愛柱・愛染宗次郎の奮闘   作:康頼

8 / 17
日間ランキング1位 2019-0814
ありがとうございました!!

感想や誤字報告なども多くしていただき、本当にありがとうございます!!
これからも更新を頑張っていきます!!






 馬の背に揺られて早二日、やってまいりました那田蜘蛛山。

 辿り着いたのが深夜ということもあり、山全体からは薄気味悪さと禍々しさが感じられる。

 周辺の村々からは、神隠しの山とも言われ、あまり近づくものがいないそうだ。

 極稀に、猟師などが獲物を求めて、この山を登ることがあるようだが、数人に一人はそのまま行方不明となっているらしい。

 原作知識、そしてこの身にチクチクと刺すような気配からして間違いなく鬼がいることに違いない。

 しかも、十二鬼月の鬼という厄介極まりない鬼である。

 

 下弦の伍、累。

 主人公である炭治郎を苦しめ、義勇さんが参戦しなければ、その命を落としていただろう怪物。

 指先から伸びる糸は、並みの使い手ならば日輪刀すら折るほどの強度を持ち、容易に人の身体を切り裂く刃でもある。

 その配下には、累により力を与えられた家族という鬼が存在する。

 単独での行動が当たり前の鬼の中で、珍しく集団で生きる鬼でもある。

 まあ、累の我儘でそうなっているだけなので、ある意味では鬼らしいと言えば鬼らしい。

 そして累という蜘蛛鬼は、原作でも語られているように過去の過ちにより、こうなってしまったのだが、いくら過去を知っていてもどうすることもできないので、速やかに狩るつもりである。

 しかし、この戦いを経て、炭治郎はヒノカミ神楽を思い出すこととなり、結果として強くなるターニングポイントであり、貴重な成長機会でもあるのだが、炭治郎がここまで来るのに後二年程度はかかることや、その間放置し続けていると、周辺の民や隊士達を喰らい続けるので、こうして討伐に来たのである。

 

 「着いたよ」

 

 なので、私は炭治郎のために使えないのなら、他の人のために使おうとしたのだ。 

 累は、居場所が分かっている数少ない十二鬼月と言っていい。

 以前に私が三体の下弦の鬼を倒せたのは、偶然のエンカウントであり、狙って倒しに行ったわけではない。

 恐らく、十二鬼月も縄張りというものを持っているはずだが、中々こちらにその情報が入ってくることはない。

 実際、童磨が教祖を務める『万世極楽教』とやらの情報も掴むことができず、遊郭に住まう上弦の陸の兄妹も見つけることができなかった。

 そのため、居場所が分かるという貴重なチャンスを活かそうと、しのぶを連れてきたのである。

 ここには、先程も言った通り、家族と呼ばれる鬼達もいるので、毒の実験や討伐数を上げるのにも適しており、累も下弦の鬼であるため、上弦の鬼程の理不尽さがないので、柱に上がるための功績としても悪くない。

 

 「ここに鬼が……」

 「そのようだね。 周囲から少なくない犠牲も出ているようだから、ここで仕留めておくべきだろうね」

 

 微かに緊張しているしのぶだが、特に過剰な恐怖心も気負いも感じられない。

 あとは鬼と対峙した時にどうなるか、そう考える私にはもう一つの心配事がある。

 それは――

 

 「先生、ここに十二鬼月が?」

 

 何故かついてきてしまった時透無一郎君である。

 ぽやぁと緊張感のなさそうな無一郎だが、その手には万全の手入れを行った日輪刀が握り締められていた。

 

 「うん、そうだね」

 「つまり、その鬼の首を刎ねたら、俺も先生と同じ柱になれるんだね」

 

 表情とは対照的に、すでに臨戦態勢に入っている無一郎を見て、私は頭を抱えながら出発日前日のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 しのぶに要件を伝え、蝶屋敷を出た私は自分の屋敷へと戻る。

