ガンドォ!   作:brain8bit

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 割とすんなり書けたけど、文字数死ぬほど増えた件について。



第10話「自分だけが気付けない自分の事」

 最近切に思うのだけど、今世におけるわたしの人生は波乱万丈を免れないらしい。現に、今も死にかけてる。首の皮一枚とはよく言ったもんだよ。毎日毎日、全力で乗り越えなきゃいけない面倒事が自分から首突っ込んでくる。ストレスで倒れてないのが不思議でなりません。いや、それ以前に物理的な衝撃で倒れてない方が奇跡なんですけども。もっとこぼす愚痴は死ぬほどあるわけですが、今回はここまでにしておきましょう。理由はまあ……お察しでしょう?

 

 

「……チッ、避けれるのかよ。雑魚キャラなんだから大人しく狩られるべきだろ?なぁオイ」

 

 

 雑魚て。まあ否定はしないけど。単独のわたしはちょっと運動の出来る一般人だから。今更だけど、単独行動してるところでピンチになるの多くないか? そんでもって素人目にも解りやすいくらいの敵意ぶつけてくるね彼。いや、あれは敵意っていうより……イラついてんの?

 

 

「ッ……! 雑魚キャラなら見逃しても問題ありませんよね?」

 

 

 はっはっは、なにその余裕のない声。キャラぶれてるよ奏ちゃん。いつだって心中爆笑で乗りきってきたじゃないか。初動の攻撃が掠って礼装(せいふく)が使い物にならなくなったからって、動揺しすぎじゃない? もっと上手くやろうよ。怖じけづいてるのが諸バレだから。

 

 

「は? 逃がすわけないじゃん。スニーキングミッションで見られたら口封じするのは当たり前だろ」

 

 

 

 

 

 

 

――ヒュン

 

 

 

 

 

 

 

「……っぶな……!?」

 

 

 まただ。今度は本気で跳んだ(よけた)。でも、足りてない。さっきより服がボロボロと崩れてる。触れられたらヤバい個性なのは分かるよ。分かるからこそ、動きも鈍くなってる。死ぬかもしれないから。どうしようもなく怖いから。正しく脳が理解しているから。ダメだ考えるな。余計動けなくなる。今がある意味最良だ。恐怖を抱きながらも、冷静に分析できるだけの(あたま)が残っている。全部を受け止めてはいないからだろう。

 

 

「オイオイいい加減にしろよ」

 

 

 うん、こっちの台詞なんだが? わたしだって出来ることなら動きたくなかったよ。基本、面倒くさい事はしたくないし。けど、命を天秤に掛けられてんだから避けるに決まってんじゃん。それに、さっきからダセェだのミッションだの……子供みたいな論理で人殺そうとしてる奴が「いい加減にしろ」て。ちょっとおイタが過ぎるんじゃない? まあ、だからと言って反撃する手段なんて持ち合わせて無い訳ですが。

 

 

「ハァ、もういい面倒だ。黒霧、押さえろ」

 

 

 何を言って……あれ? なんか手だらけマン身長伸びてない? 成長期か? いや違うわこれわたしが縮んでるんだわ。いつの間にか足元にもやもやが広がってて、徐々に足が沈んでる。どう考えても抜け出さないと不味いよね……え、やばい。ちょっと待て。踏ん張りが効かないんだが!? 手だらけ野郎も近づいてくるしこれ本格的に死――!?

 

 

「じゃあな、ヒーロー見習い。来世は一般人で出直せ」

 

「ちょ、ふざけ――!!」

 

 

 前世より短命の幕引きとか認められる訳ないだろ!? クッソ、やるしか無いのか!? 状況を打開できる一手って奴……今わたしが取れる個性(しゅだん)……背に腹は代えられない!!

