけェ……ッ!』

 

「ぴっ……うぅ、はや、早くいこ……」

 

 あぁ、愛らしい。守りたい、私がこの手で助けてあげたい。なんでこんなにも私の心を惑わせるんだこの人は。

 

 

 ……いや、分かっている。リアのこれが演技だということは。

 彼女は私の数倍長い期間悪の組織に囚われていたわけで、お化けなどという怪人紛いの奴らに怯える理由はない。私が平気で、彼女が平気でないのはおかしい。

 

 つまりこれは、リアが私に与えてくれたチャンスだ。

 

 十年数前のあの時も、怪人兄弟が現れた時も、私はリアに守られてしまった。何もすることが出来ず、ただ状況に流された。

 ただ助けられるだけで何もできなかったあの時の悔しさは、今でもずっと心の中に巣くっているのだ。

 

 だからこそ今、リアは『自分を守らせるチャンス』をくれている。

 私に自信を持たせるために。助けられてから毎日「必ずリアを守るから」と言っていた私の意を汲んで。

 

「わかった。わかったよ、リア」

 

「……え。な、なにが……」

 

「ありがとう。今度こそ、絶対に私が守る……!」

 

 右手に氷の剣を生成し、しっかりと握り締めた。

 

 

 オバケだろうがなんだろうが、かかってくるがいい。この鋭い氷結の刃でバッサバッサと切り捨ててくれるわ。

 安心してね、リア。もう弱い頃の私じゃない。この能力で必ず……あなたを守ってみせるから!

 

「さぁ、どこからでも来いっ!」

 

 

 

「……えと、危ないから、その剣しまって」

 

「うん! ごめんね!」

 

 能力なんかなくても必ず守ってみせるからね!!

 

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 先輩と先にお化け屋敷を出た後、リアねえを引っ付けた状態でフィリスちゃんが出てきた。

 なんだかとても負けた気がしたけど、先輩とのじゃんけんを制して次が私の番になったので良しとしよう。

 

 今は休憩所のベンチで、リアねえと二人っきりで休んでいる。フィリスちゃんと先輩は、私たちの分も含めて飲み物を買いに行った。フィリスちゃんが気を利かせてくれたことなど丸わかりなので、彼女に感謝しつつ今のうちにリアねえ成分を補充しとかねば。

 

「り、リアねえ……」

 

 腰を動かしながらゆっくりと、隣に座っているリアねえに近づいていく。もう少しで肩が触れそうな距離だ。

 血が繋がっていないとはいえ、リアねえは私のお姉ちゃんだ。軽めのボディタッチ程度なら怒られないはず。……はず!

 

「えへへ、リアね──」

 

「……陽菜」

 

 ベンチに置かれていた彼女の手を握ろうとした瞬間、リアねえから低い声が掛けられた。

 

 ……ぁ、お、怒らせちゃった……?

 

 いやでも、リアねえの声はいつもこんな感じだし……ま、待って、流石に今回のスキンシップはいきなりすぎたかも。親しき仲にも礼儀ありって言うし、急ぎ過ぎたかな……!?

 

「陽菜ってば」

 

「ふぇっ! ご、ごめんね! これは間違えちゃったっていうか、なんというか……!」

 

「……? いや、アレなんだけど……」

 

「えっ?」

 

 慌てて言い訳をしようとすると、リアねえが正面に向かって真っすぐ指を指した。

 意図が分からず、とりあえずその方向へ視線を動かした。

 

 

 ──そこには空へ上昇していく風船と、今にも泣きだしそうな幼い少年がいた。

 

「あの子……!」

 

 恐らく風船を手放してしまったのだろう。一緒にいる母親でも届かない位置まで風船が上がってしまっている。

 母親は少年を宥めているが、当の本人は未だにピョンピョンと届くはずのない空へ向かって跳んでいる。

 

