ガンドォ! 作:brain8bit
いい加減自分の無能さに嫌気が指す。何度同じことを繰り返すつもりだ。戦闘訓練から何も学べてねぇ。今の今まで宣戦布告した奴の顔さえ忘れていた。コイツが俺たちの常識の範疇を超えた何かを仕掛けてくるのは読めてたことだろうが。クソ親父に気を取られ過ぎだ。
『ここに来てトップ入れ替えだァ!! だが、いつの間に追い越したんだァ!? 皆目見当もつかねぇぞォ!!』
プレゼント・マイクの言う通りだ。今は後悔なんざどうでもいい。コイツがどんな手段で先回りしたのかなんて考えてる場合じゃねぇ。何を仕掛けてくるかだけ見極めろ。レースはまだ終わっちゃいないんだからな。
「不機嫌そうな顔。楽しくないの?」
「……楽しい、だと?」
意味がわからねぇ。楽しい? 無為に個性を晒し上げられるレースの何処が楽しいってんだ。こんなのクソ親父を見返すだけの機会としての体の良い手段に過ぎない。1位になる事以外に興味はねぇ。
「まあ、わたしには関係ないけどね」
「! おい――」
その姿を呆然と眺めている事に気づいたのは数秒経ってからだった。あろうことかアイツは脇目も降らず走り出したんだ。その姿を俺は目の前を通り過ぎるまでただただ傍観していた。
『なんだどうした何があったァ!? 萬實黎が走っていく先は第二関門……コースは逆だぞォ!!』
『姿が見えないと思ったが……初めからそのつもりだったのか』
『どういうことだミイラマン! 解説してくれプリーズ!?』
盛り上がる実況が耳に入り意識が覚醒する。目で追っていた萬實黎の後ろ……いや正面から影がもう一つ躍り出た。いよいよ追い付いてきやがった。スロースターター、この競技じゃあ持ってこいな訳か。
「待てや半分野郎ォ!! そんでテメェは何してんだ能面女ァ!!?」
爆豪……個性の相性は良いとも悪いとも言えねぇ。萬實黎に気を取られている今のうちにさっさと退散するべきだ。萬實黎の行動は意味不明なままだが、これ以上足を止めるのは愚策だろう。今までのレベルを鑑みてこの先の障害物の難易度もそこまで高くはないはずだが、用心に越したことはない。
「テメェ本気出すって言ったじゃねぇか! 騙しやがったのかコラァ!!」
「騙してない。わたしはわたしで本気出してる。だからホラ――」
「
「ぐッ!?」
「がぁ……っんだコレ!?」
体が重い……!? 他人に対して何かしらの効果を与えるっつー萬實黎の個性か!? 厄介なもん押し付けやがって……! だが、辛うじて動く程度の重さだ。問題は――。
『アイツはこの競技で勝つ事に拘っていない。それは単純に、アイツにとっての勝利条件が他の奴らと異なっているだけの話だ』
『そいつぁ……じゃあ、萬實黎にとっての勝利条件って何なんだYO』
『見てれば分かるさ……そろそろ頃合いだろう』
『おぉ? おぉぉ?? OH YEAH!!?』
『萬實黎の横を通りすぎたヤツらの勢いが増してるぜェ!? 喜べマスメディア! お前ら好みの展開だァ!!』
◇ ◇ ◇
やっほー。奏だよー。時間的には轟少年が入り口付近の人たち軒並み凍らせた辺りですね。キンッキンに冷えてやがる。あ、これ言ったの試験会場ぶりだわ。
やっぱり正面突破じゃ上位にはいけないですね。生身であんな大怪獣バトルみたいな現場に突っ込むとか自殺行為に決まってます。お、3人ぐらいが人混みの上を飛んでった。空中でも機動力ある人たちは楽でいいですね。
あ、やる気あるのが珍しいと思います? そりゃあ、ずっ友マイワイフ(候補)のお茶子ちゃんと約束しましたから。「頑張ろうね!」って言われましたし、それなりに誠意を見せようと思いまして。でも、正直難しいよね。外周4㎞を走るだけだったら余裕なんですけど、バリバリ妨害とかされるのは辛い。なんとか人目に着かないで完走する方法ないかなぁ。
お?
