お前のハーレムをぶっ壊す   作:バリ茶

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↓こちらはリアの服装ver.3

【挿絵表示】

この回から普段の格好はだいたいコレ

観覧車を出た後の詳細はR18版の方で


その名は剛烈

 あれから二日後。

 意外にも運営の邪魔が入らなかった遊園地の一件を終え、俺はいつも通り学園内を散策していた。

 

 園内の職員や店のスタッフたちも俺の事は見慣れたらしく、初日や二日目くらいにあった奇異の視線はもう感じない。髪の色はともかく、今の服装は普通なのでこれなら注目を集めることもないだろう。

 

 流石にあのドレスっぽい格好を普段からする訳にもいかないので、取り敢えず小春に貰った白シャツやミニスカートの上に黒いパーカーを羽織っている。ついでに遊園地の帰り道に海夜からプレゼントされた赤いスカーフも首に巻いているので、以前の格好よりかは寒くない。

 

 

「まだ、少し眠い……」

 

 ……いやぁ、もう、一昨日はめっちゃくちゃ頑張ったわよ?

 

 観覧車ではムラムラしだした海夜をわざと誘惑したり、帰った後も存分に甘やかしてあげたり、次の日も日曜で休みだったから一日中相手をしてたし、遊びに来たフィリスやロイゼに手料理を振る舞ったりもした。ここ最近じゃ一番濃い二日間だったんじゃなかろうか。

 

「……ふぅ」

 

 広場のベンチに腰を下ろして一息つき、パーカーのポケットからスマホを取り出した。そしてミッションリストの画面に移動し、メインミッションのボタンを押した。

 

 すると画面全体が一瞬暗転し、別の画面に切り替わった。

 

 

【ミッション進行度:●●●○○ 《Lv(レベル).3》】

 

 

 遊園地に行く日の早朝、田宮の「早めにヒロインになった方がいい」という言葉を思い出して、注意深くスマホを操作していたところ、こんな画面を見つけた。

 

 この画面は他の突発的なミッションには無い、『主人公のメインヒロインとなること』というメインミッションのリストにのみ出現するものだ。

 

 説明欄を見て理解したが、このミッション進行度というのはその名の通り、メインヒロインになっていく今の状況を記したステータスらしい。

 

 白い空白が黒で染まればレベルアップ、といったところだろうか。全部で五つあって今がレベル3ということは、ちょうど折り返し地点まで来たということだと思う。

 

 

 レベル5に到達した瞬間、メインミッションクリア。下の概要欄にはそう記載されている。

 

 

「……もぐ、もぐ」

 

 売店で買ったおにぎりを頬張りつつ、このミッション進行度の条件に付いて考えてみた。

 

 

 まずレベル1。これに到達したのは間違いなく、オカマに襲われている俺の前に海夜が現れた時だ。

 主人公との初接触。海夜という主人公視点で見たときの、リアというキャラクターの初登場があの場面だ。

 つまりレベル1の条件は『一人のキャラクターとして主人公に認識される』というものだ……と、予想している。

 

 次にレベル2。こいつの条件も比較的簡単に予想がついた。

 こっちはP3の武器でオカマを倒した後に、海夜を抱きしめたあの時だ。何でか分からないけどあの時海夜は泣きそうになりながら何やら叫んでいたし、恐らくアイツの中では何かしらの葛藤があったに違いない。そして俺があいつを抱きしめたことで、結果的にそれが解決へと向かったのだと思う。

 

 まとめると、レベル2の条件は『一つ目の山場を乗り越えること』だと思う。俺からすれば状況に流されてオカマをぶっ殺しただけだったが、主人公視点から見ればアレは(リア)との、大切な一つ目の山場だったのだろう。

 

 

 最後にレベル3。これについてはいろいろと悩んだのだが、結論としては『ヒロイン候補の一人として、主人公と日常的にコミュニケーションが取れる状態になること』ということにした。

 

