ガンドォ!   作:brain8bit

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 遅すぎる更新……1万字越えたので許して頂きたい。

 なお、ちゃんと進行するかは(ry




第21話「コマンド→とくぎ→すてみ」

 出来ない訳じゃない。やらないだけ。

 

 

 世の若人たちが口を開けば、そんな声がちらほらと聞こえてくる。無論、大半が体のいい免罪符なのだろう。そもそも、やらなくてはという意気込みなしに行動という事象は起こり得ない。人とは考えてから行動をする生き物だ。これは揺るぎない事実である。

 

 つまるところ、この台詞を吐くこと自体が『絶対に出来ない』と言っているようなものなのだ――。

 

 

 

 ……そんな事を考えながらも、わたしは傍観を続けている。

 

 きっと、今すぐにでも動くべきなんだろう。けど、どうやって? 自分の自己管理不足で、個性を縛られたままのわたしに何が出来るのだろうか。名誉挽回と躍起になるのが人情というものなんだろうけど、自身が課したルールによって直接的な攻撃に出ることも出来ない。正直、八方塞がりだ。

 

 

「うわっ!? ちょ、危なっ!?」

 

 

 はぁ~……我ながら情けない。必死にふたりの猛攻から逃れようと足掻く緑谷少年の姿を見るたびにそう実感させられるわ。なんだよ、自分の着てる服把握してないって。体育祭の出番が終わって気が抜けていたとはいえ、ずぼらにも程がある。USJの襲撃で絶対に安全な場所なんて無いって学んだばかりじゃないのよ……今回ばかりは流石におふざけ抜きで反省しなきゃ。

 

 だとしても、だ。正直なところ打開策が見当たらない。一応ではあるが水着礼装は着ている。けど、それは最終手段にしたいんだよね。だって、目の前で行われている試合はただのレクリエーション。今日に至るまで、あまり交流の無かった他クラスとかと相互理解を図るために催された云わば交流の場。成績に関わる実習や命が掛かってる実戦ならまだしも、名目上のお遊びで……ついで全国放送の晴れ舞台でストリップショーやるとか冗談キツいわ。

 

 この催しは多くのプロヒーローたちの目にも留まる。所謂、ヒーロー路線の暫定。つまり、今後の就職にも関わるってこと。仮に自身の望む印象とは違ったものが世間に浸透したとしよう。当たり前ながら、その情報と自身の趣味嗜好の合う者たちからの視線が集まるわけだ。それがたとえ、自らの意にそぐわないものだったとしても。

 

 嫌だよ! お役所で書類仕事、時々出張(パトロール)ぐらいでいいんだよ! わたしの求めるのはそれだけだよ! え、どのみち個性の都合上、他事務所から要請されまくるって? うん、まあ、それはうれしい悲鳴ってやつでしょ。仕事に困らないってことなんだから選ぶ贅沢とかおこがましいし……。あれ? 今の私、なんか凄くクズい小心者な感じになってる……?

 

 

「う"おぉい!! いい加減にテメェも戦えや!!」

 

 

 キレんなキレんな……(焦)

 

 こうなったら脱ぐしかないのか……。布面積的にはあんま代わらんし、以外と違和感なくてワンチャン? うん、イケるイケる(脳死)。うだうだ言っててもしゃーないし、とりま上から――

 

 

 

「奏ちゃん! また脱いだら怒るからね!!」

 

 

「この観衆のなかで……流石に許容できないよ!!」

 

 

「嫁入り前なのですから、もっとご自愛ください!!」

 

 

 

 ピッチリスーツと露出度高め共が何言ってんだ(真顔)

 

 ダメじゃったか……ここでUSJのとき居合わせた女子3人からストップの声。無視しようものなら後が怖すぎる。少なくとも、本選までお説教は確定。それはちょっとヤダ……。

 

 じゃあ、何か? この場で礼装接続しろと?? 下手したらトップクラスの激痛で死ねるんだが??? 最近ポンコツが過ぎるのは重々承知ですけど、流石にそれは厳罰通り越してもはや拷問じゃないですかね。

 

 そもそも、なんでふたりがガチでわたしを潰しに来てるのか分からんのですが。

 

 男の子のプライドや面子? いや、公式の場に無理矢理引きずり出した時点で、そんなもの無いに等しいし。むしろ、それらをかなぐり捨てでも、わたしに勝たなきゃいけない理由がある?