閃いた気がする。けど、これ絶対わたし脱落するよね。屁理屈の塊みたいな理論で駄々こねる事はできるかもしれないけど……いや、待てよ。最大のメリットは実はそこにあったりもするのではなかろうか――。
「……行きますか」
最初だけ運が絡むけど、それくらいは我慢しないとね。そろそろ氷が溶けて全員動き始めたし、これにわたしも乗じるとしましょう。この策を講じる上で一番めんどくさいのがカメラですよカメラ。目立った行動はすぐさま上映されるからね。ある意味斥候の動き方を鍛えられるいい機会かもしれないですけど、今じゃなくて良くない? わたしは悲しい。
ちょっと見回すだけでも結構な数仕掛けてあるのが見える。死角とかあったりするかな? あんま無さそうですね。でも、こんだけあるって事は一片に監視するのも大変だろうから、本当に目立たなければって感じする。候補としては壁際か。一応コースの端は高さ数十センチの板で舗装されてるっぽいし。半分以上のカメラから身を隠せるなら御の字でしょう。
よし、じゃあみんなと移動しつつちょっと足並み遅らせて……ここを
そう、わたし今から『逆走』をします。
利点は競争相手がいなくなる事、欠点は予選落ちする事。以上。
まあ、正直なところわたしにとっては早く終われる口実になるんで欠点らしい欠点ではないんですけどね。元々は予選落ちして退場するつもりだったので。爪痕を残せたら特に順位に興味はないよ。その爪痕も後付けの産物だからわたしの意志はまったく介在してないのだけども。
さーて、壁に沿ってスニーキングして数分。開けてる場所が見えてきたけど、あれが障害物なのかな? なんも無いように見えるけど。
おい何だこのドクロマークは(迫真)。
どう考えてもオシオキだべぇ的なヤツじゃないですかコレ。マジで言ってるのこの学校。わたしってか生徒の何人かが死ぬのでは? 流石に致死性は無いと信じたいけど……怒りのデスロードとかマジ勘弁して。
あぁ~、うっすら地面に跡は見えますね。見た感じこのエリアは200~300mぐらい……這って行けば何とかなりそうかな。目を凝らせるし、カメラの視線は切れるからそれが最適解な気がする。
よーし、やってみよう。後、なんかに使えそうだから何個か持っていってしまえ。地雷ならスイッチ式だから取り扱いは注意しなきゃなんないけど、最悪押したら押しっぱなしにしとけば爆発はしないだろうしね。ひぇ~、恐ろしや恐ろしや……あれ?
...10分後...
総評:『クッソ簡単だった』
見掛け倒しにもほどがあるよ……製作者の想定された状況ではなかったのが功を奏しましたね。そんなに敷き詰められてるわけじゃなかったから助かりましたわ。等間隔に約50cm。周りからの妨害があるわけでもないので意外と楽勝でした。確かに、後半向きの障害物なのは納得。先頭ほど不利になるわけですし、順位総入れ替えのどんでん返しも起こりうる。まさに、メディアを意識する上では十分なエンターテインメント性と言えるでしょう。なんかスマンな雄英高校……。
さて、気を取り直しまして走っていきましょう。ここ通り抜ける間のマイク先生の実況を聞いた限り、早くも先頭は第二関門を終えるっぽい。しかも、トップは相変わらず轟少年のままだそうで。しかも、一度も追い抜かれたりしてないみたいです。分かってたことだけど、凄いね轟少年。個性自体の性能もそうだけど、それを制御できるだけの技量も凄まじい。流石、推薦入学者ってだけはありますわ。まあ、その鼻っ柱を叩き折るために逆走してきた訳なんですけどね。
あ、見えてきた。どうやらあっちもこちら気付いたご様子。とりあえず挨拶は大事だな。ドーモ、トドロキ=サン、バフモリウーマンです。
「…………」
……無言は悲しいから止めちくりー。物凄くムスッとした顔してますやん。ずっとトップで走ってきたのにどうしたんですか。さぞ気持ち良かったでしょうに。わたしがマ○オカートで同じ状況だったら笑いが止まらんぞ。
「……楽しい、だと?」
えぇ、なにその某メモ帳付きポエム集みたいな反応……(困惑)。そんなに衝撃受けるポイントだったか? なんなら、わたし個性も使ってもないし、月牙天衝だって受け止めてないよ? まだ完全虚化には早いと思うの。え、違うかな? わたし何か間違ってるかな??