 寺子屋を兼ねているため、蝶屋敷ほどの広さを持つ我が屋敷だが、そこに住まう人間は二人しかいない。

 一人は家主である私こと、愛染宗次郎。

 もう一人は――

 

 「おかえりなさい、先生」

 「ただいま、無一郎」

 

 そう、未来の柱であり、鬼殺隊でも天才と言われた時透無一郎である。

 無表情だが、こちらに対しての信頼というものを感じさせる無一郎は私の唯一の家族と言っていい。

 懐いてくれる無一郎だが、原作通り鬼に襲われ、両親と双子の兄を亡くしており、同時にその記憶も忘れてしまっている。

 炭治郎との交流をきっかけに全て思い出していくのだが、現時点では鬼に対しての怒りと御館様の暖かさだけを覚えているようだ。

 私も、過去を思い出させた方がいいのでは?と考えたこともあるが、そもそも記憶を失ったことが、無一郎の防衛本能の結果だとしたら、今この幼い無一郎にその衝撃が耐えることができるのかはわからない。

 そんな恐ろしい賭けを試すことができなかった。

 とりあえず、記憶については現状維持で、私としては傍にいて助けることくらいしかできない。

 なので、寺子屋一期生として私と剣を交えているのだが、その訓練のおかげか、無一郎は並みの隊士ならば瞬殺できるほどの腕を持ち、『霞の呼吸』すら既に修得してしまった。

 あとは経験だけ積むことができれば問題ない、という立派な柱候補なのだ。

 だが、順当にいけば、無一郎が柱に成るときは恐らく誰かが欠ける時である。

 そのような状況を私としては許すことはできないので、無一郎が柱に成ることはないだろうと思っている。

 

 私の後ろをひょこひょこと歩く無一郎は、まさに子犬のような愛らしさがあり、自分を慕ってくれるこの感情は何とも言い難いほどに素晴らしい気持ちにさせてくれる。

 そうなると、必然的に甘やかしてしまうことになり、無一郎に頼まれると思わず語ってしまうのだ。

 

 義勇が鮭大根を頼んだのに鰤大根が来た時の絶望した顔や、その鰤大根を食べてみたら美味しかったようでもぐもぐと食べていた時のこと。

 しのぶが、私のことをお兄さんと間違えて呼んでしまったことや、カナエが着地に失敗して水たまりに顔から突っ込んでしまい、そのまま担いで蝶屋敷まで戻ったことなど、私は無一郎に対して、口が軽くなってしまうのだ。

 例えば――

 

 「新たな柱候補を探しているんですか?」

 

 だったり。

 

 「これから下弦の鬼がいそうなところに向かうんですか?」

 

 みたいなことを聞かれた気がする。

 

 

 

 とりあえず、私はお酒を辞めた方がいいと思う。

 いくら可愛い無一郎が勧めたとはいえ、10合も一気に飲んだのはやり過ぎだったと反省している。

 

 そのようなミスで無一郎を連れてきてしまったのだが、問題はそこじゃない。

 

 「鬼の首も落とせない柱なんて必要ないと思うけど?」

 「まだ、まともに任務もこなしたことのない半人前がよく言えますね」

 

 何故か知らないが、しのぶと無一郎が敵意を剥きだしに睨みあっているのだ。

 チクチクと嫌味を言い合うその姿は、まさに犬猿の仲というやつだが、私の記憶違いでなければ、しのぶと無一郎は会ったことはないはずである。

 そもそも無一郎は基本、家から出ることは殆どないので、会ったことがある人間と言えば、御館様に、時々将棋を打ちに来る義勇、そして屋敷の管理を任しているお手伝いさん達くらいである。

 なので、そもそもしのぶのことは全く知らないはずなのだが、やけに初めから好戦的で態度も刺々しい。

 