 

 ……皆目検討もつかないって思うのは現実逃避かな。真面目な話、思い当たる節はある。爆豪少年は言わずもがな『あの日』の啖呵。轟少年は……直接的では無いにしろ要因は恐らくさっきの『あの人』絡み。

 

 うへぇ……爆豪少年はともかく、轟少年の事情は知りたくなかった。いや、勝手に察しちゃっただけなんだけどね。個人的な問題にわたしがとやかく言えることはないし、あっちにとっても余計なお世話な訳だし。基本的にはノータッチで穏便に済ませたかった。

 

 

 

 けどさぁ、それでわたしに突っ掛かって来るのは、話が違ってくるんですよ。

 

 

 

 ぶっちゃけ、ただの迷惑だからね? 緑谷少年を巻き込む原因になったのはあっちが絡んできたからだし。端的にみれば善意に漬け込んだ上に、こっちの落ち度で援護すらしない畜生とか思われるかもだけど、緑谷少年の倍の人数がわたしに迷惑吹っ掛けてきてるんですよ。

 

 確かに、予選で思いっきり妨害したよ? だからって、因縁つけてレクリエーションでどうにか雪辱を晴らしたいって? しかも、形式上は敗退している相手に?

 

 

 

 

 ………………なんですか、それ。

 

 

 

 自己満のための腹いせじゃないですか。なんでわたしが、そんなことに付き合わされるんです? 正統性なんて皆無なのに。わたしの意見なんて無視して。謂れの無い義憤を撒き散らして。必死なのは理解できますよ。それを伏せられるほどふたりが大人じゃないって事も。けどだからって――ああ、もう、違うッ!

 

 違うんですよ、そうじゃなくて……もっとこう、釈然としないというか。怒りをぶつけられるだけなら、踏ん切りよくわたしも憤れるんですけど……だって、気持ちは分からなくもないし。本当にそれだけのことなら「ふざけんなぁ!」って純粋に開き直ったのに。でも、妙に靄つくというか、それだけじゃない感情というか感覚が拭えな――

 

 

 

 

 

『――――だな。――――――くせに』

 

 

 

 

 

 

 は? …………あぁ、なるほど。

 

 

 そっか。そういうことか。なんていうか、怒り通り越して呆れてきましたよ。これじゃあ、考えるだけ無駄なわけですね。確かに、あのふたりが主な原因だけど、それが全てじゃない。もっと質の悪い、腹が立つ相手がいるじゃないですか。

 

 

「…………やってられない」

 

 

 全部放棄してもいいですけど、それだと関係のない緑谷少年が損するだけですね。それは……うん、ダメだ。思う壺っていうか、何の解決にもならない。わたしの価値観による暴走もあるし、だったら、もうそうする(・ ・ ・ ・)しかないですね。やってやりますよ。冷静な判断じゃないことぐらいわかってますけど、ぶっちゃけどうでもいい。どうせ何をしても後悔するんですから、やりたいことをやるだけです。

 

 

 

 勢いに身を任せたヤツは破滅するって言いますけど、それが誰も巻き込まない保証なんて何処にもないんですよ――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――Mystic code:Interact(礼装魔術回路:接続).

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 会場が、騒然となった。

 

 

 

 熱気が一度に冷めるような感覚。味わった事は少なくない。だが、何度経験しようが不快なものは不快だった。教師として、いや、そもそも人として止めるべきだと脳内で遅すぎる警鐘が鳴り響く。後手にまわるのはヒーローの常だが、対策を怠って良い方便ではない。むしろ、受け止めた上で事態を未然に防ぐ努力、延いては結果に結び着けなければならない。それが、俺たちプロヒーローとしての矜持だ。

 

 

「……おいおいイレイザー。洒落になってねぇぞ」

 

「分かっている」

 

 

 努めて冷静に返答しているつもりだが……どうだかな。存外血が昇っているのかもしれん。ともあれ、アイツの状況を鑑みるに、一つの真実が明らかになったのは確かだ。USJ襲撃前に起こったヴィラン侵入騒動だ。

 

