愛柱・愛染宗次郎の奮闘   作:康頼

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 無事、那田蜘蛛山での討伐を終えた無一郎達を迎え、私達は藤の屋敷を訪れた。

 二人とも、疲労や軽傷は見られるが、至って健康的な様子で、観察をしていたものの大事に至らなくてよかったと思う。

 自分でも中々のステルス能力で、二人の戦闘を近くで見ていたが、まさかしのぶと無一郎が連携して累を倒したのは良かった。

 あの戦いでしのぶも何かを掴んだようだったし、無一郎も他人と協力することを覚えたのでまさに一石二鳥というわけだ。

 二人が身体を休ませている間に、私は御館様に相談して、蝶屋敷にいるカナエと義勇にも報告を行った。

 義勇の反応は特になかったが、カナエはやはり心配していたのだろう話を聞くなり大粒の涙を流したのには、流石の私も動揺してしまった。

 その姿をアオイと三人娘に見られてしまったが、何とか誤魔化せたと思う。

 そんなこんなでカナエも元気を取り戻し、義勇は鮭大根を食べに出て行った。

 そんな義勇と一緒に昼食を取ったのだが、義勇はどうやら錆兎から呼び出されたらしい。

 何でも弟弟子ができた、という話なので、恐らく炭治郎が見事鱗滝氏の弟子入りができたのだろう。

 私からの紹介だったので、原作通りに事が運ぶか不明だったため少し心配していたが、どうやら問題解決らしい。

 錆兎曰く、筋が良いらしく、義勇にも紹介したいと言っていたみたいなので、義勇も実は少し楽しみにしているらしい。

 

 「名前は炭治郎というらしい」

 「そうなのかい?」

 「とても筋が良いらしい」

 「そうなのかい?」

 「楽しみだ」

 

 義勇の反応を見る限り、錆兎達はまだ炭治郎の事情を伝えてないらしい。

 確かに、妹が鬼ですって伝えれば、義勇が絶対殺すマンになってしまうかもしれないという、錆兎達の考慮だろう。

 恐らく、義勇なら突然首を刎ねたりはしないと思うが、一応私も関与していることを錆兎には伝えているので、無下にはしないはずだ。

 そんなことを知らずに幸せそうに鮭大根を喰らう義勇と別れ、私は無一郎達の元へと戻る。

 

 

 そうして五日ぶりにしのぶ達と顔を会わせたのだが

 

 「で、あいつはいつも先生が炊いたご飯の粒を顔中につけるんだよ。 全く汚いよね」

 「そうですよね。 私も姉さんが一生懸命作った料理を無言で食べる姿には腹が立ちますね」

 「あ、それ最悪だよね。 先生はいつも感謝の言葉は言うけど、あいつは、ごく普通に当たり前のように食べるからね」

 「本当にそうですよね。 未だにあの人が柱だと信じられません」

 

 何故か義勇をディスって意気投合していた。

 違うんだ、実は義勇は柱の中でもまともな方で、もっとぶっ壊れてるやつはいるからだとか、元々はもっと酷くてどちらかと言えばマシになった方なんだとか、カナエのご飯がおいしいから無言になっているだけで、一心不乱に食べているだけだとか、フォローを入れたくなったが、ほんの数日前までは犬猿の仲だった二人が、今は姉弟のように笑みを浮かべて話しているのだ。

 とりあえず義勇については今度話をしようと思い、二人に声をかける。

 

 「やあ、二人とも調子はどうだい?」

 「「先生!!/愛染さん!!」」

 

 驚いた様子で、二人は立ち上がろうとするが、手で動きを制すると、二人に視線を合わせるために私も畳の上に座る。

 

 「構わない。 無理に動いて怪我を悪化させれば大変だよ」

 「「はい!!」」

 

 だが、それでも布団の上で正座する二人に苦笑しつつ、これからの予定を話をする。

 

 「二人の働きにより那田蜘蛛山の鬼は殲滅、そして十二鬼月の一人を討つことができた」

 

 下弦とは言え、十二鬼月のうちの一体を始末したのは大きい。

 強い鬼を殺せば、それだけで隊士達や人々の犠牲が減る。

 原作の無惨は鬼狩りに簡単に狩られるから下弦は不要と判断したが、こちらからすれば勝手に六体を処分してくれるのは有り難いことだ。

 

 そして、その首は柱になる資格を得ることができる。

 つまり、二人は柱になるための大きな実績を得たわけである。

 

 「あの、愛染さん。 十二鬼月を討てたのは、その……無一郎君のおかげで」

 「しのぶ、それは違うよ。 君がいたからこそ、無一郎は鬼の首を斬ることができたのだ」

 

 自分を少し卑下するしのぶだが、事実彼女は今回の任において無一郎のフォローという重大な役割を果たした。

 同時に毒という鬼殺隊にとっての新たな武器を作り出したのである。

 そんな彼女の成果に、御館様も褒めたたえていたことを伝えると、しのぶはまん丸の眼に微かな涙を浮かべた。

 

 「そして、無一郎。 君がいたからこそ、二人で無事に生還できたんだよ」

 「先生……」

 

 そして、しのぶの言う通り、無一郎がいたからこそ、あの累を討つことができた。

 無一郎がいたからこそ、しのぶは生還することができ、累達那田蜘蛛山の鬼による犠牲を未然に防ぐことができたのである。

 何より、無一郎がこうして特に大きな怪我もなくが帰ってきてくれたことが嬉しい。

 

 「今回の報告は既に済ませてある。 胡蝶しのぶ、時透無一郎、両名が十二鬼月の下弦の伍を討った、とね」

 

