愛柱・愛染宗次郎の奮闘   作:康頼

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 半日でも早ければ間に合っていたかもしれないって原作の義勇さんがそんなこと言うもんだから、現在、馬に跨って目的地へ移動。

 風を感じて凸凹道を駆け抜けるが、本当に習ってよかった乗馬術。

 原作だと移動は、基本歩きだったので、馬乗れば早いんじゃない? と馬を育てておいてよかった。

 時代が時代なので、馬に乗れない人間もいるようで、柱も同様である。

 幸い、私とよく任務をこなすおかげで、義勇も乗れるのは有り難い。

 こうして一秒でも早くたどり着き、少しでも犠牲者を減らせるなら、ぜひ必須技能にするべきだろう。

 え? 乗馬は違法だって?

 細かいことはいいんです。

 そもそも鬼殺隊自体が非公認なんだから、乗馬の一つくらい問題ないでしょう。

 さあ、行くんだ愛馬ディー○イン○ク○!!

 

 そんなこんなで、目的地に到着。

 どうやら、炭治郎の山付近で目撃された鬼をぶち殺すのが任務らしい。

 その後、何やかんやで義勇さんが炭治郎の方に気づくというのが流れらしい。

 まあ、よくよく考えればラスボスの無惨がいるとわかっていたら義勇さん一人で行くことはなかっただろうし、普通の鬼と勘違いして無惨を追っていたにしても、あの慎重な無惨がそうやすやすと足取りを掴まれるはずがない。

 

 となれば、サクッとここの鬼を倒して、炭治郎の家へと向かおう。

 任務とは関係のない明らかにおかしい行動としても、義勇なら気づくことはないだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 この世界はマジでクソゲー。

 鬼をRTAして、さあ行くぞって、山に向かったら、上弦の肆・半天狗に遭遇。

 よく考えたら、護衛ぐらいつけてるよねって思ったのが後の祭り。

 炭治郎の家族を救うどころか、こちらが全滅するかもしれん。

 幸いにも、童磨からの情報はまだ共有されていないようで、何とかお互いに五体満足で、半天狗を撃退。

 後のことを考えると、ここで仕留めておきたかったのだが、そうなると逃げと時間稼ぎに徹している半天狗を倒そうにも時間が掛かりすぎて、あっちが全滅するかもしれない。

 朝日が差す前に半天狗が引いたことから、恐らく全て終わってる。

 

 義勇が折れた右足を引き摺っていたので、そのまま担ぎ上げて炭治郎の家へと向かうと、そこは血の匂いが充満していた。

 

 「宗次郎、俺のことはいいから、確認を頼む」

 「わかった」

 

 義勇を近くの切株の上に座らせると、そのまま私は家の中へと入っていく。

 その場の光景は、原作でも見たあの地獄絵図。

 いや、この場にいることを考えると本当の地獄だ。

 だが、私は動じることなくこの場に立っている。

 既にこういう光景に慣れてしまっていたからだ。

 鬼殺隊はいつも遅すぎる。

 我々が鬼に気づくのは、いつも誰かが犠牲になった後だ。

 だがそれでも、今回の犠牲は防げたのではないか?

 炭治郎の家が狙われるのは既にわかっていたのだから。

 

 「いや、待て」

 

 そもそも何故、炭治郎の家が無惨に狙われたのか?

 あの慎重な無惨が、そもそもこんな辺鄙なところへ来て、極々普通の家族を皆殺しにする?

 しかも、護衛で上弦すら置いている始末だ、明らかに不自然。

 

 となれば、考えられるのは………ん?

 

 「禰豆子いねぇじゃん!!」

 

 ってことは炭治郎はすでに来てる。

 急いで家を飛び出して、呆然とする義勇の横をすり抜け、足跡を追う。

 幸い、雪が止んでいるので、炭治郎の足跡だと思われる痕跡は残っている。

 程なく、足跡は崖へと続き、そのまま崖を飛び降りるとそこには禰豆子に押さえつけられている炭治郎の姿が見えた。

 とりあえず、抜刀せずに禰豆子だけを蹴り飛ばすと、そのまま炭治郎を引っ張り上げる。

 

 「禰豆子っ!!」

 

 吹き飛んだ禰豆子を心配し、走り出そうとする炭治郎を押さえつける。

 

 「がっ!? なんで」

 「冷静になれ。 アレは鬼だ」

 

 蹴ったぐらいでは死にはしないと、説明すると、案の定禰豆子はぴんぴんとした様子で此方を見ていた。

 明らかな飢餓状態、鬼殺隊としての勘が鬼の首を刎ねろと訴えかける。

 いつの間にか背中の刀に手を伸ばしていたのを、炭治郎が羽交い絞めにするようにして邪魔をしてくる。

 

 「やめてくれ!! アレは妹なんだ!!」

 

 うん、知ってるから離せ! 禰豆子がめっちゃ襲い掛かってきてるから!

