ガンドォ! 作:brain8bit
いぇーい、フランシスコー。ザビちゃんじゃないぜ、わたしは奏ちゃんです。テンションが色々おかしいことになってるけどあまり気にしてはいけない。何故って? 私が(精神的に)来たからな! もう絶望しかないです……。ねえ知ってる? 人間ってあまりにも虚無になると笑いが起こるんだよ? あ? 今何してるのかって?
「35ポイント! やっべぇ、今日なんか調子いいぞ!!」
「ちくしょうマジかよ!? でも負けてねぇぞこれで32ィ!!」
「エンジンの調子がいい……これなら、もう少しギアを上げれる……!」
「うぅ……気持ち悪……あれ? 吐き気が引いた!?」
「うぅん、僕のレーザー、今日は一段と輝いている。どうやら僕がこの受験に受かる運命らしいね!」
絶賛バフぶん投げてんだよ!!(マジギレ)
ちっくしょう好き勝手解釈しやがって! 今のお前等輝いてるよホント!
あーあ、なんでこんなことしてんだろうなわたし。敵に塩を送るとか意味わかんなすぎでしょ。でも、落ちるって決まっちゃったんだからさ。もう遊んでもいーじゃん。皆生き生きと仮想ヴィランぶっ飛ばしてんの見るの少しは楽しいし。調子がいい事も相まって、ギスギスした感じがみんなから抜けて、空気もうまい。わたしは嬉しいよ。嬉しいけど、最ッッッ高に苛立ってるからな今。話しかけられたら、会話(拳)でバッドコミュニケーションしちゃう自信があるね。
そんな精神状態でかれこれ5分弱経つわけですが。みんなスポーツマンみたいな笑顔で未だばっさばっさと敵をなぎ倒しています。調子がいい人に用はないので、新しいターゲット探しに行きますかね。今のわたしは戦場を笑顔に変える女神(修羅)。誰にも止めることはできんのだぁ!
おや?
どうやら困っている人はっけーん。んーでも、ちょっと状況が違うっぽいです? なんかオロオロしながら走ってるな……あ、思い出した。出遅れてたもっさり君じゃん。ははぁ、さては次々と敵が倒されて焦っているんですかね? もしかしたら、戦闘向きの個性じゃなかったのかもしれない。あちゃー悪いことをした。わたしが色んな人間にバフを散々かけまくったからね。敵の破壊に直結する個性じゃなきゃ出遅れるのも無理はないか。でも、弱いものは淘汰される世界なんだ、諦めてくれ少年。わたしみたいに(戒め)。
「お、おいなんだアレ!?」
「嘘だろ……そんなんありかよぉ!?」
お、どうしたモブAとモブB。それらしい反応を見せてからに。まったく、わたしのバフが効いていながらそんな情けない声だすんじゃな――
おいなんだアレ(輪唱)
アイツだけ仮想ヴィランとしての規模おかしくない? ていうかあんなんいるとか聞いてないんだけど。あ、もしかして説明会後半でなんか言ってたりしましたか、そうですか。いや、シャレになってないですけど。受験生殺す気ですか。あんなん逃げたほうがいいに決まってんじゃん。このまま近づいてくるみたいだし、一時退散しよ――
「痛ったぁ……!」
……は? ちょっと待てマジか。ホントにシャレになってないからなそれぇ! 誰も気付いてないし!?お前ら尻尾まいて逃げてる場合じゃないぞ!? 女の子が動けなくなってるんだぞ? 助けに行かないのかよ! って聞こえちゃいねぇ!! ちっくしょぉ四の五の言ってらんねぇ!!