 

 

Omitted Aria(個性強制発動)......! Restriction cord Ⅰ:Arbitrage of Osiris(  オシリスの裁定  )......ぁあああ!?」

 

 

 脈打つ様に魔力が廻る。マジ無理痛すぎて泣きそう。てかもう泣いてる。何をしたか? 早い話が詠唱破棄。個性を起動して魔術回路を構築後の魔術行使が通常の流れだが、今は個性起動後に魔力を無理矢理流して魔術回路を駆動させつつ魔術発動。鍛練で無意識に染み付いただけの不安定な金型に魔力を注ぎ込むのだから、当然それ相応の負担が生じる。

 

 

「……ッんだこれ? 体が動かな……!?」

 

「どうしました死柄木弔!?」

 

 

 間に合ったけど……いよいよ万策尽きたかな。この魔術の効果は約30秒しか続かない。ただでさえ、服がボロボロで魔術の効果は落ちてるだろうし、どうにか状況を打開できなきゃ今度こそ殺される。今回行使した魔術はアトラス院の『オシリスの塵』からイメージを構築した魔術だ。オシリスの塵の効果は味方単体に無敵状態を付与するもの。非常に強力な魔術故に本礼装の魔術のコンセプトとして選択したんだけど……いざ研究しようした際にある疑問が浮かんだ。

 

 

 

 『無敵』とは一体なんぞや?

 

 

 

 相手の通常攻撃・宝具のダメージを無効化する。スキルによる状態異常などは無効化できない。無敵貫通が付与された攻撃等には発揮しない。FGOにおいて強力かつ便利ではあるが原理が曖昧な効果の1つ。回避状態でダメージが0になるのはまだ分かるのだけど、無敵でダメージを0にしたと言われれば「どうやって?」という疑問が浮かぶのは至極自然なことだとわたしは思う。無理に説明するのであれば、攻撃を受けても、ダメージを無効化してしまう『何か』が発生していると推測できる。

 

 例えば、サーヴァントのスキルによる無敵状態を見てみよう。プロフィール欄に書かれているスキル詳細を確認すれば、理解できるキャラクターがいくつか存在しているはずだ。有名どころで言えばマーリンの『幻術』かな。味方全員に無敵を付与かつスター発生率を上昇。おまけに相手のクリティカル発生率を低下。これは非常に想像しやすい。あたかも攻撃がヒットしているように見せるが、実はそれらは認識を阻害させ発露した幻術だった……そんな感じだろうね。他のスキル効果の説明も簡単だ。幻術に惑わされた相手は決定打(クリティカル)が出しにくく、動きに無駄があり隙をつくこと(スターを稼ぐこと)が容易。ほらね?

 

 何が言いたいかといえば、要するに無敵には無敵なりの理由があるって事。「なんか攻撃が効きませんでしたー」じゃ済まされない。魔術を構築するためには明確なイメージが必要なのだから。そこでわたしなりにエジプト神話について調べることにした。

 

 まあ、分かったことを簡潔にまとめるとこんな感じ

 

 

1.オシリスは生産を司る神であり、エジプトの王であった

 

2.兄弟であるセトから妬みを買い、バラバラにされて王権を奪われる

 

3.イシスのおかげでミイラとして復活を遂げ、セトから王権を取り戻す

 

4.その後、息子のホルスに王位を継承し、死者を裁く冥界の王になる

 

 

 さて、ここで改めてオシリスの塵が何故無敵に繋がるのかを考えてみる。わたしは最後の「冥界の王」の部分が関係していると判断した。死者を裁く……それすなわち魂を司ることと同義。そんでもってサーヴァントっていうのは実在不在は問わない座へと召し上げられた魂を記録媒体とし、その一部を聖杯という魔力リソースを使って現世に召喚させたもの。つまり実体化した霊だ。故に、魂を司るというオシリスはそれらに対して直接的な干渉を及ぼせるのではなかろうかと考えた。

 

 

 

 

 オシリスの一部の塵を触媒としたときに発露する魔術。それはサーヴァントの霊基(たましい)に外界からの干渉を無効化する効果を付与する効果。

 

 

 

 ……これが、わたしの行きついた結論。わたし自身が納得できる理由付けだ。そんな無茶苦茶な理論があるのかよって思うかもしれないけど、これでいい。要はわたしが自分で納得すればいいだけの話なんだから。言ったよね? わたしの個性はイメージが大事って。「きっとこうだから、そうなるのだろう」という骨格(フレーム)があるのとないのとでは完成度が段違いなんですよ。

 

 そして、雄英高校指定制服で出来上がった魔術が『オシリスの裁定』。前にも言ったけど、魔術回路はアトラス院から引っ張ってきてるけど、実際は割と違う制服なので、大元の魔術礼装の魔術とは異なった魔術内容を考えなきゃいけない。だから、原理だけは限りなく似たような魔術(モノ)をわたしは考案した。

 

