ガンドォ!   作:brain8bit

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 明けましておめでとうございます。




第19話「理不尽を問い質す日」

「この後の予定ってレクリエーションだよね? 何やるんだろう?」

 

 

 時計の針が正午を知らせる最中、お茶子ちゃんがそう聞き返した。テーブルには花も恥じらうJK4名。お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、八百万ちゃん、最後にわたしである。

 

 わたしたちのいる食堂は、多くの生徒で賑わっており、各々が食べたいと思った料理を嬉々として選んでいる。ちなみに、食堂の料理は雄英関係者なら無料(タダ)。臨時でランチラッシュ先生が厨房に入ったらしいので、どの料理もめちゃくちゃ美味しい。学食とはまた違った献立でランチラッシュ先生の至高の逸品を食せて、わたし幸せです。

 

 

「奏ちゃん、一心不乱ね。いつになく真剣な顔立ちだわ」

 

 

 まあ、わたしの数少ない楽しみだからね。心此処に在らずになってしまうのは当然の摂理なのです。口数が少なくなってしまうのは頂けないと自分でも思うけども。ごめんね、梅雨ちゃん。で、何の話でしたっけ?

 

 

 

「例年通りであれば、個性ありの借り物競争や大玉転がしなどの競技が催されるはずですわ。そこまで身構えるようなことも無いかと」

 

 

 

 知っているのか雷電(ヤオモモ)

 

 

 

 変な電波受信した気がする。まあ、スルー安定で。てか、八百万ちゃんがいるだけで自然に解説パートの導入になりますね。いやぁ、考えなくていいから楽だわー。これには世のヒロアカss作家もニッコリ(メタァ)。

 

 それにしても、運動会みたいな競技が目白押しですか。基本自由参加なんですかね? それなら全然文句はありませんよ。やりたい人だけがやるべきだと思います。レクリエーションって本来そーゆーものですし。

 

 

「それはそうと……やはり、本選に奏さんが上がれなかった悔やまれますね。学校でも幾度か機会はありましたけれど、直接試合うことはなかったので是非とも手合わせ願いたかったのですが……」

 

 

 負けるに決まってんじゃん!? 全身四次元ポケット相手に勝てるワケないですよ!? あ、でもガンド決めて寝技か絞め技にもっていければ勝てる気がする。その前に得物生成されたら多分詰みだろうけど。

 

 

「それでも奏ちゃんなら、最終的にはなんとかしちゃいそうだよねー。いざ戦いが始まったら一切容赦しないし」

 

 

 だって怪我したくないもん! わたし痛いの嫌いだもん!!

 

 平和が一番ですけど、身を守るために仕方なく応戦してるだけなんです……。これでも中学3年間は自分なりに対人前提の格闘訓練とかしましたし、それなりには対応できます(相澤先生には「粗が多すぎる」って言われたけど)。

 

 けど、自分からは絶対に手を出さない。だって、正当防衛じゃなくなっちゃうじゃん。先手を取るにしても、まず他人を使いますし。ゲスい? はっはっは、何を今更。最後に生き残っていた者が勝者なんですよ。強武器は使う、有能な味方は肉壁、強ポジは死んでも渡すな。これ現代兵法の基本。

 

 

「でも、レクリエーションかぁ~……私はパスしようかな」

 

「そう……ですね。(わたくし)も遠慮致しますわ」

 

 

 二人とも本選出るもんね。手の内晒したくない気持ちは分かる。お茶子ちゃんの個性はA組以外ならあんまり知られてないはずだし、八百万ちゃんも創造までの時間とか計られたら対策されかねない。トーナメントの相手がA組だったら意味ないんだけどね。

 

 

 というか、前々から聞きたかったんだけどさ――。

 

 

「どうして八百万ちゃんは、対人で銃を使わないの?」

 

「え?」

 

 

 ぶっちゃけチャカ出されたら、大抵の人は降参すると思うんですよね。ヒーロー業で殺しは御法度だから、ゴム弾とか装填する必要はありますし、目とかに当たったら失明の恐れもあるので使い所は難しいと思いますけど。それでも、個性の使用許可がある以上はルール違反じゃないから咎められないはず。

 

 あ、もしかしてやらないんじゃなくて出来ないのかな? 構造が難しすぎて創造は無理?

