陽菜視点の話 前回の事後とかの詳しい話は次回のリア視点で
あと沢山のアンケートのご協力めっちゃありがとうございました 結果としてはR18版を投稿することになり申し候
ハーメルンはえっちな人が多いですね!(偏見)(すいません)(ありがとうございました)
何でもない、いつもの日常。
朝起きてお姉ちゃんと一緒に朝食を食べて、友達と一緒に学園に行って、放課後はバイト先で先輩をいじる。
その『当たり前』がどれほど恵まれていたのかを、今になって思い知らされている。
「あれっ、陽菜は?」
「今日学園に来てないみたいでさー。メッセージ送ったけど返事無くて」
私が所属しているクラスの教室で、二人の女子生徒が机の上に弁当箱を広げながら会話をしている。
話題は陽菜──つまり私のことを、
「……ねぇ」
「帰り陽菜んち寄ってく?」
「賛成~。ちょっと心配だし」
声をかけても、彼女らはまるで私なんていないかのように、話を続ける。
「あ、そういえば学内のカフェで新メニュー出たんだって! デザート系で!」
「マジ? 放課後ちょっと見てこ!」
「……ねぇってば」
誰にも姿が見えず声も聞こえず、こちらから相手に触れることも、相手に触れてもらうこともできない。
そんな状態になってしまったのは、今朝からだ。
朝食を準備している姉に声をかけたが、彼女は一度も振り返ることなく、私を置いて先に出掛けてしまった。
今だって、友人に声を掛けた。それでも私が彼女たちに認識されることはない。
──心当たりが無い、というわけではない。
昨日の帰り道、私は黒いローブを着た謎の人物と遭遇した。
その人物は私に向かって『お前は独りだ。永遠に孤独なのだ』と、それだけ告げて姿を晦ました。
あの時は訳も分からず、さほど気にも留めていなかったが、今になってあの人物が言っていたことを理解している。
私は今、何故か誰にも認識されず、孤独であることを強要されているのだ。
どうしてこんな事態に陥っているのか、誰かの仕業なのか。
手掛かりはあの黒ローブの人物だけなのだが、顔も見ていなければ、ローブ以外の特徴も無い。そんな人物を、どうやって探せばいいのかなんて見当もつかない。ローブを脱がれたらその時点で手掛かりは消える。
もう、どうしたらいいのか分からない。何故かスマホも手元から消えていて、連絡を取ることもできないのだ。
「……ふぅ。すぅー……はぁ」
学園の敷地内にある庭園のベンチに座って、何度も深呼吸を繰り返している。
こうでもしないと、平静を保っていられないから。
今まで生きてきたうえで、自分の事はよく理解している。
私は高月ロイゼールのように強いメンタルも持っていなければ、フィリス・レイノーラのように冷静な判断も出来ない。
「……どう、しよう」
どうしても不安は消えない。両手を口に当てながら、目を閉じて何度も深呼吸をした。今は自分の心を休めることで精一杯だ。
これではとても事態の解決など望めないが、パニックになって精神が壊れてしまうより何倍もマシだ。
「うっ、は……」
そうすることで頭は少し休まったものの、自分の置かれた状況を冷静に分析してしまい、体が震えだしてしまった。
こうして悩んでいる間にも、事態は悪化しているかもしれない。もしかしたら自分自身も消えてしまうかもしれない。
──誰も助けてくれず、孤独のままかもしれない。
「やっ、やだっ、先輩……っ」
ついに恐怖が勝ってしまい、私はベンチから立ち上がって駆けだした。誰かのそばに、気の知れた誰かの近くにいないと、心が壊れてしまいそうだ。
今の不安定な精神状態で、一人になって考え込むのは逆効果だと気づいた。たとえ認識されないのだとしても、誰かの傍に居ないと駄目だ。
ずっと自分以外の誰かと一緒に行動しながら生きてきた私は、孤独にめっぽう弱いらしい。
「あっ」
校門付近を歩いていた二人の人物が、目に留まった。
藤堂文香と高月ロイゼール──二人とも一つ学年が上の先輩で、私と同じ能力者だ。
現在は放課後という事もあってか、どうやら二人で下校するところだったらしい。
「文香先輩! ロイゼ先輩も!」