 馬に乗れないしのぶを鼻で笑ったり、仕方ないのでしのぶを私の馬に乗せてみると、無一郎も自身の馬を降りて私の馬に飛び移ってきたり、とやけにアクティブになっている。

 罵り合う無一郎としのぶに挟まれて来た馬上移動は、流石の私でも苦痛でしかなく、できるだけ早くこの任務を終わらせようと思った。

 

 「先生は、君を柱にと考えているようだけど、それはここの鬼を討てればの話だよね?」

 「貴方こそ、鬼の怖さっていうのを知らないんじゃないですか? 己惚れるのは勝手ですけど、そんな考えでは下弦の鬼はおろか、普通の鬼にすら足元を掬われますよ」

 「それはこっちの台詞だよ。 そもそもその毒で鬼はちゃんと殺せるの? もし、殺せなかったら打つ手ないじゃない」

 「ご心配なく、既に結果は出ています。 そして、私が今作っているのは十二鬼月すら殺せる毒です」

 

 お互いに罵り合いが収まらない。

 特にしのぶは、基本的には冷静で、義勇以外の人間に対して、感情的に怒ることはあまりしない。

 面倒見の良い性格故に年下の小さな少年にここまで噛みつく姿は珍しい。

 対する無一郎も、基本的には対人関係は無関心で、将棋で義勇を倒した時くらいしか鼻で笑うという失礼な行為はしない。

 何事も正直に言ってしまうが、それでもある特定の人物に対して、ここまで毒を吐く姿も珍しい。

 

 睨みあう二人を見て、埒が明かないと考えた私は、肩に掛けた日輪刀を抜いて近くにあった手頃な木に近づく。

 そして、一閃。

 目の前の木を斬り飛ばした。

 根元付近を両断し、音を立てながら倒れる木を見て、二人の喧嘩はようやく止まる。

 倒れた木の上部を斬り飛ばし、手頃な長さになった丸太を掴んで引き摺りだすと、その上に座る。

 

 「じゃあ、こうしよう。 ここの討伐は二人に任せるよ」

 

 私はここで待ってるから、絶対に仲間割れや喧嘩なんてしないように仲良く鬼を狩ってくるんだよ、いいね?

 そう、誠意を込めて伝えると、二人ともしっかりと何度も頷いてくれたので、懐から懐中時計を取り出して今の時間を確認する。

 

 「そうだね。 日が昇るまで大体七時間くらいかな? それまでにこの山の鬼達を殲滅して来るように。 返事は?」

 「「はい、わかりました!!」」

 

 先程までは何だったのだろうか、と思うくらい足並みを揃えて山の中へ消えていく二人に対し不安しかないが、実力は両者とも認めている。

 十二鬼月といえど、問題なく倒してくるだろう。

 

 「……気配を消して、あとを追いますか」

 

 それでも心配なのは親心というやつなのか。

 前世も現在も、子がいないためわからないが、親になるということはこういうことなのだろう。

 二人にばれない様に、天元に教えてもらった忍び足を活かして、二人の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 番外編

 『柱達による腕相撲大会・中』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさにその戦いは死力を尽くした戦いであった。

 誰が一位で誰が最下位なのか、しっかり決めるつもりだったため、総当たりとなった腕相撲大会。

 早々に最下位になったのは、自分でもわかっていたしのぶである。

 

 「まあ、やる前からわかってましたしね」

 

 元々乗り気でなく、そもそも筋力がないから毒使いとなったしのぶだが、その表情に微かな苛立ちを感じさせる。

 恐らく義勇と戦った際に、驚いて眼を見開く義勇に優しく倒されたからである。

 思わず、鎮痛剤を撃ち込もうとしたしのぶを止めたのは、宗次郎と蜜璃だった。

 

 続いて敗退したのは、小芭内である。

 明らかに技術よりの柱であるため、必要最低限の筋力では、柱達による乱痴気騒ぎは分が悪かった。

 

 「技とは腕力ではない、つまりこの結果は無意味だ」

 

