クロノが姿を消してから二日後。
一応ラスボスは撃破扱いになっていたようで、あれから街は元通りになった。ロイゼと蓮斗の間にもイベントらしき事態は発生しておらず、どうやらロイゼルートも無事に終了したらしい。
俺のルートの話は一旦置いといて、とりあえずこれでいち段落──と考えた矢先のことだった。
──リアが……? うそ、うそ……そんなわけ、ない
藤堂とロイゼ、それから蓮斗と俺が海夜家の二階の部屋で今後の事を話し合っていたところ、なんとドアの向こう側でレイノーラが盗み聞きをしていた。
そして話の途中で物音がしたため外を確認してみると、そこには狼狽した様子でブツブツと呟く彼女の姿が。
とりあえず彼女を落ち着かせようと近づいた瞬間レイノーラが逃げ出してしまい、夜の街を走り回りながら彼女を探している今現在に繋がるというわけだ。
ロイゼの話を聞く限り、どうやらクロノが秘密を暴露していた際、レイノーラと陽菜は能力の使い過ぎで眠っていたため、秘密の全貌を知らされていなかったらしい。
確かに戦闘後は二人とも眠って休んでいたし、俺が薬で落ちたのもその直後なので辻褄は合う。
内容が内容なのでみんな秘密の事をレイノーラと陽菜の二人には黙っていたのだが、この状況を見るに……逆効果だった可能性がある。少なからず彼女が俺に対して関心を持っていたのは知っていたのだし、後からバレてしまった時のリスクを考えれば、最初から謝罪込みで話をした方がよかったのかもしれない。
一時間ほど周囲を散策したが見つからず、溜め息が出てしまう。見つけられないこともそうだが、体力が無い自分の体が特に嘆かわしい。もう疲れて一歩も動けない……。
そんなわけで、公園のベンチで休みながらスマホで現在時刻を確認していたのだが───
『こんばんはっ』
「……こ、こんばんは……?」
なぜか幽霊に絡まれてます。こわい。
……
…………
………………
『──と。だいたい、わかった?』
「ワカリマシタ」
『……流石に、ビビりすぎ。私、見た目は普通の女の子、なのに』
若干呆れたような表情の幽霊が話し終わる頃、ようやく俺は少しずつ落ち着き始めた。
いや、あの、ホラー系全般無理なんで、幽霊とかマジでキツイんで、ほんとすいません。この前レイノーラと入ったお化け屋敷も目閉じてないと無理だったくらいなんで。
『ていうか……私の姿はリアそのまま。鏡とかで見慣れてるのに、ビビるのおかしい』
「いやいやいや夜中に突然目の前に幽霊出てきたら誰でもビビらない? 女の子の幽霊とかベタすぎて一周回って怖いまであるからね?」
『……すごい、早口』
うるせー! 怖いものは怖いんじゃい! 俺の気持ちが幽霊のお前に分かってたまるか!
しょうがないじゃん、小学生の弟にまで心配されるレベルで心霊系無理なんだよ。ホラー映画とか見せられたら心臓麻痺して死ぬわ。リアルデスノートだよちくしょう。
……まぁ、さすがに少しは落ち着いた。かれこれ十分近く目の前で話をされたら俺でも慣れるってもんだ。
俺の目の前に現れた少女の話を要約すると、つまるところ彼女は精神体とのことで。俺が内に秘めていたリアの意識そのものらしい。
なにやら最近ようやく精神が落ち着いてきたから、こうして俺の前に姿を現した……と言っていた。ルート始まってから出てくるとか調子いいねキミ? もうちょっと前から手伝ってくれてたらお兄さん残機減らなかったと思うんですけど。
ともかく、こうして出てきたのは彼女がレイノーラをどうにかする為らしい。レイノーラ本人の事情をよく知らない俺としては、かなり助かる提案だ。
つまり「昔からの知り合いだから大丈夫! フィリスは私に任せて!」とのこと。幽霊でも喋り方がリアの設定に忠実だったから、実際は今のセリフにを言うのにかなり時間かかってるけど。
「……あれ?」
ていうか、逆に俺はめちゃくちゃ流暢に話せてる。リアの体なのに。
『私が離れてる時は、中にキミしかいないから、ペラペラ喋れる』
「知らなかった……。それなら、いつも離れてくれてる方が助かるんだけど」
『……私、離れたまま長時間経過すると、消えるけど……その方がいい?』
「あ、ご、ごめん。……ごめん、なさい」
制限時間あるのね。そりゃ頻繁に幽霊にはなれないわけだ。本当に今の発言は申し訳ない。
「ちなみになんだけど。他の人はリアのこと見えるの?」
『普通は見えないけど……私が意識すれば……見せられる。素の状態で私が見れるのは、きみだけ』
「じゃあ能力とかは、って。流石に無いか」
『憑依して十秒くらい、操る程度ならできる、よっ』
フンスッ、と鼻を鳴らしながら自慢げに告げる幽霊少女。かわいいなコイツ。
憑依時間は十秒とかなり短いように感じるけど、やり方次第だ。場合によっては十秒でもやれる事は多いだろうし、これからはピンチの時に頼らせてもらおう。
『……じゃ、いこう』
「えっ。レイノーラの居場所分かるの?」
『手を握ったことのある人とは、その時に魂の一部を
若干ドヤ顔をしながら、リアが先行してふよふよと浮遊しながら進み始めた。
ゆうれい のちからって すげー! いまやてをにぎっただけで いばしょがわかるんだと!
