ガンドォ!   作:brain8bit

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 今話にて多数のご意見が寄せられましたので、修正した上で再投稿させていただきます。感想にて進言してくださった皆様には感謝しております。


第17話「揺れる回るブレるさもないわたし」

 涙は拭かない。だってもう流れていないもの。理由? 枯れ果てたんですよそれくらい察してください。

 

 いや、真面目な話意気消沈している場合じゃないんですホント。テンション上がってみんなが突っ込んで行くのはもう勝手にしやがれって感じで割とどうでもいい。問題はさっきから上空に飛んでるアレですよアレ。

 

 

 

 

『『『ブブブブブブ……』』』

 

 

 

 

 親方空からドローン(群れ)が!!

 

 

 

 進めど進めど上からカメラが追って来るぅううぅぅ!? いや、薄々予感はしてたけど! みんなの解釈がPlus Ultla!!しちゃった時点でこうなることは読めてたけども!! 延々と駆り立てるように追ってこられると手が抜けねぇでしょうや!!?

 

 

『ツートップに今までの疾走感は見る影もないぜェ!?死ぬほど体調が悪そうだァ!! ホラホラホラ追いつかれちまうぞォ!?』

 

 

 あ、そうなんだ。一体誰のせいなんでしょうねぇ(すっとぼけ)。

 

 

 とまあ、冗談はさておき。あっちは大方予想通りの状況っぽいですな。まあ、わたしも悠長に足踏みしている訳にもいかないので頑張りますが。というか頑張らざるを得ない状況ですので(上方確認)。妨害されないなら、地雷エリアと同じでただの綱渡りですし。雲梯(うんてい)と同じ要領で渡れば大したことない。というかお茶子ちゃんとあった時点で半分終わってたしね。

 

 さーて残り半分、対面で渡ってくる人を避けるのは骨が折れそうですけどやるっきゃない。というかですよ、跳躍とか飛べる個性持ちの人たちズルくないです? だってめっちゃ楽じゃんあんなの。梅雨ちゃんとか余裕綽々だったしマジうらやま。飯田少年見たときは吹きそうになったけど。あ、平等に全体強化はかけときました。

 

 まあ、文句言っててもしゃーないしとりあえず進みましょう。こちとらか弱い後衛職だからお手柔らかに頼みま――。

 

 

 

 

「……ふっふっふ。そこの貴女、よろしいですかぁ?」

 

 

 

 

 

 ふぉう!?

 

 

 

 なんだこのゴーグル!? 死ぬほどビックリした……っておっぱいでっか!!? 何その欲張りバスト!? 高1でその大きさは大事件です!? 八百万ちゃんを越える逸材かもしれんぞこれ……はっ!? いかんいかん、我を忘れてガン見してた。えっと、何かご用件でしょうか?

 

 

「貴女、すごく目立ってますよねぇ。それでいて、この第二関門を素の力のみで突破しようとしているご様子……ここでひとつ、良い話があるのですがっ!」

 

 

 い、良い話? それは一体……あ、すっごい悪寒がする。これは早めに断るべきだと本能がアラートしますね間違いない。すみませんが、結構で――。

 

 

 

 

「そんな貴女に私のどっ可愛いベイビーをお貸し致しましょう! この子があればこの第二関門も楽々突破できることをお約束します!!」

 

 

 

 

 間に合わなかったよコンチクショー(遺憾の意)。

 

 

 

 え、てか何このマシーン。なになに……腰のそれがワイヤー射出装置で、その靴はホバークラフト搭載のスーパーシューズ、そいで背中にあるのは補助用のブースター。崖に目掛けてワイヤーをジップラインの如く撃ち込んだ後に、巻き取って壁をホバーで昇る? 後はこのヌンチャクみたいなコントローラーだけで操作できると。ふむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ア ホ か。

 

 

 

 

 え、端的にわたしに死ねと言ってるのか? そんな危険な登り方普通やります? 壁に激突するとか、機械の不具合とか不安要素しかないですよね? いや無理無理無理。やらないよ? 例え、この場のベストアンサーだとしてもやらないからな?

 

 

 

「……別にいらないけど」

 

 

「ふふふ、良いですねぇ……ひと昔の芸人もやる時は必ず否定から入ったのだとか。素晴らしい返事が聞けて嬉しいですよ!」

 

 

 いやダチョウじゃねぇよ!? 何この子ストレートで投げた球をナックルって言い張るんですけど怖すぎィ!? ちょ、何で腰に手を回すんですか! ベルトの採寸ってやらないって言ってますよね止めてくださ、おぉふ……お腹に発育の暴力がぁ……!?