 普通なら諦めて当然の事だが、幸い私の能力は浮遊。物体を浮かせることもできれば自分を飛ばすこともできるので、私ならあの風船を取り戻すことが出来る。

 

「……よーし、リアねえはここで待ってて!」

 

「うん」

 

 すぐさまその場を駆け出し、能力を発動して自分を浮遊させた。この速度なら風船にも余裕で間に合う。

 

 ついに風船の位置まで届き、風船に括り付けられているヒモを手に取った。そして能力を慎重に操作しながら、風船を手放してしまった少年のところまで降下していく。

 

「ふぅ」

 

 トン、と地面に足をつけ、風船を持って少年の目の前に来た。

 後ろにいる母親は心底驚いたような表情だが、少年は目をキラキラ輝かせている。

 

 まぁ能力は隠しておくのが普通なので、ここは上手く誤魔化しておこう。

 

「はい、風船!」

 

「わぁっ! ありがとうお姉ちゃん!」

 

 大袈裟に私から風船を受け取った少年はそれを大事そうに握り締めつつ、興味津々な眼差しで詰め寄ってくる。

 

「さっきのプカーって! どうやってお空をとんだの!? すごい!」

 

「ふふん、あれはお姉さんのスペシャルマジックだよ。きみがいい子にしてたら、今度教えてあげるね♪」

 

 笑顔で対応しながら少年の頭を撫でると、後ろにいた母親が頭を下げた。

 

「本当にありがとうございます……! と、とても危険なことをさせてしまって……!」

 

「いえいえ! 今度行うマジックショーの予行練習中でして、さっきのはついでですので! 最初から安全な仕掛けだったので大丈夫ですよ!」

 

 そこから有ること無いことを告げて、むりやり親子を納得させてから早々にその場を去った。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「ご、ごめんねリアねえ! 一人で待たせちゃって……」

 

「ううん、陽菜えらい。パチパチ」

 

 足早にベンチへ戻ると、リアねえが小さく拍手をしていた。少し照れてしまうが、彼女が私にしてくれたことに比べれば些細なことに過ぎない。それどころか、彼女を楽しませるためにここへ連れて来たのに、一人で退屈な思いをさせてしまって申し訳ないくらいだ。

 

 世界に一人だけ取り残されて、抗えない孤独と絶望に陥った私を、たった一人で救ってくれたリアねえ。

 そんな人を困らせて、私は何をしているんだ。なんとしてでも挽回しないと。その為なら何だってやれる、どんなことでもする。大好きなリアねえの為なら、私は──

 

 

「陽菜、こっちおいで」

 

「えっ?」

 

「ほら、隣に座って」

 

「……う、うん」

 

 言われるがまま、彼女の隣に腰を下ろした。……それなりに距離を離して。

 すると、リアねえが私の腕を引っ張った。

 

「そんなに離れてないで」

 

「ええと、ここら辺……?」

 

 少しだけ距離を詰めると、痺れを切らした彼女が思いきり私を引っ張った。その影響でバランスを崩してしまい、上半身が倒れた。

 頭が彼女の膝の上に置かれ、偶然にも膝枕の体勢になってしまう。

 

 これはマズイ。不可抗力とはいえ彼女に体重を預けてしまった。急にこんなことされたらリアねえもおこ──

 

 

「よしよし。陽菜、えらい。すっごくえらい」

 

「……ふぇっ」

 

「うん、いい子。すごーくいい子。えらいな、凄いな。おにい──ぁっ、お、お姉ちゃん嬉しい。陽菜が、こんなにいい子だなんて、うれしいなー」

 

 抑揚のない一定の声音で褒めちぎりながら、膝枕している私の頭を優しく撫でるリアねえ。

 突然のことで驚く私だったが、かまわず彼女はそのままその行為を続ける。

 

「世界一えらいぞ。かわいくて偉くて、いい子だなんて、陽菜はすごいな。ごめんね、こんな事しか、できないけど。陽菜、本当にえらい。あの子も喜んでたし、陽菜はヒーローだ」

 

 彼女を知らない人間からすれば、それはとても棒読みで感情など一ミリも込められていないように感じることだろう。

 

 しかし、私は知っている。これは本気だ。本気で彼女は私の事を褒めてくれている。認めてくれている。撫でて癒してくれている。

 私を。このあたしを──

 

 

 ……う、嬉しい、うれしいうれしい! やった! よかった! 嫌われてなかった! リアねえはやっぱり優しいあたしのリアねえだ! 

