IS学園に男がいる…?
そんな噂を聞いた織斑一夏は生徒会室に行くことに…

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久しぶりに短編書きました


刀使

「あーあ、IS学園にも男がいたならなー」

極東に存在するIS学園、ある日の昼休み。世界で唯一の男性IS操縦者である織斑一夏が心ここに在らずといった表情で愚痴をこぼす。女性にしか扱えないIS操縦者を育成する学園において、自らが唯一のイレギュラーであることは彼自身にもよくわかっていた。食事中にも関わらず深いため息をつく彼に、向かい側に座っていた鳳鈴音が不思議そうな顔をして言う。

「いるじゃない、一人」

その様子を見た一夏は食べていたものを飲み込むと苦笑しながら首を振る。

「いやいや、そういうことじゃなくてだな……おれは男の友達が欲しいってことだよ」

一夏が、鈴音は冗談で、言外に男はこの学園に彼一人しかいないことを言ったのだと思うのも無理はなかった。一夏とて、本気で言ったわけではない。それこそ、冗談のつもりで呟いただけなのだ。しかし、鈴音はその様子を見て少しムッとした表情になった。

「だーかーら、いるのよ、一人。男がアンタ以外にも!」

「はあ?」

一夏が素っ頓狂な声を出すと隣にいたセシリアが口を開いた。

「そういえば、聞いたことがありますわ。確か整備課の方で男性の姿を見たことがあると……」

「ぼくもその噂聞いたことがあるよ。でも、それって結局企業の人がISを届けに来ただけだったっていうオチじゃなかった?」

鈴音の隣にいたシャルロットは、男性がいるという噂には否定的だった。

「そもそも、ぼくはIS学園に来たときにここの情報を色々教えてもらっていたからね。そんな生徒がいたなんて聞いたことがなかったけど……」

「私はその人物に心当たりがあるがな」

すると、これまで何も言わずにいたラウラが真剣な表情で口を開いた。

「ラウラ、その人知ってるのか?」

一夏がラウラに詳しく話を聞こうとしたのも束の間、箒が立ち上がった。

「一夏、そのいるかもわからん男の話もいいが、次の授業は織斑先生だぞ。遅刻してまた出席簿を頭に叩き込まれても知らんからな」

見ると、一夏以外の全員が食事を済ませていた。

「うお、まじかよ!おい待ってくれみんな!」

結局その話は時間ギリギリに教室に入って来た一夏が千冬から怒られたことですっかり有耶無耶になってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、一夏君。今日も元気に練習頑張ってるわね、偉い偉い!お姉さんが褒めてあげるわ」

放課後、IS学園の訓練場で、いつものように一夏たち専用機持ち同士で訓練していると、珍しい客がやって来た。

更識楯無。IS学園生徒会長であり、ロシアの代表でもある彼女は、艶のある笑みを浮かべて現れた。口許で開いた扇子には「感心」と書かれている。

「楯無さん!珍しいですね、どうかしたんですか?」

ちょうど休憩をしていた一夏はIS、白式に乗ったまま楯無に話しかける。普段は一年生の専用機持ちで訓練していることが多いため、楯無の来訪は、誰かに用があるのではないか、と思ったのだ。

「あら、用がないと一夏君は私に会ってくれないの?酷〜い、お姉さん悲しくて泣いちゃう……」

「えー、それは……」

相変わらず掴み所のない楯無に、一夏は困惑するしかなかった。この先輩と会うときは大体振り回されているのだから仕方ないのかもしれない。

「なんてね、本当に用はないの。たまたま近くを通りかかったから貴方達の様子を見たくなっちゃってね。あと、将来の生徒会役員でもあり、簪ちゃんのお婿さんでもある一夏君を見極めないと……」