私はその場から駆け出して、彼女らの背中に向かって大きな声で叫んだ。
彼女たちは能力者、つまり他の人間とは違う。ということは、もしかしたらあの二人なら私を認識できるかもしれない。
そんな期待を抱いて、周囲に響くほどの声量で叫んだのだ。
──だが。
「教室に蓮斗とフィリスが居なかったのだが……ロイゼは何か知ってるか?」
「あの二人はリアさんと一緒に街へ行くと言っていましたわ! なんでもリアさんがタピオカを奢るとか……」
「むっ……その、リアとは?」
「小春さんのお友達ですわ。ミニマムでかわいらしいのに、とっても強い子なんですよ!」
私を気に留めることもなく、二人は談笑を続けた。
その姿を、ただ何も言えないまま見つめることしか、私にはできなくて。
──あぁっ、駄目だ。冷静に考えるな。私は独りじゃない。誰にも見えない幽霊なんかじゃない。
そうだ、きっと大丈夫。こんな焦りも今だけだ。私のことが見える人なんてきっとすぐに見つかる。その人と一緒に解決方法を模索していけばいいだけだ。
「先輩」
そうだ、先輩に会いに行こう。さっきの会話が確かなら、先輩はフィリスちゃんと一緒に居るはず。手掛かりと言えばタピオカくらいだけど、この街でタピオカを扱っている有名店なんて一つしかない。
そこに行けばいい。きっと先輩もそこにいるはず。
「先輩、先輩」
大丈夫、先輩ならきっと私を認識してくれる。いつものお人好しで、孤独から解放してくれる。
そう信じられるほど、先輩は凄くて、カッコいいんだから。
学校で階段から落ちた時も、電車で痴漢に遭ったときも、帰り道で怪人に襲われたときだって……いつも、いつも助けてくれた。
今回だっていつもと同じに決まってる。先輩は私のヒーローなんだから、手を差し伸べてくれるに違いない。先輩は他の人とは違うんだ。
「……あっ」
見えてきた。今日は珍しく行列が出来てない有名店だ。
さっきの話が本当なら、先輩はこの周辺の何処かにいる筈。
「どこ……先輩……」
首を振りながら、周囲を見渡す。
あの人の顔なんて、ほんの少し見えただけで直ぐに分かる。
「い、いた!」
店から少し離れた、噴水とベンチがある広場。そこには見慣れた水色髪の少女と、目的の人物が立って話をしていた。
後ろ姿だが、あれは確実に先輩とフィリスちゃんだ、間違いない。
すぐにその場を駆け出して、噴水広場の方へ向かって走った。
「先輩! せんぱーいっ!!」
走りながら、見慣れたその背中に向かって大声で呼びかけた。
そして二人の後ろに着き、荒い呼吸を整える。
「見つかってよかった……。先輩、こっち向いてくださいよ」
「……ん?」
私がいつもの明るい調子で語りかけると、すぐさま先輩は此方に振り返った。
……やっぱり、先輩は違った。あぁ、安心した。このちょっと疲れたような瞳とか、間抜けな顔を見ると心が落ち着く。
能力者という特別な枠組みはあるにしても、それ以上に先輩はやっぱり特別だ。いつだって私のピンチには駆けつけてくれるし、今もこうして私を認識してくれている。
よかった。やっぱり、先輩は私の──
「おぉ、リア。遅かったな」
「……ちょっと、迷子になった。ここら辺、入り組んでる……から」
「ほら、言った通りでしょ、蓮斗。やっぱり、私がリアを迎えに行った方がよかった」
「──え?」
私の後ろから、聞き慣れない声がした。
そしてすぐ、私の横を誰かが通り過ぎた。
私の横を通った銀髪の小さな少女を、フィリスと先輩が明るく迎え入れている。
「えっ? ……え?」
フィリスがその少女の腕に抱きつき、先輩はもう一歩進んでその少女に近づいた。
まるでその距離感が、当たり前なのだと、見せつけるように。
その光景が目に映った瞬間、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥り、膝から崩れ落ちた。
目の前が揺れて、呼吸に余裕が無くなってくる。
「なんで……? せ、せんぱい……?」
その少女は誰だ? どうしてフィリスが懐いている? 何故そんなに先輩との距離が近い?