「
「
うぉおおぉぉお!!! 弱体無効さえなければ神だって拘束して見せるスーパー魔術ぅ!! そんで唯一物理的な衝撃のある魔術だぁ!!! はッはぁ――ッッッ!!! そこで止まってろデカブツ!! あ、でも個性ない相手にはホント効能薄いんです。あんだけデカいなら中に超巨大化とかの個性使っている人間が入ってる着ぐるみなんじゃないかとかそんな淡い期待を微粒子レベルで抱いてたけどそんな訳なかったみたいですねぇ!? やばいやばいやばいぃ! ガンド撃って飛び出したけど、あの女の子助けれる確証なんてないのに、でも助けなきゃ踏まれちゃうしぃ……! だって、あんなのに踏み潰されたりして、仮に生き残ったりしても一生もんの傷を心と体に負うんだよ? そんなんあってたまるかよォ!あ、無理、潰される。終わっちゃうよわたしの人生。さようならお母さんお父さん。次のわたしはもっと上手くやるでしょ――
ドゴォオオォオォォォオッッン!!!
……ひょ? 何事? え、なんか仮想ヴィランが火噴いてる。え!? そしてなんか降ってきてます!? あれもっさり君か!? マジか、めちゃくちゃな個性持ってんじゃん……ってなんか着地にできそうにない雰囲気じゃね? うっそだろお前!? わたし生憎そんなことに対応できる魔術は持ってないんですけどぉ!!? 一難去ってまた一難ってレベルじゃ――
パァンッ!!
OH YAEH!?
命の恩人にまさかの張り手ですか下敷きガール!? メリーゴーランド過ぎる状況に頭が追い付かないです!? あ、触るのが個性の発動条件なんですね。はえー、モノ浮かせられる個性かぁ。便利そう。なにはともあれ助かったっぽいな。いやぁ、一時はどうなるかと思ったわホント……。
あ、試験終了のブザーだ。どうやらわたしの戦いは終わったらしいですな。はぁ~疲れたわ~。こんなんが授業とかで当たり前のように出てくんのかな雄英高校。常軌を逸するって売り文句に書いてあったけど、こんなん一方的な殺戮になりかけんわ。ピンチを覆してこそのヒーロー? それは運がよかっただけって言い換えられますよね? わたし根性論が前世から大嫌いなのでそういうのドン引きです。
「あ、あの……!」
お、話しかけられた。でも安心しろ、今のわたしの脳内は絶賛キャパオーバーなう故に八つ当たりの言葉とか考える余裕一切ないから。で、誰が話しかけてきたのかな?
「助けてくれて……ありがとう。あのまま誰も来てくれなかったら、私死んでたかもしれへん。だから、本当にありがとうね……!」
おう、下敷きガールでしたか。死んでたってのは少し大げさだな。ヒーロー育てる学校が受験で人殺したら大問題でしょ。何かしらの保険はあったんじゃないかな。いや、トラウマを植え付けられたって言われたらどうすんの話だけどさ。少なくともわたしは、今日穏やかに寝れる気がしない。と、脳内で勝手に喋っててもしょうがないな。
「気にしないで、わたしは何の役にも立ってないから。数秒動き止めただけだし」
「ううん! それは違うよ! あなたが動いてくれなかったらヴィラン倒してくれたあの子も間に合わなかったかもしれんし……何より、ウチを助けても何も得にならんかったよね? それなのに助けるために動いて――」
「あー、ハイハイ。わかった、気持ちは受け取っておく。怪我治してくれるスタッフが来てるみたいだし一応見てもらってきたほうがいいんじゃない? じゃ、わたしは怪我してないし帰るから」
「あ、ちょっと!」って声が聞こえるけど待ちません。あれは、申し訳ないと思ったらとことん謝り倒すタイプと見た。なので、一気に会話を終わらせました。いや、いい子であることは十分伝わったよ? けど、喋ってるうちに自己嫌悪に陥られても困るからさ。あーゆーときは長居しない方がいいんだよ。お互いのためにね。
さて、今のわたしは人助けして気持ちがいいから、帰りにマックでしこたまポテト食べよう。頑張った自分へのご褒美です。試験は落ちちゃっただろうけど、それもまた人生。あーあ、こんなことなら筆記に特化しとくんだったなぁ……。満点とか取れたらまだ分からなかったかもしれないですし。ま、後悔先に立たずってね。今日の思いを明日の糧にして行くっきゃないでそ。普通科にも併願で願書出しといたし、まだ雄英高校に入れないと決まったわけじゃない。
わたしはまだまだ諦めないからな! 絶対に合格してみせるぞぉ!! 待ってろよキャンパスライフぅ!!