 オシリスは冥界にて死者の心臓と心理の象徴であるマァト神の羽を天秤にかけ、心臓の方が重かったものは悪行を生前に犯してきたとし、審判を行った。羽より軽い者は楽園であるアアルへ行くことが叶い、重い者はその心臓を神獣により貪り食われるという。その審判のイメージを魔術に落とし込んだもので完成したのがこの礼装魔術だ。

 

 この魔術で物理的に心臓が食われる訳じゃない。ただ、それらの解釈を魂という観点から生者に移し替えてみたのだ。わたしが思いついた効果……それは以下のような内容になった。

 

 

 

・相手の抱いている悪意が多ければ多いほどに、その効能は魂に罪の重さとしてその体に物理的な重圧として影響を与える。言わば、行動不能。逆に言ってしまえば悪意が無ければ効果はない。

 

・悪意がない人間には、魂を庇護する効果が与えられる。現世における死を魂の貪り(第二の死)と仮定して、それらから守る者を付与する加護。つまり、すこぶる体調がよくなり、精神状態を常時安定させる効果が現れる。いわば、無敵ではなく精神的なモノに対する弱体無効である。

 

 

 

 誠意に対してバフを、悪意に対してデバフを。これがわたしが開発した魔術『オシリスの裁定』だ。

 

 

 

「何しやがった……元に戻せ……!!」

 

「ハッ……答えるわけ、無いじゃないですか……! あなたが誰だか知りませんけど……どう考えてもまともな立場の人間じゃないですよね。さっさと身を引いた方がいいんじゃないですか?」

 

「このクソガキ……言わせておけばァ!!」

 

 

 煽ってどうにかなるわけじゃない。けど、冷静さを欠くことは無駄にはならない。わたしは制服の内ポケットに手を突っ込んでなるべく早く指を走らせる。すると、案の定モヤモヤの方がぎょっとした表情を浮かべてこっちを見た。様子を伺うのに集中して凝視しすぎたのがバレた。割とホントに焦ってんだなわたし。余裕があるときに俯瞰して見たら必死過ぎる自分に笑うかもしれん。

 

 

「死柄木弔、恐らく増援を呼ばれました。程なくしてプロヒーローが駆けつけるでしょう……オールマイトにでも来られたら厄介です。目的は達成したのですからここは退きましょう!」

 

 

 やっぱり諭すのね。このもやもや手だらけマンの保護者か。指示には従うけど、明らかに一歩引いて状況を見てる。参謀ポジ……とは違うな。それなら自軍の巣から指示飛ばしてるはずだし。お目付け役ってところなのかもしれん。

 

 

「黒霧ィ……勝手に決めんな――ぐッ……オイ!? クソが……クソがクソがクソがァ!!」

 

 

 あ、もやもやが手だらけマンを勝手に沈めていった。ざまぁ。あ、でも待って? 退くってそういう感じの撤退方法? じゃあわたしヤバくない!? 口封じするならそのまま連れて行けばいいじゃんか!? どうにか抜け出し……って、ふおっ!? え、抜け出せたっつーかもやもやに吐き出された。どゆこと?

 

 

「貴女は置いて行きます。彼の命令であなたを拘束しましたが、本来ならばここで殺す気はありませんでしたのでご安心を」

 

「……貴方たちは、一体何なんですか」

 

「ご想像にお任せします。それでは」

 

 

 消えた。無駄に真摯なのがムカつく。なんなのホント。

 

 はぁ……これが原作の襲撃イベントって奴? 知識がないのが痛手過ぎる。そもそも正規のイベントなのかすら判断できんぞ。本来ならわたし以外がアイツらと鉢合わせてたのかな……考えようにも材料が少なすぎる。憶測だけでは何も語れない。ともかく、この事を先生方に伝えて判断を教師たちに丸投げしようそうしよう。さっさと職員室から出――。

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? 立てない」

 

 

 

 

 え? なんで? もしかして知らない内に何かされた? 外傷とかないけど……あ、個性か!? 無理に魔術使った反動でこんなことに……いやでも、今までそんな事あったかなぁ。血反吐は吐くけど力が入らん事は記憶にないぞ。あ、今は吐いてないって事じゃないよ? 今も絶賛鼻と口と目から出てます出てます。これがホントの出血大サービスってハッハッハ……いや全然おもんないわ。

 

 

 

 

 

 

 

「――ったく、普通出来ても踏み込まないだろマスコミ連中……犯罪だろう……が!?」

 

 