 好感度を稼ぐためにヒロインと会話をする、イベントをこなす、プレゼントをする……その他諸々。

 今になって考えてみれば、海夜から見てリアはそういった行動を行える状態になっていなかった。

 

 居候こそしてはいたものの、当の本人である俺が様々なイベントに巻き込まれていたせいで、海夜とはほとんどコミュニケーションが取れず、家に帰らなかった日もあるくらいだ。それではとても攻略どころの話ではない。

 

 俺が他のヒロイン同様に彼と日常的にコミュニケーションが取れるようになったのは、淫紋の影響で海夜の性処理を始めるようになってからの話だ。

 

 いつでも会えるようにするために学園内を歩くようになってから、海夜と話したり一緒に食事をする回数も格段に増えた。特に遊園地でのスカーフのプレゼントなんか、好感度アップの為のプレゼントという『恋愛ゲームにありがちな行為』そのものじゃないか。

 

 ここまでやってようやく、俺は『主人公(プレイヤー)からアクションが行えるヒロイン候補』になれたわけだ。それがレベル3である。

 

 まぁあくまで憶測なので、本当のところは謎だ。もしかしたら運営からのさじ加減で決まってしまういい加減なモノの可能性だって勿論ある。

 

 

「……はぁ」

 

 おにぎりを食べ終えて、軽く溜め息を吐いた。進行度の事を考えていると、自然と溜め息が増えてしまうのだ。

 

 ……ここまでの仮説が正しかったとして、じゃあ残りのレベル4と5の条件ってなんなんだよって話だ。

 

 それが分からなくて、わざわざ遊園地ではとにかく海夜を揺さぶってみたってのに、相も変わらずレベルは3のまま。……なんだよー。さすがに他のヒロインたちより特別な事をしてる自覚はあるぞ?

 

 もしかして俺が今やってる性処理は、進行度に関係ないのかな。原因を辿れば元はオカマのプレイヤーとしての行動からだし、言っちゃえばこの性処理は元からあったシステムというより、途中で発生したただの外的要因に近い。

 

 

 でも本番抜きとはいえ、割とえっちな事させてるんだぜ? それが無意味だとは思いたくないけどなぁ……。

 

「ごちそうさま、でした」

 

 おにぎりとペットボトルのゴミを近くのゴミ箱にぶちこんで、ベンチの背もたれに深く体重を預けた。

 いろいろ考え過ぎたし、お腹いっぱいになって何だか眠くなってきた。 

 

 ……いやいや、昼ご飯食べたからお昼寝って子供かよ。

 

「ふわぁ……」

 

 あー、でもたまにはいっか。ただでさえ毎日忙しいんだから、今日くらいはのんびりお昼寝でもしよう。晴天で日差しも暖かいし、こりゃ絶好のお昼寝日和だ。寝ちゃおっと。

 

 

「すぅ、すぅ……」

 

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

「──ろ」

 

「むにゃ、むにゃ……にいちゃん、なぁ……」

 

 

「──きろ」

 

「たんじょ……び、だから……でぃーえすぅ」

 

 

 

「起きろォっ!」

 

「ぅわっ」

 

 ──な、なんだぁ!?

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「もっとゆっくり、起こしてほしかった」

 

「声かけたり肩揺らしまくったりしたって! 美咲──じゃなくて、リアが眠り深すぎんだよ!」

 

 気持ちの良いお昼寝をしてたら、なんだか焦っている様子の田宮に叩き起こされた。ふとスマホを確認してみたが、どうやら一時間くらい眠ってしまっていたらしい。

 

 妙に肩が軽いし、眠る前にあった疲れもお昼寝のおかげで吹っ飛んだ。これこそ快眠である。お昼寝ばんざい。これからは疲れたらすぐ昼寝するようにしよう。

 

「……それで、何かあったの?」

 

 寝惚け眼をこすりながら欠伸交じりに聞いてみると、田宮は忙しない様子で答えた。

 

「とにかくやべぇ事が起きてんだよ! 説明するより見た方が早い! ついてきてくれ!」

 

「う、うん」

 

