change   作:小麦 こな

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4日後に送るプレゼント⑥

 

「今日の夕焼けも綺麗だな。俺にも見させてくれよ」

 

朝にあんなにひどい事を言っておいて、夕方はこんな事を言っている人間がいるなんて鼻で笑ってしまいそうになる。

自分の言葉に関して信頼性がゼロじゃないかとか、都合の良い事ばっかり言うダメ人間なんじゃないかとか思うから。

 

でも、そんな鼻で笑うような奴は無視してしまえばいい。

鼻で笑っていたちょっと前の自分なら、汗だくになって他人を探すことは絶対にしなかっただろうから。

 

モカが座っている後ろに、腰を下ろす。

そして呼吸を少しずつ整えながら、視線を夕焼けに目を移す。

 

たしかに、今日の夕焼けは綺麗だ。

 

ちょっとした沈黙がモカの目の前を流れる川のようにゆったりと続いた。

その沈黙に変化を生じさせたのは、彼女だった。

 

「もうあたしと顔も合わせたくないんじゃなかったっけ~」

「……だから、お前と背中越しで座ってるだろ?」

「それなのに息もあがっちゃってて……変な貴博君だ」

「人間、変わってて普通なんだよ」

 

モカの声色は、普段よりも低く聞こえた。

そしてちょっとだけ、声も震えているような気がした。

 

「あたしも、変な事言っても良い?」

「言えば良いんじゃねぇか?」

「心の奥底では~、ほんのちょーっとだけ、貴博君は来てくれるんじゃないかなって思ってた」

「……どうして?」

「あたしに『どうして俺に付きまとうんだ?正直、めんどくせぇから辞めてくれねぇかな』って言ってた時の貴博君の顔が辛そうだったから、また嘘を言ってるって思ったから」

「だったらなんでおま」

「その後の言葉を言った貴博君の顔は、本気で言ってる顔だったから」

「それは……」

「そこであたし、気づいちゃったんだ~。……貴博君のそばにいない方が良いんだって。あたしが貴博君にしてたことがありがた迷惑だったんだって」

 

だからあたしは、泣いちゃった。

 

 

そんな弱弱しい声を、聞いた。

察しが良いモカだから、俺が行動に移した思惑をしっかり受け取ってしまって傷ついてしまったんだって悟った。

 

「貴博君は自分を悪役にして、あたしを傷つけない為にわざとあんなことを言ったんでしょ?もしそうなら、あたしは貴博君の想いに応えなきゃダメだって思うから」

 

一瞬開きかけた口が、すぐに閉じられる。

モカの言っている言葉に「違うんだ」って安易に言えなくて、そしてこんな状況にも関わらず気の利いた言葉を言えない自分に下唇をグッと噛む。

 

「そうか……。それにしてもお前は随分なプレゼントを贈ってきやがったな」

「あ、届いた?良かった~。あれはあたしから貴博君への、いっちばんありがた迷惑なプレゼント、ってかんじ?」

「そうだな。クソほど迷惑だ」

「えへへ……。そっか」

 

この状況で何も言えなくて、最適解も見つけられない俺。

答えが見つけられないのだったら、俺は……。

 

「一人の女の子を寝不足にして、おかしな日常にさせたプレゼントだから迷惑だ」

「えっ……?」

「そもそもの原因である俺が一番ダメなのは分かってる。それでも、気づいたことがあるんだ」

「モカちゃんが居なくなれば二人ともハッピーだよ、ってこと?」

「逆だよ、バカ」

 

最適解が見つけられないのだったら。

それを自分で作ってやれば良いんじゃないか?

