愛柱・愛染宗次郎の奮闘   作:康頼

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 炭治郎達と別れ、サクッと任務地の鬼をぶち殺した私は、颯爽と馬に乗って帰還。

 義勇の容体を確認する前に、先に御館様へお目通りをすることにした。

 伝書鳩ならぬ、伝書鴉、鎹にすでに事情を伝えているため、アポ済みである。

 身体の調子もそう悪くないと、任地に行く前は言っていたので、できるだけ、御館様には早々と伝えておくべきだろう。

 炭治郎と禰豆子という新たな可能性を。

 既に育手である鱗滝から報告は行われているはずなので、当事者としてしっかりと説明しておかなければならない。

 鎹に連れられて、御館様の屋敷に辿り着く。

 相変わらず、隊士などの護衛を置いていないため、柱として非常に心配であるが、御館様は首を縦に振ることはない。

 恐らく鬼殺隊で、御館様が一番頑固であるに違いない。

 普段のように門を潜り、綺麗に整った庭を歩く。

 そうして辿り着いた縁側の前で待機している私に対し、あまね様に支えられて御館様が現れた。

 普段通りの優しい笑みを浮かべ、歩くその様はたった二つしか歳が違うとは思えないほど、重厚かつ落ち着きのある振る舞いである。

 

 畳の上に腰かけた御館様を見て、状況報告を説明する。

 義勇と共に出た任務後、ある山で鬼の噂を聞いてしまったこと。

 その探索に出たはいいが、上弦の鬼に遭遇したこと。

 鬼を取り逃し、その先で山に住まう家族が殺されていたこと。

 長男の炭治郎はたまたま外出していたこと、長女の禰豆子は生きてはいたが鬼化してしまったこと。

 鬼を狩ろうとしたが、炭治郎に邪魔され、鬼も飢餓状態であったはずなのに兄を喰らうこともせず、寧ろ兄を守ろうとしていたこと。

 

 そして鬼舞辻無惨が現れたことを御館様に話した。

 

 「あと不確定な要素でありますが、炭治郎は無惨の匂いを覚えているとのことです」

 「うん、報告ご苦労様。 炭治郎達のことは私からも考慮しておくよ」

 

 私の長々な説明に対し、あっさりと頷いた御館様に肩透かしを喰らった気分だが、まあ結果オーライとしよう。

 ならばと頷き、長居をするのは悪いと思った私が立ち上がると、何故か上機嫌の御館様が止める。

 

 「宗次郎、そう慌てなくてもいいよ。 今日は調子がいいんだ」

 

 奥方に支えられているとはいえ、しっかりとした足取りで立ち上がった御館様は、私を屋敷の内へと誘う。

 あまね様も特に不審や疑問に思っていないようで、すんなりと御館様の手を引いて屋敷内を先導する。

 柱でも報告など以外でも中々御館様の屋敷に入ることはない。

 流石にじろじろと周りを見渡すわけにも行かず御館様の後姿を眺めながら、その後についていく。

 

 程なく茶の間に案内され、御館様に続き、座布団へと腰を下ろした私に対し、あまね様が茶の入った湯呑を差し出した。

 その茶を有り難く頂戴していると、御館様はゆっくりと口を開く。

 

 「ずいぶん、二人を気に入ったようだね」

 「はい、将来が楽しみな少年と少女です」

 

 鬼を人間のように少女と言っても、御館様は特に気分を害したことはなく、ただ笑みを深めるだけであった。

 実弥あたりが聞けば、間違いなく殴ってくるだろう案件なのに、やはり御館様の御心は深い。

 まあ、そうでなければあの変わり者たちの集団である柱達を束ね、鬼殺隊という組織を存続することができないだろう。

 

 「そうか、君がそう気にいる子なら、私も会ってみたいんだけどね」

 「ご心配なく、御館様。 いつか炭治郎は御館様の前に立つときがくるでしょう」

 

 原作通りなら、裁判の被疑者としてなのだが、私個人としては、柱として御館様とは出会ってほしい。

 となると、やはり日の呼吸を使えるようになるのだろうか、ならば日柱? そもそもヒノカミ神楽って私でも使えるようにできるのだろうか?

 考え込む私の表情を楽し気に観察していた御館様が口を開く。

 

 「柱になる素質があるということだね。 ますます会いたくなったよ」

 

 だが、と表情を引き締める御館様に続いて私の表情も引き締まっていく。

 

 「今、現時点の柱について考えなければならないようだ」

 

 御館様の懸念通り、現在鬼殺隊にいる柱は全員で七人。

 先日の戦闘により、花柱の胡蝶カナエが引退したこともあり、一人数が減ってしまった。

 その七人のうちの三人、不死川実弥、伊黒小芭内、煉獄杏寿郎は、まだ着任して一年も経っていない。

 強さは既に実績と実地により保証済みだが、それでもまだ経験値で言えば、他の四人よりも劣っている。

 そして、水柱の義勇も昨日の戦闘により、足の骨を折るという完全とは言えない状態である。

 つまり、現在鬼殺隊は戦力増加を図らなければならないのだ。

 