 両名でということなので、どちらかがすぐに柱になれるわけではない。

 だが、それ以上に二人には大きな経験と成果を得ることができたと私は思っている。

 

 「だが、まだまだ二人には実績を積んでもらう必要がある。 より多くの鬼を斬り、多くの人々の命を守り、自身の力の糧にしなさい」

 「「はい!!」」

 

 私の言葉に、二人は気持ちいいほど良い返事をする。

 そんな二人の頭を撫でてやると、面白いくらいに二人は反応した。

 

 「と言ってたものの、まずは二人の日輪刀を作りに行こうか。 しのぶは、もう自分のやり方は理解したかい?」

 「はい! 何となくですが、作って貰いたいものは考えてます」

 

 私が頭から手を放すと、少しだけ名残惜しそうにしていたしのぶだが、既に新たな日輪刀の構想は出来ているらしい。

 ということは、やはり自身のスタイルを自覚したということなので、直にしのぶだけの呼吸『蟲の呼吸』は生み出されるだろう。

 

 「私が知っている最高の刀鍛冶を紹介しよう。 きっと君の納得できるものを作ってくれるはずだよ」

 「ありがとうございます!!」

 

 鍛冶の里の長、鉄珍氏ならしのぶの希望通りの刀を作ってくれるだろう。

 女好きなところはあるが、まあ腕に関しては問題ないので大丈夫だと思う。

 

 「あの、先生? その俺は、先生から貰ったものが」

 「無一郎、こっちに来なさい」

 

 新たな刀を作る気満々のしのぶに対し、無一郎は自分の刀を名残惜しそうに抱きしめる。

 無一郎の刀は、私のお古で、駆け出しのころに使っていた刀である。

 とても大切に扱ってくれる無一郎に感謝しつつ、私は無一郎の前に立ち、彼を抱き上げた。

 

 「え?」

 「大きくなったね、無一郎」

 

 無一郎は、初めて会った時よりも大きくなった。

 まだまだ子供とは言え、常に一緒に訓練をしていたからか柔軟な筋力とそれを支える骨格が彼の成長を物語っている。

 那田蜘蛛山での戦いを見ていた時に、無一郎の体格に日輪刀が合っておらず、無駄な力が入り、呼吸が乱れる結果と成った。

 

 「恐らく、その日輪刀は今の無一郎の身体に合ってないよ。 だから、今無一郎に最も相応しい日輪刀を送りたい。 受け取ってもらえるかな?」

 「っ、はい!!」

 

 私の言葉に、無一郎は嬉しそうに頷いてくれた。

 ゆっくりと無一郎を下ろして、壁にかかった時計を見る。

 程なく、昼食の時間である。

 

 「さて、もうそろそろお昼の時間かな?」

 

 着替えたら、居間までおいで。

 それだけ伝えると私は、藤の花びらの舞う廊下を歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三か月後。

 柱合会議にて。

 庭園の藤の花が咲き乱れた朝。

 

 柱七名が御館様の前に並ぶ。

 その姿に目が見えない御館様は嬉しそうに笑う。

 

 「今日はとてもいい天気だね」

 「はい、澄み渡る青い空はとても気持ちがいいですね」

 

 御館様の言葉に代表して、私が空を見上げながら答えた。

 雲一つない蒼穹の空は、物珍しくて、他の柱も頭上に視線を向ける。

 誰もが素直に子供のように空を見上げるので、思わず目が合ってしまった御館様と笑ってしまう。

 

 「そうかい。 では、今日は彼らの晴れ舞台として相応しいかもしれないね」

 

 入っておいで。 御館様のその言葉に新品の隊服と羽織を着たしのぶ達が現れた。

 そう、今日は待ちに待った柱の任命日。

 

 「胡蝶しのぶ」

 「はっ!」

 

 姉と御揃いの羽織を仕立て、少しだけ長くなった髪を蝶の髪飾りで纏めたしのぶの表情に既に迷いはなかった。

 腰に携えた新たな日輪刀と共に、胡蝶しのぶは『蟲柱』となった。

 

 「時透無一郎」

 「はっ!」

 

 兄代わりの宗次郎と共に、御揃いの真っ白の羽織を纏う無一郎の姿は、まさに柱として相応しいほどの風格を漂わせていた。

 新たに打ち直した日輪刀を背負い、時透無一郎は『霞柱』となった。

 

 しのぶと無一郎は、その後の任務により、柱としての資格である鬼の討伐数をクリアすることができた。

 特に試作するたびに強力になるしのぶの毒は、新たに作った突き特化の日輪刀の効力もあり、次々に鬼を葬っていく。

 そんなしのぶに負けじと、無一郎も鬼狩りに精を出し、競うように任務に繰り出して、近隣の鬼を絶滅させたのである。

 そんな二人の姿を見て、まさに感無量とはこういうことだろう、と私は思う。

 幼かった二人がこんな立派になるなんて、と完全に親戚のおじさん気分である。

 

 ある意味計算通りというわけだが、少しだけ私の想定外のことが起こったのである。

 

 「甘露寺蜜璃」

 「はいっ!」

 

 御館様の言葉に嬉しそうに頷いた世にも珍しいピンク色と緑の桜餅ヘアーの女の子。

 少しだけ恥ずかしそうに新たな隊服を着こんだ彼女の太腿が眩しく、少し視線を横に逸らすと、やはり小芭内が魅入られたかのように動きを停止していた。

 少しだけ満足げに誇らしそうに頷く杏寿郎を見て、どうやら柱候補を探していたのは私だけでないことを悟った。

 三人目の新たな柱『恋柱』になった蜜璃、そしてしのぶ達を見て思う。

 

 

 柱が十人になったんですけど、誰かクビにならないよね?

 


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