 あ、相澤先生だ。

 

 よかったー。渡りに船とはまさにこの事。どうやらわたしは幸運A+だったようですな! ハッハッハ……うん。ホントに幸運A+だったら、こんな散々な目に遭ってないよね。しかも割と毎日胃痛に悩まされてるし。もしかしたら、幸運E(ランサー以下)かもしれん(自害)。

 

 

「萬實黎か!? どうした、何があった!?」

 

 

 おーおー。驚いておる。そりゃ顔面血だらけの美少女(自称)がいたらそりゃビックリするわな。

 

 

「先生、ヴィランと思わしき人物と接触しました。相手には明確な敵意があり、攻撃を仕掛けてきたため、やむを得ず個性を無許可で行使してしまいました。申し訳ありません」

 

「ヴィランだと? 萬實黎、その人物の外見や個性は……ッ!? いや、いい……それは後だ」

 

 

 血塗れだしネ! 普通に考えて病院行き確定です。でも雄英には傷を何でも直せるおばーちゃんいるから平気平気。治るとき全然痛くないのはすっごく有り難い。わたし注射とか大嫌いですので。

 

 まあそれはそうと、手を貸してもらえませんかね? なんか知らんけど、足に力が入らんのですよ。あ、近づいてきた。いや、血で汚れてて申し訳な――。

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫だ、安心しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふぁっ!?

 

 は!? ちょ、ハア!? え、なにこれ!? ナニコレェ!!? どうしたんですか先生!? 脈絡なさ過ぎて困……いや、脈絡的には正しいんですけども!! だとしてもちょっと分かんないよ!?なんで、なんで――。

 

 

 

 

 なんでわたし相澤先生に抱きしめられてんの(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)!?

 

 

 

 

「もう、ここに敵はいない……よく頑張ったな」

 

 

 え、いやそんな事は知ってますよ!? 真っ先に撤退を確認したのはわたしですからね! てか、そんなキャラでした!? 何がどうなってそんなソフティな声出せるようになった!? 死ぬほどダルそうな顔して授業してる相澤先生は何処に行ったんですか!?

 

 

 

「大丈夫、大丈夫だ。だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もう、泣くな(・ ・ ・)

 

 

 

 

 

 

「…………ぇ……?」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 職員室のドアを開けた瞬間、まるでハンマーで殴られたような衝撃に見舞われた。

 

 

 そこには見覚えのある顔が部屋で一人、その場にへたり込んでいた。口元と鼻から出血の跡が見られる。得体の知れない状況に怯んだ。そして思考が数巡した後、俺の脚はようやくソイツの元へと駆け出した。

 

 

「萬實黎か!? どうした、何があった!?」

 

 

 合理的かつ速やかに。聞きたいことを矢継ぎ早に口に出した。焦燥に駆られているのが目に見えている。だが、校内で……しかも一人で生徒が流血していたことに頭が周っていなかったのだろう。なんせ、今までに無い事例だったからな。正当化する気はないが、事実を述べればそういうことになる。しかも、その人物がまた問題だった。

 

 

「先生、ヴィランと思わしき人物と接触しました。相手には明確な敵意があり――」

 

 

 淡々とした口調で彼女……萬實黎奏は報告を行った。

 

 彼女は実技入試1位だった。さらにはレスキューポイントのみでその結果を得た異質な生徒でもある。受験結果を鑑みて、彼女には注意を払っていた。個人的な見解になるが、何かが胡散臭かったからだ。受験を捨ててまで、競争相手を助ける? お節介焼きがヒーローの本質だとしても、状況的に非合理的すぎる。試験が終わってみれば、結果的に理に敵った行動をしていたと言えるが、その実態は何なのか……。俺は、個性把握テストでその真相を探ろうと動いた。

 

 個性が個性なために他人に頼らざるを得ないのは分かるが、ヒーローとして活動する以上、その身ひとつで状況の対処を強いられることも少なくない。よって、この個人技という枠の中で如何にして障害を乗り越えていくのかを注視した。観察の結果、彼女自身は高い身体能力を有し、個性の使い方も悪くはなく、考える頭もそれなりにあることが判明。他人を使いこそはしたものの、状況を打開するように個性を使っていた。まあ、及第点といったところか。人命救助にせよ、対ヴィランにせよ、必ずそこには自分以外の人間が存在する。彼女であればそんな存在も、良い意味で利用して乗り越えていくのだろう。ひとまず俺は、除籍枠から彼女を外すことにした。

