鬼殺隊において、柱という人材は非常に貴重な存在である。
凄まじい速度で戦死していく中、多くの戦場を駆けて、多くの鬼を討ち取り、十二鬼月すら滅する。
まさに鬼殺隊を支える柱であり、鬼から人々を守る最強の守護者。
だが、そんな柱すら、上弦の鬼に遭遇すれば命を落とし続けているのが、現状でもある。
つまり、柱が定員を超える事は滅多になく、今回の状況は想定外と言っていい。
故に、全員の頭に過ぎったのは、誰が外れるのか、である。
柱の就任を聞いていた柱達の中で、最も早く反応したのは実弥である。
「御館様、今回の柱増員はどういうお考えでしょうか?」
その感想は実弥だけではなく、この場にいた柱達全員のものである。
「確かに、胡蝶が再起不能となり、欠員二名となったことについては鬼殺隊として、迅速に対応すべきことでしょう。 ですが、女二名と子供を入れるのは些か問題ではないでしょうか?」
実弥の言う通り、柱の欠員者が出るということは、それだけで隊の戦力を低下を示すことになる。
だが、同時に柱という責務の前では、慎重に選ばなければならないのでは?というのが実弥の考えである。
そんな実弥に反応したのが、隣で元継子の晴れ姿を見ていた杏寿郎だ。
「む、そうは言うが不死川。 甘露寺は俺の継子であったが、柱になる才能は十分にある。 事実、討伐総数も基準を大きく越えている」
柱になるには50の鬼を討伐するか、十二鬼月の首を獲らなければならない。
しかし蜜璃は、麗しい乙女でありながら、十二鬼月の首こそ取ってはいないが、規定よりも遥かに多い75体の鬼を斬ってきた。
師匠であり、柱としての観点から見ても、蜜璃の推薦は間違いなく正当なものであると杏寿郎は思っている。
だが、実弥が言いたいのはそういうことではない。
「越えるのは当たり前なんだよ。 問題は本当に使えるかどうかだ」
そう、問題は十二鬼月を倒せるかどうかである。
下弦の鬼と対峙して、あっさり殺されるようでは、柱としての役割を果たすことはできない。
「確かに不死川の言う通りだな。 柱として派手なことがこいつらにできるのか」
「だが、柱としての規定は越えている。 御館様が認めている以上、問題ないだろう」
実弥の意見に賛同するように頷く天元に対し、最年長の柱である行冥は御館様の意見に賛同する。
「悲鳴嶼さん、それでこいつらがしくじったらどうなる? 雑魚と馬鹿が死ぬのはいいが、大勢の犠牲が出るだろ」
隊士が死ぬことに対しては、そもそも鬼殺隊に入った時点で死ぬ覚悟があると実弥は思っており、間違いなくこの場にいる柱は全員その覚悟を持ち合わせているだろう。
だが、派遣した隊士や柱が敗れるということは、そこに住まう人々は更なる犠牲を生むことになる。
だからこそ、鬼に負けるような弱者は不要と思い、柱の役割を果たせるかどうかわからない人間を信用する気はない。
「おい、伊黒。 てめぇはどうなんだ?」
「……美しい」
明らかに別世界に旅立ち、蜜璃から眼を離すことができない小芭内を、実弥は何も見なかったかのように、視線を戻した。
誰もが小芭内に触れないでいると、先程まで黙って座っていた無一郎が立ち上がると、実弥の前まで歩き出した。
無一郎は、実弥の前で立ち止まると、実弥と視線を合わせた。
「じゃあ、不死川、さんだっけ? どうやったら貴方は、俺達を認めてくれるの?」
「簡単な話だ、お前ら三人が戦って比べればいい。 強い奴が柱になる、ただそれだけだ」
無一郎の質問に対し、実弥は何でもないように答える。
三人で戦って、強い二人が残ればいい。
そして、三人ともが大したことはないと判断できれば、三人とも柱を辞退すべきだろう。
そんな実弥の提案を聞いて、無一郎は無表情の顔のまま、口の口角だけ釣り上げて笑う。
「ふーん、けどさ、もしかすると俺達よりも、貴方の方が弱い可能性もあるよね?」
そもそも、貴方は柱としての実力は備えているの?