 

 

「ふむふむ、なるほど。計測は終了ですので、後は取り付けるだけですね! ちょーっと失礼します!」

 

 

 あ、はい……お構いな……くねぇ!? 何かもう腰につけられてるぅ!? 片足も既にシューズ装着済みだし準備ほぼ完了です!? ストップ! ストーッップ!!

 

 

「むむっ、どうしました? あ、登り方のコツですね!? ご安心ください!!このベイビーには装着者の重心に合わせて最適な姿勢制御状態を保たせるブースト量を計算する高性能AIを搭載してますから初心者でも安全な使用を可能として――!」

 

 

 懇切丁寧な説明痛み入りますけど、そうじゃねぇんですよ!! 怖いからヤダって言ってんの! ちょ、ホント無理だから履かせないで! わたしは普通に行くからいらないんですってぇ!!

 

 

 

『おっとぉ! ここでサポート科からの支援を受ける萬實黎ィ!! どうやら逆走するにも全力をかけるらしいぜぇ!! コイツは見物だァ!!!』

 

 

 

 

 オォイ山田ァァァ!!!??

 

 

 

 お、おまっ……お前ぇ!! どうしてそんな血も涙もないことが言えるんだよぉ!!? 殺す気か!? 殺す気なんだな!!? わたしみたいにルールを破るようなヒーロー見習いを早々に消そうって魂胆なんだなチキショー!!

 

 

予行演習(デモンストレーション)は私が済ませてますのでご安心を! それでは快適なマウンティング・タイムをお楽しみください!」

 

 

 

 ――ドンッ

 

 

 

 …………へ? あれ? 地面がない――。

 

 

 

 いぃいいやぁぁあああぁあぁぁ!!!? 押しやがったァァ!? 押しやがったよあのおっぱい女ァァ!!? ちょ、死ぬ! マジで死ぬぅ!! 死にたくない!! これッ、使い方わかんな、あぁもうこのボタンか!?

 

 

 

 バシュッ!!

 

 

 

 アタリ引いた!? 次は巻き取りしなきゃならんのか、巻き取り、取り、トリガー! これかな……ってぅおわ!? すっごい勢いで巻き取……りィ!? 壁!? 近っ!? ホバー起動&着壁準備ィイィィ!! とっととぉ……! バランス結構、難っ……ほ? え、空中? あ、そっか勢いが死んでないからそのまま上に投げ出され……着地点は!? 真下ってオォイ!? 高さ的に流石に死なないにしても骨折するだろ絶対……あっ、このためのブースターーーッッ!!!

 

 

 

 

 ――スタッ

 

 

 

 

 はぁはぁ……し、死にかけた。マジで走馬灯が見える寸前だった。どうしてわたしがこんな命張った曲芸せにゃならんの……あの女マジ許さん。妨害でもなんでもありのコースだからお咎め無しだろうけど、限度があるでしょ!? 説明を聞き流したわたしも悪いけどさぁ!? 行きますよの一言ぐらいあってもいいでしょ!!

 

 

「素晴らしいです! 百点満点の使い方ですよぉ! その調子でどんどん目立って下さいねぇ!! あ、ベイビーたちは競技後に回収致しますのでお気になさらなくて結構ですよ。それでは、頑張って下さい!!」

 

 

 あ、ちょっと!! 話は終わってないんですけどぉ!! おーい!?

 

 ……と、取り残された。マジで押し付けるだけ押し付けて行っちゃったよ。えぇ……どうしようこれ……。使ってみた感じ理に敵った装置ではあったと思うけど、結局のところ怖いものは怖いしなぁ。正直、脱落が決定してる以上急ぐ意味もないし使う意味が見出だせな――(ちらっ)。

 

 

 

 

 

『『『ブブブブブブ……』』』

 

 

 

 

 

 ………………分かったよ!! やればいいんでしょ!!? 会場の皆様だけは失望させたくないですもんねぇ!? 選択権が無かったことぐらい分かってましたとも!! こうなったら使い潰す勢いで利用してやんよぉ!! ボロボロになるまで使って「壊れたから競技場に置いて来ちゃった☆」ってしいたけ目で報告するかんなぁ!! デバッグなんて取れると思うなよバーーーーカ!!!