 

不器用な人間(俺たち)らしい方法だと思う。

 

「いつもそばにいてくれる(女の子)、俺の事を考えてくれる(女の子)が何よりも大切でかけがえのないモノだってお前のプレゼントで気づいたよ」

「どうして貴博君って、いつもそんなズルい事言っちゃうの?」

「今朝までは周りの人間が幸せになれれば俺なんてどうなっても良いって考えてた。けど、お前のプレゼントでそんな考えは『悪い考え』だってことにやっと気づけた」

「あたしと貴博君、やってた事がそっくりだから気づいたの?」

「そういう事。……隣、座っても良いか?」

「恥ずかしいから、メッだよ~」

 

途中から鼻声で、震えた声でダメって言われる。

女の子だから、泣いている顔とか見られたくないのは分かる。

 

分かるけど、今回はお前の顔をしっかり見て、解決したいんだ。

 

「隣に来ちゃ、ダメって、言ったじゃん」

「お前に辛い思いをさせてごめん。そしていつもありがとう」

「ばかっ、ばかっ……」

 

きっとモカの心の中から色々な感情が抑えきれなくなって、溢れてしまった感情が涙となってポロポロと外に吐き出しているのだろう。

彼女の事を察して、泣き顔を見ないために赤く染まった夕焼けに目を向けた。

 

膝を抱えながら泣きじゃくる声と川のせせらぎを聞きながら、遠くを眺めた。

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

「ちょっとだけ。でも大丈夫だよ~」

 

まだ鼻声だけど、先ほどよりも落ち着いた様子のモカがそう答えてくれる。

その時に、久しぶりに彼女は俺の顔を見てくれた気がした。

 

彼女の目は赤くなっていたけどしっかりと俺を見てくれて、先ほど見ていた夕焼けと同じくらい引き込まれるものがあった。

 

今は赤色も黒く塗りつぶされていく時間帯になってきた。

今の時間に住宅街を歩いたら、幸せな時間を過ごす家族たちの愛がにおいとなって支配するだろう。

きっとお腹もぐう、となってしまうだろうな。

 

「なぁ」

「どしたー?貴博君」

「かなり真面目な事を言うから聞いてくれないか?」

「貴博君が真面目な事を言ったら、明日はパンが降るよ」

「バカにしやがって」

「じょーだんだよ~」

 

俺がプイッと明後日の方向を向いたら、モカが俺の肩をユサユサと揺らしながら明るい声で声を掛けてくれる。

そんな些細な日常が楽しいってもっと前から気づいていたはずなのに、なんて思いながら口角を上げる。

 

俺が明後日の方向を向いても、モカはちゃんと付いてきてくれる。

そう思えたら、不思議と言葉がつらつらと出てくる。

 

「それで、真面目な話ってなに~?」

「今から言うからしっかり聞けよ?俺はな……」

 

 

お前の事が、好きなんだ。

 

 

河原に吹く優しいそよ風も、この時ばかりは静かになった。

微かに聞こえるのは子供の遊び声と、車の走るエンジンの音。

 

さっきまでニヤニヤ顔だった彼女は、俺の言った言葉の後は目を大きく開いて思わず「えっ」と漏らした。

なんだよ、かわいいくせに男から告白されたことが無いのか?

 

「ずっと、俺の隣にいて欲しい。お前に迷惑を掛けるかもしれないけど、その分俺、頑張るから」

「貴博君ばっかり、ずるい」

「何がズルいんだよ」

「あたしだって、貴博君があたしをバンド脱退から助けてくれた時からずっと好きだったもん。貴博君という、一人の男の子が好きなんだよ?」

「なんだよ、また泣いてんのか?」

「むぅ~、嬉しいんだもん……」

 

やっと泣き止んだと思ったらまた涙を流すモカ。

でも今流している涙はポロポロと落ちる涙ではなく、瞼に一杯溜まってそこからツーッと流れる涙。

 

同じ涙だけど、感じ取れる感情は違って思える。

 

「今日よりも明日。明日よりも明後日。そして明後日よりも一年後、毎日少しずつ幸せになろう」

 

 

 

 

 

 

「俺と、付き合ってください」

 

さっきまで地面に付けていた尻を持ち上げて立ち上がる。膝の関節がポキポキと音を立てているような気がするけど気にしないでおこう。

 

そしてまだ座っているモカに左手を差し出す。

この心臓の高揚感の原因は、様々。

 

モカは口角をニヤッと上げてから、俺の手をキュッと握った。

そして彼女は立ち上がろうとした。

 

 