 USJを経たからこそ分かる。アイツが満身創痍になっていたのは、外的要因じゃない。緑谷と同じ、個性の反動だったって訳だ。まだ何かを隠している様子はあったが、周囲に頼るようになったことで認識を甘くしすぎていた。

 

 

 

「中止だ中止! ミッドナイトにそう伝えろ! エキシビジョンマッチとはいえ、レクリエーションで生徒が血塗れ(・ ・ ・ ・ ・ ・)になるのはゴアが過ぎるぜ!?」

 

 

 

 ……全面的に同意、なんだがな。それで止まるなら、オレも冷静を欠いちゃいなかったはずだ。厳重注意と反省文で事足りるからな。しかし、それは当てている焦点が違う。問題は――。

 

 

 

 ――――アイツがそうするまでの『覚悟を決める事態』が起きている事だ。

 

 

 

 理由はなんだ。ヴィラン関係か、個人的な問題か。それらが及ぼす被害及び規模は如何ほどか。未だに全貌が掴めん……! アイツは、萬實黎は突っ走る癖こそあるが、バカじゃない。不測の事態に見舞われたとしても、最善策を模索して実行するタイプだ。それを踏まえてこの行動の意味は一体……?

 

 いや、もしくは因果逆転か? これで逆説的に中止に持っていけると判断した? 面倒事を避けようとする節は見られたが、あのデメリットを背負ってまですることじゃないと思うが……。

 

 

「…………はぁ!? 続行!? 何考えてんだミッドナイト!? なに…………本人の意思を尊重しただぁ? 萬實黎はこの状況で続けるって言ってる? オイオイオイ、クレイジー過ぎんだろ!! …………いや『うっさい山田』じゃなくてさ!?」

 

 

 ミッドナイトからの無線。中止の線が潰れたか。とすれば、あの試合にそれほどの意味を見出だしたってことになる。確かにA組上位勢同士が戦う……正直、本選よりも大目玉競技と言っても過言ではないが……。

 

 ……む? 萬實黎が此方を見ている? 口が動いて……何かを伝えようとしているのか。読唇術は専門じゃないんだが……まあ、出来んこともない。

 

 

 

『す が た な き あ く い』

 

 

 

 な、に……ッ!? まさか、またヴィランの襲撃か!? バカな……総勢50名以上のプロヒーローが会場を警備しているんだぞ!? それらをすり抜けでもしたと言うのか!?

 

 ……いや、違うな。だとすれば、この試合を続ける意味がない。正確に情報を伝えたいのなら、ミッドナイトが駆け寄った時点で周囲に悟られないように動く。それがアイツにとっての最善策ではないならば、要因は別にあるはずだ。萬實黎……何がお前をそう動かせる……?

 

 

 

 

「…………!」

 

 

 

 

 今、笑ったか? 此方に対してではなく……然りとて、試合相手にでもない。視線の先は……会場席か? そも、あの表情の微笑はどういった類いのものか? 嘲笑、いや近しい……というかそれもあるが他にも意味も含まれている…………これは憐憫、か?

 

 いかん、一度整理すべきだ。まず、アイツが個性を暴走させてでも使用した結果、会場が騒然となった。そうさせた理由は『姿なき悪意』。これは主に会場席に潜んでいると見る。それに対しての憐憫を込めた嘲笑。そして何より、俺を指定して言伝てる意味……。

 

 

 

「会場席……相手は観客、他クラス生徒……嘲笑……おい、まさか――」

 

 

 

 そんな事は……いや、あり得る。ヒーローもヴィランも元を辿ればひとりの人間だ。差異など価値観による後付けに過ぎない。極論を翳すとすればだがな。少なからず、お前には彼らがそう見えてしまった。そうなんだな、萬實黎。

 

 

 

 

『――わたしが助けたいのは国でも民衆でもない。手の届くたった一握りの知人です。それらを守るためならどんな手段だって用います。必要なら何か(・ ・)を犠牲にしてでも助けます』

 

 

 

 

 お前には英雄願望がない。酷く一般的な感性の持ち主だ。本当であれば、ひとりの命を背負うことすら重すぎると言うだろう。特段、責めたりはできない。それは当たり前の事で、狂い始めているのは世間一般なのだから。

 