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『さぁさぁさぁ!! 地雷原でのタップダンスもそろそろ終幕だぜェ! 選手入り乱れるこの地獄を生き抜いたヤツの姿が! 今!! 入場口に見えてきたァ!!!』

 

 

 マイクの実況に熱が入る。まったく、何故こんな所に座っていなければならないのか。そもそも、ミッドナイトが主審を勤めたいなんて言い出さなければこんな事にはならなかったものを……まあ、怪我をした自業自得と言われれば反論は出来ないがな。情けない話だ。

 

 

『おぉっと!? 二人分の影が見えるって事は相も変わらず轟と爆豪かァ!? 今年はエンターテイメント性に力を入れて、カメラは生徒たちの顔をドアップにして順位を伏せてるぞォ! ワクワクが止まんねーぜ! YEAH!!』

 

 

 本当にそれエンターテイメント性があるのか? それじゃ順位に至った仮定が分からん故に、人を選ぶだろう。合理的じゃない。後の選手の休憩時間に映像を流して間を繋ぐらしいが、他に詰め込める物があっただろうが。計画書の段階で、どう考えても予定を詰めすぎなのは明白だったというのに……毎年起こるイレギュラーを念頭に置いたら、終了時間ギリギリもいい所なことぐらい察せないのか雄英(ウチ)の教師陣は。

 

 ……あぁ、愚痴を言い出したらキリがない。ここらで止めておくか。競技に意識を戻そう。とはいえ、結果は大体予想がつく。あからさまにスピードの落ちたトップ周辺と勢いを増した3位以降、そして第三関門の障害物……良くも悪くも全員の足が止まる要素が揃っている。なら、導き出される解答は自ずと絞られてくるはずだ。

 

 

 

『見えたァ!! ゴールに向かって全力疾走するのは――』

 

 

 

 

『すべてを巻き込んだ女ァ! 逆走して脱落確定だが、その根性は男顔負けェ!! A組、萬實黎奏だぁ!! そんで、こっちは意外や意外ィ!! 今まで音沙汰が一切無かった男ォ!!』

 

 

 

 より多くの環境を利用できたヤツがトップに立てる。それ以外の可能性は低い。

 

 

 

 

『同じくA組ィ!! 緑谷出久ぅうううぅぅ!!!』

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 思えば、運が味方しただけだったんだ。

 

 最初に仮想ヴィランの装甲を手に入れられて、その装甲が最後の障害物を使うのに相性が良かった。もし、装甲で仮想ヴィランを倒せなかったら? 最後の障害物で使えなかったら? 本当に、全部運が良かっただけの結果論。偶然から得られた産物だった。

 

 発想の勝利って言葉があるけど、実際は発想だけで勝つことは難しい。多くの場合、状況の変化や当人たちにセンスや地力が物を言う。努力9割9分、閃き1分。かの天才発明家もそう言った。今回はその1分にありつけただけの話だ。現に――。

 

 

「くっ……! 足早すぎ――」

 

 

 全然、萬實黎さんを引き離せてないじゃないか。第三関門をひとっ飛びして、あからさまに距離的なアドバンテージを取ったはずなのに……。最初にゲートに足を踏み入れたのにも関わらず、追いつかれて今は並走している。入試前までのトレーニングや日々の訓練で少しはマシになったと思ってたけど……全然足りない! 素の身体能力じゃ完敗だ……!

 

 

「……頑張るね。わざわざ張り合わなくても1位になれるのに」

 

 

 話す余裕まであるの!? 体力測定や他の授業で理解はしてたけど、底が知れな過ぎるよ!

 

 

「……っだって……他のみんな、よりも……! 僕は、努力しなきゃ……いけないか、ら……!」

 

「そっか。頑張れ」

 

 

 話振って来たのにめちゃくちゃ応答が淡白!? なんで聞いたの!? って、スピード上げたぁ!? このままじゃホントに置いていかれてて……何か策はないか!? 一瞬でいい。萬實黎さんの足を止める方法を考えるんだ! 後の競技を踏まえたら、OFA(ワンフォーオール)はまだ使えないし一体どうすれば……はっ、そ、そうだ!

 

 

 

 

「ば……萬實黎さんは!! どうしてそこまで頑張れるの!?」

 

 

 

 

 咄嗟にそう問いかけた。もしかしたら、ずっと心の中にあった疑問だったのかもしれない。会話を続ければスピードを緩めてくれるかもしれないという相手依存の薄い確率。我ながら破れかぶれもいいところだと思うけど、それぐらいに余裕がないのは一目瞭然なのだ。今さら、形振り構ってはいられない……!

