魔法科高校の妖精遣いだよ……え?そんなにチートかな? 作:風早 海月
高校1年生の男子を部活に勧誘する方法は簡単である。
部内の(比較的)美少女たちにユニフォームと称して手足を(場合によってはお腹や背中も)露出させて勧誘に赴けばよろしい。
逆に、女の子は難しい。
人によって『ここ!』というツボが違いすぎるのである。
そして、小さなグループのうち1人がハマると周りも流れてしまうので、女の子を勧誘したい時は様々な手段を講じる必要がある。
だが、稀に漫画のようにハマってしまうことがあるのである。
「――――!――――――――っ!」
「…………。」
「まあまあ、ほのか怖がりすぎ。」
「―――――そう言われても無理だよ!!!!!!」
今の状況になった理由を語るには1時間ほど前、とうとう始まった授業が終わって教室で4人が集まった時まで戻らねばならない。
☆☆☆☆☆
「噂には聞いてたけど、ウチの学校の新入部員勧誘週間ってホントすごいよねぇ…」
「テントとか机とか学校から貸出されるしね。」
「深雪はクラブは入らないで生徒会だけ?」
「ええ。ちょっと他に手が回りそうになくて。勧誘週間だけでも追加予算のみつもりとか修理の手配・苦情受付…色々あるみたいで。」
「大変だね。」
深雪は少し話しただけで直ぐに生徒会室へ向かっていった。
「私たちはどうする?」
「何かクラブには入りたい。」
「へぇ、雫珍しい。」
「うん、魔法競技はよく見てたから。自分もやってみたいなって。」
栞たち3人はこの魔法科高校での新入部員狩りを舐めてみていたのだ。
新入部員勧誘週間は正門前にびっちりとテントが設営されていて、ほかの場所でも校舎外では新入部員勧誘が激しく行われている。
……人が多すぎると感じる理由は幾つかある。
1つはOB・OGが援軍として参戦していること。
2つ目は魔法競技クラブは校外の一般高に通う魔法技能者でも手続きを踏めば参加出来るため。
3つ目は―――――
「演劇部入りませんか!」
「軽体操部興味ないですか!」
「射撃部です!」
「落研です!」
「ハイビーチバレー部です!」
「スピード・シューティング、興味ない!?」
成績上位者である栞・雫・ほのかの3人は特に人が集まってくる。いろんなツテで入試成績が漏えいしているのだ。そして、学校もそれを九校戦のために見て見ぬふりをしている。
なんか魔法科高校らしくない部活もない訳では無いが、それは3人の外見目当てだろう。
「ちょっ……っ」
「ん…っ」
「あ……詰んだ。」
押し合い引っ張り合いの待っさ中に―――いや、中心にいるので、どうなってるかはお察しである。
[もう…仕方ないわね。別にアンタのことなんてどうでもいいけど、私が苦しいだけなんだから!]
〔ちょ、楓、ここで魔法使用はダメだって。いくらやばくても…〕
[自衛目的ならいいんじゃない?雷電が話してたわ]
〔…うう……〕
楓が強烈な下降気流を起こそうとした瞬間、人の壁が崩れて2人の女性が栞たちを連れ去った。
「バイアスロン部だ!」
「くそ!取られた!」
そして、その瞬間、楓の下降気流が発生してそこに集まっていた人は中心方向からの強烈な風に吹き飛ばされた。自業自得ではあるがふんだりけったりである。
「………なんで私だけ肩車?」
ほのかと雫は片手で抱えられているが、何故か栞だけほのかを抱えている人の肩に上げられていた。
てか、比較的軽いとはいえ女の子1人を片手で抱えられる女…ゴリ(血の跡
「颯希?どこに気体加圧魔法撃ったの?」
「ん?なんか失礼なことを考えてたみたいだったからな。ちょいと。」
その時、ほのかが気がつく。
「えっ…!?わ、渡辺風紀委員長がすごい形相で追いかけてくるんですけど!」
「スピード上げるよ!上のちまいの、ちゃんと掴まってろ!」
「ひああぁぁぁぁぁぁぁぁ!何この人たち――――」
しかしさすがにスピードを上げても、魔法力はそこまで変わらない相手に逃走側は少女3人分の加重がある。加減速性能はあちらが有利だし、干渉力リソースの話をすれば速度性能もあちらが有利だ。
「ちょっと詰まってきた…か?」
「そうね。このままだと逃げきれないかも。」
すると一瞬髪の長い方が振り返り、CADを操作する。
[何よ!私のパクリじゃないの!]
だが、使い方としては上手い。
自らの後方に落とした下降気流は自らには追い風に、摩利には向い風になる。
たが、摩利とてその手は何度も在学中に見てきている。
直ぐにその下降気流を消し去る。
「おお!摩利のやつ腕上げたな!」
「ホント、やるじゃない。」
今度は短髪の方が地面への干渉魔法を使う。
それに対処させる間にどうやら終着駅らしい。
「萬屋先輩!?それに風祭先輩まで!どうしてここに!?」
「こいつら頼む。」
「新入部員よ。可愛がってあげて。」
ぽいっ、と3人を投げる。
いやだから人は普通簡単に投げられません。
「またな亜実。」
「積もる話はまた今度。」
それだけ言うと、OG2人は走り去っていった。
[へぇ、やるわね。]
楓が関心するのは、人が放り投げられてその落下地点に的確にCADを操作して圧縮空気のクッションを作ったことだ。ただでさえ150cm後半の少女だとしても体重は普通なら50kg台。その運動エネルギーを打ち消しつつ衝撃を加えない固さに圧縮する技術は驚嘆に値する。
「ん…空気?」
「…ええと、大丈夫?そろそろ魔法が切れるから足から降りてくれる?」
「あ。」
「はい。」
3人が降り立った時、摩利が追いついてきた。
「おい、バイアスロン部!お前達現役生もグルなのか!?」
「い、いえ!」
「私たちは無関係です!」
「……あの、何かあったんですか?」
「いや、無関係ならいい!邪魔したな!」
「あー……何となく事情はわかったような……」
摩利は再び捕物に勤しむかのように全速でボードを走らせて、前の2人を追いかけていくのだった。
「っと、ごめんなさい。先輩たちが迷惑かけて…あなた達新入生よね?バイアスロン部部長の五十嵐亜実です。…もしかして、御巫栞に光井ほのかに北山雫……さん?」
「私たちのことご存知なんですか?」
「えっ、うん、まあ、ちょっとね。」
亜実は少し慌てたように繕うと、少し咳払いしてから改めて話し始める。
「その様子だと入部希望って訳ではなさそうだけど、一応聞いてくれる?」
この時点で既に入部は決まっているようなものだった。
なぜなら、雫がOG2人の逃走劇に魅せられていたのだから。
冒頭で話した通り、女の子は数人のグループの中で1人が勧誘できればなし崩し的に流れてしまうのだから。
こうして、SSボード・バイアスロン部は成績上位者3名を擁する部活となったのだった。