 

 

「い、いえ……その、なんというか。銃器を生身の人に向けるのは、少し抵抗がありますので」

 

 

 えぇ……そこ怖がるところ? そんならわたしはそんな事を出来てしまう個性を野放しにしてる国の方が怖いよ。だって考えてみ? 差はあれど、簡単に人を殺せてしまう個性が野を蔓延っているんですよ? そんな中で自己防衛の手段で四の五の言ってたら普通にお陀仏案件になりますって。殺す一歩手前の引き際を見極められるのがプロかもしれないけど、わたしたちはまだヒーローの有精卵。今は色々試して知っていく時期だと思うし、失敗が許される歳なんだからトライしていくべきだと思う。

 

 あ、別に未成年で犯罪しても許されることを示唆してる訳じゃないからね! 物騒なことはわたしだって嫌いだし、なるべく避けていくべきだと思うのは全然間違いじゃない。そこは肯定します。ただ――

 

 

 

 

 確実に不殺を実行できる人間って、殺しの経験がある人間だけなんですよね。

 

 

 

 

 まあ、これはさすがに誇張が過ぎましたけど、あながち嘘でもありません。だって、知識だけの加減なんて眉唾だもの。それが本当に加減できているかどうかなんて、実際に一線を越えた人間にしか分からないんですよ。もしくは、自身が生死の境をさ迷うことがあるか否かです。それも、個人差があったりするので確実とまではいきませんけど。

 

 

「個性を人に使うことと、人に銃を向けること。そこにどれだけの差がある?」

 

「……それ、13号先生も言ってたね」

 

 

 そうだね。なんでも塵として分解した上で吸引するブラックホールという個性を持っているからこそ、あの人の言葉には確かな重みがあった。それこそ、過去に失敗をしたことがあるからこそ、忠告してくれたのかもしれない。

 

 手加減云々を考えることよりも、まず自身が相手に向けている個性(モノ)がどれ程危険かを理解した上で。そして、そうすることによって自分が持つべき責任とは何なのかを、常々考えていかなきゃならないと、わたしも思うよ。

 

 

「法ではなく、道徳・倫理……ですか。言われてみれば人を救うことや、ヴィランを退けるために個性を使う事への疑念……正直、そんな所感を抱いた機会なんてありませんでしたわ」

 

「『個性は身体機能の一部』なんて声も聞くけれど、それだけで片付けられる程、単純なものじゃないのよね。だって、それが正しいのなら……無個性の人がもう少し住みやすい世の中になってるはずよ……ケロケロ」

 

「……私、何も考えてへんかった。ううん、考えてはいたけど、全部自分の価値観で判断しとった。あるのが当たり前で、使う事になんの躊躇いも無かった……これじゃあ、目的が違うだけで無闇に個性(ちから)を振りかざすヴィランと変わらへん……!」

 

 

 ん? んん~~?? あ、あれれ? あの、落ち込む必要はないんだよ!? ぶっちゃけこんな世界でこんな七面倒くさい御託をうだうだ並べている人の方が少数派なんだから!! 君たちは善行を生業としているヒーローを目指すために個性を振るってるのは知ってるし、ちゃんと意識さえしてれば問題ないことなんだよ! アカン、これはちゃんとしたフォローをせねば!

 

 

「……この問いには善悪の在り方が絡む。だから、絶対的な正解なんてない。けれど、それはわたしたちが思考停止していい理由にはならない。もし、考えることを止めてしまえば――」

 

 

 

 

 

「それは『人』ではなく『獣』に成り下がる」

 

 

 

 

 

 

 何 言 っ て ん だ コ イ ツ(わたし)

 

 

 やばい、テンパってごちゃごちゃした頭で話してたから自分でも意味わからん結論に行き着いた。しかも、めちゃくちゃ痛い方向に。なんだ獣て。個性と武器の差異についての話してて、なんで人が獣にトランスフォームする結論に至るんですかね。そこんところを何故と小一時間。あ、言い出したのわたしだったわ。うわぁ、3人ともキョトンとしてるじゃん……もぅマヂ無理ガンドしょ……。

 

 

 

 

「おっ、ここにいたか~」

 

 

「なんかえらい空気が死んでんな……4人共どしたよ?」

 

 

 

 

 主よ、御許に近づかん(昇天)

 

 

 お前は峰田! 峰田じゃないか!! そして、後ろにいるのはパツキンビリビリ男子の上鳴少年! 話す機会は少なかったけど、チャラい感じで連絡先を聞かれたのはバッチリ覚えてる! シリアスブレイカーで久しい二人が揃い踏みとはなんたる僥倖……死中に活とはこのことか!! これを逃す手はない。なんとしても、ふたりにはこの重苦しい雰囲気を変えてもらわねば……!