 

 

「大した理由なんてないよ」

 

「え、うわっ!?」

 

 

 緩めたっていうか完全に足を止めたぁ!? え、このまま追い抜いちゃうけど!? どうして急に――!?

 

 

 

 

 

 

 

「わたしは――ない。ただ、それだけだから」

 

 

 

 

 

 

 その言葉の肝心な部分を聞き取ることが出来なかった。会場の熱気と歓声が、僕を包んだからだ。直ぐ様、彼女の方へと振り向くが、後ろに居たであろう彼女の姿はない。見渡せば、選手入場口付近で赤銅色の髪が揺れていた。

 

 その後、結局僕は1位を譲るように止まった理由、そして最後の言葉をもう一度聞き直すことは出来なかった。何故なら――。

 

 

 

 

 

 

 

 言い表せないほどに高い壁が、僕の目の前に立ち塞がったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ば……萬實黎さんは!! どうしてそこまで頑張れるの!?」

 

 

 

 

 

 緑谷少年に問いかけられて、ふと思考がクリアになった。今のわたしが達成すべきプロット……確かに、深く考えたことはなかった。今一度、整理してみるのも良いかもしれない。

 

 

 

①選手宣誓における有言実行

 

 

 ルールこそ無視したが、周囲に迷惑はかけていない。むしろ、大いに競技を盛り上げた……達成済み。

 

 

 

②お茶子ちゃんに頑張ろうねって言われたから

 

 

 友達と約束したんだから最低限の義理を果たすのは当然。現に目論見である逆走が成功している……達成済み。

 

 

 

③轟少年と爆豪少年に因縁つけられたから

 

 

 逆走&デバフ付与で緑谷少年を追い抜かせてる時点で、実質的な勝利を勝ち取っている……達成済み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………おろ?

 

 

 

 え、確かにもう頑張る理由がないでござるよ。なんで、わたしこのまま一番乗りしようとしてるんですかね? 絶対目立つよね?? バカなんですかね??? 好意的な視線向けられて収拾つかないのに、どう考えても火に油でしょうが。あ、あっぶね~……やり場のない怒りに身を任せすぎた~……! どうやら、やらかし一歩手前で踏みとどまれたみたいですね。緑谷少年マジ救世主。

 

 よし、そう決まれば急ブレーキ。急ぐ理由も無くなったっていうか、たった今止まらなくてはならん理由ができた。それと、気づかせてくれた恩人に礼をせねばなるまい。うむ、君にはこの競技で紛れもない1位になる権利をやりませう。遠慮せずに持っていって欲しい。マッチポンプ? ナンノコトカワカラナイナー(口笛)。

 

 おっといけません、テンションを元に戻さねば。また、痛い目に合いたくはありませんからね。陰キャのテンションすら上げてしまう体育祭……あな恐ろしや。このまま走ってたら間違いなくストレスで胃に穴が空くどころか、心筋梗塞でリカバリーガール案件でしたよ。賢者モードにしてくれて本っ当に助かりましたよ緑谷少年! いやはや、またも自然にウィンウィンな関係を気付いてしまった自分の手腕が怖いわ。フハハハハハハッ!!(慢心)

 

 

 

 それはそうとて、あのマシーンのお陰でだいぶ楽できたなぁ。微妙なカーブとかは重心移動とワイヤーでなんとかなるし、誰もいないからぶつかる心配も無かったからね。ブースターとホバークラフトで競輪みたいなスピード出るのは、正直気持ちよかった。ただ、常時ホバー移動されることを想定してなかったのか、途中で機能停止したんですけども。急に止まったからつんのめって地面とお顔が急接近したときには、恋が始まるかと思いましたよ(顔面蒼白)。

 

 肝心のマシーン? 重かったんで外して置いてきましたよ。荷物背負って走るとか軍隊じゃないんですし。たまたま、第一関門でロボの残骸に隠すように置いて来ちゃったけど……特に他意はない!(キリッ)

 

 

 

 

 というか最近、ヒーローを目指す環境に慣れ過ぎて本来の目的を忘れてましたね。割とマジで正気を取り戻せて良かったというかなんというか。当初の思いを思い出せわたし。何のためにヒーローになったのかを。

 

 

 

 

 

「わたしは死にたくない(・ ・ ・ ・ ・ ・)。ただ、それだけだから」

 

 

 