 俺がアングラに身を伏しているのは、何も個性の情報漏洩対策のためだけじゃない。ある種の精神的自己防衛とでも言おうか。人の(たが)とは存外、外れやすい。それは一貫して自身に正統性を見出だしたときだ。この個性格差社会とヒーロー制度がさらにそれを増長させている。表立って後ろ指を指されているのはヴィランだが……真に厄介な存在は別にいると、俺は考えている。奇しくもアイツも同じ結論に至ったようだ。

 

 

 

「…………お前が思うよりも『世間』は強大だ。本気で、抗うつもりか?」

 

 

 

 呻くように呟く。それは現世の悪性そのものだからだ。表面上は美しく見えるが、裏では倫理観と価値観に欲望を混ぜ込んだ汚泥の様な世界が広がっている。相対、絶対、私益、公益、尊敬、畏怖……科学技術こそ過度な文明発達を匂わせるが、人が織り成す社会は停滞どころか退行する一方。心の丈に合わない身体機能。まるで虫を踏み潰す幼子だ。

 

 だからこそ、見て見ぬふりをする。或いは、各々が少数を担って責を分散しようとする。それは合理的な事だ。人ひとりが出来ることなどたかが知れているのだから。個性を過信して、無理に背負おうとするものは間違いなく潰れる。それでも現実を受け止め、笑って救おうと奔走する平和の象徴(きかくがい)もいるが……あれはある種の狂人だ。比較の対象にならない

 

 ともかく、世間(ソレ)と対峙しようすれば、一度は必ずその汚泥を認識、延いては浴びなければならなくなる。濁流に揉まれながらも己を律し続け、自己を貫き通す事ができるのはほんの一握り。光の当たる場所で、突き進むと言うのであれば尚の事だ。それでも、その道を行くというのなら――。

 

 

 

 

「――――そこから先は地獄だぞ」

 

 

 

 

 これほどまでに矛盾した存在はいない。それを改めて思い出し、その少女を見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 自分の認識は間違ってなかったはずだった。

 

 

 持って生まれた才能は平等じゃない。努力では辿り着けない場所がある。スタートラインの差を覆すためには、余程の幸運がなければ話にならない。

 

 それが、心操人使という人間が抱いてきた偏見(じょうしき)だった。

 

 

「――本気すら出さないんだな。恵まれてるくせに」

 

 

 だから、そんな言葉が出た。妬み……いや、ただの苛立ちからだったのかもしれない。全く微動だにしないその女子生徒に対して、隠しきれない不信を吐露したのは。

 

 けれど、場は一瞬で覆る。

 

 たった今、俺は何が起きているか認識できていなかった。俺だけじゃない、会場全域が同質の感覚を抱いたはずだ。目の前で発生している事象が理解できない。そんな感覚――。

 

 

「え、は……? 血……? え、なんで――」

 

 

 周囲からそんな声が漏れた。この場においては自然な反応だ。悠然と立っていたはずの人間が、膝を折っている。人に幸福感を与えるような黄色は、鈍い赤黒さに染まっていった。足元にはその原因が広がっているが、頭はそれらを認識したくないと拒否反応を起こしている様。何故、こんなことに――。

 

 

「萬實黎さん、聞こえるかしら!? これが何本か分かる!?」

 

 

 ミッドナイト先生の声で、意識が現実へと浮上した。自分ではない怪我人への意識確認で我に帰るとは……中々ない体験だ。そんなことを考えられる程度には、回復したらしい。

 

 そうだ。何故唐突に血塗れになったのか。ただ後ろでふんぞり返っていた首席様が、見るからに重症になったのか。頭を捻るべく、再度思考に脳を沈ませる。相手方の攻撃か何かだろうか、だとしたらやり過ぎにも程がある。きっと、あの爆豪とかいうやつの個性で怪我を――。

 

 

「わたしの個性の問題です。攻撃を受けたわけではありませんのでご安心を。試合を続行しますが、構いませんか?」

 

 

 …………続行? 何を……言っているんだ? 攻撃を受けたわけではない? いや、現に怪我をして……個性の問題? 誰の……相手のに決まって……いや、だったら試合は――。

 

 

 アイツの……アイツ自身の個性? その副作用か何か……? A組の奴らは恵まれている。少なくとも傲っている奴らのはずだ。入場の時点で分かった。持て囃されることに動じない。緊張はあっても、感慨に耽らず糧に勤めようとしている。優秀だから、自信の裏打ちによる無意識的行動。互いを高めようとするからこそ、強敵に視点を当てて戦おうとする向上心の塊。

