愛柱・愛染宗次郎の奮闘   作:康頼

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 新たに加わった三人の柱達の就任して、半年程が経った頃。

 私は、義勇を連れて蝶屋敷へと訪れていた。

 蝶屋敷を訪ねた用件は、以前から予定をしていた無一郎達の就任を祝って宴をするためである。

 最近、蝶屋敷に訪れる患者が珍しいことに少なくなっており、蝶屋敷に住まう者達に余裕があること、柱達にも特に急な任務もないことから、本日開催されるようになった。

 既に、主役であるしのぶと蜜璃は前日から泊まっているようで、無一郎も今朝、屋敷に向かっている。

 実は、この三人は中々仲が良く、しのぶと蜜璃は女性同士ということもあり、互いに良き相談相手になっているらしい。

 無一郎としのぶは、あの任務後の意気投合以来、定期的に話をする関係に収まっているみたいで、ぎゆしのを至高とする私としても、二人の関係は中々のベストカップルになるのではないかと思っていたが、どうやら姉と弟の関係みたいと、カナエから聞かされた。

 ただ、無一郎に友達ができたのはいいことだし、しのぶも落ち着きを取り戻しているようで、前よりも性格が柔らかくなった気がする。

 蜜璃と無一郎の間柄も、蜜璃が一方的に無一郎を可愛がる為、関係は至って良好である。

 ただし、その光景を見た小芭内が嫉妬に狂って、無一郎に襲い掛かろうとした時は、流石の私も思わず小芭内を投げ飛ばしてしまったが。

 

 そんな小芭内だが、普段の彼ならば、このような催しに参加をするタイプではない。

 しかし、今回は蜜璃が主役の一人でもあることから真っ先に参加を表明し、今頃、大量のプレゼントを用意していることだろう。

 勿論、蜜璃の元師匠でもあり、同僚となった杏寿郎も参加し、派手好きな天元も突然の予定がなければ参加するようである。

 しかし、行冥と実弥は、流石に柱全員が休むわけにもいかなかったので、遠方の任地へと赴いている。

 特に行冥に関しては、私と義勇の分の仕事もこなしてくれるようなので、本当に頭が下がる思いである。

 唯一、実弥だけは元々参加する気がなく、私としては唯一敵対心丸出しの実弥とこれを機に義勇共々仲良く成るつもりだったので残念である。

 

 ちなみに義勇は、そもそもこの催しがあることすら知らなかったみたいで、たまたま前日に飯を誘いに来た義勇と会ったおかげで、こうして参加することになったのだが、しのぶでも無一郎でもいいので義勇を宴に誘ってあげてほしかった。

 なので、急遽参加した義勇はプレゼントの用意などしてるはずもなく、こうして当日用意をすることになったのだが、何を血迷ったのか、鮭大根の食材だけを買い込んで来たようだ。

 何故三人の好物ではなく、自分の好物を作るのかは相変わらず謎であるが、とりあえずこれが義勇だと納得した私は、しのぶと蜜璃の好物を用意し、無一郎のふろふき大根に使う大根を買ってきた。

 

 準備は万端、いざ戦場へ。

 蝶屋敷の門を潜ると、待っていたのは白衣を身に纏う蝶屋敷の主、胡蝶カナエが出迎えてくれた。

 怪我による引退で、もう隊服を着ることがなくなったカナエだが、白衣の下は女性らしい彼女に似合う可愛らしき着物を着ており、その姿は第二の道を歩いている彼女にピッタリな姿である。

 

 「あ、宗次郎君に、義勇君」

 

 花が咲いたかのような華やかな笑みを浮かべるカナエに対し、私は軽く片手を上げて答えると、そのまま彼女の隣を歩き出す。

 

 「今は誰が揃っているのかな?」

 「えっと、無一郎君に蜜璃ちゃんでしょ? あと杏寿郎君と小芭内君かな?」

 

 つまりは殆ど揃っているようだ。

 杏寿郎は真面目なので既にいるとは思っていたが、まさか小芭内がこんなに早く来ると思っていなかった。

 彼のことだから、蜜璃にプレゼントを渡して、さっさと出て行ってもおかしくないと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

 恐らく、蜜璃に御願いでもされたのだろう。

 

 「あ、あと宇髄さんは来れないみたいよ。 何でも奥さんの一人が調子が悪いみたい」

 

 でも、プレゼントはもう頂いているわ。 とカナエ曰く、天元は荷物だけ渡して、三人とカナエだけに挨拶して去っていったようだ。

 しかし、そうなると、参加者は私達で最後らしい。

 待たせてしまったな、と思いながら、カナエの後ろを付いて歩くと、なにやら前の部屋が騒がしい。

 

 「あ、先生と……っち」

 

 騒がしい部屋から出てきた無一郎が、私の方を見た後、後ろにいる義勇を見て明らかに顔をひそめる。

 数日前に、義勇と模擬戦をして、敗北したことが、よほどムカつくらしい。

 私の眼から見ても、無一郎はいい動きだったし、万全と言っても良かった。

 だが、経験値を積んだ義勇を前にしては、その力は及ばなかった。

 故に、義勇に対して思うことがあるかもしれないが、そんな除け者扱いは、先生として許すことはできません。

 

 「無一郎」

 「はい、先生!!」

 

 私の言葉を聞くため、無一郎は背筋を伸ばして満面の笑みを向ける。

 まるで子犬のような愛らしい姿の無一郎の頭を撫でながら答えた。

 

 「義勇を除け者にしたら駄目だよ。 あとで、こんな催しがあったことを義勇が知ったら、義勇はどう思うか、考えてごらん?」

 

