魔法科高校の妖精遣いだよ……え?そんなにチートかな?   作:風早 海月

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今日は終戦記念日ですね。
情勢不安はありますが、今後も平和な世界でありますように。


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今日は長めになってます。



懇親会と九島

 

 

 

 

 

 

これから勝敗を競う相手と一同に会するこの懇親会は、立食パーティーの形式をとる。

開会式のプレとも言われており、例年和やかさよりもピリついた空気を伴う。特に、得点を取り合う高校同士では鞘当が行われたりするし、他校のライバルへ個人的に宣戦布告したりなどの盤外戦術もある。心理状態に依存しやすい魔法だからこそ、盤外戦術は非常に有効だ。

 

そんなこともあり、三高の1年女子が深雪たちに絡んでいる所を栞は見つけた。

 

「―――あらぁ、()()()()でしたか。名のあるお方かと思ってお声掛けしましたの。勘違いでお騒がせしてごめんなさい。試合、頑張ってくださいね。」

「そういう態度は宜しくないのでは?師補十八家として、一の家系の品位が疑われますよ。」

 

栞が車椅子を走らせながら間に割って入る。

 

「貴女は?」

「名前を聞くのは自分が名乗ってから。礼儀すら学ばないような家なのね、一色家って!」

 

栞は深雪とほのかを背中に、少し煽る口調で三高の女子3人に相対する。

 

「……師補十八家が一角、一色家長女の一色愛梨よ。」

「ふむ、まず上から目線なのは目を瞑りましょう。日本神話系・宮内系古式魔法の最上位家系、御巫家現当主、御巫栞よ。」

「っ!?」(御巫!?)

 

御巫家は古式魔法の家系の中でも、表舞台で活躍してきた家系で、皇室との関わりもあるほどの高い家格がある。しかも、ほとんどの魔法師家系が表向き持つことが出来ない政財軍界への直接的な影響力を奈良時代よりも昔から維持している家系だ。

御巫という姓も時の帝から承ったもので、御が天皇や皇室を意味していて、巫が巫女などの熟語から連想されるとおり魔術を初めとする儀式などに関わる家系を意味している。

遠縁ながら皇室との姻戚関係もある。

権力は形骸化してはいるものの、権威は非常に大きく、その権威は十師族の各家を上回るとも言われている。だが、権力はないからこそ知名度は低い。知られているのは特に有力な数字付き(ナンバーズ)か古式魔法の家系だけだ。

 

「話には当主が変わったことは聞いとったが、本当にお主になっとったとは…」

「?沓子、知ってるの?」

「権力は無いが、どの魔法師家系よりも大きい権威を保持する古い家系じゃ。そして、わしの幼なじみでもある。」

 

後ろの2人がそう話すと、栞はわざと気がついたように話し始める。

 

「ああ、十七夜栞さんでしたっけ?深雪への紹介を遠くから聞いてただけなので間違いかもしれないけど。同じ名前の者同士、()()()()()()わ。」

 

栞は深雪もゾッとするような冷たい満面の笑みを浮かべる。

 

「沓子、貴女は友ならもう少し考えるべきね。何をするべきか。…ああ、白川のおば様にはよろしくお伝えしてね?……最後に一色、あんまり調子に乗ってると―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――いたーいしっぺ返し、あるかもよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

栞は柄にもなく、三高の愛梨と腰巾着に強く圧力をかけた。

それはわざとであり、愛梨への牽制であった。

 

愛梨は一高の二科生差別と同じように、魔法力でしか人をみれない、色眼鏡をかけている。それは非魔法師や格下の魔法師との軋轢を既に産み始めている。だから、これ以上増長しないようにという牽制を打ったのだ。

これでダメなら、理事会にかけるしかないのである。

 

 

 

 

 

古式には古式の瑞宝理事会という十師族のような集いがあり、大まかに『神道系』『密教系』『土着系』『口寄せ系』『日本神話系』『忍術系』『陰陽道系』そして『宮内系』の8系統に分けている。

例えば、九重八雲や藤林家は忍術系、吉田家は神道系と土着系と日本神話系を混ぜ合わせた異端児家系、矢車家は口寄せ系、沓子の四十九院家のルーツである白川家は神道系、などなどである。

宮内系は皇室に携わる古式魔法系で、数は少ないが権威がある。

 

7年に1度、全ての古式家系の当主から各系統1家ずつ理事を選出する。理事長は宮内系が務めるのは不文律ではなく、瑞宝理事会を設置したのが天皇であるからだ。

 

この場はかつては魔法の隠蔽についての話し合いと、議決を行っていた。違反者は理事家系全てを敵に回すという圧力団体である。

だが、魔法が明るみに出た後、伝統派を称して離脱した家系は少なくない。

現在は、古式各家系の発展と現代魔法を用いる魔法界の監視を担っている。

 

例えば魔法技能による差別に対する忠言や、不必要な流血の抑制、現代魔法による権威の低下を防いでいる。だが、1番の目的は十師族制度の監視だ。ナンバーズによる横暴によって古式魔法師が被害を受けるのを防ぐことが最も重要視している。

 

御巫家は宮内系の理事にして理事長を務める家系なので、栞は理事会の理事長である。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

『―――諸君、魔法力は絶対のものではない。魔法というツールを持つ諸君らは魔法力を磨くことも大事なことだが、それ以上に魔法の使い方について学んで欲しい。魔法を学ぶ若人諸君、私は諸君らの工夫を楽しみにしている。』