 いつになく声が大きい田宮に急かされ、グラウンドへ向かって走る田宮の後ろについていった。

 

 

 一分後。

 グラウンドの前に到着した俺の目には、異様な光景が広がっていた。

 

 

 辺り一面が黒、黒、黒。とにかくグラウンド全体が、黒い全身タイツを身に纏った大勢の人間たちで溢れ返っていた。

 なにやら全身タイツたちは制服の学園生たちを追いかけ回していて、捕まった学生は顔を晒している黒タイツにキスされている。

 

 するとキスされた人々は一瞬でその体が黒タイツで覆われてしまい、他の黒タイツたちと同じように普通の学生たちを追いかけはじめた。まるでソンビに噛まれた人間が感染してしまうかのごとく、次々とグラウンドに新たな全身黒タイツが発生していく。

 

 

 その光景にビビって後ずさりをすると、隣にいた田宮が肩を叩いて声を掛けてきた。

 

「リアっ、校舎の方も見ろ!」

 

「……?」

 

 言われるがままに恐る恐る首を後ろに動かした。

 

 その視線の先にある大きな校舎の昇降口では、五メートルは優に超えるほどの巨体な男が暴れまわっていた。更にその周囲には鎧を装着した骸骨の騎士や、空を飛びながら校舎にビームを放つ魔女のような存在までいる。他にも多数いる怪人や怪物が暴れながら、校舎内へと侵入していっている。

 

 

 この状況を一言で表すなら───魑魅魍魎が跋扈している、としか表現できない。

 

 なんだこれは。何が起こってるんだ。

 

「おいリア、落ち着け……るとは思えないが、とにかく聞いてくれ」

 

 先程よりは落ち着いた声音の田宮に向かって、ブンブンと何度も頭を頷かせた。

 兎にも角にも、この状況についての説明がほしい。マジで意味が分からん。ご飯食べてお昼寝して、起きたら学園がバイオハザードしてるとか悪夢すぎて頭が追いつかねぇ。

 

 はよ。説明はよ!

 

 

「いま、この学園には『悪の組織』と『もう一つの悪の集団』が出現してる」

 

「……えっと?」

 

 

「いいか、よく聞け。藤堂文香の攻略ルートはその『もう一つの悪の集団』と全面対決するストーリーなんだ。お前が戦ってきたような『悪の組織とは別の黒幕』が生み出した怪人たちと戦いながら、尊敬する父親が殺されて闇堕ちした文香を救うっていうルートだ」

 

 そこまで言い終えて、一呼吸置いた後に再びマシンガントークを再開する田宮。

 

「そして高月ロイゼールの攻略ルートは、街全体を特殊なバリアで覆うことで世界からF市を隔離して、この街の全ての住民たちを全身黒タイツの戦闘員にすることでF市を巨大な戦闘要塞へと作り変えようとする悪の組織と戦いつつ、唯一残った仲間であるロイゼと距離を縮めていくってルート……」

 

 

「待って、少し待ってね。ちゃんと理解するから、三十秒ください」

 

 田宮の顔の前に両手を突きだして、強制的に一旦黙らせる。

 そして右手を額に当てながら、先程大量放出されたとんでもない量の情報をなんとか咀嚼していく。

 

 ……うん、うん。はい、おっけ。続きをどうぞ!(分かってない)

 

 

「もういいか? つまりだな、グラウンドで暴れてるのが悪の組織で、校舎内で暴走してんのがもう一つの悪の集団で……」

 

「要するに、どういうこと?」

 

 

 

「攻略難易度が鬼レベルの文香ルートと! 最高クラスのアホみたいな難易度のロイゼルートッ! その二つのルートが同時に発生しちまってんだよ!! どうせ運営の悪ノリだよチクショウもう詰みだよ詰みィ!!」

 

 

 

「……ぁ、うん」(よく分かんないけどやべぇのか)

 

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 いやいやいやいやいやいやいやいや、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。

 

 えっ、え、え?? なに? えっと……なに? ほんとに何事? マジで何やってんの?