 とは言え口に出すことも出来ず、炭治郎をそのまま背負い投げで地面に叩き付けると、そのまま迫る禰豆子をかかと落として沈める。

 体勢を崩した禰豆子の上に跨り、刀を禰豆子の首に当てる。

 これで無力化したと安心していると、炭治郎がふらふらと立ち上がった。

 

 「妹は……誰も殺して……なんかないんだ。 家族からは別の奴……の匂いがした」

 

 雪の上とは言え、頭から落としてしまったせいで、脳震盪を起こしている炭治郎は懸命に説明する。

 確かに、炭治郎の家族にはそれらしい傷はなく、無惨がつけたと思われる傷だけ残っていた。

 だから、家族殺しについては完全なる無罪だろう。

 これからのことを考えなければ。

 

 「そうだとしても、これから鬼は人を殺して、その肉を喰うんだ」

 「っそれでも! 禰豆子は人を喰ったりなんかはしない!!」

 

 妹を守ろうとする兄の精一杯の言葉。

 だが、それはまるで的外れの言葉だ。

 

 「論外だ。 鬼はそういう風にできている。 故にその考えが人を殺すんだ」

 

 実際、現在その呪縛から逃れている鬼が二人いることを知ってはいるが、それを口にする必要もない。

 そもそも、呪縛を解く方法がわからない以上、禰豆子がそうなれるかは現時点では解らない。

 故に試さなければならない。

 禰豆子と炭治郎の二人を。

 

 「なら、俺が誰も傷つけさせない!! きっと禰豆子を人間に戻すから!!」

 「は、その保証はどこにある? お前にそんな力はない」

 

 気持ちだけでは無意味、何かを成すには力が必要。

 力がなければ、死ぬのみ。

 

 「なら探してみせる!! 家族を殺した奴も見つけてみせるから!!」

 「無理だ。 それができたら誰も苦労はしない」

 

 理想を想うのはいいが、現実を見極めるべきだろう。

 でないと、人は間違いを犯す。

 淡々と切り返す私の言葉に、炭治郎は焦りからか段々と言葉数が少なくなっている。

 ならばと、今度はこちらから話を切り出した

 

 「仮に探すとしても、その間、妹をどうするんだ? 鬼と化した人を喰らうかもしれない妹を。 それにどうやって見つける? さっきお前は匂いで判断したようだが、まさか嗅ぎまわって探すつもりか? それこそ不可能だ。 この広い日の本を探せるはずがないだろう? そんな下らない妄言よりも妹が人を喰らう事実の方がよっぽど明らかだろう」

 「そ、それは……」

 

 そもそもが無理難題な話だ。

 この話だけでは、誰も説得は出来ない。

 

 「故にここで妹は斬る。 恨むなら恨んでもいい。 君にはその資格がある」

 

 事実、その通りだろう。

 もしも私たちが、もっと早くたどり着いていれば……

 私がもっと強引に家族を連れ出せていれば……

 炭治郎と禰豆子の家族は死ななかったかもしれない。

 刃を首筋に当てると真っ赤な血が、真っ黒な刀身に付着する。

 

 「っ!! やめろっ!!」

 

 斧を片手にこちらに突貫する炭治郎を、私は刃を返してその横腹にみねうちの刀を叩き込む。

 手加減はしたが、意識を刈り取るには十分な一撃だっただろう。

 吹き飛ばされ、ごろごろと地面を転がる炭治郎を見て、組み伏せられていた禰豆子の気配が変わる。

 これは明確なまでの怒り。

 そして、その矛先は私に向けられている。

 

 「がぁっ!!」

 

 全身の骨を砕きながらも、拘束から逃れた禰豆子は、私に向かって蹴りを放つ。

 その一撃を防ぎながら、瞬時に体勢を整えて、参ノ型・青龍の構えを取る。

 もしも禰豆子が炭治郎に襲い掛かろうものなら、瞬時に首を切り捨てるために。

 

 だが、どうやらその心配は無用らしい。

 禰豆子は飢餓状態であるはずなのに、その場に転がっている餌に喰い付こうとせず、兄と認識して自身の身を挺して守っている。

 その姿は正しく人そのものだ。

 

 その事実に少しだけ肩の荷が下りた気がした私は、そのまま迫る禰豆子を炭治郎同様に沈めて、この場を収める。

 さて、義勇にはなんて説明しようか?

 

 

 

 

 




とりあえずはここまでです!

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