 

来賓挨拶の大トリ、九島烈。

十師族制度を確立した老師と呼ばれる魔法師だ。

 

「失礼、御巫家当主の御巫栞様ですね?」

「はい。」

「こちらのメッセージカードをお預かりしております。」

 

来賓挨拶を終えると、パーティはあとは自由参加という形になる。帰っていく者もいれば、まだ食べ足りない者もいるので自由としている。

栞は後者だが、前半はあまり食べれなかったからだ。車椅子で人混みの中をスイスイ進めるほどの操作技術は持っていないのだ。

だが、そのメッセージカードは奇しくもご飯よりも優先すべき人物のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

会場から出て、ホテルのエレベーターで最上階へ向かう。

 

ちなみに現代の車椅子は無線送電によって駆動していて、バッテリーは無線送電圏外の時にのみ作動する仕組みになっていて、この富士演習場南東エリアは無線送電圏外であるが、このホテル内だけは無線送電で駆動・充電されている。

 

最上階の一番奥(といっても部屋が大きいのでそこまで進まなくても突き当たるのだが)に着くと、衛兵のように扉の前に立つ2人の男が栞を止める。

 

「ここから先は関係者以外立ち入り禁止です。生徒の方ですね?生徒は11階より下ですよ。」

「これを受け取ったの。通してもらえるかしら?」

 

栞は()()()()()()()でここに臨んでいる。

衛兵がカードを確認すると、失礼しましたと、道を譲り、ドアを開けた。

 

そのまままっすぐ進むと、ホテルのドアらしいドアが見え、インターホンがあった。

ボタンを押すと、何も言わずに鍵が開く。

 

「待っていたよ、御巫栞くん。」

「お久しぶりね、栞ちゃん。」

 

「初めまして、九島烈閣下。ご無沙汰しております、藤林響子嬢。」

 

栞の口調に響子は少し顔を顰める。

 

「別に響子さんでもいいのよ?」

「いいえ、今の私はその立場にありません。今の私は十師族を監視する理事会の理事長であり、国を守る宮内系代表理事です。そして、貴女は忍術系名門家系藤林家の名代としてきてる訳ではなく、十師族九島烈閣下の孫娘としてここにいます。そう私は認識しています。」

 

老師は片手を上げて響子を遮る。

 

「良かろう。…まずは当主に就任したことに祝辞を送る。まあ、その建前は置いておいてだ。我々九島を初めとする九の家系が古式魔法を取り入れた現代魔法師だと言うのは知っておろう?」

「ええ。仮装行列(パレード)なんかは良い例ですね。忍術系の得意とする幻影を現代魔法で再現したのはすごいと思います。」

「うむ、その中で―――」

「まどろっこしい話はやめにしませんか?要は伝統派をどうにかしてくれってことですよね?古式の中で。」

 

伝統派は、理事会に属さない古式魔法師の集団で、忍術系・密教系・土着系が多い。これはかつて地下に潜った汚れ仕事専門の古式魔法師たちの末裔と九の家系に()()()()()と思い込むど間抜け共の集団だ。九重寺や土御門などから第九研に参加した人達は伝統派には所属していない。

 

「不可能と言わざるを得ませんね。仮にもこの日本は法治国家ですよ?表沙汰に出来ない犯罪しかしていない彼らを捕縛することは―――」

「いや、そうではない。我々九の家系と他の同調する古式魔法師家系で根絶やし・資料の焼却が決まっている。理事会の長にそれを報告するために今日は対談させてもら―――」

「理事会として、それは断固として反対致します。」

 

ピクリと老師の眉が動く。

 

「仮に根絶やしにする場合、彼らの秘伝書などの回収は理事会として必須事項です。彼らの思想こそ歪んではいますが、古き繋がりを断ち切る行為です。そうなれば古式魔法の多様性が減ります。それを理事会は許容しない。それでもあなた方がそれを行うというならば、内戦もやむなし。」

「……仮に資料を回収したとして、それは誰の手に渡るのかね?我々は慈善をしたい訳では無い。」

「理事会加盟家系の中で最も近い系統の家に再分配することになるでしょう。あなた方に対する補償の必要性はない。本来あなた方がするのは虐殺であり、魔法文化の多様性を保持するという国家の利益を損なう行為。宮内系代表理事としても受け入れ難い。」

「今、我々は内戦をする気は無い。君の提案を飲もう。」

「感謝します、九島閣下。」

 

栞は車椅子を反転させる。

 

「最後に、これは1人の爺として聞かせてくれ。君の足はどうしたのかね?」

「…そう言えば、地域の守護も十師族の仕事でしたね。関東は七草と十文字。この脚はブランシュに撃たれたショックで動かないらしいですよ。脳神経的に運動させられない状態です。」

 

暗に十師族の怠慢だと告げながらドアに向かう栞は、1度車椅子を止める。

 

「十師族制度は高い相互監視性を持っています。あなたが勢力調整をする程じゃない。四葉が強すぎる?あなたは何も見えていない。あなたが対立を煽って勢力を伸ばさせた十師族各家系が強くなったら釘を打つ?冗談も程々にした方がいいですよ?今伝統派ならともかく、表向きな戦力である四葉を削るのは下策です。アンタッチャブルの名前は有効活用するべきでしょう?」

 

 

今度こそ、栞はあっけに取られている2人を置いて、自分の部屋に帰って行った。


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