 「現在、柱候補は三人います」

 「しのぶ、蜜璃、無一郎だね?」

 

 柱でもない人間を簡単に言ってのける御館様は、本当に隊士全員の名前を憶えているのだ、と再確認しながら、私は自分の考えを述べる。

 

 「三人とも、柱としての素養は十分と考えられます」

 

 花柱の継子である胡蝶しのぶ、炎柱の継子である甘露寺蜜璃、そして私が運営する寺子屋もどきの第一期生である時透無一郎。

 三人とも、未来の話では柱になる逸材であるが、全員欠点がある。

 

 一人目のしのぶは、原作ほどの殺傷力のある毒にまだ至ってない。

 雑魚の鬼を倒すことだけは問題ないが、十二鬼月、下弦の鬼ですら殺しきれないかもしれない。 持論ではあるが、50の鬼を倒すか、もしくは十二鬼月を倒すことが柱になる条件だが、前者の条件ははっきり言って柱に成れても柱の役割を果たすことができない。

 つまり、下弦の鬼にすら敗北するかもしれない現時点のしのぶでは、柱の責務は荷が重い。

 

 二人目の蜜璃も、同じように言えるが、蜜璃に関してはまだ『恋の呼吸』は完成しておらず、不完全な炎の呼吸が使えるのみである。

 しのぶ以上の身体能力を持つ蜜璃なら、ごり押しで行けるかもしれないが、やはりここは大切に育てていくべきだろう。

 

 三人目の無一郎は、教えている私としても本当に天才としか言いようがない。

 目を離しているうちにどんどんと強くなる無一郎ならば、既に下弦の鬼を倒すことができるかもしれないが、まだ十二の少年である。

 強さは問題なくとも、精神的な問題がある。

 

 私の説明に、不満もなく聞いていた御館様はしっかりと頷いて答える。

 

 「宗次郎のいう通りだろうね。 私も彼女たちはまだ柱は早いと思っているよ」

 

 御館様の言うように焦りは禁物だろう。 

 だが、同時にそうも悠長なことも言ってられない。

 連続で上弦の鬼を撃退しているため、鬼達がどういった反応をしてくるのか読めないのだ。

 無惨が敗北したから、と童磨と半天狗を処理してくれるなら、こちらとしては大変ありがたいが、下弦の鬼とは違い、上弦の鬼は替えの利かない無惨の切り札でもある。

 その札を捨てるようなことをするのは、よっぽどの馬鹿だろう。

 

 そして、もし、私を上弦の鬼が狙ってきたとしても、半天狗と玉壺ならば仕留める自信がある。

 妓夫太郎と堕姫は、性質上私一人で討ち取るのは難しいため、もう一人柱が必要だろう。

 童磨に関しては、次は舐めプをしてこないので、全能力を発揮されると、勝つのは難しく、撤退も考えながら戦わなければならない。

 猗窩座は、正統派すぎるので、どちらが強いかの単純な戦いになるだろう。

 黒死牟に至っては、どういう攻撃をしてくるかということすらわからない未知の存在である。

 それはラスボスの無惨にも言えることだが、この二人の能力を私の原作知識をもってしても知ることはできない。

 この二人と戦う前にこっちの世界に来たのだから、結果、能力がわからずに戦うというクソゲーになる。 いやそもそも、ゲームは通常相手の攻撃なんぞわからないので、今までの原作知識がチート過ぎたというのが正しいかもしれない。

 

 そんな風に考えていると、キリがないのでとりあえず今後のことを考えなければならない。

 

 「半年程をお待ちいただければ、下弦の鬼に通用する毒をしのぶが作ってみせると思います」

 

 経歴と能力などを考えるとしのぶが一番次の柱に成るのが妥当だろう。

 半年の猶予があれば、原作の毒は作れるはずである。

 毒さえ揃えれば、しのぶは下弦の鬼も殺すことができるはずだ。

 そうして、しのぶの柱就任の目途が立てば、蜜璃にも『恋の呼吸』を生み出してもらう。

 彼女の才覚ならば、一年程で結果を出すことができるだろう。

 そうなれば、定員九人の柱を揃えることができる。

 

 「期待しているよ、宗次郎」

 「はっ!」

 

 一刻も早く無惨を討つことが、鬼殺隊の任務であり、鬼がいなくなった世界を皆で生きていきたいというのは私の本心である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 御館様との茶会を終えて、私は蝶屋敷へと足を運ぶ。

 カナエ、義勇のお見舞いに、しのぶへの任務付き添いと忙しい。

 あまね様特性の饅頭と行きつけの店の煎餅を持参し、門前を潜っていく。

 普段なら、しのぶかカナエ、アオイの誰かが迎えてくれたりするのだが、家主のカナエが倒れているため、そのような余裕はないだろう。

 一人屋敷内を歩いていると、縁側に座る義勇を発見した。

 