★ ★ ★ ★ ★
というわけで来ました、町はずれの空き地。錆びた工事中の看板とかゴミが散乱していて、中央にある横並びのコンクリート土管の上にレイノーラが座ってます。
そろ~っとレイノーラに近づきつつ、俺は口をしっかり閉じた。リア曰く俺が喋ると全部逆効果になるらしいので、説得は全て彼女に任せる手はずになっている。頼むぞ……!
「──誰だっ!」
「ひっ」
体の中からリアが出る直前にレイノーラがこちらを振り返り、精神体になろうとしていたリアがビビって引っ込んでしまった。
レイノーラは俺を見るや否やコンクリート土管の上から降りると、右手に目に見えるほどの強烈な冷気を纏いながら此方に向かって歩き始めた。
「……ぅっ」
殺気にも似た彼女のオーラを感じ取って少し後ずさりしてしまったものの、ここで逃げたら説得などむりなので気合いで恐怖を押し殺し、その場に留まった。
にしても凄い威圧感だ。リアが居てくれるって認識が無かったら逃げてた可能性がある程度には、レイノーラから発されているオーラが尋常じゃない。
「お前は……誰」
俺の目の前で足を止めたレイノーラは右手の冷気を強めながら、鋭い目つきで質問をしてきた。その質問の意図はおそらく、この中にいる俺の正体を教えろ、という意味だ。
ハッキリ言ってしまえば、彼女は納得してくれるのか。俺が何を言えばいいのか。彼女の心境を理解しきれていない俺が何を言っても、きっと逆効果だ。
この場はリアに任せてあるので、彼女を信じて俺は沈黙を貫く。
すると、レイノーラは答えを催促するような事は言わず、下を向いて小さく呟き始めた。
「……再会したときは、既にお前だったんだ。私のことを名前で呼ばず……レイノーラと、そう言ったから」
図星を突かれたものの、ここで取り乱してはならない。リアのデフォである無表情を貫かなければ。
「それならきっと……約束のこと……だって」
「……?」
約束ってなんだ。タピオカのこと言ってるのか?
……い、いや、多分違うな。きっと俺じゃなくてリアと結んだ約束のことだ。当然俺は知らないから、ここもリアにカバーしてもらわないと。
ぐぬぬ、なんか他力本願すぎて泣けてきた。俺かっこわるすぎる……。
「組織から助けてくれたのはリアだった。……でも、お前は怪人から私を──」
そこまで言いかけた辺りで、レイノーラは自分の額を手で押さえた。まるで頭痛を庇うかのように唸り声を漏らして、その場に跪いてしまう。
「うぅっ……! あぁっ、だれ、なに、分からない……っ! ッリアはリアじゃないのにっ、私を……うぁぁ……!」
苦しそうに叫ぶレイノーラを見ていられず、俺は自分の頬を指で引っぱった。
俺はリアで、リアは俺。つまり俺が痛みを感じれば、リアも感じるはずだ。ほっぺを引っ張る理由は『お前早く行ってくれよ』の意である。苦しそうにしてるから! 俺じゃ逆効果だから早く助けて!
「騙された……なんで……何で騙された? 何のために、なんで助けた……! 私の記憶ですら断片的な存在だったのに……どうしてリアの姿で!」
「……っ」
ビビってないで早く行ってくれぇ! レイノーラ壊れるぅ!