 俺がお昼寝してる間に運営マジで何やってんの? ここ最近強制選択が出てこないな~なんて思ってたら、こんなドッキリ用意してたの? いらないよ? ツンデレとかじゃなくて本当に全然嬉しくないですよ?

 

 

「うっ、うぅ……っ、しぬ、死ぬぅぅ……」

 

 追いかけてくる黒タイツたちから、一心不乱に全速力で逃げる。逃げる。とにかく逃げる。曲がり角を利用したり、物陰に隠れたりしてやり過ごしながら、とにかく海夜の家に向かって走っていく。

 

 田宮の話によれば『ルートの序盤のみ海夜家は安全』とのことなのでそこへ向かっていたのだが、田宮とは途中ではぐれてしまった。

 アイツの事は心配だが、自分が死んだらそれこそ無意味。今はとにかく海夜の家に避難するしか道はない。

 

 レイノーラも陽菜も、無事なのかすら分からない。ルートの主役である高月と藤堂は大丈夫なのだろうが、ルートが混じった影響で何かしらの事故が起きている可能性も考えられる。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 だめだ、考えるのは後回しにしよう。この状況で他の事に気を取られてたら、黒タイツどもに掴まりかねない。

 

 

 ──しかし、覚えておかなければいけないこともある。

 

 文香ルート側の『もう一つの悪の集団』のリーダー、つまり黒幕のことだ。

 やつの外見の特徴は真っ赤な赤髪と右目に付けている黒い眼帯。そいつを見かけたら、とにかく逃げなければならない。

 

 話によると、準備が整う前にリーダーに見つかると、その時点で死亡するという即死トラップになっているらしい。見つかったら確定で死ぬとか恐ろしすぎるぜ……。

 

 

「もう、少し……っ」

 

 しばらく走っていると、見覚えのある公園が目に入ってきた。あの公園を抜けた先の入り組んだ住宅街の中に、海夜の自宅がある。

 

 急げ急げと気持ちだけは逸るものの、肝心の体力が付いて行かない。もう息も切らしてしまって、全速力で走るなんて無理だ。

 

「はぁっ、はぁ……けほっ、ケホ」

 

 走り過ぎて咳き込んでしまう程度には、体が疲れている。

 幸い周囲には全身タイツの姿は見えないし、うまく物陰に隠れながらこっそり進んでいこう。

 

 

「……ぁっ」

 

 電柱の影に隠れながら様子を窺っていると、奥の方に見覚えのある人物が見えた。

 人が良さそうな顔で、少し太っている男性──あれは以前、俺にから揚げとお茶を恵んでくれたスーパーの店長さんだ。 

 

 彼は全身タイツに囲まれていて、もはや逃げ場が無くなってしまっている。

 

「……ぐぬぬ」

 

 本当なら助けたいところなのだが、今の俺にはどうしようもない。一応5ポイントはあるが、ポイント交換の武器はピーキーな代物が多いし、そもそも本来ならポイント交換などしたくはないのだ。

 

 使わないでやり過ごせるなら、それに越したことはない。店長さんには悪いが、ここでポイントを使ってまで助けるわけにはいかないのだ。すまねぇ……すまねぇ……。

 

 

 

「──おい」

 

 

 

「っ!」

 

 店長さんが全身タイツにキスされる場面を歯噛みする思いで傍観していると、突然後ろから声を掛けられ、肩がビクついた。

 

 電柱に隠れていても、背中は丸見え。そんな当たり前のことに今更気づきながら、俺は額に冷や汗を浮かべた。

 

 マズイ、見つかった。男の声だったけど、全く聞き覚えの無い声音だ。

 黒タイツは喋らないから、怪人か? もしかたら逃げてきた一般人の可能性もあるけど……。

 

「三秒以内にこっちを向け。さもなくば……」

 

「……ぅ、わ、わかった」

 

 震えた声で返事をしつつ、両手を挙げながらゆっくりと振り返っていく。

 もし怪人だとすれば、下手な行動をした瞬間に殺される可能性もある。今は大人しく従った方がいいはずだ。

 