 

 

「何でもない。何か用?」

 

 

 言い方ァ! もう少し愛想良い返答があっただろうがよ! 落ち着くのよわたし……チャンスはまだある筈。次の問答ではもっと朗らかに受け答えするんだ。ごく自然で高校生同士の他愛もないような雑談を心がけ……あれ? 普通の高校生ってどんな話し方するんだろう? そもそも、いつも皆に対してどんな対応してたっけ?

 

 

「おう! 実はな、相澤先生から伝言を預かっててな――」

 

 

 え、相澤先生から? 君たち主体で話題を持ってきたのではなく? もしかしなくてもそれってただの業務連絡ってこと?

 

 

 

 

 

 …………ちょ、ちょっとパンチが足りない!

 

 

 仮にその話題で一時的に彼女らの気が逸れたとしても、後々に引き摺る可能性が高い……しかも、内2人は本選を控えてるんだぞ!? 個性使用時に余計な雑念が入って試合に影響出たりしたら、それこそ責任取れないじゃないですか!! くそっ、どうにか……どうにかこの陰鬱とした雰囲気を払拭できる様な話題をわたしから作らねば――

 

 

 

 

 

 

 

「レクリエーション中、女子は『チアガール』の格好しなきゃなんねーらしいぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 …………………ホワイ?

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『どうしたA組ィ!? どんなサービスだそりゃあ!!?』

 

 

 

 

 

 悪魔に魂を売った結果ですが?

 

 

 

 

 衆人環視の中での突飛な服装……控えめに言って死にたい。だが、これも仕方ないんです。だって、あのふたり(アホども)はわたしの期待を裏切らなかったんですから。

 

 

 

 あの後、衝撃の発言に言葉を失った女子たちは、疑いながらもチアガールの服装について了承した。問題はそうするだけの覚悟、つまり押し寄せる羞恥心に対する気概だけだった。無論、これが普段通りの二人が言ったことであれば、嘘として聞き入れなかっただろう。だが、規律や合理性を重んじる相澤先生の言葉と言うのなら別だ。それを見透かしたように「信じるかはお前らの自由だけどなー(棒)」なんてこと最後に付け加えていった。

 

 

 

 で、当然のことながらそれは大嘘だった。ご覧のとおりプレゼント・マイクはその様子に驚いて声を上げ、他のB組以下のクラスの女子たちは今まで通り体操服のままだ。そんな最中、突如として現れたチアガール集団。そりゃ、注目されないわけがない。誰だってそーする。わたしだってそーする。

 

 

 

 

 だが、敢えて言わせてもらおう。

 

 わたしは自らの意思で今の状況を望んだのだ!

 

 

 

 だって、相澤先生がチアガールの格好をしろなんて戯れ言を宣うわけ無いじゃないですか。その言葉を聞いた瞬間、嘘だってハッキリ分かりましたよ。

 

 そもそも、それが本当の話だとしたら、明らかに服を用意する予算が必要になりますよね? それも1年女子の全員分。そう考えると割りと結構な金額になること明白じゃないですか。それを忘れた上に『服は八百万に任せる』って言ってた? 合理主義の塊みたいなあの人がそんなミスする訳ない。是が非でも、予算が無駄にならない様、服を持ってくるに決まってるでしょうが。

 

 じゃあ、なんでそんな格好してんのって? 簡単なことです。そうと分かっててチアの格好に甘んじているだけのこと。だって、あのヤバ重な状況を打破してくれたんですもん。内容こそアホみたいな虚偽だったけど。だったら、それに報いようと思うのが人情ってヤツじゃないでしょうか。まあ、勝手な自己満足なんですがね。

 

 

「また、峰田さんに騙されましたわ……」

 

「あぁ!? 百ちゃん気をしっかり持って!」

 

 

 尊い犠牲だった……ごめんよヤオモモ。別の意味で沈んだ空気になってるけど、さっきよりは幾分かマシなはずだから……おのれ峰田と上鳴めぇ!(責任転嫁)

 

 

『ま、まあ、予想斜め上のサプライズもあったが気を取り直していこうぜぇ! ここからはレクリエーション!! 楽しんだもん勝ちのピースフル・タイム……と言いたいところなんだが――』

 

 

 

 

 

 ぬ?