 その問いに、無一郎は不思議そうに首を傾げて答えを導く。

 

 「えっと……俺は嫌われている?」

 「正解」

 「俺は嫌われていない」

 

 隣で義勇はこう言っているが、ならば、もう少し他の者と交流をした方がいいと思う。

 柱で義勇に話しかけるのは、私としのぶくらいだし、時々他の者が話しかけたとしても会話にならない。

 そんな義勇を心配するのは私だけでもないようで、まさかの御館様からも心配されているみたいだ。

 勿論、数少ない友人であり、親友の錆兎からも心配されているようで、私が先日、錆兎から手紙をもらった時に、義勇の友人の少なさを心配していた。

 錆兎曰く、義勇が述べた自己申告の友人枠も、私と錆兎にカナエ、実弥、そして何故か会って間もない炭治郎を入れようとした経緯を聞くと、錆兎の心配も無理もない。

 すぐに、義勇と打ち解けた炭治郎を褒めるべきなのか、自分よりも圧倒的に年下の子供を友人にしようとする義勇を心配すべきか迷ったが、とりあえず実弥は明らかに義勇を嫌っていて、間違いなくその関係は友人ではないと思うので、実質友人は三人だけである。

 とりあえず、どうにかしなければいけないと思う反面、無一郎には義勇のようにならず友人をいっぱい作って貰いたいと思いながら、私は部屋に入る。

 

 三十畳の広々とした居間の奥で、小芭内と蜜璃、そして杏寿郎が雑談していた。

 蜜璃と杏寿郎は、明らかに楽しんでいるようだが、小芭内は明らかに不機嫌そうである。

 とりあえず、蜜璃があの原作通りの靴下を装着しているみたいなので、小芭内はちゃんと蜜璃にプレゼントを渡すことができたようだ。

 だが、どうやら蜜璃の羽織は、元師匠の杏寿郎からの贈り物だったで、感激している蜜璃を見て、面白くないというのは男として当たり前の心情かもしれないが、とりあえず歯を喰いしばるのはよした方がいいと思う。

 

 「あ、愛染さん……っと冨岡さん」

 

 居間の中央で、主役のはずなのに配膳を行うしのぶが、私に声をかけてきて、後ろの義勇にも声をかける。

 無一郎とは違い、あからさまではなかったが、明らかに義勇の登場に驚いていた。

 故に私は再び先生として注意をしなければならない。

 

 「しのぶ、義勇を除け者にしたら駄目だよ。 あとで、こんな催しがあったことを義勇が知ったら、義勇はどう思うか、考えてごらん?」

 「……俺は嫌われている?」

 「俺は嫌われていない」

 

 とりあえず、しのぶにも注意を終えたので、彼女の前に座ると、左側にカナエが、右側に義勇が座った。

 そんな私達に気づいたのか、蜜璃達もこちらに向かって歩いて来る。

 

 「愛染さん、おはようございます!」

 「うむ!! 元気そうで何よりだな!! 宗次郎!!」

 

 溌剌と挨拶する炎恋コンビに対し、小芭内は何も答えない。

 明らかに不機嫌そうで、こちらを睨み付ける小芭内にアドバイスをあげようと、首に手を回して部屋の端まで連れていく行く。

 

 「お、おい!」

 「小芭内、蜜璃に惚れ込むのはいいが」

 「なっ!? な、何を言っている」

 「女性に何か贈り物をするときは、まずは消えモノがいいそうだよ。 あまり身に着ける物は場合によってよくは思わないらしいよ」

 

 相手によって、身に着ける物は重く感じることがあるので、気を付けた方がいい。

 今回は蜜璃が良い子だったからいいものを、他の女子だったら引かれてもおかしくない。

 例えば、義勇がしのぶに靴下を送れば、間違いなくしのぶは義勇に対して侮蔑な眼を向けることになるだろう。

 まあ、蜜璃という名の天使には、靴下でも食べ物でも大層喜ばれると思うのでいいと思うし、あくまで現代的な話でもあるので、大正という時代においては価値観は変わるだろう。

 背後で「なん……だと」と動揺を隠すことができずに、動きを止めた小芭内を放置して皆のところに戻る。

 

 机の上には、既にしのぶとカナエが配膳を終えており、全員に料理が行き渡っていた。

 明らかに蜜璃と杏寿郎の分が多く、義勇だけ鮭大根がついている。

 嬉しそうな三人に、挟まれるように座った小芭内を最後に、全員が食事を開始する。

 大盛りの白飯を掻き込む様に食べる蜜璃と杏寿郎、不機嫌そうだったが蜜璃の食事を見て微かに微笑む小芭内、何故かご飯粒をたくさん顔につけている義勇、その姿を見て毒を吐き続ける無一郎、義勇に呆れながらも鮭大根をよそうしのぶ、そんな妹を見て微笑むカナエ。

 

 そのありふれた光景が、幸せな一時なのだと私は知っている。

 この鬼が住まう残酷な世界で、私達は命がけで戦い、そしてその命を散らしていく。

 多くの人が死に、どれだけの鬼を滅しても、終わらない宿命。

 だが、その宿命を終わらせるものが、もうすぐ現れるだろう。

 

 その小さな希望を守り、いつかその刃が長き因縁を切り裂くまで、駆け抜ける覚悟はできた。

 そして、いつか皆でこうして集まって笑いあえる未来がくればいい。

 

 そう、私は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 そして二年後、私は竈門炭治郎と再会した。

 

 

 

 

 

 

 


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