「聞いてリア。今日は蓮斗が奢るって」
「えっ? ……ぁ、う、うん」
「その、お詫びにもならないけどさ。流石にリアよりは金あるし、ここは俺が出すよ」
先輩の目も、フィリスの視線も、全て私じゃなくてその少女に送られている。
その行動が意味することなんて、1+1の答えを導き出すよりも簡単で。
なによりそれは、私の心を打ち砕くには、十分すぎる威力だった。
「──ねぇっ……先輩! わたし、ここに! あなたの目の前にいます!」
「フィリスは何が飲みたいんだ?」
「リアと一緒のやつがいい。リアは何選ぶの」
「は? いや、あの……えっ?」
私の声は届かない。フィリスにも、あの少女にも──先輩にも。
「助けてくださいっ!! わたしもう耐えられません! いつもみたいに……大丈夫かって、わたしに言ってくださいよ!」
「……? リア、どうした?」
「具合、悪い……の?」
「ふ、二人とも……流石にやりすぎ、だって」
「は? な、何言ってんだ……?」
信じた私が悪かったのか。夢見がちで、気が弱くて、フィリスや先輩たちのように強くないから、私だけ置いていかれるのか。
どうして、どうして。
何も悪い事なんてしてないのに。何でわたしがこんな目に。
誰よりも、なによりも嫌っている『孤独』に、どうしてわたしが。
「……うぁっ」
なんで私が泣かなければいけない。
「いやっ……なんでぇ……っ、ひぃっ……ぇ」
どうしてここまで絶望しなければいけない。
「やだぁっ……せんぱ、い……っ、せんぱいぃ……! たすけて、たすけてぇ……っ!」
──ひとりはいやだ
「だ、だいじょうぶ……?」
「………ぇ?」
──目の前に、手が差し伸べられている。
私よりも、一回りも小さい手が、目の前にある。
「ほら、立って」
「えっ、えっ?」
私の手を握って、力強く引っ張って、私を立たせた。
尚も強く、私の手を、握っている。
幼い頃、一緒にお祭りへ行ったとき、『迷子にならないように』って、お姉ちゃんがしてくれたように。
ただ私の手を、強く、強く──離さないために。
「泣かないで、ね。話は聞くから、一緒にいこう」
「えっ、リア、何してるんだ」
「誰に話しかけてるの……?」
銀髪の少女は半ば無理矢理私の手を引いて、その場から歩き始めた。
先輩もフィリスも、そしてもちろん私も、困惑の色を隠せない。
すると、少女が一度足を止め、二人がいる後ろを振り返った。
「海夜、レイノーラ……えっと、何でこの子と喧嘩したのかは、知らないけど……でも、そこまで無視するのは、よくない」
「……あな、たは……」
見えているのか? 触れているのか?
先輩すら認識できなかった私を、見知らぬこの子が助けてくれているのか?
「いじめになっちゃうぞ。女の子……というか、友達を街中で泣かせるとか、ほんとにダメだぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! さっきから何の話を……!?」
「リア、どうしたの……?」
「むむ……」(これ、今すぐ仲直りは無理そうだな……。俺が間を取り持つとして、とりあえずこの子の話を聞こう)
少女は悔しそうな声を漏らすと、再び前を向いて私の手を引いた。
まるで訳が分からず困惑する私に向かって、その少女は優しい声音で語りかけながら、何処かへ向かって歩いていく。
「大丈夫。私が付いてるから。お兄ちゃ──ぁ、いや、お姉ちゃんに……任せなさいっ」
状況
陽菜に片思いしてる男子が志願して怪人になる → 能力で陽菜を孤独にする → 弱ったところに付け込んで俺の女にしてやるぜグヘヘ → 「イジメ、カコワルイ」(プレイヤー権限で陽菜が見えるリア登場) → 誰だコイツ!?(驚愕) ←今ここ