でも、実際は出来なかった。

 

「お、おいっ!どうした!」

 

立ち上がろうとしたのに、力なく倒れそうになっていた。

彼女とつないだ手を強く握って、反対の手で彼女の腰に回す。

 

暗くてはっきり見えないけど、モカの顔は青くなっているように思えた。

それに彼女は目を閉ざしていて、それは意図的に閉じていないとすぐに分かった。

 

「しっかりしろ!大丈夫か!?」

 

急いでポケットから携帯を取り出し、電話を繋いだ人間に今いる居場所を伝える。

疲れから来る貧血かもしれない。それで倒れてしまったり一瞬でも気を失ってしまうのはかなりの重症ケースだと考えられた。

 

モカは目を覚ましたが、意識が朦朧としている。

俺はそんな彼女を支えて、電話で呼んだ人が来るのを待った。

 

 

 

 

 

 

次の日の、太陽が優しく差し込む白色の空間の中で彼女は目を覚ました。

目を開いた時の彼女を見た時は、一番にホッとした気持ちが沸き上がった。

 

「やっと起きたか、ねぼすけ」

「貴博君、おはよ~。……病院、だね」

「そうだ。目が覚めてちょっと検査したら帰れるらしいから安心しろ」

 

元気そうな声が聞けて、思わず凝り固まった身体を伸ばす。なぜか身体を伸ばしたらあくびが出てしまう。

そしてモカが起きたことを知らせるためにナースコールを使う。

するとすぐに看護師のお姉さんが駆けつけてくれた。対応が早くて助かる。

 

ちょっとコーヒーを買ってくる、そう言い残して病室から出る。

正直眠気がすごいし、昼から仕事だと思うと人生をやり直したくなる。

 

でも、やり直したくない思い出もある。

 

「ねぇねぇ、さっきの男性は青葉さんの彼氏さんだったりするの?」

「えへへ、そうでーす」

「やっぱり!あの男の人、一日中ずっと起きて青葉さんのそばにいたから絶対そうだと思った」

「そうなんですか~!なんだか嬉しいな~」

「でも、あの男性も熱中症で体温が38度もあったのに点滴だけで済ましちゃって。彼氏さんにしっかりやすみなさいって怒っといて!」

 

 

病室の外からでも聞こえる女子トークに肩が一気に重たくなる。

ペラペラと喋ってんじゃねーぞ、クソ看護師。

 

このまま病院にいてもあの看護師に話題の餌にされて弄ばれるだろうし、モカはニヤニヤとしながら色々とやってきそうな気がする。

 

コーヒーを買うより家に帰った方が精神的には疲れなさそうだよな。

 

俺は出たばかりの病室に再び入って、俺の彼女を見て言う。

 

「俺は先に帰るから」

「えー!モカちゃんを放っておくの~?ぶーぶー」

「だから気を付けて帰れよ、モカ」

 

 

初めて彼女の名前を、声に出して呼んだ。

 

 




@komugikonana

次話は12月13日(金)の22:00に公開します。
新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてくださいね。作者ページからサクッと飛べますよ!

~高評価をつけて頂いた方をご紹介~
評価9という高評価をつけて頂きました 部屋の隅の黒いのさん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援よろしくお願いします!

~次回予告~

色々とあった今週が終わりを告げて、ずいぶんと久しぶりに感じる休日が目を覚ませばやってきていた。
チラッと時計を見ると時刻は10時近くにを指していて、これほど遅くまで寝ていたのは久しぶりなんじゃないかって思うと同時に寝すぎて身体が怠く感じた。

今週は言葉では言いけれないほど色々あったけど、一言で言うなら彼女が出来た。
この響きは特別感がありそうで、全然ない。もはや実感も無かったりする。

背伸びをしてから着替えて彼女の家に向かう事にする。
部屋の片隅には、「元」退職届だった紙屑がビニール袋の中に入れられている。
こうなってしまったのは彼女の母親がシュレッダーに退職届を入れたからだ。

そんな紙屑を見て、クスッとしてから外の世界に飛び出した。


では、次話までまったり待ってあげてください。
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