「…………」
と、とにかく、ここはスルーしようか。振ったのはわたしだけど、轟少年なんも答えないし気まずいし。あんまり古いこと引きずるのは良くないよね! わたしはわたしが今成すべきと思ったことを信じましょう!
「! おい――」
「そっちは逆だ」って言うんでしょう? ふっふっふ、そんな在り来たりな台詞を掛けられて止まるわたしじゃありませんよ。口数が少ないんだから、もうちょっとユーモアのある語彙を覚えて出直してきな! じゃないと女の子は振り向いてくれないぞっ☆
「何してんだ能面女ァ!!? テメェ本気出すって言ったじゃねぇか! 騙しやがったのかコラァ!!」
ぎゃああぁああぁぁあ!!?
アイエエエバクゴウ!? バクゴウナンデ!? え、追い付いてきたんですかそうですかおめでとうございますぅうううぅぅ!?
い、いや、騙してませんって! わたしなりに考えた結果なんです! だから怒らないでお願いします!信じてください何でもはしません!! あ、ダメだこれ。絶対に納得せぇへんヤツや(悟り)。クッソこうなったらさっさと退散してくれるわぁ! 食らえ約10話分(当社比)開けて久方ぶりの例のヤツ! 御唱和下さい、せーの――!
「
「ぐッ!?」
「がぁ……っんだコレ!?」
逃~げるんだよぉおぉぉぉ!! お前たちはそこで奏特性改良型ガンドを堪能してなぁ! まあ、改良っていうか殆どオリジナルに戻しただけの魔術ですけどね! 以前試験で使ったヤツはイメージを某うっかりさん仕様にしてたから物理的なダメージもあったんだけど、今回のは少し違います。
ほら、ガンドってFGOだと数秒間完璧に動き止める魔術でしょ? 前にわたしが使うスペックだとかなり型落ちするって言いましたよね? ですので、数秒どころかコンマ数秒しか止められん訳でして、どうしよっかなーってずっと悩んでたんですよ。そしたら、天恵が降りて来ちゃったんですね。
逆に考えるんだ。(性能が)落ちちゃってもいいさと。
つまりですよ。完全に動きを止められなくても、ある程度の荷重があれば動きを鈍らせることはできるんです。なので、行動不能の精度を落して、効果時間を引き延ばそうと試みたのが今回の事例になります。いやぁ、割とすんなり形に出来ましたよ。というのも、これに関しては早々にわたしのイメージが固まりましてね。お風呂で頭洗ってたらビビッて来ちゃいました。ほら、シャンプーって少なくなったら水足して薄めて使いますよね? あれと同じです。いや、しょーもない例えで悪いとは思ってるんですけど、死ぬほど納得がいってしまったので致し方なし。庶民の発想なんてこんなもんでしょ。本物の型月魔術師が聞いたらブチギレるやろなぁ……主にMs.うっかりとか借金背負った時計塔のロードとか。
まあ、結果的に棚ぼたで性能は本来の北欧の呪いみたいな感じ仕上がって、イメージもばちばちに固められたって寸法です。寧ろ、試験の時の奴の方がイメージ固めるの大変でしたよ。なんですか、指から撃つって。霊丸撃ってはしゃいでたのは一世代前だっつーの。ガンドって普通は風邪引かせるショボい呪術だからね? 改めて言うけど、銃弾みたいにぶっ放したり、神性持ってる英霊を止められるような代物じゃないからね?? 映像のついてる使用例がオカシイだけだからね???
よぉーし、そんなこんなで解説終了! そして、走り続けたおかげで見た事あるやつらに遭遇です! A組の皆、元気しとぉや!!