 

 あぁ、だ、ダメだ。顔が、表情がどんどん崩れていく。ほっぺが緩んじゃって、ニヤニヤと笑顔になるのを止められない。

 

「……えっ、えへへ。エヘヘヘ……! やだリアねえってば褒めすぎだよ~! まぁ、頑張ったけどね! 能力使うのも楽じゃないしぃ? もっと褒めてくれても……ぐ、グヘヘ! えっへへ……うぅ~!」

 

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 飲み物を買って休憩所に戻ると、そこではリアが陽菜を膝枕していた。よっぽど暇だったか、もしくは歩きすぎて疲れてしまったのだろう。普段小春を甘やかしているリアの行動を考えれば、彼女は恐らく誰かに頼られること自体は苦に感じていないので、多分あの状態はウィンウィンだったのかもしれない。

 

 ……いや、前言撤回。さすがに俺から『アレ』を頼まれるのは嫌だと思う。ていうか絶対やりたくない筈だ。

 そこは本当に申し訳ないし、普段からさせてしまっていることも踏まえて、今日は絶対にねだらないことに決めている。

 

 今日の目的はリアを楽しませること、そして出来るだけ彼女のワガママを叶えてあげることだ。

 小春を助けてくれたあの日からの恩返し……とまではいかないだろうが、ほんの少しでも返せたら嬉しい。そういう気持ちで彼女の『デート』という提案を受け入れたのだ。

 

「……海夜」

 

 平常心、平常心だ。今日は絶対リアに迷惑をかけちゃ駄目なんだから、しっかりしないと。

 

「……海夜ってば」

 

「っ! ぁ、あぁ、悪い。どうした?」

 

「観覧車、来てる」

 

 隣にいたリアに言われて、ようやく今の状況を思い出した。目の前では係員が誘導していて、お早めにご乗車くださいと告げている。

 

 あぁ、そうだった。そろそろ昼食にしようって話が出て、レストランやフードコートが混んでたから時間つぶしに観覧車に乗ろうって……。

 

 確かフィリスと陽菜が、空いたら先に席を取っておくって言って、俺たち二人だけで観覧車に来たんだ。俺たちも待つって言ったけど「リアを待たせたくない」の一点張りだったな。

 あそこまでリアに対して気を遣ってくれるのは、正直ありがたい。今日ばっかりはあの二人の厚意に甘えよう。

 

「じゃ、行こう」

 

「……ぁっ」

 

 係員と後ろに並んでいる人たちの圧力に押されて、リアの手を引きながら駆け足で乗車した。

 

 

 あまり広くはない観覧車の中に腰を下ろすと、自然と俺の隣にリアも座った。

 向かい側も空いてるし、そっちに座ってもいいのに──と、そこまで考えた所で、左手の感触を思い出した。

 

「あっ! わ、わるい!」

 

「……うん」

 

 先ほど乗車する際、ほぼ無意識にリアの手を握って引っ張ってしまい、今もなおその手を離していなかった。そりゃ隣に座るしかない。

 すぐさま手を離して謝ったものの、当のリアは相変わらず無表情だ。

 

「痛かったか?」

 

「そんなこと……ない」

 