 ゆっくり、ゆっくりと──

 

 

「……う、うそ」

 

 

 ──振り返った先にいたのは、真っ赤な髪をした眼帯の男だった。

 

 その直ぐに分かるような外見的特徴は、事前に聞いていた『黒幕』そのもの。見つかったら即死亡の理不尽トラップと言われていた、今一番出会ってはいけないキャラだった。

 

「……」

 

「……っ」

 

 お互いに沈黙をしているが、片や俺は冷や汗が滝の如く流れている。

 目の前の人物から発される圧倒的なオーラを前にして、もはや失禁してもおかしくないレベルまで追いつめられてるくらいだ。

 

 

 ──あぁ、終わった。……はい、終わり! おわりぃーっ! こうなった場合どうなるでしょう!? はいリアさん早かった! ……残機が残り一つになる? ピンポンピンポン大・正・解! 賞品としてリアさんには死をプレゼントしたいと思います!!

 

「ぅ、うぅ……」

 

 泣きたくなってもしょうがないでしょ。てか泣かなきゃやってられねぇわ。

 なんだよこのクソゲーちっくしょうバカ野郎。もっとプレイヤーに配慮した作りにしやがれクソが。

 

 あーもういいですよ殺してくださーい! 死んだら多分海夜の家にでもリスポーンするでしょ!(思考放棄)

 

「剛」

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

 

 頭の中がパニックになっていて、目の前の黒幕が呟いた言葉を聞き逃した。

 思わず聞き返しちゃったし、マジで死んだなこりゃ。

 

 

「もう一度だけ言うぞ。───(ごう)

 

「………れっ、(れつ)……?」

 

 

 黒幕が呟いた剛という言葉に対して、俺は何かを考えたわけではない。

 

 ただ頭の片隅に残っていた『アイツ』の言葉が、勝手に俺の口を動かした。

 

 

 剛、それに対して、烈と。

 

 

 一見すれば、まるで意味の無い問答。もはや会話にすらなっていない、単語同士のぶつかり合い。

 まったく意味を感じないそのやりとりをした瞬間、自然と俺の方から彼に対して声を掛けていた。

 

「あ、あんたが……剛烈……?」

 

「ふん……」

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

「あぁ~! ほんとによかった! 合言葉返してくれなかったら私、恥ずかしくて死んじゃうところだったよ!」

 

「……ぅ、うん」

 

 あれから数分後。俺は今何故か、今回の黒幕と手を繋ぎながら住宅街を歩いていた。……なんだこれ。

 

「事前に聞いてはいたけど、本当にこんな小さい体で頑張ってたんだね。凄いよキミ~」

 

「あ、あの……」

 

「ん? ……あぁ、やっぱり変かな? 私って中身女だからさ、素だとこうなっちゃうんだよね」

 

 ニコニコしながら明るい声音で俺に語りかけてくる彼に、先程の様なとんでもなく恐ろしい雰囲気は感じられない。

 それどころか渋い男の声で軽い喋り方をしているせいで、こっちの調子が狂ってくる。

 

 

 結果的に言えば藤堂文香ルート側の敵、そのラスボスとも呼べる存在こそが、事前にオカマから聞いていた『協力者(プレイヤー)』だった。オカマと俺と本人しか知らない筈の合言葉を言いあったので、これは間違いない。

 

 ……にしても、まさかのタイミングだったぁ……。本当に死ぬって覚悟したぞ俺。もう残機残り1になってヤケクソ暴走状態になると思ってたわ。あぶねぇ!