 

 

 だからこそ、隙があった。

 

 能を隠し、本選で致命の一撃を決めるつもりだった。どんな奴に当たっても、勝てる算段があった。それこそあのエンデヴァーの息子にさえ、だ。少なからず、やりきれる自信と信念が俺にはあったんだ。

 

 

 

 けれど、それら全てが、揺らいでしまった。

 

 

 

 ひとりの生徒の大立ち回りを見せられて、価値観に変調の兆しが現れた。

 

 

 曰く、彼女は入試一位。

 

 

 曰く、入試で他人を救い続けた。

 

 

 曰く、個性はサポート寄り。

 

 

 分からない。先頭に立つべきは優秀なヤツだ。それこそ、圧倒的に恵まれた個性と才能。エンデヴァーの息子やヴィラン顔のアイツのように。

 

 それがどうだろうか。そうであるはずの首席様は試合を捨てて、勝利を拾いに行った。それこそ予選で落ちそうな人間に、希望を与えてまで。

 

 これが力ある者によるご立派な自己犠牲なら、鼻で笑うだけだった。だが、方法がそれしかなかったのであれば? やれることを最大限活かした結果だというのなら?

 

 認めない。そんなこと認めるわけにはいかない。でなきゃ、俺の根幹が揺るぎかねない。圧倒的な相手に対する下克上。今回はそのために、力を振るう予定だった。周囲を俺たちへと意識を向けさせる……だから……!

 

 

「サポート向けの個性なら……今回は独壇場じゃないのかよ……! 何で、どうして……アンタが一番傷ついてんだよ……ッ!?」

 

 

 今度こそ、崩れ落ちるしかなかった。圧倒的な優位状況。それなら、少しぐらい傲慢になるだろう。そんな考えは刹那に打ち砕かれた。何もしないことに苛立つと同時にほくそ笑んでいたんだ。結局、こいつも同じなんだって。

 

 けど、違った。何もしなかったんじゃない、何も出来なかったんだって。出来ない間は考えていたんだ。この状況における打開策を、必死に。

 

 結果、無茶を通した。前哨戦、レクリエーションだからって誰も考えなかった程の無茶を。そこで悟ってしまった。目の前にいる女子生徒が、ずっと全力であったことを。不利な状況だからと諦めずに、戦っていた事を。どうにかして勝利しようと模索する、その強さを。

 

 確かに、努力ではどうにもならない事はある。才能が雌雄を決する事だってある。けれど、それが卑屈になって、相手を不用意に見下げて良い理由にはならない。心の何処かで、相手が悪いと決めつけていた。今思えば、他のヤツだって必死に努力していたはずなんだ。それを「努力しているのは知ってる。だから、結局は才能で差ができる」と歪んだ解釈に貶めていた。皆、自信の最善を尽くしているというのに。

 

 

「…………姿なき悪意、ね」

 

 

 不意に、少女が呟いた。どうして、こちらを見ているのか。何を言っていたのか。まったく分からない。けれど、そこに憐憫が含まれていることだけは理解した。呆然と見つめ返す事しか出来ない俺から視線を外し、今度は別の方向へと向き直った。

 

 そこにあったのは、異質な笑みだった。微笑んでいるのに、優しさは欠片も感じない。いわば、嘲笑だった。逡巡であったと誤認するほどの小さな間。確かな感情が、そこに在った。

 

 そして、気力が回復したのだろうか。折った膝を伸ばし、ゆっくりと立ち上がる。夥しい量の出血なんて、まるで無かったかのように。棒立ちで戦闘を俯瞰していた彼女が、初めて構えを取った。特段、力強さやそういったものは感じない。だが、威風はある。同年代の筈なのに、何十年をも凝縮したカのような佇まいが、そこにはあった。

 

 

「反撃開始」

 

 

 淡々と告げる言葉は、不思議と会場全体に響いた。呼応するかのように、彼女の周囲の大気が揺らぐ……そんな風に錯覚した。そして、気付けば自身が思考を放棄している事に驚く。あれだけ苛んだはずの葛藤が何処かに消えていたのだ。そして、今は――。