 「調子はどうかな?」

 「宗次郎……」

 

 右足を添え木で固定し、その上から包帯をぐるぐると巻いている義勇は気落ちした様子で此方を見上げる。

 それ以外は特に外傷はなく、足さえ治ればすぐに復活しそうな義勇に煎餅を渡しながらもう一人の見舞い相手の容体を聞く。

 

 「カナエはどうなってる?」

 

 運んだ際には命には別条はないはずだったが、片方の肺がダメージを受けてしまっている。

 その後の容体次第ではどうなるか、わからないかもしれない、と悪い考えを過ぎってしまう。

 

 「無事だ。 意識も取り戻している」

 「そうか、それは本当によかったよ」

 

 ならば、すぐ見舞いにでも行こう、と歩き出そうとするが、座り込んだ義勇は立つ気配がない。

 こんな時、何も言わずについてくるのが義勇だったのに、何故かその表情は暗い。

 

 「すまなかった」

 

 突然、深々と頭を下げ、謝罪をしてきた義勇に対し、私としては戸惑いしかない。

 私が何も言わないでいると、義勇はぽつりと語り始めた。

 

 「上弦の鬼を倒し損ねたのは俺の責任だ。 もし、俺以外の柱だったら宗次郎なら首を刎ねることができたはずだ」

 

 そう言って再び謝罪をする義勇。

 とりあえず思ったことは、相変わらずこの男はめんどくさいな、である。

 何故か、義勇は異常なまでに私や柱に対して劣等感を持っているし、すぐにこうやって暗くなる傾向がある。

 恐らく錆兎の時の件だろうと予測はつくが、それにしても五年も前のことを未だに引き摺っている。

 確かに原作の義勇さんの場合、錆兎が死んでしまっているため、あの状態なのは理解できる。

 だが、錆兎は生きているし、そもそも特に蟠りもなさそうに話しているのを見た。

 その後も私と地獄のような訓練を行い、名実ともに水柱として認められているし、本人も柱としての自覚も持っている。

 ただ何となく予想はつくので、とりあえず伝えるべきことだけは伝えていく。

 

 「それは違うよ、義勇。 あの場に君がいたからこそ、私は生きている」

 

 そもそもあの状況で半天狗を仕留めるのは難しい上、あの猛攻を受けて右足の骨折だけで済んでるのは、義勇の強さを物語っている。

 それに私と本当の意味で連携できるのは、柱の中でも義勇しかいない。

 共に切磋琢磨してきた同期の相棒しかいない。

 

 そう伝えると、義勇は眼を見開き、そして鮭大根を前にしたような微笑みを浮かべる。

 本当にちょろい、と。

 その姿に、本当のことを言ったつもりだが、こうも素直に反応されると友人として少し心配になってくる。

 こうなったら、私がしっかり者の女性を探してあげようと、密かに決意し義勇を連れて歩き出す。

 

 器用に煎餅を口だけで加えて咀嚼していく義勇を見ていると、前からしのぶが歩いてきた。

 

 「愛染さんっ!!」

 

 私の顔を見るなり、突然駆け寄ってきたしのぶは、深々と頭を下げた。

 

 「姉さんを助けてくれて、本当にありがとうございました!」

 

 礼儀正しく謝るしのぶに対し、私はその右肩を叩いてあげる。

 するとボロボロと涙を流すしのぶを見て、驚く義勇が視界に映ったが、とりあえず無視をする。

 

 「当たり前のことをしただけだよ。 それよりカナエはどこにいるんだい?」

 

 廊下で話すよりも、先にカナエの顔を見たい、と告げるとしのぶはしっかりとした返事で先導し始める。

 その際、義勇に、廊下で食べないでください、とか、また勝手に病室から出てきて、とプリプリ怒るしのぶに対し、義勇は気にした様子もなく煎餅をかじる。

 その煎餅は私が用意しました、と言えなくなり、無言でしのぶの後に続いていく。

 

 流石に集団の病室ではなく、個室の病室にいたカナエがこちらの方を見て、右手を振る。

 

 「あ、宗次郎くん、来てくれたんだね」

 「やあ、カナエ。 とりあえず、安静にしておきなさい」

 

 そうよ、姉さんと心配した様子でカナエに声をかけるしのぶに倣い、私もベットの脇にある座椅子に腰を下ろす。

 

 「傷の具合はどうだい?」

 「うーん、良くはないけど、まあ大丈夫かな?」

 

 元気そうにカナエは笑い返すが、額には脂汗を滲ませている。

 恐らく、鎮痛剤などを処方しているが、それでは効かないほどの激痛だろう。

 当たり前だ。

 片方の肺が既に潰れてしまっているのだ、痛くないはずがない。

 それにカナエはもう『花の呼吸』を使うことができない。

 隊士としての、柱としてのカナエはもう死んだのだ。

 うっすら浮かぶ涙の跡を見て、私は何も言わずに、ただ楽しそうにしているカナエの顔を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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