『あ、あのっ』
心の底から全力でリアを急かした結果、ようやく覚悟を決めた彼女が肉体から離脱し、蹲るレイノーラに駆け寄った。
マイクを通しているかのような特殊な声を掛けられたレイノーラは、恐る恐る顔を上げる。その先には、体が半透明で妙にふよふよ浮いているリアの姿が。
「──っ!?」
『おち、落ち着いて。大丈夫、大丈夫だから』
レイノーラ本人からすれば何が大丈夫なのか分からない状況だが、とにかくリアは落ち着いた声音で彼女を宥め続けた。あっちからしたら急に俺が二人に増えてしかも片方が幽霊みたいになってるんだから、すぐ落ち着けるわけないのだが。
──数分、間を置いた。
幽霊リアはほんの少しだけ落ち着いたレイノーラの傍で体育座りをしながら、ぽつぽつと語り始める。
『私はリア。その子も、リア。フィリスの知ってるリアは、私。でも、目の前の子も偽物じゃない』
「……わかんないよ」
『長い実験で心が壊れそうになった時、その子が私の中に入って来て、心を守ってくれた。そこから今日まで、私の代わりに生きてくれた。リア、として』
「それなら……あなたは本当に私の知ってるリアなの」
精神体のリアが必死に説明をしているものの、レイノーラは未だに訝しんでいる様子だ。立て続けに説明ばかりしているリアを遮って、レイノーラは彼女に対して質問を繰り出していく。
「初めて会ったとき、リアなんて名前じゃなかった」
『アイリール、だったね。アイリール・ダグストリア。フィリスを逃がした後、罰として私は戸籍が消されたから、新しい名前が付けられた。……元の名前、二文字しか残ってないや』
「……も、モルモットのときは、いつも私が夕食のパンを譲ってた」
『嘘つき。あのパサパサなパンをあげてたのは、私でしょ。フィリスったら、お腹すいたら、すぐ泣くんだもん。看守が来ないように、泣き止ませるの……大変だったんだから』
「……っ!」
懐かしげに隣で語るリアを、レイノーラは驚いたような表情で見つめていた。彼女ら二人にしか知り得ない情報を共有したことで、疑いは少し晴れたのではなかろうか。
だが喋っていいタイミングが分からないので、俺は相変わらず黙ったままだ。いつまでこのままで居れば良いのじゃ?
『秘密を言えなかったのは……もう一人の私にも、大切な事情があったから』
「それって……?」
『時間はあるから、また今度、ゆっくり話す。みんな心配してるから……今日は、もう帰ろう』
肩に手を置きながら優しくリアが告げると、フィリスはゆっくり頷いて渋々承諾してくれた。完全に、とはいかないまでも、なんとか必要最低限の説得はできたらしい。ありがとうリア、花丸あげるぞ。
『ごめんなさい、そろそろ、時間だから』
「えっ?」
困惑するフィリスに謝りながら、リアが俺の方に近づいてくる。
そしてそのまま俺の体に突っ込んで、肉体の中へと溶けていった。時間って精神体でいられるタイムリミットのことだったのか。
リアが入ってきた瞬間、心の奥の隙間がスッポリ埋まった感覚を覚えた。これは再び俺とリアの精神が同調した、ということなのかもしれない。
俺が心の中の感覚に戸惑っていると、不意にフィリスが頭を下げてきた。
「……ごめんなさい。助けてくれたのは事実だったのに、私……っ」
「あ、謝らないで。……その、騙してたのは、本当だから。こっちこそ、ごめんなさい」
フィリスに謝られるのはお門違いなので、彼女の倍深く頭を下げて謝罪した。
「でも、取り乱したり、お前とか言っちゃったし……私の方こそ」
「……ぜ、全面的に悪いのはこっちで──」
そこから少しの間、相手より深く頭を下げ続ける謎の勝負が繰り広げられたが、俺が土下座に到達したことで終止符は打たれた。
……
…………
………………
数十分後、レイノーラをロイゼの家に送り届けた俺は帰路に就く途中、心の中でリアと会話をしていた。今までそうやって会話できるの知らなかったんですけど! 便利だな精神体!
(そう言えばキミ、蓮斗くんのことは、どうするの)
(どうする……って、どういう意味で?)
(ほら彼、クロノって人から助けてくれた後、一度もおねだりしてきてない)
言われてみれば、確かにこの二日間……一回も性処理してないな。蓮斗は一度も苦しそうな表情になってなかったし、淫紋が光ることもなかった。
当然おねだりなんてされてないし、蓮斗が平気そうだったから俺も何も言わなかったんだけども。
(淫紋を克服したんじゃね)
(あれ、やせ我慢してるだけ。確かに以前よりは耐えられるように、なってる。けど、それもそろそろ限界)
うぐっ……。やっぱり我慢してるだけだったか、あいつめ。
いや、その、分かるよ。海夜の気持ちはすっげーよく分かる。今の雰囲気でおねだりなんて出来るわけないし、本人も絶対したくないよな。
だって「これからお前を攻略してやる(キリッ)」ってカッコつけたばっかりだし。俺だったら絶対おねだりなんてしたくないね。
思い返してみればあいつ、なかなか恥ずかしいこと言ってたな。いや、アレに照れてた俺も俺だけどさ。……は? いやいや、全然照れてないが。あいつの勘違いだが。仮に顔が赤くなっていたとして、どうせ中のリアが照れたから俺も恥ずかしさを感じたとか、そういうアレっぽいアレだから。ほんと。
(私には分からないけど……男の子の、意地ってやつ?)