 

 

 

 

 

『予定変更ォ!! 脱落者も本選出場者も関係ナッシング!! 誰でも参加可能な前哨戦……血沸き肉踊る"エキシビションマッチ"を開催するぜぇ!!』

 

 

 

 

 

 ……………………え"っ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 エキシビションマッチ。その言葉を聞いた瞬間に、全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。だがそれは、決して嫌なもんじゃねぇ。むしろ、天啓を得た――濁っていた視界がクリアになったような感覚だった。

 

 

『先ほどプレゼント・マイクも言ったが誰にでも参戦権はある。参加希望者は名乗りをあげた上で、対戦相手を指名しろ。本選出場者でも脱落者でも構わない。だが、注意しろ。指名された選手には勝敗条件の決定権が与えられる。例えそれが指名された側が有利な条件だとしても受理されるからな。ただし、あからさまに勝負にならないような条件の場合は改編するように促すから安心しろ。また、指名された選手は参加するのも降りるのも自由だ。まあ、各々がよく考えて参加するといい』

 

 

 普通のレクリエーションであれば、参加するつもりなんて無かった。馴れ合いをするために、この体育祭に挑んだ訳じゃねぇ。他の全てを潰した上で、頂上(てっぺん)を獲る。改めて認識を深めるが、それが俺が掲げる目標だ。

 

 そんで、俺には勝たなきゃなんねぇ奴がいる。予選で俺より高順位で通過したデクや半分野郎は言わずもがなだが……もう一人だ。俺を蹴落とすだけ蹴落とした挙げ句、尻尾巻いて脱落したアイツには何がなんでも戦って分からせる必要がある。この体育祭じゃ、もうその機会は訪れねぇと思っていたが――。

 

 

 

 

『《君が》死なない程度に頑張ればいい――?』

 

 

「能面女ァ……!」

 

 

 

 勝つ、今度こそ。勝負でも、試合でも。俺が上であることを証明する。だから――

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 いつにも増して頭の中に影が差す。何をしようにも裏目に出る。もはや自分が何をしたいのか分からない。それでも脳裏に浮かぶのは忌み嫌う父親の顔だった。それが、それだけが自身を突き動かしていると言っていい。そうだ。そいつを見返してやることだけを考えてここまで来たんだ。何を迷うことがある。

 

 

 

『――のよ、お前は』

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

 思考の隅に途切れながらもその光景がちらつく。摩耗した幼少の記憶の欠片。全貌は掴めず、過去の事象としてそこにあるものとしか認識できない。今の目的を果たすためには不要の産物。だというのに、競技を重ねるごとにフラッシュバックの頻度は増えていく。無視を決め込もうとすれば、不定形な疑念が靄となって心に広がり、その道筋を阻む。そして、当初の疑問へと帰結し、全ては振出しに戻る。

 

 

 

 

「俺は……何がしたいんだよ」

 

 

 

 

 握る拳に込められている想いは父への憎悪か、それとも己に対する苛立ちか。曇った思考に引っ張られるように鈍重となった体に鞭を打つ。

 

 行かなくてはならない。どれだけ考えようと、後戻りという選択肢だけはないのだから。今は目の前の障害を取り除く事だけ視野に入れていればいい。前へ進むために全力を尽くせ。そうすればきっと辿り着ける。きっとそのはずだ。

 

 

 

『――ちゃんと周り見えてる?』

 

 

「……ッ! やめろ……!」

 

 

 

 

 いい加減にしろ……! 勝手に人の事情に土足で入ってくんじゃねぇ!! 俺は必ず母さんだけの力で親父を見返す! その邪魔を……!!

 

 

 

 …………勝てばいい。そうだ、お前に勝てば道が正しい事の証明になる。この鬱陶しい靄も晴れるはずだ。だとすれば選択肢はひとつだ。今から――

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「俺と戦いやがれ! 萬實黎奏ェ!!」

 

 

 

「俺と戦え……萬實黎……!」

 

 

 

 

 

 

 理由は違えど、明確な意思は鬨の声を上げた。偶然か必然か……想いは重なり競技場に木霊す――。

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 最も、ひとりの少女にとって晴天の霹靂だったことは、言うまでもない。

 

 





 意味深なことは言うだけ言って、何も回収しないスタイル。まあ、後々で回収します。

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