 若干リアが視線をあちこちに移動させているが、上昇していく観覧車に興味を示しているのだろう。観覧車には乗ったことがないと言っていたし、彼女にとっては非常に新鮮な体験なのかもしれない。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 それなりに長い時間乗っているが、想像以上に観覧車の動きがゆっくり過ぎて、未だ一番上にすら到達していない。

 

 それに加えて若干外の風が強く、観覧車の窓ガラスもガタガタと音を立てている。リアがそれに怯えている様子はないが、先程から乗車している観覧車自体が揺れているのもあって少々不安だ。

 

 その影響かどうかは分からないが、少し喉が渇いてしまった。しかしながら先程買った飲み物は飲み干してしまって、今手元に飲めるものは無い。

 

「……海夜」

 

「どうした?」

 

「はい、これ」

 

 唐突にリアに指でつつかれ、何事かと思って振り返ると、彼女が手に持っているお茶のペットボトルを差し出してきた。その中身はまだ半分ほど残っている。

 

「えっと……?」

 

「喉、乾いてそう、だったから」

 

「……はは。よく見てるな、リアは」

 

 微笑を浮かべながら、彼女からペットボトルを受け取る。

 そしてキャップを回して取ったあと、口につけ──

 

 

(ま、待てよ? これって間接キスじゃ……)

 

 

 気を遣って渡してくれた飲み物を前にして、邪な事を考えてしまった。中のお茶が半分残っているということは、残りの半分は何処へ行ったのか?

 答えは当然、リアの体内だ。彼女が実際に飲み口に唇をつけて、このお茶を半分ほど飲んだということ。

 

 ……いやいやいや、何だどうした俺? 妙に変態くさい思考回路になってるぞ? 何当たり前のことを長々と考察してんだ馬鹿なのか?

 

「……飲まないの」

 

「へっ? あ、いや、飲む! ありがたく頂く!」

 

 隣から不思議そうな眼差しで見つめられて、思わず焦ってしまった。そもそもリアが気を遣って渡してくれたものなのだし、変な事を考えるのはお門違いだ。ありがたく飲ませてもらおう。

 

 

「……ご、ごちそうさま」

 

「うん」

 

 ほんの少しだけ飲んだ後、すぐさまキャップを絞めてリアに返した。彼女はそこまで気にしている様子を見せなかったが、当の本人である俺が耐えられそうになかったので早めに切り上げたのだ。

 

 ……リア、本当に気にしてないのかな。それともそういう感覚が無いとか……。

 

「海夜、ただの間接キスなのに、焦りすぎ」

 

「うぇっ!?」

 

 両手でペットボトルを転がしながら、不意にリアがそんなこと言ってきた。

 とてもそんなことを言われるとは想像しておらず、必要以上に狼狽してしまった。

 

「キスなんて、前にもした」

 

「い、いや! あの時はリアに淫紋があったからっ……!」

 

「……淫紋がないと、キスもしたくない?」

 

「は、はぁ!? おま、何言ってんだ……!」

 

「……ごめん、なさい。そこまで嫌だったの、知らなかった……から」

 

 そう言うとリアは手に持っていたペットボトルを前の座席に置いて、顔を俯かせて黙ってしまった。

 

 

 ……こ、これ、俺が悪いよな? いつもキス以上に大変な事をさせてるのに、自分から触れるとなれば間接キスすらしたくない──そんな風に捉えられてしまったかもしれない。

 まずい、傷つけてしまった。これじゃ俺、本当に救いようがないクズじゃないか。

 

 撤回だ。今すぐ誤解を解かなければ。

 

「違うって! そ、その、嬉しすぎて緊張したんだ! このまま飲んでもいいのかなって……!」

 

 あれ、なんかさっきより酷い変態発言してないか? これ明らかに逆効果なんじゃ?