(そうだぞ。俺はよく分かる。だからここは海夜を信じてやろう。あいつが頑張ればきっと淫紋も乗り越えられる筈だ!)
(……ハァ。ちょっと、体借りる)
(えっ?)
海夜が内に秘めている熱い思いを汲んでやろうと提案した瞬間、全身が動かなくなった。
──程なくして、俺の体が勝手に動き始めた。
(え? ……えっ!? なに! なにごと!?)
「あんまり長くは、できないけど。少しの間、私が体を使う」
(な、なんで?)
「蓮斗くんが暴走したら、困るのキミでしょ。あの様子だと今夜が限界っぽい、なので私がやります」
(ハァァッ!?)
……
…………
………………
なんやかんやあって、いつの間にか自宅のトイレに海夜を連れ込んでしまいました。どうしてでしょうか。
おかしいね。何で便器に座ってる蓮斗の前に跪いてるんですかね俺。ズボンの前に俺の顔があるのおかしいですよねほんと。
「り、リア……どうして……」
「貴方が約束した方のリアが、海夜の気持ちガー、とか言って渋るから」
「え? ……じ、じゃあ、君は……」
「もう一人の方のリア。この世界の、って言えば分かりやすい?」
淡々と説明しながらベルトに手をかけるのやめて。……海夜も「ゴクリ……」とか音鳴らして唾飲んでんじゃねーよ! もうちょっと頑張って抵抗しろや! あの時のイケメンはどこにいったんだよ!
「……期待してる目」
「そ、そんなわけっ!」
「抵抗しちゃ、ダメ」
海夜が焦って俺の手を掴もうとした瞬間、リアが肉体から離脱して精神体になり、海夜の手を押さえた。
そしてリアが海夜の両手を後ろに組ませて拘束する頃には、ズボンの目の前で無表情なままベルトに手をかける俺がいた。内心汗だくなわけだが。
「リアが二人……!?」
『……何もしなくても、私が見えるんだ。やっぱり主人公、だね……ふぅーっ』
「うぁっ……!」
海夜の手をガッチリと拘束しながら、彼の耳元に吐息を吹きかけるリア。それに反応して海夜がビクッと肩を震わせると同時に、目の前のズボンが少し膨らんだ。
ちょ、お前マジで戦闘態勢に入るつもりか……!?
「や、やめよう……」
俺がリアに言ってみるものの彼女は意に介さず、海夜の耳に愛撫を始めた。
『はむっ、んちゅっ』
「本当にやめとかない……!?」
『……暴走されたら、元も子もない。ほら、蓮斗くんの首、見て』
リアに催促されて視線を海夜の首元に向けると、そこには薄く発光を始めてる淫紋があった。それを見つめるリアの顔は、無表情ながらも……どこか、焦っているようにも俺には見えて。
──そう、か。リアも必死なんだ。自分から海夜に仕掛けるなんて初めてのことなのに、海夜にそれを悟られないように頑張って誤魔化してる。耳を愛撫してるのも彼に余裕を持たせないためだ。
それくらいの事をする程、淫紋の状態が危ういと感じている。だから何が何でも海夜に抵抗させまいと……。
俺、ダメダメだ。数年間もの傷心から立ち直りかけの女の子に、ここまでさせるなんて情けない事この上ない。
クリアの為、そして彼女を意を汲む意味でも、ここで俺が怖気づくわけにはいかないよな。
「ごめん、リア。ここまで君にやらせちゃって」
『……別に、いい。返しきれない借りがあるから、このくらい何でもない』
「あの、二人だけで話し進められると困るんだけ『ふぅーっ』あぁぐ……っ!」
リアが自由を奪ってる隙に終わらせなければ──そう心に決め、俺は海夜のベルトを外してズボンのファスナーに手をかけた。
この家には今藤堂とロイゼもいることだし、勘付かれる前に手早く終わらせよう。
えっと、この体勢だと……手より口の方がやりやすいか。
「ふっ、二人とも、急にどうして……!」
「淫紋がヤバい、それだけ」
『さっきより抵抗の力、弱くなってる』
二人で声を合わせながら説得して、未だにごちゃごちゃ言う蓮斗を黙らせる。
「いつもやってた事、これからするだけ」
『蓮斗くんは気持ちよくなるだけでいい』
ズボンの近くで、耳の傍で。こいつの気持ちを昂ぶらせれば、それだけ早く
「ストレス溜めたらダメなんだぞ」
『溜まってるもの、お口の中に吐き出すだけ』
「そのまま動かないで、身を任せて」
『我慢なんてしなくていい』
「もう顔が緩んだね」
『トイレに来たときから、期待してたのバレバレ』
「ほら」
『ほら』
「『いただきます』」
ちなみに白いのは飲み込まなければ大丈夫
(実は感想欄の有志による一意見から生まれた回)