魔法科高校の妖精遣いだよ……え?そんなにチートかな? 作:風早 海月
昨日はリアルで忙しくて更新できませんでした……
お詫びと言っていいのか分かりませんが、栞のイメージ図をVカツというアプリで作りました。
ご覧になりたい方はhttps://syosetu.org/?mode=img_user_gallery&uid=216376からご覧下さい。皆さんのイメージを崩す可能性もございますので挿絵としては入れる予定はございません。ご了承ください。
なかなか刺激的な朝を迎え、達也は深雪のご機嫌取りと弁明に必死になった次の日。
2095年度全国魔法科高校親善魔法競技大会は開会した。
九校戦の放送は魔法が可視化された特別なカメラで撮影しているが、会場で見に来ている人で魔法感受性が乏しい場合、専用の双眼鏡のような機器を通して見ることが出来る。だが、普通の魔法師の場合は感受性が乏しいことは無い(なければ自分が魔法を使う感覚が分からないからと考えられている)ので非魔法師である人が使うことが多い。(たまに魔法師でも見る方が楽しいという人もいるが。)
とはいえ、非魔法師が九校戦を見に来ることは少なく、せいぜいが屋台の人などだろう。
雫やほのかたちが一高の先輩達を見に行っているのを放っておいて、栞は屋台を堪能していた。
「おじさん、ケバブ1つ。ヨーグルトソースね。」
「あいよ!」
「お姉さん、会場限定フレーバーってどれ?」
「いらっしゃいませ、こちらのプチプチミントチョコプラスとトッピングの焼きマシュマロが今回の限定商品です。」
「じゃあ、それとラズベリーチーズケーキフレーバーとフレークトッピングで。」
「ありがとうございます。」
「すみません、焼き鳥…ももタレ2本とぼんじり塩2本で。」
「はいよ!480円でい!」
「マネーカードで。」
「あ、このCAD、松本工業さんのですか?」
「そうですよ。春発売したものと同型なんですけど九校戦デザインが発売されてるんですよ。ちなみに処理速度制限を付ければ稼働時間が伸びると共に、ほとんどの魔法競技のレギュレーションに合致するんですよ。」
「…クロック速度はいかほどでしたっけ?」
「これくらいですね。」
「1台ください。」
「金だこ!16個入り1つくださいな!」
「1200円です。」
「このお面、かわいい!」
「カレー1皿!」
「冷やしパイナップル!1つください!」
「あ、さっきのおじさん!ケバブ今度は中辛ソースで!」
「あ、わたあめ!1つください!」
「かき氷!いちご味1つ!」
「……浴衣でも持ってくれば良かったかも。」
栞が屋台を楽しんで、一高のテント(と言っても冷房は付いている)にまだ食べ終わっていない戦利品を膝の上に置いて、わたあめを左手に持ちながらテントに入ると、上級生の何人かからぎょっとした目で見られた。
「あら?栞さん、お昼かしら?」
「いえ、おやつです。これから焼きそばと広島風お好み焼きとイカ焼きと、全部制覇してきます。」
(なんで栞さんってこんなに食べるのに痩せてるのかしら?)
真由美はお昼休憩にテントに戻ったら、九校戦そっちのけで屋台を楽しんでる栞に声をかけたが、その応答にツッコミよりも先に体型を考えてしまう少女らしい発想をしていた。
「楽しそうでなによりよ。」
「会長こそ、絶好調みたいですね?会長が出る予定の時間の直前はスピード・シューティングの会場の方にあった焼き鳥屋さんすごい混んでましたもの。」
「あははは…基準はそこなのね。」
真由美はスピード・シューティングのユニフォームの上から羽織っていたパーカーのポケットから1枚のカードを取り出した。
「栞さん、お好み焼きと焼きそば行くのよね?私の分も頼めるかしら?」
「いいですよ?何人前ですか?」
「……1人前ずつで大丈夫よ。」
「??」
「あ、いや2人前ずつお願い。」
「ですよね。」
(絶対私が2人前ずつ食べると思ってるわね…鈴ちゃんの分も頼んだだけだけど…まあいいか。)
栞はマネーカードを制服の裏ポケットに入れて、車椅子を走らせ始めた。
なお、一高テントに戻ってきた時はまあまああった膝の上の食料はほとんど胃の中に消えていた。
お好み焼き屋さんへ向かう、途中に唐揚げを買って、わざわざカスタマイズで左手のアームレストに取り付けたジュースホルダーに置いて、食べながら車椅子を走らせていた。
「お好み焼き4つください!」
「あいよ!5分待ってくれ!」
「2つはこっちのマネーカードで、残りはこっちのマネーカードで支払いお願いします。」
「あいよ!出来たら取っとくから回ってても大丈夫だよ!」
「分かりました、じゃあお願いします。」
「すみません!焼きそば5つ!3つは紅しょうが多めで!会計は紅しょうが多めと普通で分けてお願いします!」
「よっしゃ、ちょっと待ってろ?……ほれ。」
「ありがとう!」
「おう、車椅子の嬢ちゃん!そこに袋に入れといたぜ!持ってきな!」
「ありがとう!」
「なんだ、いっぱいだな。これ使え。」
栞は貰ったダンボールの箱(今でもダンボールは輸送によく使われる。紙資源なのでリサイクルが発達している。)に戦利品を詰め込んで膝の上に載せる。
(お、いい感じ。)
安定感の増した戦利品にニヤニヤしながら左足でとあるスイッチを押す。
そして、開放された2段階目の方向レバーを前に押し倒す。
すると、車椅子の速度は時速6km/hから一気に25km/hに加速する。
栞はその速度でも慌てずに歩行者を避ける。(細かい制御はまだ苦手なので大回りで。)
御巫家の分家によって魔改造されたこの電動車椅子は、2段階のリミッターが付いていて、2段階目を解放すると左手のアームレストにアクセルレバーがせり出してきて加速と操舵が別系統に分かれる。最大速度はバッテリーの消費を度外視すれば140km/hにもなるが、クラッシュしたら栞が再起不能になる可能性が高いため使ってみたこともない。
まだ1段階目の解放であるため、25km/hまでしか出ないが、それでも速い。
そのままリミッターを戻して、通常の前進に変えて惰性で一高テントに突っ込む。
そして、方向レバーを中立に戻して、真由美の前にドサッとダンボールを置いた。
「買ってきましたよ。ご一緒してもいいですか?」
「ええ。それにしても速かったわね。」
「お好み焼きのおやっさんがダンボールくれたので、無茶な速度でも走ってこれました。」
「そ、そう。」
なお、お好み焼きと焼きそばにがっつく栞を隣で見ていて胸焼けがして、午後の競技でいつもより魔法の正確性が低くなったことは、真由美のちょっとした内緒話である。