 

 

「……そう」

 

 

 顔を上げてくれたものの、リアはいつも通りの無表情だ。

 これをどう判断していいのかが分からず口ごもっていると、リアがこちらを向いた。

 

「よかった」

 

 そう告げたリアの顔は相変わらずだったが、その声音には僅かに安堵の色を感じた。

 どうやら先程の発言はそこまで致命的では無かったようで安心した。

 

 ホッ、と一息。

 

 

 

 そう一息ついた瞬間、突然吹いた突風で観覧車が大きく揺れた。

 

 

 

「おわっ!」

 

「あっ──」

 

 

 突然のことで手すりに掴まることもできず、二人して床に倒れ込んでしまった。

 

 なんとか咄嗟にリアを庇って俺が下敷きになるのは成功したものの、背中を床に強く叩きつけてしまった。しかし大して痛みはなく、無事にリアを庇えて何よりだ。

 

 

 ──あ、あれ。 

 

 

 

「ん、んむっ」

 

「……んんっ」

 

 

 何故かリアの顔──いや瞳が目の前にある。

 それはほぼゼロ距離で、俺たちの顔の間で『何かが』起きているおかげで、眼球同士の衝突を避けられたのだと察することが出来た。

 

 その瞳以外の部位……鼻、顎、頬──唇。お互いの、その全てが完全密着してしまっていることに、数秒遅れてようやく気がついた。

 

 口の上に重なっている温かく柔らかい感触の正体は、紛うことなきリアの小さな唇だ。

 倒れる瞬間に俺が彼女を抱いて庇った影響で、逃げ場のなくなったリアの顔はそのまま俺へと落下。

 

 どんな法則が働いたのかは全くもって謎なのだが、俺と彼女の顔がぶつかった衝撃は一瞬で消え失せ、俺たち二人が『偶然にもキスをしてしまった』というありえない事実だけが、この観覧車内には残ってしまった。

 

「んんっ……!」

 

「ぷはっ」

 

 俺が狼狽している隙に、リアから唇を離した。その間にはほんの少しだけ糸が引いており、それは偶然とはいえ彼女の舌が俺の口内に侵入してしまったという何よりの証拠だった。

 

 

 なんとかゆっくり立ち上がり、もう一度椅子に座った。釣られるようにリアも再び俺の隣に座る。

 

 ……なのだが、何故か先程よりも距離が近い。

 あ、いや、まず謝らないと。

 

「ほ、ほんとにゴメン! 言い訳すると見苦しくなるんだけど……その、本当にわざとじゃ……!」

 

「……分かってる」

 

 必死に謝り倒そうとする俺の言葉を遮って、リアが小さく呟いた。

 それと同時に、また少し俺との距離を詰めてきた。

 

 

 ……な、なんで近づいてくるんだ。もう肩が密着するどころか、リアが急に詰めてきた影響で俺の左手が彼女の太ももに当たってしまっている。

 

「り、リアっ? あの、ちか……!」

 

「……顔、赤い」

 

「それはっ! ぇ、えっと……」

 

 何故か更に距離を詰めてくるリアに抵抗できず、無意味な言葉を吐き出すことしかできない。

 もう俺の顔のすぐ横に、彼女の青白い肌の顔がある。あまりにも近いせいで、リアの髪の匂いが流れてきて鼻腔を刺激した。

 

 甘くて、しかしどこか安心するような、とても形容しがたい香りが鼻の奥まで届いてくる。それは一気に脳まで到達し、ビリビリと思考回路を刺激してしまう。

 

「……海夜」

 

「ちょ、まずいって……」

 

 体勢を変えたリアは、まるで俺の腕に抱きつくかのようにその身体を押し付けてきた。発展途上の小さな丘が俺の左腕に当たり、まるで抵抗しないその柔らかいモノは腕に押されて沈んでいく。

 

「だいじょうぶ?」

 

「へ、平気……だから……うぁっ」

 

 左隣から接近してくるリアの前髪が頬に当たり、その箇所から全身にかけてゾクゾクと電流が走っていく。それは鳥肌が立つ様な感覚に酷似しており、俺の全身は石のように固まってしまった。

 

 本当に、何が起きているのか分からない。事故で彼女とキスをしてしまって、気まずい雰囲気になると覚悟していたら、いつの間にかリアが俺に密着してしまっている。

 

(なんだっ、この匂い……!)