◇ ◇ ◇
さて、数週間の月日が経ち、合否の通知が来ました。まあ、決まりきった結果なんて見る必要ないんだけどさ。一応現実を受け止める意味で、見てみましょうか。ほんじゃペリペリっとな……ってなんだこれは。ちっこい円盤みたいなのが入ってたんですけど――
『私が投影されたァ!!』
うぉびっくりしたぁ!!?
ボリュームもうちょっと考えなさいよ!? 夜中開ける人とかいるかもしんないでしょうが! て、なんかオールマイト映ってる!? スターウォーズ的な装置に対するツッコミのタイミングが完全に消えたわ。一体これから何が始まるっていうんです……?
『第三次大せ――ってなんか変な電波受信した気がするな。いや、気にしないでくれ。大丈夫、打ち合わせ通り巻きでやるから……ん"んっ!! やあ、萬實黎少女! 雄英高校ヒーロー科入試お疲れ様! 実技試験は大変だったろう。ん? なんで知っているかって? それは私がこの度、雄英高校で教鞭をとることになったからさ!!』
マジかよ。ナンバーワンヒーローなのに大丈夫なんだろうか。って、待てよ。じゃあ、この映像って……。
『そう! 察しの通り、私が直々に合否の発表を行わせてもらうんだ! 早速で悪いんだが、本題に入らせてもらうよ。少し時間が押しているんでね。君の合否なんだが――』
うーむ、ワンチャン奇跡とかー……
『実技でのヴィランポイントゼロ。よって総合ポイントもゼロ。当然、不合格だ』
まあ、そんな上手くいかないか。しゃーない。分かってたことだ。
『だが! 我々とてプロヒーロー! ヒーローの素質は何も戦闘能力だけが評価される訳じゃない。聞けば君の個性は、個性を持っている人間にしか発現しないらしいじゃないか。その個性じゃあ、仮想ヴィランを倒せなくても無理はない』
仰る通りです。
『しかァーしッ!! キミはそんな状況になったにもかかわらず! 試験を辞退することも無く、周りの受験者に対して、自分の個性を使い続けた! しかも、自棄になってマイナスに作用させるのではなく、全員を手助けするようプラスにだ!!』
ん? あ、えっ? いやまあ、確かに手助けはしましたけども、半ばヤケクソでしt
『自分に全く得にならない。寧ろ、損しかしない……君の自己犠牲の精神には正直痺れたよ。何せ人の本質が現れるピンチのときだけじゃなく、常時それを実行し続けたんだからね!』
いやだから、それはもう半分遊んでt
『映像でも確認していたよ。自分のしてきた努力が報われないと分かっていたはずだ。心底悔しいものだったろう。だというのにキミは! 困っている商売敵を!! 一心に救い続けた!!! その瞬間、自分の人生の大事な岐路だったであろうその時間を! キミは他人に躊躇なく捧げたんだ!!!』
えっと、あの……。
『そんな素晴らしい行動ができる人間を排斥するヒーロー科など……あってたまるかって話だよ! そう、我々が採点していたのヴィランポイントだけじゃあない! レスキューポイント!! しかもこのポイントは審査制……雄英に集うプロヒーローたちがその場で判断した点数を君に与える!!』
ホントに待――
『萬實黎奏、90ポイント!見事トップで合格d』
ブツン
わたしは、何も言わずその投影を切りました。だって、このまま賛辞を贈られていたら、心が壊れて人間ではなくなってしまっていただろうから。しこたま申し訳ないという気持ちが押し寄せる中、わたしは毛布をかぶって、瞼をとじる。あぁ、どうしてくれようかこの気持ち。進みたいと願っていた場所が一転、贖罪の監獄へと変貌してしまいました。誰が悪いのでしょうか。わたしは人として正しい行いをしていたのに、ただ少しだけ邪なる思いを抱いてしまっていただけだというのに……。あぁ神よ、もし叶うのであれば――。
「……誰にも目立たないように、学校生活が送れますように」
わたしは持ちそうにない心臓を抑えつつ、ゆっくりと意識を落した。