 負け惜しみのような言葉を吐く小芭内だが、蜜璃としっかりと手を握りしめた時に幸せの絶頂だったのは、多くの柱が目撃している。

 そのあと、蜜璃に瞬殺されたのだが。

 

 その後、腕相撲に飽き始めた無一郎が敗北したことにより、事態は混戦を極まる。

 順当に勝ち星を挙げたのは、行冥、天元、そして宗次郎の三人である。

 残りの、義勇、杏寿郎、実弥、蜜璃に関しては上位三人に負けたものの、その後は接戦を繰り広げ、互いに勝ち星を食い争う結果となった。

 そして、その戦いを制したのは予想外の義勇である。

 最終戦の実弥戦は意地と意地のぶつかり合いであり、特に実弥に関してはここ一番の気迫が満ちていた。

 制限時間ぎりぎりまで続いた戦いは、ほんの僅かの差で義勇が制した。

 これで、実弥と杏寿郎、蜜璃の勝ち星が並び、義勇が第四位と決定した。

 

 「……ありがとう」

 「っ! ぶち殺してやる!!」

 

 無表情からの突然のありがとうに、ブチ切れた実弥を行冥と宗次郎が抑えることになり、血で血を洗う戦いは阻止することができた。

 恐らくお互いの健闘を称え、お前だったからここまで自分は頑張ることができた的なありがとうだと思うが、どう考えても軽い挑発にしか聞こえなかった。

 杏寿郎に過剰に褒められて、本当に嬉しかったのか微かに笑う義勇を見て、しのぶがドン引きしたのを複数の柱が目撃している。

 

 そして、物語は天元と宗次郎の戦いへと移る。

 今までの戦いを振り返り、天元は気合を入れ直して、目の前の好敵手と腕を組む。

 その爽やかな表情には、疲れを一片も感じさせることもなく、笑みを崩さない宗次郎を見て、天元はその面を苦悶に満ちた表情に変えてやろうと思った。

 

 「随分、派手に勝ち上がったじゃねぇか」

 「そうかい?」

 

 余裕の表情を崩さない宗次郎に、天元がもう語ることはない。

 腕が折れても、柱なら一週間くらいで回復するだろう―――

 そんな物騒なことを考える天元にとって、既にこの戦いは遊びではなかった。

 

 互いに手を掴み、肘を台に乗せる。

 そして、しのぶの声と共に二人の手が動き出した。

 

 「おらっ!!!!」

 

 気合一閃!

 気迫に満ちた声を上げた天元だが、あることに気が付いた。

 周りの柱達が、誰もがただ一点に集中していることだった。

 恐る恐るそちらに視線を向けた天元の眼前に広がった光景は―――明らかに逆方向を向いた自身の腕である。

 

 秒殺である。

 

 「jfひおsぎおえrぎおysdyg!?」

 

 信じがたい光景と腕の痛さに、奇声をあげる天元。

 その姿を見て気合が入ったのか、全身に活力を漲らせた行冥が、宗次郎と対峙した。

 

 「次は私とだ。 宗次郎」

 「よろしく頼むよ。 行冥」

 

 その行冥を不敵な眼差しで迎え撃つ宗次郎。

 果たして勝つのはどちらなのか!

 今、ここで鬼殺隊最強が決まる!!

 

 

 

 

 睨みあう二人、そしてその光景を息を呑んで見守る柱達。

 そんな彼らを他所に、しのぶがぼそりと呟く。

 

 「いや、誰か宇髄さんを心配してあげましょうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 幸いにも、腕は脱臼していただけで、骨も罅が入っていただけの天元は、明日にも普通に任務へ向かうのであった。 

 




先に戦ったのが、

宗次郎の場合、脱臼、骨に罅。

行冥の場合、骨折。

というのが天元の運命でした。
ちなみに宗次郎は、腕をへし折られそうに感じたので、一瞬で決着をつけに行ったため、このような結果になりました。

義勇さんが第四位になったのは、宗次郎さんとの特訓の成果です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。