 

 そして後日、ヒーロー基礎学の戦闘記録を閲覧。その内容に俺は少なからず驚嘆した。自身が優位に立てるような策を講じる審美眼、実行できるだけの判断力、そして自分を犠牲にして後続に託す覚悟。どれもヒーローとして必要になるファクターだ。それをこの訓練の中で全て出し切っている。このまま成長すれば、優秀なヒーローになることは目に見えていた。

 

 

 

 

 だからこそ、俺は警戒を強めた。

 

 あまりにも出来過ぎている(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。彼女はその年齢(とし)には不相応な力を持ち過ぎた。何故これだけ短い期間にここまでの成長を遂げることができたのか。彼女の出生や個性届を調べてみたが、特に該当しそうな原因は見当たらなかった。そして実技訓練以来、授業を担当したオールマイトも彼女に対して何かを察したような様子だったこともある。それらの事実が余計に疑念を加速させた。

 

 そして、今回の事態に繋がる。怪我を負ってこうも冷静にいられることが不思議でならない。そもそも、警報が鳴っているのにも関わらず、何故ここにいるのか。疑念が疑念を呼び、ヴィランと接敵したという報告さえも信憑性に欠ける……もしや、今回の騒動はコイツがやったのではないか? 可能性は0ではない。俺は質問を増やして、話に荒がないか探ることに決める。

 

 

「ヴィラン……だと? 萬實黎、その人物の外見や個性……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 ――刹那、そんな邪念は一瞬で吹き飛んだ。

 

 

 萬實黎の頬に、一筋の雫が伝った。そして、それを皮切りに止めどなく両目から涙が溢れ出す。最初は俺を信用させる演技なのかという考えが()ぎった。だが、ある事実に認識した途端それは誤りだと気付かされる。

 

 

 

 

 

 ――彼女は今、自身の(かんじょう)を認識していない。

 

 

 息を飲んだ。矢継ぎ早に状況報告を行う彼女は感情が薄く無表情。だというのにも関わらず涙は止まらずに、拭う様子も皆無だ。その異様な光景に俺は、呆気に取られた。刹那、今まで行ってきた推測が外れていたことを察した。

 

 萬實黎は、決して異常な人間では訳ではなかった。成長が異常だったのではなく、彼女自身が異常なまでに成長を望んだんだ。そうしなくてはならない何かがあったのだろう。その実態が何なのか、俺には知る術がない。だが、現に彼女は雄英入学までにその身に余る力を身につけた。思考と感情は相互に作用するが別物だ。彼女は後者を無視することで、能力を引き延ばしたのだろう。究極まで俯瞰して考えを実行するために感情を封じたのだ。だからこそ、今まで良心の呵責や失敗への恐怖を無視して、異様なまでな実行力で課題をこなせた。

 

 だが、それは諸刃の剣に他ならない。いくら精神に蓋をしようが、人間である以上何処かで限界が来る。それが今だったということだ。本物の悪との対峙。他者から受ける敵意と殺意。恐らく、先ほどまではそれら対する恐怖を押さえつけて対応していたんだろうが、ヴィランを退けた事実と身の安全が確保されたことを理解したがために緩んでしまった。押さえつけていた精神が恐怖によって決壊。身体が涙腺を緩ませるという行動を無意識に取らせた。だが、思考はそれを無視し続けているが故に、自身の涙に気付かないという乖離的な行動を引き起こしてしまったというわけか。

 

 

「……いやいい。それは後だ」

 

 

 俺の問いに応えようとする彼女を遮る。そして俺は、彼女を正面から自分の胸へと抱き寄せた。

 

 

 

 

「……大丈夫だ、安心しろ。もう、ここに敵はいない……よく頑張ったな」

 

 

 

 

 黙って抱擁を享受するのは、戸惑っているからだろう。恐らく俺の言った事も理解できていないはずだ。対する俺は後悔、罪悪感、贖罪……様々なマイナスの感情が渦巻いていた。今すぐにでも、自分を殴り飛ばしてやりたい。彼女に「すまなかった」と謝罪を述べたい。だが、俺はプロヒーローであり、教師だ。自分がやりたいことをするために居るんじゃない。未来ある少年少女を、間違った道へ歩ませないために雄英(ここ)に居る。だから――。

 

 

 

 

