愛柱・愛染宗次郎の奮闘   作:康頼

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先程、途中までのものを投稿してしまいました。
申し訳ございませんでした。


本編
第一話


 『鬼を連れた隊士がいる』

 その一報を受けて、私はようやくあの会議が始まり、この物語が加速していくのかと、思わずこれからの苦難と苦境に覚悟していたはずの身体が身震いしてしまった。

 炭治郎が、試練を突破し隊士としての任務に就いていたことは、錆兎からの手紙により知っていた。

 だが、まさか『十二鬼月』と遭遇して、見事打ち倒すとは思ってもいなかった。

 勿論、炭治郎だけで倒したわけでもなく、その場に居合わせた善逸、伊之助の協力、そして鬼の禰豆子による助力があったようで、見事『下弦の陸・響凱』を打ち倒したようだ。

 響凱とは、あの響凱のようで、原作では無惨からリストラされた響凱だったが、再雇用枠に入ったらしく、十二鬼月に返り咲き、炭治郎達を原作以上に苦しめたみたいだ。

 どうやら、累を早々に討ち取ったせいか、私が下弦の鬼を数体葬ったせいかは知らないが、どうやら原作の流れが変わってしまっていることには違いはない。

 

 見事、大金星を上げた炭治郎達だが、駆け付けた義勇としのぶに鬼の禰豆子が見つかってしまい、本部へと連行されてしまったみたいで、恐らく今回の功績はなかったことにされるだろう。

 だが、それでも炭治郎はまだツイていたようで、唯一事情を知っている義勇が駆け付けたおかげで、しのぶからの攻撃を逃れることができ、妹共々無事屋敷に辿り着いたようだ。

 

 そして、その報告により私も緊急の柱合会議に呼ばれることとなったのだが、何というか気が重いの一言である。

 ついたら、早々に多くの柱から睨み付けられるわ、で針の筵状態である。

 

 「っ愛染!?」

 

 禰豆子を突き刺そうとした実弥の腕を反射的に掴んでしまうと、凄まじい怒りの籠った眼を向けられてしまった。

 実弥だけではなく他の柱も似たようなものである。

 無一郎やしのぶですら戸惑いの眼をこちらに向けており、唯一事情を知っている義勇は、私に任せたと言わんばかりに、庭園の端っこで佇んでいる。

 それは信頼からか、単に自分が喋りたくないだけなのかはわからないが、柱に囲まれている私を見て一向に助けに来ないのはひどいと思う。

 

 「あ、貴方は……」

 「やあ、炭治郎。 ひさしぶりだね」

 

 こうして私は二年ぶりに炭治郎と再会した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 颯爽と現れた宗次郎は、手を縛られた今回の騒動の発端とされる竈門炭治郎に和やかに話しかけている。

 その光景に、しのぶは呆然と眺めているしかなく、隣にいた無一郎も同様である。

 他の柱も似たような反応であったが、唯一義勇だけは特に反応を示していなかった。

 確か、炭治郎は水の呼吸の使い手、水柱の義勇なら顔を会わせていてもおかしくはない。

 しかし、そうなると宗次郎が炭治郎を知っている理由は何なのだろうか?

 隣の無一郎の反応を見る限り、弟子などではないことは確かであるが。

 動揺した頭をフル回転させ、慎重に情報を整理するしのぶの前に、行冥が動く。

 

 「愛染、説明をしてもらおう」

 

 たったその一言。

 それだけで、しのぶの全身に寒気が走るような殺気が行冥には宿っていた。

 

 「悲鳴嶋さん、そんな呑気な事言ってる場合か?!」

 

 目の前に巨大な岩が存在するような厚みのある威圧感を放つ行冥の隣で、実弥が今にも飛び掛かろうとしている。

 

 「不死川、黙っていろ」

 「っ!!」

 

 たったのその一言で、実弥の動きが止まる。

 その威圧感はまさに鬼殺隊最強の一人、現鬼殺隊最年長の柱に相応しい姿である。

 誰もが、柱ですら気圧される行冥を前にしても、宗次郎は普段通りの優しい表情を浮かべている。

 

 「説明をしろ、か。 見てのとおり、私と炭治郎は知り合いだ」

 「知り合い、か……つまり、お前はこの子供の妹が鬼だということを知っていたのか?」

 

 その問いはあまりに馬鹿らしい質問である。

 鬼殺隊ならば、見つけた鬼を見逃すなんて愚行を犯すはずもなく、姉のカナエですら鬼と仲良くという考えを持っていたが、それでも鬼を斬らないという選択はなかった。

 それは人を喰わない鬼がいなかったということの証明で、鬼は皆利己的で嘘つきだということだ。

 だから、しのぶの両親は鬼に殺されたのだから。

 

 だからこそ、宗次郎の言葉が信じられなかった。

 

 「そうだね」

 「そして、この者が鬼殺隊でありながら、鬼を連れているのも知っていたのか?」

 「そのとおりだ」

 

 その言葉は、しのぶ以外の他の柱にも衝撃的だった。

 誰よりも模範となる柱としていた宗次郎が、何よりも許すことができない掟を破っていたことに。

 それは先生と慕う無一郎も、互いに切磋琢磨してきた杏寿郎も、敵意を持っていたとは言え誰よりもその実力を認めていた実弥、小芭内も、誰もが宗次郎に裏切られたことになる。

 