 

 

 

 この試合から、眼を反らしてはいけない。そんな気がしていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ビックリするぐらい痛い。当たり前だけどね。

 

 激痛で目がチカチカするし、立っているのもやっとですよ。視界もちょっとボヤけてるし……そもそも何してたんだっけわたし? ボクシング? いや違うよねきっと。

 

 あ、うん。思い出した。試合中だった。そんで個性起動したら御産もビックリな大激痛が来たんでしたね。わたし母親になったことないから分からんですが。

 

 で? 今は手を伸ばして、指先のエイムを緑谷少年に合わせているところですが? 何しようとしてた……とかいう天丼な問答はもういらないですね。魔術行使一歩手前ってヤツなんでしょう。まっっったく記憶にございませんけども。

 

 確かに、好き勝手言う人たちにキレて個性起動したのは覚えてますけど……あっれぇ……? 前後数分の記憶が飛んでる……? 発動した瞬間どんだけ激痛だったんですか。血は止まったみたいだけど、ちょっとした血溜まりできてるし……大丈夫かこれ。後遺症とか残らない……よね?

 

 いや、もうそれは後にしましょう。過ぎた事実ですし。問題は試合が止まっていない以上、続けなきゃいけないことです。幸いな事にあの停滞した状況は脱している。場の空気は最悪ですけど、今回はそう望んだところもありますし、気にしてませんけどね。

 

 

「ば、萬實黎さん? そっ、その怪我……!! 大丈夫なの!?」

 

 

 大丈夫に見えたらヒーローとしての素質を疑うよ緑谷少年んん……。

 

 ……わたしが勝手にやった事だから気にせんでよろし。普通に心配してくれたんですよね。ありがとさん。問題はない……とは言い難いけど、試合は続けなきゃならんから。ほら、前向いて下さい。

 

 

「で、でも……」

 

 

 でももヘチマもありませんよ。多少はさ、他の圧力があったけど、結局はわたしが自分の意思でこうなったんだから。そもそも、君は巻き込まれたひとりなんだし。もっと気楽にいてくれても良いんですよ。

 

 

 

 ――そっちのふたりも、ね。

 

 

 

「……テメェ」

 

「お前……何だ、それは」

 

 

 

 何だってなんですか、何だって。見ての通りなんですがそれは……。

 

 ……って、そっか。なーんか周りとズレてるなーって思ってたけど、皆この副作用知らないのか。なんなら、相澤先生とかにも言ってなかったよ。わたしにとっては当たり前のことだったから、説明するの忘れてたよ。つーか、自分の弱点だからあまり口外したくないって黙ってたんだった。わー……やっちまいましたねクォレヮ。

 

 うーん、じゃあ別に説明もしなくていいか。理由を明確にしなければ、まだ何とかなる。逆に、何かしらのデメリットあることはもう誤魔化せないですし、ここはいっちょ明言しちゃった方がいいですね。

 

 

「個性の副作用だけど? 珍しくもないのは……3人とも(・ ・ ・ ・)よく分かってるんじゃない?」

 

「「「!?」」」

 

 

 うわ。その愕然とした表情で同時にこっちを見んな。寧ろ、お前らの強力な個性にデメリット無いはずが無いでしょうよ。緑谷少年は言わずもがなだし、轟少年は親への反抗精神で冷気しか使わんから寒さで体が動いてないのは丸分かり。爆豪少年はあれだけの爆発を掌で起こして、筋繊維を痛めない方が異常だ。ちょっと観察して頭捻れば出てくることでしょ。緑谷少年以外は上手く隠してるけどね。

 

 さて、戦闘前の口上はもういいよね。さっさと始めましょうか。ん? 妙にやる気出すなって? だって、もう悩みの種が大体吹っ飛んでますし。前半こそ目立つことに忌避感あったけど、一周回ってプロの目につくなら良いかなって思いまして。自己PRってヤツです。

 

 それじゃ、ボーッとしてる3人には悪いけど、勝手に始めさせてもらいますよ。

 

 

Landing Circuit : Full Open(回路循環:開始)

 

 

 この礼装における『概念(イメージ)』を固めなきゃいけない。じゃなきゃ、形もあやふやな魔術回路擬きが解除するまで神経間を行ったり来たりすることになる。簡単に言うと一生激痛が続く(無慈悲)。だから、早急に使い物になる礼装概念に仕立て上げる必要がある。割とマジで。