「大丈夫、大丈夫だ。だから――」

 

 

 

 

 月並みな言葉しか吐けない。お前が苦しんでいる理由も分かってやれない。あろうことか疑うことさえした。教師失格もいいところだ。だがこれは、これだけは……今のお前に伝えさせて欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もう、泣くな(無理するな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、自身が泣いている事を認識した萬實黎は、以降も戸惑った様子を見せていた。だが、数秒と経たない内に、堰を切ったように泣き始める。そんな彼女にかける言葉も無く、俺はただその背中をさすることしかできない。それが正しい判断かどうかも分からなかった。けれどその時、俺は確かに――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――合理性という考えを、確かに忘れたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 いやーめっちゃ泣いたわ(スッキリ)

 

 

 

 いや、人肌って死ぬほど安心するんですね。あ、ヤマシイ意味じゃないよ? ただやっぱり体温を感じると人間って安心するんだなーって。まさか、相澤先生があんな事してくるとは思いませんでしたわ。てか、泣くなって諭されてんだから泣くなよわたし。ダチョウじゃないんだから。ん? なんで泣いてたのかって?

 

 そりゃまあ、えーっと……あれですよ。うん、怖かったからですよ? 安心すると泣くってマジだねあれ。迷子の子供がお母さん見つけたとき安心感で泣くのはあんな感じなんだろうか。え? なんで気付かなかったのかって?

 

 

 

 

 

 

 いや、目から血出てるんだから気付く訳ないだろ!

 

 

 いつの間にか血涙が普通の涙にジョブチェンジしてるとは思わないやん。わたしだってびっくらこいたわ。いやまあ、泣いてるって分かった後は、普段のストレスも相まってそのまま普通に泣いちゃったんだけどさ。寧ろ、よく今まで泣かずにやってこれたよ。中1のときに覚悟は固めたと思ってたけど、やっぱりどこか現実感なかったんだろうね。死と隣り合わせって状況をを体感して、頭が追い付かなくなったってとこでしょ。

 

 でも、先生相手とはいえ、大泣きしたのは結構恥ずかしいわ。なんなら、精神年齢で言ったら相澤先生より年上な訳だしね。あ、けど泣き終わった後はなんかよく分かんない事言われた。「自分を追い込むな」とか「もう少し素直になれ」とか。

 

 いやわたしだってゆる~く生きていきたいし、なんならこれ以上ないくらい自分に正直に生きてますよ? ヒーロー目指したいからじゃなくて、死にたくないからこの学校に来た訳だし。そういう意味を込めて「大丈夫ですから」って返したら、なんかすごく物悲しい顔で「……そうか」って言って保健室に連れてってもらった。そんで放課後にヴィランについて事情聴取したいけど頼めるかって聞かれて普通に頷いたら「無理だけはさせない。だから安心しろ」だとさ。マジでどうしたの相澤先生? めちゃんこ優しくなりすぎじゃん?? そろそろ優しすぎて逆に不安になってくるよ???

 

 そんなこんなで保健室でばーちゃんに治療されて、さっさと午後の授業のために教室に戻った訳なんだけど。なんか緑谷少年が飯田少年を委員長にするって公言してた。そんで、職員室に行った本来の目的を思い出したから、わたしも便乗して八百万ちゃんを推しといた。断られそうになるけど、わたしより講評上手だったからって説明(いいわけ)してゴリ押す。そしたら感激されて、めっちゃお礼言われた。わたしも八百万ちゃんも満足できるすーぱーうぃんうぃんな関係になれて非常に満足。うんうん。

 

 

 

 そんで、それを眺める相澤先生の視線が妙に穏やかだった。すっげぇ寒気がしたのは気のせい……だと思いたい(アイデアロール)。

 

 

 




相澤先生「そんな自主的に頑張り過ぎなくてええんやで」

奏ちゃん「状況が強制的に頑張らせてくるんだよなぁ……」


 
勝手に相澤先生がシリアスになる話。そんで半分くらいあってるのが質が悪い。

後、魔術の説明せいで死ぬほど文字数増えたのは遺憾。型月らしいといえば型月らしいんだけども。




【オリジナル魔術のFGOでの性能】


『オシリスの裁定』

・善属性の味方もしくは敵単体に、弱体無効を付与(1回)・精神異常耐性UP(3ターン) または、悪属性の味方もしくは敵単体に、スタンを付与(1ターン)

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