 

 

 この世界で、わたしひとりでは生きて行けない。だけど、他人に迷惑はかけたくない。だから、お互いに利のある関係を作りたい。だったら、どうしようか。考えるまでもなくやれることは一つだけでした。自分の『個性』を活かすしかなかったんです。この超人社会で個性を余すことなく使える環境といえばもう簡単に想像がつくでしょう。リスク回避するために新たなリスクを背負っているけど、それは取捨選択と割り切るしかない。

 

 正しいかどうか考えるなんて無意味なんですよ。自分が許せる後悔を選んでいくのが人生なんですから、深く掘り下げるほど沼ってもんです。全ての我を突き通そうにも、どこかしらが反発するのが世の中。どこかで許容しないと潰れるのがオチだよ。

 

 

 さて、小難しい人生観ばかり話してても面白くないでしょ。試合的にも勝負的にも確かなトップ入賞を譲ったことですし、そろそろお暇させて頂きますかね。いずれ、面倒くさいメンツがやって来るのは目に見えてますからね。選手入場口へすたこらさっさですよ。クライマックスはもう見たんです。残すはエンディングだけ。もう泣いてもいいかな。

 

 

「奏ちゃ~ん! 待ってーー!」

 

 

 あ、天使の声が聞こえる。お疲れさまお茶子ちゃん。早かったね。わたしと緑谷少年がゴールインした後、秒読みで皆追い付いたのかな? それは何より……あれ、ちょっと待って? 後ろに誰もいないじゃん。なんで? どうしたのお茶子ちゃん壁抜けワープでもしてきたの?

 

 

 

「デク君が地雷の爆風で飛んだの見て、私も地雷と個性使って飛んで来たんよ! パクりとか思われそうだけど、奏ちゃん見てたら形振り構っていられないって思えたし!」

 

 

 

 びっくりするぐらいダイハードしてんねぇ(白目)

 

 

 おふたりさんの辞書に撤退の2文字はないんですか。スパルタ軍かな? え、というかですよ。お茶子ちゃんまさかの予選2位通過です?? ほ、ホントに大逆転かましてくるとは思わなんだぜ……流石わたしの未来のお嫁さん候補。これは子供を持ったら肝っ玉母ちゃんの称号を得ますね間違いない。

 

 

 

 

「私……心のどこかで諦めてたんだと思う。頑張ろうなんて言って、奮い立たせてさ。『やれるところまでやってやるー!』なんて意気込んでたけど……実際は自分の限界を自分で縛ってたんだ」

 

 

 

 

 うん。

 

 

 

 

「でも、奏ちゃんが託してくれたから……トップのふたりに勝つために全部を擲ってくれたから……! 私は目を覚ますことができたんだよ」

 

 

 

 

 なるほど。

 

 

 

 

「だから、奏ちゃん。奏ちゃんは私の……ううん! あの競技に諦めを抱いていた人たち全員のヒーローだよ。ホンマに……ホンマにっ……ありがとうね!!」

 

 

 

 

 大丈夫だ、問題ない(吐血)

 

 

 

 

 アカン。めっちゃ良い子なの忘れてた。さよなら安寧(クラッシュ)、お帰り胃痛(パートナー)。前向きな善意の全力投球もわたしにとっては死球も同然なのでNG。

 

 だが、それお茶子ちゃんからの試練だというのなら耐えきって見せよう! 数多のストレスを経験してきたわたしからすれば、この程度の胃痛なんぞ安いもんでさぁ!! 口元から垂れてる赤い何かを拭け? バカ野郎! どっかのご意見番も鼻水はダイヤモンドって言ってたでしょうがぁ! だからこれは血じゃなくてルビーなんだよ!!(意味不)

 

 

「……借りは返せたかな」

 

「ふえ? 借りって?」

 

「お茶子ちゃんがいなかったら、わたしは此処にいなかったから」

 

 

 これはマジ。体力測定のときに、お茶子ちゃんから個性を借りてなかったらわたしは確実除籍されてた。

 

 ヴィランとの一件があってから相沢先生本人から色々聞いたんですよ。去年のクラスを全員除籍にしたとか、受け持っていない生徒を除籍にして責任を問われ数年間クラスを受け持たなかった時期があったとか。当初はドン引きするような事件もいくつか聞かされたけど、相沢先生が本気でヒーロー育てようとしてるのは分かった。結果的に、あのときの除籍宣言が本気なのも察せれた。

 