 

 髪だけじゃなく体全体から香る()()()()()()が、鼻の奥を針で突くかのように刺激してきた。

 その影響で脳が揺れ、心臓のスピードメーターがどんどん上がっていってしまう。

 

 バクバクと激しく鼓動する中心の器官から、体の各部に向けて熱く煮え滾った血液が迸っていく。

 

(よせっ! 今はマズイって! 今日は駄目だってぇ……!!)

 

 その沸騰した血液は特に下腹部へと集中していき、へその下あたりが妙に熱くなり始めてきた。

 すると自然と喉の奥に唾が出てきて、まるで何かを期待しているかのようにゴクリとそれを飲んでしまう。

 

 

「……テント」

 

「へっ?」

 

「ズボン、張ってる」

 

 まさか──嫌な汗を流しながら咄嗟に視線を下に落とすと、そこでは彼女の言葉通り『テント』が設営されていた。ギチギチと狭苦しそうに布を押し上げながら、今か今かと解放を望む自らの分身がそこには存在した。

 

「ち、ちがう、違うんだ……そんなつもりじゃ! 俺、今日は絶対我慢するって決めてて──」

 

 そこまで言いかけた瞬間、リアが自分の人差し指を俺の唇に当てた。

 口を押さえられたことで俺は見苦しい言い訳すら発することができなくなり、そのまま沈黙してしまう。

 

 

 ──するとリアが、俺の耳元で囁いた。

 

 

「我慢は、ダメ」

 

「……え?」

 

 間抜けな声を挙げる俺に構わず、彼女は言葉を続けた。その抑揚のない、ともすれば『冷たい』とすら感じる声音で、静かに耳元で告げる。

 

「暴走したら、手遅れになる。海夜だけじゃなく、私も困る。だから──」

 

 

 

 

 

 

 

「したくなったら、ちゃんと言って」

 

 

 

 

 

 

 

「……ひぁっ、あぁっ……!」

 

 あまりにも蠱惑的な声で告げられた俺は、もはや思考放棄に近い状態まで追いつめられていた。油断すれば口の端から涎が出てしまいそうで、彼女に囁かれるたびに肩や下腹部がビクンと反応してしまう。

 

 そんな情けない俺を見つめながら、リアは言葉を繋げていく。

 

「ティッシュは、持ってきた」

 

 何処からともなくポケットティッシュを取り出し、俺の前でそれをチラつかせるリア。その行動はすなわち『これで汚れない』という安心感と怠惰的な性欲を増幅させる意味に他ならない。

 

「太もも……脇、口と……あぁ、海夜は、手が好きなんだっけ」

 

 そこまで言って、リアはそっと俺の左手を自分の太ももに乗せ、代わりに自分の右手を俺のズボン近くへと伸ばした。

 

 そして、一言。

 

 

「……カウントダウン、する?」

 

「すっ、するぅ……!」

 

 

 そんな哀れで情けない返事をした瞬間、観覧車は一周を終えた。するとリアは俺の左手を首に回して、ゆっくりと俺を立ち上がらせた。

 

「そのままじゃ、歩けない。私に肩を貸して、屈みながら、具合悪そうにしててね。何か聞かれたら……腹痛とか、適当に誤魔化して」

 

「え、えっ……」

 

「物欲しそうな顔、しない。……とりあえず、トイレまで我慢して」

 

 

 できる?

 

 

 そうリアが聞いてきた瞬間、俺は全力で何回も頷いたのだった。

 

 どうやら俺の覚悟とやらは、麩菓子よりも脆かったらしい。……弱すぎる。

 

 

 

 

 

 




次回はリア視点
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