「お姉ちゃん!そういうこと言わないでよ!もう何しに来たの!」

楯無の言葉を遮って彼女の妹でもある簪が飛び込んできた。息を切らしていることから相当焦っていたのだろう。簪は真っ赤な顔で一夏の両肩を掴むと前後に揺らした。

「な、何か聞いた!?お姉ちゃんが何か変なこと言わなかった!?」

「なななな何も言ってないって!揺らすな揺らすな!」

「簪ちゃんたら照れちゃって、可愛い」

楯無がその様子を微笑ましげに見ていると、簪は楯無の方に振り返り、落ち着いて来たのか頬のあたりを赤くしてじとっと見つめる。

「……お姉ちゃん、本当に何しに来たの?からかうだけならもう帰った方が良いんじゃない?虚さん達が困ってるよ」

「いやーん、簪ちゃん怖ーい!一夏君助けてー」

楯無が一夏に後ろから抱きつくように隠れると、先程まで一夏達の様子を見ていただけだった代表候補生達がすぐにやって来る。

「一夏!いつまでサボっている!会長も一夏から離れてください!」

「あらあら、これ以上は戦争になっちゃうわね。私はこの辺でお暇させてもらうわ。またね、一夏君!」

周りが騒がしくなって来たところで、楯無は入れ替わりのように帰っていってしまう。一夏が、訓練とはまた違う疲れを感じていると、ISのプライベートチャンネルに連絡が入る。

『IS学園の男性の噂、確かめたいなら今日の夜、生徒会室にいらっしゃい』

 

 

 

 

 

その日の夜、放課後に楯無からの言葉が気になっていた一夏は、すぐにでも生徒会室に向かおうとした。しかし、楯無が訓練場に来て一緒に訓練していた彼女たちを少し煽っていったことで、そのとばっちりとして、彼女たちに様々な接待を行うことになってしまった。その結果、一夏が生徒会室にやってくることができたのは消灯時間までまもなくという時間だった。

一夏は急いできたが、消灯時間ぎりぎりまで相手を待たせてしまい申し訳ないという気持ちと、夜も遅いということもあり、普段より控えめにドアをノックする。

「すみませーん……織斑一夏です……」

返事はなかった。やはり、帰ってしまったのかという思いもあったが、同時に、楯無に謀られたのではないかという思いが湧いて来る。よく見ると、生徒会室には明かりがついていない。それは、夜遅くだというのに明らかに不自然なものだ。こうなると、一夏は今の状況を疑わざるを得なかった。そもそも、楯無は自分が消灯時間ぎりぎりになってここに来ることまで予想して、ここに入った途端、ドッキリだったとネタばらしされるという可能性もあるのではないか。

いや、寧ろその可能性の方が高いよな、と普段からかわれているために考えてしまう。それならば、すぐにドアを開けてしまおう。どうせ楯無さんのドッキリならば、潔く引っかかるのが男というものだ、と一人納得した一夏は勢いよく生徒会室のドアを開ける。

「 」

 

最初に見えたのは窓から覗く大きな月だった。そして、いつもの生徒会室。生徒会室にはやはり電気が付いていなかった。しかし、それを補うかのように月明かりが部屋に差し込んでいたのだった。そこに、いつもとは違う人物がいた。IS学園には本来いないはずの男だった。

一夏がしばらく呆然としていると、こんばんは、と一言声をかけられた。

「こんばんは……」

一夏には聞きたいことがたくさんあったが、一言返すだけで何も言えなくなってしまった。男は来客用のソファに座っており、一夏にも座るよう促す。一夏が腰掛けると、お互いに無言の時間が暫く続く。すると、男の方から口を開いた。

月が綺麗だから、明かりを消してしまった、と。

少し照れくさそうに笑って言った。こういうのは嫌いか、と問われた一夏はぶんぶんと首を横に降った。その様子を見てまた微笑むと、少し外すと言い、どこかへ行ってしまった。