 「愛染、お前ほどの男がこのような暴挙に出ることは、何か理由や考えがあってのことだろう」

 

 その言葉は、行冥の宗次郎に対する高い評価の表れなのだろう。

 共に柱として鬼殺隊を率いていた者としての信頼。

 それは宗次郎は裏切ってしまったのだ。

 

 「だが、この場にいる者にお前の愚行を許す者はいない」

 「そうだね。 私も理解されるとは思っていないよ」

 

 その言葉に、行冥は斧と鉄球を取り出して、対する宗次郎も背中の巨大な日輪刀を抜く。

 その姿に倣い、実弥も小芭内も天元も杏寿郎も、日輪刀を抜く。

 抜けなかったのは、未だに動揺している無一郎と、全く動揺することなく静観している義勇、そして未だに宗次郎を信じていたいしのぶ。

 誰も止めることができない。

 

 「御館様のお成りです」

 

 その言葉に、宗次郎の刀と行冥の刃が互いにほんの数ミリで、互いの皮膚を切り裂くところで動きを止める。

 襖の向こうから現れた御館様は、ゆったりとした歩みで縁側に立つ。

 そして私達の姿を気配で感じ取り、いつもと同じように微笑みを浮かべる。

 

 「お早う皆、今日はいい天気だね。 空は青いのかな?」

 

 御館様にそう言われ、しのぶは思わず空を見上げる。

 そこは雲一つない青空が広がっており、鳥の囀る声が聞こえる。

 

 「顔ぶれが変わらず、この柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」

 

 その言葉に、殺気立った気配が霧散したかのように重い空気から一転して、しのぶを含めた全員が頭を下げる。

 

 「御館様におかれましてもご壮健で何よりです。 益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」

 

 本日のお役目である実弥の言葉を、受け取った御館様は嬉しそうに微笑む。

 

 「ありがとう実弥」

 

 普段ならこの言葉を最後に、御館様主体の元、柱合会議が始まるのだが、今日はその限りではない。

 黙っていた行冥が、率先して口を開く。

 

 「畏れながら、御館様に聞きたいことがございます」

 「なんだい?」

 

 行冥の質問に、御館様は動揺一つ見せることなく微笑んでいる。

 その姿はまるで、先にこの事実を知っていたのではないかと、勘ぐってしまうほど、誰もが疑心暗鬼となっていた。

 

 「御館様はこの鬼を連れた少年、竈門炭治郎について、愛染がこのことに関与していたことも知っていたのでしょうか?」

 

 その質問は、誰もが確認しておきたかったことだ。

 御館様の問い次第では、鬼殺隊そのものがなくなってしまうのではないか、そのような危険をはらんでいた。

 誰もが息を呑んで答えを待つ中で、御館様は普段通りに答える。

 

 「そうだね、皆を驚かせてしまい、すまなかった。 炭治郎と鬼の禰豆子のことは私が容認していた。 宗次郎も私と共に容認していた」

 

 その答えは、誰もが信じられずに、そして誰もが動揺してしまうほどの、考えもつかないものだった。

 柱である宗次郎だけではなく、鬼殺隊の長であるお館様も容認している。

 しかし、しのぶが最も信じられなかったのは次の言葉であった。

 

 「だから、皆にも炭治郎と禰豆子のことを認めてもらいたいと思っている」

 

 殺さない鬼の存在を認める。

 それは、鬼に対して強い恨みを持つしのぶには許容できないことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 御館様。

 

 そう呼ばれた顔に焼けただれたような痕を持つ男の言葉に、炭治郎は震えた。

 それは自分と禰豆子を認めてくれると言ったからではない。

 何故か、御館様と呼ばれた人の声を聴くだけで、そんな優しくて悲しくなるような声を聴いたからである。

 

 そして、そんな御館様に自分達のことを話したのは、あの時の命の恩人である愛染宗次郎なのだろう。

 あの時は、考えもつかなかったが、鬼殺隊の人間が鬼の存在を許すわけがないことを炭治郎はこの二年で痛感してしまった。

 確かに鬼は元々人間で、人を喰うことでしか生きれなくなった悲しい生き物であるが、そんな鬼に襲われて大切な人を失った人が大勢いることを知っている。

 炭治郎自身もそうであり、禰豆子以外の家族を殺され、師である鱗滝の弟子も、錆兎、義勇、炭治郎の三人以外は皆、鬼に殺されてしまった。

 義勇から本当なら錆兎も死んでしまっていたかもしれないと聞かされて、炭治郎は自身の考えはただ甘いだけではないかと考え始めた。

 だが、宗次郎は二年前、禰豆子を殺さずに、炭治郎に生きる道を与えてくれた。

 あの時の炭治郎には考えもつかなかったが、鬼殺隊として、模範となる柱としての役割すら捻じ曲げて、自分達を助けてくれた宗次郎の苦悩は、炭治郎では考えもつかない想像を絶するものだっただろう。

 だからこそ、炭治郎は自身の非力さを呪いそうになる。

 

 「『……もしも禰豆子が人に襲いかかった場合、竈門炭治郎及び、鱗滝左近次、冨岡義勇、鱗滝錆兎……そして、愛染宗次郎が腹を斬ってお詫び致します』」

 

 自分は、皆から守られていたのだと。

 そのことが悔しくて、悲しくて、嬉しくて、涙が零れた。

 

 

 

 




これからは、週一回以上の更新を目指して頑張ります!!

本編スタートです。

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