 

「……本当に、女の人?」

 

「アハハ、信じなくていいよ! 証明する方法ないし、どうせあのオカマの紹介だから!」

 

 なんというか、あっけらかんとした人だ。ポイントをかなり貯めていてクリア間近だって話だったし、能天気というわけではないんだろうけど、こう……なんというか、とても元気で明るい。

 

 一応デスゲームに巻き込まれてるはずなのに、この精神力である。惚れそう。

 

「とりあえず道中は私が守るから、このまま蓮斗くん家にいこっか。流石に中には入れないから、今のうちに連絡先渡しておくね」

 

 そう言って剛烈はスマホを近づけ、俺の端末に連絡先を登録させた。栄えあるプレイヤー仲間の二人目は、剛烈という名字にふさわしいゴツい見た目をした、中身が明るい女性でした。パチパチ。

 

 ……あっ。ていうか。

 

「さっき合言葉とか、事前に聞いてたとか、言っちゃってたけど……」

 

「リアくんに話しかける前に回線落としてもらったから大丈夫だよ。あと五分は持つかな? まぁ今回で最後の回線落としだから、これからは合言葉とかオカマの話はNGだね」

 

「じゃあ、いつ剛烈に連絡すれば……?」

 

「いつでもいいよ? 回線落ちてる間に友達になって、プレイヤー同士だから協力してる……っていう筋書きなら問題ないと思う。この生放送すっごく規模大きくなっちゃってるから、多少怪しまれても、運営もそれくらいじゃ今更中断できないだろうし」

 

 なるようになるよ~♪ と上機嫌に振る舞う剛烈。こいつの精神力マジでどうなってんだ? この人おかしい……(怯え)

 さすがにここまでとは行かなくても、彼女の精神力は少し見習った方がいいかもしれない。これからはいちいち落ち込んでる暇なんてないだろうし。

 

 

 とりあえず数分歩いて海夜の家に行く間、俺のヒロイン進行度について剛烈に相談してみることにした。

 

「う~ん、4と5の条件かぁ」

 

「行き詰ってて。このままだと、無駄に時間、かかっちゃうから」

 

 俺の仮説についても聞かせたが、彼女から有用な案は出てくるだろうか。

 オカマが頼んでこの人が承諾したから、俺の仲間になってくれたんだ。もう遠慮しないでバンバン頼ることに決めた。相談だってどんどんしていくぞ。

 

 期待しながら待っていると、剛烈がピンっと人差し指を立てた。

 

「あっ! ……4は多分、喧嘩と仲直りじゃないかな?」

 

「どういう、こと?」

 

「きみ、まだ蓮斗くんと派手に衝突したことないでしょ? 日常的な触れ合いの次って考えたら、二つ目の山場だし……そうなると分かりやすい次の展開で言ったら、やっぱりお互いの喪失だと思うんだ」

 

 確かに思い返してみれば、残機消滅のショックがあって、寝ている海夜をビンタした事こそあるものの、正面切ってアイツと喧嘩したことは無いな。

 

「互いを失って初めて、相手の大切さに気づくんだ~……なんて、ベタだけどね」

 

「ううん、すごく参考になった。……それなら、何か喧嘩する理由とか、考えた方がいいのかな」

 

「グフフ、思い切って闇堕ちしちゃうとかどう? 喧嘩ではないけど、分かりやすく対立できるんじゃないかな~」

 

 怪しげに笑う強面のおっさんを見て軽く引いたが、提案自体はかなり良い線いってると思う。

 本質的なぶつかり合いではないものの、闇堕ちすれば否が応でも海夜と戦うことになる。ヒロインとの殺し合いなんてクッソ分かりやすい山場だし、海夜が俺を助けてくれればルート確定レベルで好感度上がってもおかしくないな。 

 

 うん、いい。とてもいい。

 

 

 ……なん、だけど。

 

 

「私が居ないと、海夜、淫紋で暴走する……かも」

 

「ぁ、あぁ……。そう、だったね。他の子とセックスされちゃうの……論外、だね」

 

 

「……どうしよう」 

 

「……どうしようね」

 

 

 留まることを知らない海夜の性欲と、あまりにも厄介すぎるオカマの置き土産に溜め息を吐きながら、二人して頭を抱えることとなった。

 

 

 

 




リア:(´・ω・` )コマッタ…

剛烈:( ´・ω・`)コマッタネ…

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