 

 チア服……そんなのに近しい礼装はありましたっけ? 無くね? まーたこじつけ理論展開か……前途多難にも程がありますよ……。

 

 えっと……色的に橙色の礼装は……戦闘服とキャプテン・カルデアかな。こちらは問題ない。いやでも、そもそも似たような外装の服……軽装かつウエスト周りが無防備でスカート衣装……在るわけないじゃん!? 一番近くてトロピカル・サマーだよ!? チクショウやっぱり水着じゃんかよ脱いだ方がよかったやんけぇ!!?

 

 うぐぐ……ここで水着を選択するのは何か負けた気がする……! けど、これ以上どうにかなる訳でもないし、変なプライドは捨てるべき……時間も限られてるわけだから、早くしないと……。でもなぁ……でもなぁ……!!

 

 何で作ってくれなかったんだよダ・ヴィンチちゃん!!(責任転嫁)

 

 いっそのこと、本当にチア服が在ればどんなに楽だったか……!!

 

 

 

 

 ん? いっそのこと……?

 

 

 いや、待て止めろ。それは危険だ。想像ストップわたし。試したこともないし、無理だって分かってることでしょ。そりゃ、出来たら楽だけど……ってダメダメダメ!! 考えたらそうなって……あ"ーーーッ!! もう遅いよ焼き付いちゃったよ概念(イメージ)にぃいいぃぃぃ!!!

 

 いや、確かに親和性抜群だけども!! こじつけるも何も、チア服まんまだけども!! 流石に出来ないって頭で分かってるじゃん!! そんな事したら間違いなく許容範囲外(キャパオーバー)で何が起きるか分からんのにぃ!!

 

 

 

 ……うっ、興奮すると目眩が……貧血で倒れる。

 

 れ、冷静になるんだ奏。まだ、詰んだわけじゃない……何か、他に打開策があるはずだ。実際に、似たような……焼き付いた概念を行使できる『こじつけ』があったんだ。正直、わたしの個性もそこから取ったし、ぶっちゃけそちらの方が正しい使い方なんだ。

 

 でも……耐えれるかな……? 足りないものが多すぎる。補助器具に成りうるものが一切無い状態でそんな事が本当にやるしかない……? 状況が進む度に、どうして追い詰められるのか。幻聴かな。耳元で「もしや嬢ちゃん、幸運E(お仲間)か?」とか聞こえた気がする(白目)。

 

 

「……後には、引けない。皆が全力なら――」

 

 

 口に出して鼓舞しなきゃ踏ん切りがつかない。それほどに未知過ぎて怖い。けど、もう退路がないのは事実。どうなっても、リカバリーガールの腕を信じるしかないよもう。

 

 って、違う違う。弱気になるな。それこそ悪手だから。イメージが揺らいだら成功しない。それは、わたしの起源(オリジン)の否定だ。それだけは絶対にしちゃいけない。

 

 

 

 

 

 

「忘れない。イメージするのは常に最強の自分。外敵など要らない。わたしにとって戦う相手とは、自身の概念(イメージ)に他ならない」

 

 

 

 

 正義の味方の言葉を借り受けるなら、正しくそれは的を射ている。わたしが勝つためには『勝つというイメージそのもの」が絶対。その前提だけは崩せない。自信を持て。わたしは絶対にやれる。大丈夫、わたしなら、わたしだけが――

 

 

 

 

Cord : Install(概念固定:承認)――

 

 

 

 

 ――その概念を着こなせる(存在そのものに成れる)

 

 

 

 

――Servant role : Set(   夢幻召喚   ).

      Cord : Calamity Jane(カラミティ・ジェーン).

 

 

 

 

 

 





 やっちまった感が死ぬほどある。後悔しかしていない。

 てか、3人分の視点を書いてたらそりゃ進まんわな。でも、心操視点での心境変化はここでしか入れられないし……相澤先生視点と解釈、そしてあの台詞は絶対言わせたかったし……。

 今回の着地点は自分でも何でこうなったのか分からない。えぇ、どうやって収拾着けよう……。

 また更新が遅くなりますねぇ!(申し訳ない)


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