「萬實黎……!?」
「か、奏ちゃん!? なんで前から走ってきてんの!?」
いい反応しますねぇ。そうそう、こういうので良いんだよこういうので。
さて、君らには今から仕事をしてもらいます。何が何でもあの2トップを叩き落としてきなさい。今、彼らの足止めしてきたから頑張ればイケるはずですよ。今なら予選トップ入賞も夢じゃないのです。
「え、えぇええぇ!? でも奏ちゃんは!? 思いっきり逆走しとるやん!!?」
えーっと、それは……ほら、わたし後衛職な上に自分にバフ掛けられませんので、この競技だと死ぬほど厳しいというかなんというか。デバフも単体系ばっかりな上に、今回はこのカルデア戦闘服に見立てた体操服と、下着代わりの水着礼装しかないのでどう考えても負けは明白なんですよ。え? 素の身体能力だけでも十分いける? うん、言いたいことは分かるよ。最初から勝ちを捨てに行くなんて、そんなの認めないよね。そうかもしれないけどさー、言われちゃったんですよわたし。
『――お前らには、勝つぞ』
『俺の全てをかけてねじ伏せてやる……忘れんじゃねぇぞ』
今のわたしじゃ逆立ちしたって彼らには勝てない。この予選で1位は疎か突破すら怪しい。そんなことは分かりきった事実なんですよ。だったら答えは決まってるじゃないですか。
「――棄権上等。彼らに勝てるなら、わたしは体育祭を捨てる」
……まあ、これが最低限の義理ってもんでしょう。爆豪少年には死なない程度にやってやるって言っただけで、正直やりすぎな気もするけどね。ふたり同時にトップから引きずり下ろすためには、こんぐらいしないと不可能だと思うし勘弁してほしいな。他力本願の極みだけど、わたしはわたしのポリシーを貫くだけです。
――怠惰も極めれば勤勉なり
何処の誰が言った言葉かは忘れたけど、ずっとわたしの座右の銘として刻まれている言葉。怠けようとするのは楽がしたいから。楽をするために人は効率化を図ろうとする。効率化は対象を深く知らなければ不可能なもの。故に、本当の怠惰を求める人間はいずれ勤勉に至るのだ。
でも、それって当たり前のことだよね。だって人間は楽を求めて生きるものだもの。愛楽、快楽、慰楽、娯楽……それらを得るために、必死にはたらいている。人がはたらくのは外でもない、その先にある『楽』を求めているんだよ。だとすれば、ほら。わたしの行為は至極自然でしょ? 自らの「安楽」のために、この
「……さ、行って。良い順位を勝ち取ってきてよ」
持論の説法はここでお終い。そんなわけですから、皆さんには是非とも頑張ってもらいましょうや? ほらほら、良い順位になりたいでしょ? ゲスい? はっはっは、何とでも言うがいいさ! 動き出した歯車は自ら止まることは出来ぬ! それはこの体育祭自体が中止にでもならん限りあり得ぬ未来なのだよぉ!! うぁっはっはっはっは!! 是非もないのぉ!!(cv.釘宮理恵) お前たちはわたしの体のいい駒となるのだァ!!
「…………うん、わかったよ。奏ちゃんの覚悟、ちゃんと受け取ったから」
「あぁ、そうだな……勝つぞ。お前が託した想い、絶対無駄にはしねぇ!!」
「お前らァ!! 全員最後まで諦めんじゃねぇぞ!! 学年主席の果たせなかった勝利を俺たちで勝ち取るんだァ!!!」
…………んんん?
あ、あれれ? 皆さん随分やる気じゃないですか?? あの、こういう言い方するのアレなんですけど、あなた達は利用されようとしてるんですよ? わたしの勝手な私利私欲……基い自己満足の道具にされるんですが……。お、怒ってもらっても全然構わないんですよ!? てか、ちょっと待って!? 最後の別のクラスの人だよねぇ!!? なんか辺り一帯が感化されてるんですけど!?
『クレェエェエエバァァアアァァァ!!! 脱落確定なのになんて熱さだよ萬實黎ぃいいぃぃい!!!!』
『青臭すぎ……ッ! 久方ぶりの特大青春のかほり……ブフッ(鼻押さえ)』
増 え な い で 頂 け ま す ぅ ! ?
さてはお前ら全員天然だなぁ!? そんな都合の良い解釈があってたまるかってんですよ! お花畑通り越して桃源郷が見えてくるわ!! い、いや、まだ希望はある! 相澤先生!! 貴方ならわたしの目論見ぐらいお見通しですよね!? 相手をキチンと分析して戦闘を構築する個性殺しのスペシャリストの貴方なら――。
『名が体を成すように、個性は当人の在り方を示すものだ。『
なんでさァアァァァアアアァァァ!!???