 だからきっと、お茶子ちゃんに会えてなかったら、この場に立つことさえ出来なかった。ヒーローに成ることが正しいかどうかなんてまだ分からないけど、少なくともわたしは後悔していない。寧ろ、今回だって本気でトップを潰しに行ったり、テンションが上がった自分に気付かなかったりした。そう思えるぐらいには楽しいって感じてるんだと思う。口下手だからあんまり伝えれてないけど、わたしこそお茶子ちゃんに言いたかったことがあるんだよ。

 

 

 

 

「助けてくれて、ありがとう」

 

 

 

 

 すっごく似合わぬぇ台詞言ってる気がする。でも、紛れもない本心ですので悔いはない。冷ましたテンションが再度沸騰してきた感あるけど、なんていうか『まあ、いっか』って思えてるんですよ。青春の味ってやつなんでしょうな。甘酸っぱくて美味しくないけど飲み干せはする。これが若さか。おねーさん感激です。

 

 ん? てか、お茶子ちゃん固まってるよ。顔も赤いしどうしたんですかね? わたしまたなんかやっちゃいました?? あ、今の言い回しはなんかムカつく。主に転生味を感じる的な意味で。訂正、わたしまたアホなことやらかしました???

 

 

 

「……あ、えぇ!? いや、その……ううん! 何でもないよ! こっちこそ、ありがとうね!!」

 

 

 

 お、おう……? そうですね、いつもの調子に戻ったようで何よりですよ。お互い言いたいことも言えたし、絆も確認できたしでわたしは満足です。というか、そろそろ時間ヤバイのでは? みんな帰ってきちゃうし、なんならランキング発表あるかもだし。お茶子ちゃんは行った方が良いんじゃないですかね。わたし? わたしは、ほら……その、今はちょっとほとぼりが冷めるまで控え室に居ようかなぁと思いまして。なんだか絶対顔も知らない同期に囲まれる気がするんですよ。えぇ、絶対です。なので、早々に引っ込もうと思うんです。

 

 

「あ、そういえば奏ちゃん目立ちたくないんだっけ……でも、逆走した時点でこうなるのは大体察しがつくと思うんやけど……」

 

 

 言わんといて(涙目)。

 

 

 わたしだって多少は覚悟してたけど、ここまで大事になるとは思ってませんでしたよ……勝手に皆がよいしょするんだもん……分かってたらやらなかったですし……ブツブツ。

 

 

「だ、大丈夫だよ! えっと……ちょっと時間が経てばほとぼり冷めると思うし……あ、ほらっ、本選になればみんなそっちに気が向くはず!!」

 

 

 

 

 ……ホンマに?

 

 

 

 

「うん、ホンマに!」

 

 

 

 

 そ、そっか……うん、お茶子ちゃんがそう言うなら信じましょう。そうと決まれば観客席の隅っこで皆のこと応援してますわ。第二種目はわたしにはもう関係のない事だし、このまま控え室に帰るね。

 

 

「うん、お疲れさま! お昼休みにまた会おうね!」

 

 

 あいあいさー。健闘を祈ってますよー。

 

 さて、自販機で飲み物でも買ってから戻ろうか。あ、でも貴重品は置いてけって言われたから財布ロッカーの中じゃん。どのみち控え室に直行する必要がありますね……って、値段高ァ!? 飲み物1本200円超って足元見すぎでは!? 絶対、今日だけ値上がりしてるヤツだろコレ!? クッソ、今月は結構ピンチなのに……しゃーない、食堂の水で我慢するかぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『助けてくれて、ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 着飾りなんてない、素直な謝辞。普段だったら容易に受け入れたのだろう。けれど、付随するように私の視界に飛び込んできたソレが、決して忘れ難い代物にしてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……アカン、次の競技に集中せんと」

 

 

 

 

 

 

 目を瞑り、雄英で過ごした日々を想起する。端的に言って無表情、仏頂面、能面……女性に掛けるような表現ではない。だが、そう揶揄されても仕方のないほどに、数ヶ月間眺めてきた彼女の表情筋が動くことはなかった。

 

 

 

 だからこそ。そうであるからこそ――。

 

 

 

 

 

 

「……すっごい破壊力やったなぁ」

 

 

 

 

 

 

 どう頑張っても、彼女の微笑みが頭から離れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 





 発目ちゃんの力を借りて、緑谷とほぼ同着とさせていただきました。なお、緑谷はその事を知らないので素の身体能力と勘違いしている模様。

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