しばらくすると、急須と湯飲みを持って来た彼は、普段は紅茶ばかり飲むのだが、実は緑茶派であると言い、温かい緑茶を注いだ。

美味しい、と味わう彼に、一夏は漸く言葉を発した。

「あ、あの、おれ、織斑一夏って言います!えと、IS学園一年一組で、その、一応、クラス代表もやってます!」

一夏にとって初めての経験だった。普段から明るい性格の一夏は、人前ではそれなりに緊張するものの、精神力に関しては強いと言われていた。しかし、目の前の男からは今までとは違う緊張を感じた。聞きたいことは山程あるが、言葉が出てこない自分でもよくわからない感覚。それでも、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

それは、しどろもどろになりながらも話す自分を微笑ましげに見ている彼が出すオーラのようなものがそうさせているのかもしれないと、そう思った。

なんとか自己紹介をした一夏に、彼は一度お茶を飲むとじっと目を見つめた。

楯無様から聞いていた通りだ。

その言葉に、一夏は不思議そうな顔をした。そして、ぱっと思いついた一つ目の質問を投げかけた。

「あの、生徒会の人……なんですか?」

彼の答えは是であった。曰く、補佐のようなものであると。普段はあまり人前に出る仕事をしていないらしい。そこまで聞いて、一夏は二つ目の質問をした。

「あの、今まで会ったことってありましたっけ?」

答えは否。本当はもう少し早く会えたかもしれないが、一夏の学園生活が想像以上に苛烈かつ充実したものであったために会う日が今日になってしまったと。それに関しては本当に申し訳ないと、一夏は謝られた。

「いやいや、謝らないでください!全然気にしてませんから!それで、学年は二年生ですか?」

一夏が質問すると、彼は目を丸くした。学年を当てたことに驚いたようだった。感心感心、と頷く彼に、一夏が照れたように笑うと、彼も微笑んだ。彼は整備課にいるらしく、座学に関しては自信があるそうだ。その際、一夏が教科書を電話帳と間違えて捨ててしまったことを可笑しそうに話された時は、一夏は顔から火が出るかと思った。

 

 

 

 

 

 

元々、消灯時間に近かったこともあり、寮へと戻ることとなった。長かったような短かったような時間を過ごした一夏は生徒会室のまえにいた。彼は、施錠してから帰ると言い、先に帰るよう一夏に促した。

「今日はありがとうございました。今度はもっと明るいうちから会えますか?」

一夏が聞くと、彼は嬉しそうに笑った。

もちろん、またいつか。

その答えを聞き、一夏は寮に向かおうとする。しかし、直後に彼の方を振り返った。

「最後に、貴方の名前、聞いていなかったです」

一夏の質問に彼はそういえば、と笑った。

彼が口を開く。

 

「名前は

 

 

 

 

生徒会室の扉に鍵をかけると、背後から気配を感じた。

「どうだった?久しぶりに会った一夏君は?」

今時珍しい好青年だった。素直な感想だ。ISがなければ、きっと平和な良い人生を送っていただろう。

「ふーん、それなら良かった。だから言ったじゃない。一夏君は巻き込まれただけ。〈〈不運な〉〉だけだって」

確かに、ISの開発者と知り合いで、姉が世界最強のIS使いとは、それはそれは〈〈不運〉〉なのだろう。

「そういうこと。だから、私たちが守るの。この学園にいる限り、彼や彼女たちには華々しい世界にいて欲しいの。世界の危機なんて救わなくてもいい。ただの高校生として、この学園の一生徒として過ごさせてあげたいの」

それは、楯無としての責務か?あるいは、生徒会長としての義務か?それとも……

「誓って。もう一度。楯無である私の失くした〈〈刀〉〉になると」

不安になったのか?

「いいから、早く」

 

 

 

麗しき我が主人

 

 

貴方が望むなら

 

 

 

何度でも誓おう

 

 

 

私は貴方の刀だ

 




リビドーで書いたので色々ごちゃごちゃ。
時系列も設定も各々で考えてください。
楯無さんって可愛いよね。


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