頼みの綱があっさり切れたよぉおおぉぉ!!! 一切目立たたないのは無理だと思ったから評判下げる方向で調節しようと頑張ってんのになんでアゲるんですかぁあぁぁぁ!!? 我、盤外戦術でしか勝てない後衛職ぞ!? どう考えてもヒーロー目指す人が使う手段じゃないのに何故称賛される!?
どどどどうしよう!? なんか気が付けばやる気出して走っていく人がどんどん増えて収拾がつかないですぅ!? この光景、前にも見たことある様な気がするのは気のせいじゃないですよねぇ!?
『御膳立ては済ませた。アイツの一声でこの第一競技……全てがひっくり返るぞ』
わざとやってんのかホント!!? アンタらわたしをどうしたいんですかぁ!? 本人の意向お構いなしで草も生えないどころか焼け野原なんですけどぉ!!? え、なんで唐突に無言になるんですか。一声って何。あ、もしかしてこれ何か言うの待ってる感じ? いや、そんな馬鹿な……ファッ!? カメラが全部こっち向いてるゥ!!?
『さぁいよいよこの予選もクライマァァァッックス!! 熱血少女萬實黎の奇想天外な逆転劇が始まってしまうのかァ!? 打倒トップだけのために自分を捨てた女の目論見は、果たして成就となるのかァ!? 今、全ての1年生がアイツの想いを受け継いで突っ走ってくゥ!! 』
え、ちょ、無理無理無理!!? わたし少年漫画みたいなボキャブラリしてないって、選手宣誓のときから言ってるじゃん!? いや、でもこれ以上は間が持たないし……あぁ、もうこうなりゃ自棄じゃあ!! いっつも自棄にさせる神様なんて大っ嫌い!!!
「
「
◇ ◇ ◇
正直、意味が分からなかった。順位を捨てて勝ちを取る。大衆から得られる名声を捨て、自分のやりたい事をまっすぐに追える彼女が心底理解できなかった。だが、結果的に周りからの注目を得ている彼女のやり方は効果的なものとしか言いようがなかった。
だが、そもそもそんな事する必要があるのだろうか。普通科にいる自分とは違う、恵まれた個性を持っているはずのA組が、順位を捨ててまで動く必要性なんてあるはずがない。
「あ、もしかしてあの子……」
隣の同期が思い出したように口を開いた。自分はどうしたと、その続きを促す。なんとなくだが、その答えが俺にとって必要なものになると思えたんだ。この疑問に、そしてこの体に帯びる確かな熱に。
「いやね? 実は入試の時さ、私めっちゃ調子が良かったんだよね。なんていうか、自分の限界を超えた力を引き出せてる感じ? あの時は日頃の成果が出てるのかもーって思ってたんだけど……今もそれと同じ感覚なんだよね。だからもしかしてって思ってさ」
「……なんだよ、それ」
まだ、彼女の全貌が分かった訳ではない。今の言葉だって推測に過ぎない。だが、仮にそうだとしたらだ。入試の時、彼女は誰もが蹴落とし合う中で、自分を捨てたという事だろう。聞けば、後になってからその行いが加点される評価があると発表されたらしい。彼女はそれを知っていたのだろうか? 仮にそうだとしても今回の事には説明がつかない。例え、ここで衆人に多少のインパクトを与えたとしても、この後の競技に残ることはないのだ。それに何の意味がある?
「まさか、いや……そんな訳――」
脳裏に過ぎる一つの仮説。認めたくなかった。だって、それを認めてしまったら自分は何なのだ。
「……確かめてやるさ」
もう一度、ありえないと心の中で締めくくる。ありえるはずが無いんだ。A組の連中が、戦闘に向かない個性を持っているなんて。
書いてるキャラがどんどん卑屈になってるのは気のせいじゃないはず。そもそも心操が言う恵まれてる奴の範囲ってどこまでなんですかね?
心操「良いよなぁ恵まれた奴らはァ!!」
筆者「…………葉隠ちゃんは?」
誤解しないでいただきたい。私は葉隠ちゃん大好きです。