まさに先程まで実弥が言っていたことをやり返した無一郎の挑発に、実弥は眼を見開き、がりっと歯を鳴らす。
「……上等だ、クソガキ」
刀に手をかける実弥に続き、無一郎もその右手で柄を握りしめる。
互いに、殺意を迸り、目の前の相手を斬り伏せようとしたその時――
「無一郎、実弥」
一瞬のうちに二人の間に割って入った宗次郎が、二人の刀を握ろうとする手を押さえつけた。
接近にすら反応できなかった二人は、眼を見開き反応するが、宗次郎に握られた手はピクリとも動かすことができない。
「先生」
「っ! 愛染っ……」
宗次郎と気づいた無一郎は、瞬時に力を抜いて戦意を解くが、相対する実弥はさらに怒りを現わして、宗次郎を睨み付ける。
だが、宗次郎から放たれる圧倒的な存在感に、実弥は手はおろか、身動き一つ取ることができない。
そんな実弥に対し、宗次郎は穏やかな笑みを浮かべたまま、実弥を握る手を離す。
「隊員同士での戦闘はご法度だよ。 それに今は御館様の前だ」
宗次郎の言葉に、実弥は自身の行動を恥じて、御館様―――産屋敷 耀哉に向かって瞬時に頭を下げる。
「申し訳ございません御館様」
一瞬のうちに理性的な声になった実弥を、無一郎は気味悪そうに見ていたが、信頼を置いている耀哉の前では特に表情に出すことはなく、実弥に続いて、深々と頭を下げた。
「構わないよ、実弥、無一郎。 私の説明も悪かったね」
二人に対し、特に気にした様子もなく笑いかける耀哉の眼は、慈しみに溢れていた。
「説明、ですか?」
「そう、そのことで今日は皆に聞いてほしいことがあるんだ。 宗次郎、君が戦った上弦の鬼達について、皆に話してあげて」
耀哉の言葉に従って、宗次郎は柱達に視線を向けると上弦の弐・童磨と上弦の肆・半天狗について話し始めた。
風貌に、攻撃手段、会話から察する性格や思考、そして圧倒的な固有能力。
まるで、未来を読んでいるかのような鋭い観察力を持つ宗次郎の説明に、柱も既に報告を受けていた耀哉も話を聞き入っていた。
「っち、そこまで追い詰めてんなら、しっかりと首を獲って来いよ」
「そんな簡単に首を獲れるなら誰も苦労しない」
先程の案件があったせいもあり、いつも以上に宗次郎に対して当たりが強い実弥に、隣に立っていた義勇がぼそりと反論する。
宗次郎の次に嫌いな義勇に指摘されたこともあり、思わず睨み付けようとした実弥だったが、逆隣の行冥に頭を握られて動きを止める。
「義勇の言う通りだよ。 確かに皆は私が認めた最強の柱達だ」
その言葉は耀哉の紛れもない本心である。
長年の鬼殺隊に宿った思いを受け取ってきた柱に相応しい者達である。
だが、上弦の鬼達は、そんな柱達を百年以上返り討ちにしているのだ。
「認めたくはないが、それ程までに上弦の鬼は強いということだ」
事実、宗次郎が遭遇していなかったら、上弦の鬼の姿は誰も知らないままであった。
誰も、上弦の鬼と戦って生還してきた者がいなかったからだ。
「そして、その上弦の鬼を倒さなければ、その上にいる鬼舞辻無惨を討つことは不可能」
そんな怪物たちを倒し、鬼の首領である無惨を倒す。
それが鬼殺隊の使命であり、産屋敷の悲願でもある。
だからこそ、耀哉は考えたのだ。
柱の定数を九から十二に。
「これは私の決意の表れだ。 十二鬼月に対抗する十二の柱。 そしてその刃で鬼舞辻無惨を討ち取ることを」
皆が最後の柱になるように、願いを込めた。
そんな耀哉の言葉に、黙っていた柱達が次々に立ち上がる。
岩柱・悲鳴嶼 行冥が。
風柱・不死川 実弥が。
蛇柱・伊黒 小芭内が。
音柱・宇髄 天元が。
炎柱・煉獄 杏寿郎が。
恋柱・甘露寺 蜜璃が。
霞柱・時透 無一郎が。
蟲柱・胡蝶 しのぶが。
水柱・冨岡 義勇が。
愛柱・愛染 宗次郎が。
口には出さずとも、耀哉の抱く思いと同じだった。
彼らは皆、耀哉が見出した柱なのだから。
「ありがとう、皆」
その姿に、深々と頭を下げた耀哉。
この場にいる皆の願いは同じだ。
世を乱す鬼共を殲滅し、その鬼による犠牲のない世の中を創るために。
彼らは刃を握ったのだから。
大正こそこそ話。
実弥が宗次郎を嫌っている理由、それは宗次郎がなんでも簡単にこなし、甘っちょろいこと(寺子屋)しても、自身を圧倒したため。
初めて戦った時は、刀を抜くことなく、ボコボコにされた。
二度目は、小芭内と組んで戦ったものの、防戦一方で押し切られた。
何故か、行冥にもボコられたはずなのに、行冥に対しては敬意を持っている。
義勇は、そんな宗次郎の金魚の糞の如く、付き添っている姿がムカつくため。
何より、実弥を見下しているように見えるため(完全なる誤解)